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2025年3月8日土曜日

松尾清憲 40thアニバーサリーライブ Matsuo Kiyonori 40th. Anniversary Live

 ソロデビュー40周年を迎えたシンガー・ソングライターの松尾清憲(まつお きよのり)が、鈴木慶一と白井良明(共にムーンライダーズ)杉 真理をゲストに迎え、一夜限りのスペシャルなアニバーサリーライブを5月3日に開催する。
 昨年6月に12thアルバム『Young and Innocent』(SOLID RECORDS / CDSOL-2028)をリリースして、往年の音楽ファン達から好評だったのが記憶に新しい。サウンド・プロデューサーにはmicrostar佐藤清喜に迎え、これまでにない”新たな松尾清憲の音楽フィールド”を感じさせたのもこの成功に繋がっている。 同作を聴いて気に入った読者は、明日3月9日10時から一般チケット発売となるので、是非このメモリアルなライブにも足を運んで欲しい。
 
『Young and Innocent』


 改めて松尾のプロフィールに触れておくが、1980年に「伝説のバンド」とリスペクトされた、”CINEMA”(シネマ/他のメンバーは鈴木さえ子、一色進など。 プロデュースはムーンライダーズの鈴木慶一)でデビューし、音楽通を唸らせるそのブリティッシュロック系サウンドは話題となる。
 そしてCINEMA解散後の84年にソロデビュー・シングル「愛しのロージー」(プロデュースはライダーズの白井良明)を発表しCMにも使われスマッシュ・ヒットする。翌年同曲を収録したファースト・ソロアルバム『SIDE EFFECTS~恋の副作用』をリリースし、CINEMA時代以上に音楽ファンに知られる存在となった。
 また87年には『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』の参加や「バカンスはいつも雨(レイン)」のヒットで知られるシンガー・ソングライターの杉真理とのポップス・バンド、“BOX”(他のメンバーは小室和幸、田上正和)、同じく杉と96年に”Piccadilly Circus”(他のメンバーは伊豆田洋之、上田雅利など)を結成してアルバムをリリースしている。
 2023年にはCINEMA時代から旧知の仲である鈴木慶一とのユニット「鈴木マツヲ」を結成し、『ONE HIT WONDER』(日本コロムビア)をリリースしたばかりである。
 ソングライターとしてもこれまでに、鈴木雅之のヒット曲「恋人」(1993年)をはじめ、稲垣潤一からおニャン子クラブまで幅広く多くのアーティスト、アイドル達に楽曲を提供している。 

松尾清憲 40thアニバーサリーライブ
Matsuo Kiyonori 40th. Anniversary Live

開催日時:2025年5月3日(土)
開場:16:30 開演:17:30

会場:新代田 FEVER
東京都世田谷区羽根木1-1-14 新代田ビル1F 

出演:松尾清憲with Velvet Tea Sets 
(小泉信彦(key)/平田 崇(g)/高橋結子(dr)/五十棲千明(b))

スペシャルゲスト: 
鈴木慶一(CINEMAプロデュース・鈴木マツヲ)
白井良明(1st~3rdアルバムプロデュース)
杉 真理(BOX・Piccadilly Circus・Co-Composer)

■Sチケット(自由席):9,500円 (+1drink) 
Sチケット(自由席)=椅子席
※整理番号順でのご入場となります。
■スタンディング:7,500円 (+1drink) 
各チケットは入場時ドリンク代600円頂きます。 

一般チケット発売:
3月9日(日)10:00AMより発売開始!
購入ページURL


(テキスト:ウチタカヒデ


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2025年3月2日日曜日

近藤健太郎:『Strange Village』

 The Bookmarcsやthe Sweet Onions、近年はSnow Sheepでの活動でも知られる、近藤健太郎がソロ・シンガーソングライターとしてのデビュー・アルバム『Strange Village』(blue-very label/FLY HIGH RECORDS / VSCF-1780/blvd-049)を3月5日にリリースする。
 2021年5月に7インチでリリースしたファースト・ソロシングル『Begin』から約4年、その間にThe Bookmarcsの『BOOKMARC SEASON』(2021年9月)やSnow Sheepの『WHITE ALBUM』(2023年3月)といった別グループでの曲作りやレコーディングを挟みながら、ソロ用の楽曲を仕上げていった姿勢には敬服するばかりだ。

