The Bookmarcsやthe Sweet Onions、近年はSnow Sheepでの活動でも知られる、近藤健太郎がソロ・シンガーソングライターとしてのデビュー・アルバム『Strange Village』(blue-very label/FLY HIGH RECORDS / VSCF-1780/blvd-049)を3月5日にリリースする。
冒頭の「We aren't free (as it is now)」は、ビートリーな導入部からマニアは唸るだろう。敢えて挙げないが、メンバーのソロ含め複数の曲がオマージュされているので聴いて確認しよう。本編はアコースティック・ギターの刻みと複数のエレキギターから構築されており、導入部でも演奏されるメロトロンやアナログシンセを模したカシオトーン含め近藤が演奏し、及川もベース以外に他のエレキギターやドラム、パーカッションまで担当して2人でこのサウンドを完結させている。タイトルにもある”We aren't free(僕達は自由じゃない)”という問題意識のある歌詞と、近藤の爽やかな歌声とのギャップが英国ロック直系である。
そして「The Magic Is Coming」だが、これまでの近藤のソロ曲では主流でなかったブルーアイドソウル系の濃いサウンドで、センター右寄りのエレキギターのカッティングと左チャンネルのクラヴィネット系キーボードの刻みが心地いい。このサウンドのカラーは、恐らく共同プロデューサーの及川のセンスやThe Bookmarcsの洞澤からの影響もあるだろう。本曲にはthe vegetabletsの西田浩一、美紀夫妻がコーラスと同アレンジで参加して、その存在感のある歌声を聴かせており、small gardenの小園兼一郎もサックス・ソロで特徴的なプレイを披露して、マジカルでポジティブな歌詞の世界を演出している。筆者はマスタリング直後の音源を聴かせてもらって、ファースト・インプレッションで最も反応した曲である。
再び2人だけでレコーディングされた「Floating Bird」は、近藤が弾くエレピのリフやヴォコーダーをかましたコーラスが耳に残る。プリティなサウンドと対比した、”Stop watching silly TV shows(馬鹿げたTV番組を観るのをやめよう)”の歌詞が、スノッブな近藤の心情を現わしていて、Prefab Sproutのパディ・マクアルーンに通じるものを感じた。
弊サイト読者が最も好むだろう「She Is Mine」は、シャッフル・ビートで始まる、とっておきのソフトロックである。この愛すべき曲には、伝説のシンガーソングライター杉真理がコーラスで参加し、その美声でこの曲を格調高くしている。アレンジ的にもよく練られていて、及川がプレイするヴィブラフォンの旋律を聴いて切なくなるビーチボーイズ・ファンもいるだろう。詞曲共に完成度が高く、本作を代表する曲の候補としても挙げておきたい。
変拍子ビートのパートを持つ「City In The Cloud」は、目まぐるしく転回し実験的でありながらポップスとしてまとまっている小曲だ。連打されるキックのシンコペーションを強調させる的確なマイキングがなされていたり、突然ピアノのグリッサンドが挿入されたりとアイデアも素晴らしく、よく研究されている。
続く「Ebony Night」でもKosekiのフレンチホルン、更にMarin Sugawaraのフルートが加わることで、本作の”少し不思議で魅惑的なポップス”というコンセプトに沿ったアレンジが施されていて聴き飽きない。トッド・ラングレンの「The Night the Carousel Burnt Down」(『Something/Anything?』収録/1972年)を彷彿とさせて好きになってしまう。
本作ラストの「Change My Mind」は、近藤のアコースティック・ピアノと及川のコントラバスを中心に演奏されるバラードで、かけがえのない友情を讃えた歌詞が秀逸であり、イノセントな近藤の歌声に心打たれる。及川はジャズ・ミュージシャンの奏法であるピッツィカートでコントラバスをプレイしており、エレキベースでは出せない重低音を響かせ、この曲をより一層崇高な音像に導いているのも聴き逃せない。
セッション・ボーカリストとしてはCM、映画やドラマ、アニメの劇伴、ゲーム音楽に参加し、その活動は多岐に渡る。また近年ではWink Music Serviceやザ・スクーターズの活動で知られる、サリー久保田が率いるカバー・バンド、サリー久保田グループのフューチャリング・ボーカリストとして参加したことも記憶に新しい。
そして清浦による本作のセルフカバーでは、編曲を担当したハヤシベトモノリのプログラミングにより再構築され、また新たに生まれ変わっている。アレンジのモチーフとなっているのは、Rah Bandの「Clouds Across The Moon」(85年)というのは、音楽通の読者なら一聴して理解出来るだろう。この腰のあるベース・ラインがグルーヴの肝になっており、隙間を活かしながらオブリガードやブレーク・パートを挟んだことでサウンド的にも広がって豊かになっている。またこの曲では、ひと際スウィートな歌唱法で挑んだ清浦は、作詞家としても優れていて、「真空のカルーセル(※回転木馬の仏語訳)乗って あなたと星を巡るの 銀河に抱かれたなら 私たち無重力」という、サビの幻想的なパンチラインは替えのきかない美しさなのだ。
B面ラストでタイトル曲の「Breakfast」は、やぎぬまかなの作編曲による本作唯一のバンド編成サウンドで、レコーディングにはTWEEDEESのライブ・サポート・ギタリストでもあるqurosawaや、セッション・ベーシストとして活動する大澤伸広、the band apart(ザ・バンド・アパート)のドラマーである木暮栄一と手練ミュージシャン達が参加し、やぎぬま自身もプログラミングやその他の楽器をプレイしている。qurosawaの縦横無尽なギターをフューチャーした性急的エイトビートのこの曲は、本作中最も毛色が異なるかも知れないが、ライブ活動にも熱心な清浦の想いが込められているだろう 。
なおサリーは弊サイトで以前紹介した元ザ・ファントムギフトのメンバーとして、SOLEILや現在は高浪慶太郎とのWink Music Serviceの活動で知られている。また中山はピチカート・ファイヴの『Bellissima!』(88年)や『Soft Landing On The Moon = 月面軟着陸』(90年)、オリジナル・ラヴのセッションにも多く参加している手練ミュージシャンでもある。
更にアルバム未収録音源、未発表ライヴ音源収録した『RARITIES』には、いずれも現在入手困難なSolid Recordsのコンピレーション『Best Of Solid Vol.3』(1992年)から2曲と、本作のアートワークを手掛けた湯村輝彦氏のトリビュート・ミニアルバム『A Tribute To Terry Johnson Pillow Talks』(2001年)に提供したシルヴィア・ロビンソンの「Pillow Talk」(1973年)のカバーも収録している。またデビュー直後の1982年11月池袋西武スタジオ200での12曲と、デビュー前の81年8月新宿Jamでの5曲の非常に貴重なライヴ音源まで収録している。
THE SCOOTERS - BASEMENT TAPE (Official Teaser)
disc6のDVDは『WELCOME TO THE SCOOTERS SHOW ~ NOW&THEN ~』のタイトルの通り、THENの章はデビュー直前の1981年から第1期解散の1983年のライヴ映像と1986年のレコーディング風景。NOWの章では「かなしいうわさ」のミュージックヴィデオの他、再結成する2012年を挟んだ1998年から2023年までのライヴ映像が収録されている。