 本作では近藤が敬愛するThe Beatles(特にポール・マッカートニー)をはじめ、60年代以降の英国ロックや同国の70年代パワー・ポップ、80年代前半のネオアコースティック、70年代アメリカン・ポップスから映画音楽に至るまで幅広い音楽ジャンルへのオマージュを隠すことなく内包させた集大成というべき、全編英語歌詞のアルバムを完成させたのだ。“Strange Village”というタイトルはこれまでの作品からは意外ではあったが、少し不思議で魅惑的なポップス、空を超え夢の中で見た物語の世界を旅するように聴いて欲しいという、近藤の想いがあるという。 
 共同プロデューサーには、『Begin』でもタッグを組みサウンド作りで全面的に関わってきた及川雅仁で、これまでにRicaropeや常盤ゆう等のサウンド・プロデューサーとしてインディーポップス・ファンには知られている。 またゲスト・ミュージシャンには、伝説のコラボレーション・アルバム『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』(1982年)に参加したシンガーソングライターの杉真理を筆頭に、small gardenの活動や小林しのとのコラボも記憶に新しい小園兼一郎、名古屋市を拠点に活動をするインディーポップ・デュオthe vegetabletsの西田浩一と西田美紀が参加している。ミックスダウンは及川、マスタリングはmicrostarやnicely niceでの活動の他、昨年は松尾清憲の『Young and Innocent』のサウンド・プロデューサーを務めた佐藤清喜が担当しているのも注目だ。
 アルバム・デザインにも触れておくが、名作『ジョンの魂』(1970年)を彷彿とさせるコンポジションのジャケットやブックレット写真とデザイン全般はfumika arasawa、ブックレット写真の一部はdavis k.clainが手掛けており、blue-very label作品ではお馴染みのアートディレクション・チームが手掛けている。


 弊サイトではお馴染みの近藤のプロフィールにも改めて触れよう。1998年に男性3人組のポップス・バンドthe Sweet Onions(以降オニオンズ)を結成し音楽活動を開始する。同バンドでは2枚のフルアルバムをリリースしている。2000年にはオニオンズのドラマー高口大輔に、Coa Records所属のバンドHarmony Hatchのメイン・ソングライターだった小林しのと3人組ユニット”Snow Sheep”を結成し、23年越しでファーストアルバム『WHITE ALBUM』をリリースしたのは記憶に新しい。
 そして2011年には、アコースティック・ユニット”manamana”を主宰していた、作編曲家でギタリストの洞澤徹との男性2人のポップス・ユニットThe Bookmarcsを結成し、これまでに3枚のフルアルバムをリリースしている。この様に多岐に渡る形態で活動し、それぞれでボーカル、ギター、ピアノ、ソングライティングを担当しており、オニオンズが所属する自主レーベルphilia recordsも主宰して、CDリリースやイベント企画、小林しのや藍田理緒への楽曲提供やサウンドプロデュースも手掛けてきた実績の持ち主である。 
 現在はラジオ番組『The Bookmarcs Radio Marine Café』(マリンFM)のナビゲーター、『ようこそ夢街名曲堂へ!』(K-mix)の準レギュラーとして出演するなどラジオ・パーソナリティーとしての顔も持っている。

 
近藤健太郎 (Kentaro Kondo) "Strange Village" 
1st.full album trailer 

 ここからは筆者による収録曲の詳細な解説と、近藤と及川が曲作りとレコーディング中にイメージ作りで聴いていたプレイリストを紹介する。
 冒頭の「We aren't free (as it is now)」は、ビートリーな導入部からマニアは唸るだろう。敢えて挙げないが、メンバーのソロ含め複数の曲がオマージュされているので聴いて確認しよう。本編はアコースティック・ギターの刻みと複数のエレキギターから構築されており、導入部でも演奏されるメロトロンやアナログシンセを模したカシオトーン含め近藤が演奏し、及川もベース以外に他のエレキギターやドラム、パーカッションまで担当して2人でこのサウンドを完結させている。タイトルにもある”We aren't free(僕達は自由じゃない)”という問題意識のある歌詞と、近藤の爽やかな歌声とのギャップが英国ロック直系である。
 続く「Find Love」は、キャッチーなメロディとプリティなサウンドが印象的なラヴソングで、この曲も近藤と及川の2人だけでレコーディングされており、近藤による一人多重コーラスも聴きものだ。
 そして「The Magic Is Coming」だが、これまでの近藤のソロ曲では主流でなかったブルーアイドソウル系の濃いサウンドで、センター右寄りのエレキギターのカッティングと左チャンネルのクラヴィネット系キーボードの刻みが心地いい。このサウンドのカラーは、恐らく共同プロデューサーの及川のセンスやThe Bookmarcsの洞澤からの影響もあるだろう。本曲にはthe vegetabletsの西田浩一、美紀夫妻がコーラスと同アレンジで参加して、その存在感のある歌声を聴かせており、small gardenの小園兼一郎もサックス・ソロで特徴的なプレイを披露して、マジカルでポジティブな歌詞の世界を演出している。筆者はマスタリング直後の音源を聴かせてもらって、ファースト・インプレッションで最も反応した曲である。
 再び2人だけでレコーディングされた「Floating Bird」は、近藤が弾くエレピのリフやヴォコーダーをかましたコーラスが耳に残る。プリティなサウンドと対比した、”Stop watching silly TV shows(馬鹿げたTV番組を観るのをやめよう)”の歌詞が、スノッブな近藤の心情を現わしていて、Prefab Sproutのパディ・マクアルーンに通じるものを感じた。


 弊サイト読者が最も好むだろう「She Is Mine」は、シャッフル・ビートで始まる、とっておきのソフトロックである。この愛すべき曲には、伝説のシンガーソングライター杉真理がコーラスで参加し、その美声でこの曲を格調高くしている。アレンジ的にもよく練られていて、及川がプレイするヴィブラフォンの旋律を聴いて切なくなるビーチボーイズ・ファンもいるだろう。詞曲共に完成度が高く、本作を代表する曲の候補としても挙げておきたい。
 変拍子ビートのパートを持つ「City In The Cloud」は、目まぐるしく転回し実験的でありながらポップスとしてまとまっている小曲だ。連打されるキックのシンコペーションを強調させる的確なマイキングがなされていたり、突然ピアノのグリッサンドが挿入されたりとアイデアも素晴らしく、よく研究されている。
 一転して「Tonight」では、アコースティック・ギターのアルペジオによる静かなラヴソングで、曲の進行に合わせてアコースティック・ピアノやリズム隊が加わっていく。対位法のオブリガードはMaaya Kosekiによるフレンチホルンで、この曲の雰囲気に効果的である。
 続く「Ebony Night」でもKosekiのフレンチホルン、更にMarin Sugawaraのフルートが加わることで、本作の”少し不思議で魅惑的なポップス”というコンセプトに沿ったアレンジが施されていて聴き飽きない。トッド・ラングレンの「The Night the Carousel Burnt Down」(『Something/Anything?』収録/1972年)を彷彿とさせて好きになってしまう。
 カントリー・タッチのトラベルソング「Silent Adventure」も味わい深い曲で、近藤のアコースティック・ギターのカッティングに及川のパーカッション(ボンゴ)が絡んでいく間奏では、Sugawaraのフルートがソロを取って、旅した土地の景色をフラッシュバックさせてくれる。


 本作後半はファースト・ソロシングル『Begin』収録曲のアルバム・ヴァージョンが収録されており、オリジナルの7インチのアナログからCDのデジタル用にミックスが施されている。先ず「American Pie」は、12弦ギターのアルペジオが肝になったマージービート・ポップロックで、オリジナルのイントロにあったSE類がオミットされたことで、尺が短くなっている。
 ピアノを中心にした美しいバラードの「Heaven」は、オリジナルとほぼ変わらない尺で音質を向上させたミックスになっている。この曲は2021年当時弊サイトのインタビューで近藤が触れているが、2013年頃にピアノだけで作ったデモを寝かしていたあと、ヴァースのメロディを変えてリメイクして良い仕上がりになったという。The Dream Academyのケイト・セント・ジョンのプレイを彷彿とさせる印象的なオーボエ・ソロは、「Ebony Night」でフルートをプレイしたMarin Sugawaraである。
 ソロシングル・タイトル曲「Begin」は、「American Pie」と同様に20秒ほど尺が短くなっているが、オリジナルのエンディングのSEがオミットされただけで本編に違いはなく、音質向上されている。The Beatlesの「For No One」や「Mother Nature’s Son」などポール・マッカートニーの影響下にあるソングライティングは、典型的な近藤作品といえる。フレンチホルンのソロは他収録曲と同様にMaaya Kosekiのプレイであり、この曲でも存在感を発揮している。

  曲順は前後するが、「Begin」前の12曲目の「My Sweet Farm」は、熱心なポール・ファンは一聴して分かるが「Ram On」(『Ram』収録/1971年)をオマージュして、主に近藤がウククレでプレイしている小曲だ。及川はメロディカ(鍵盤ハーモニカ)でソロやコードをつけて、近藤と2人でハンドクラップをするなど、レコーディングの楽しい雰囲気が伝わってくる。なお本収録は“Village Version”で、オリジナル・ヴァージョンは今後発表されるだろう。
 本作ラストの「Change My Mind」は、近藤のアコースティック・ピアノと及川のコントラバスを中心に演奏されるバラードで、かけがえのない友情を讃えた歌詞が秀逸であり、イノセントな近藤の歌声に心打たれる。及川はジャズ・ミュージシャンの奏法であるピッツィカートでコントラバスをプレイしており、エレキベースでは出せない重低音を響かせ、この曲をより一層崇高な音像に導いているのも聴き逃せない。


 最後に総評となるが、複数のバンドやグループで活動してきた近藤健太郎が、一人のシンガーソングライターとして紡いできた楽曲を収録した集大成といえる本作は、収録曲全てが丁重に構築されている。より近藤らしさが滲み出た作品を聴きたいと思った音楽ファンや筆者の解説を読んで興味を持った読者は、リンクしたサイトから予約入手して聴いて欲しい。


近藤健太郎『Strange Village』プレイリスト

 
近藤健太郎
◎ずっと好きで聴いてきた曲、愛あるオマージュを感じる音楽、
浮遊感が心地よいサウンドを中心にセレクトしました。

 ■Every Night / Paul McCartney(『McCartney』 / 1970年)
 ■Be Nice to Me / Todd Rundgren
(『Runt.The Ballad Of Todd Rundgren』 / 1971年)
■魅惑の君 / BOX(『BOX POPS』 / 1988年)
■Forever / The Explorers Club(『Freedom Wind』 / 2008年)
■DREAMIN' / Benny Sings(『CITY MELODY』 / 2018年)


及川雅仁
◎製作中、ビートルズ関連以外でよく聴いていたものです。
音質や編曲についても影響を受けたと思います。
ベニーシングスは以前近藤さんに教えて頂いてから大分ハマりました。

■Pay You Back With Interest / The Hollies
(『For Certain Because』 / 1966年)
■Long Promised Road / The Beach Boys(『Surf's Up』 / 1971年)
■Fight the Power, Part 1&2 / The Isley Brothers
(『The Heat Is On』 / 1975年)
■Another Day / Jamie Lidell(『Jim』 / 2008年)
■LATE AT NIGHT / Benny Sings(『CITY MELODY』 / 2018年) 
 


 (テキスト:ウチタカヒデ) 








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2025年2月22日土曜日

清浦夏実:『Breakfast 』


 ポップ・グループTWEEDEES(トゥイーディーズ)の清浦夏実が、昨年3月に配信リリースしたファースト・ミニアルバム『Breakfast』(SAVORY RECORDS / SVRY-1001)を、10インチ・アナログとして2月26日に限定プレスでリリースする。

 2023年末にクラウドファンディングを実施し、目標額を大幅に超える183%を達成し制作され翌年3月に配信リリースされたのが本作で、ソロ名義のアルバムとしては、2010年2月のファースト・フルアルバム『十九色』以来となる。それぞれ異ジャンルのクリエイター達とのソングライティング・タッグにより、ソロシンガーとして新たな活動に踏み出した記念碑的作品であり、配信後に多くのファンの切望によって今回10インチ・アナログとしてフィジカル化されたのは喜ばしいことだろう。
 本作に参加したクリエイターの顔触れを挙げると、新鋭のシンガーソングライター(以降SSW)でマルチプレイヤーの浦上想起、国立音楽大学出身のプロデューサーでTomggg(トムグググ)こと藤城達也。またアイドル・ユニットNegiccoなど多くの楽曲提供でも知られる女性SSWの辻林美穂、2017年に解散したファンクバンドの“カラスは真っ白”のボーカル兼ギタリストだったやぎぬまかなが、書き下ろしの新曲を提供しており、その人選の多彩さだけでも理解してもらえると思う。
 更に2018年清浦が、アイドル・ユニットRYUTisに作詞提供した「無重力ファンタジア」(作曲:ムハンマド・イックバル)のセルフカバーを追加し合計5曲を収録している。因みに今回のセルフ・ヴァージョンの編曲は、Plus-Tech Squeeze Boxのハヤシベトモノリが担当し、新たなサウンドに生まれ変わっているので注目だ。

 弊サイトでは2022年12月にTWEEDEESの『World Record』をレビューしているが、改めて清浦のプロフィールに触れておこう。
 2002年より子役~女優(『3年B組金八先生・第7シリーズ』の生徒・大胡あすか役で知られる)として活動し、2007年にはテレビアニメ『スケッチブック 〜full color's〜』のオープニングテーマ曲「風さがし」で歌手としてデビューする。その後計5枚のシングルと1枚のフルアルバムをリリースした。
 2012年4月のソロ・ライブ後に一旦歌手活動を休止し、2015年に元Cymbals(シンバルズ)のリーダーでメインソングライターの沖井礼二からの誘いにより、TWEEDEESを結成する。TWEEDEESでは現在までにアルバム4枚、ミニアルバム2枚をリリースしている。
 セッション・ボーカリストとしてはCM、映画やドラマ、アニメの劇伴、ゲーム音楽に参加し、その活動は多岐に渡る。また近年ではWink Music Serviceザ・スクーターズの活動で知られる、サリー久保田が率いるカバー・バンド、サリー久保田グループのフューチャリング・ボーカリストとして参加したことも記憶に新しい。

 
清浦夏実『Breakfast』ティザー

 ここからは収録曲の解説をしていく。
 A面冒頭の「Illusion」は浦上想起の作編曲に清浦が作詞した曲で、浦上が一人多重録音で構築したサウンド・スケープにいきなり圧倒させられる。清浦の歌詞も寓話的な散文詩もこのサウンドにマッチしており、透明感ある歌声と共にこの世界観を演出している。 
 続く「無重力ファンタジア」は、インドネシアで活動するAOR~シティポップ・バンドのイックバル(IKKUBARU)のフロントマン、ムハンマド・イックバル(Muhammad Iqbal)が作曲し、清浦の幻想的な歌詞でRYUTisに提供した名曲だ。RYUTistのオリジナル・ヴァージョンはメンバー達によるフェアリーなコーラスとソプラノ・サックス・ソロが印象的なメロウ・グルーヴで、筆者も2018年の年間ベストソングに挙げていた。イックバルによる2021年のセルフカバーでは、ムハンマドがオリジナルより早いBPMの異なるトラックで仕上げいて、間奏のソロもエレキ・ギターにアダプトしている。 
 そして清浦による本作のセルフカバーでは、編曲を担当したハヤシベトモノリのプログラミングにより再構築され、また新たに生まれ変わっている。アレンジのモチーフとなっているのは、Rah Bandの「Clouds Across The Moon」(85年)というのは、音楽通の読者なら一聴して理解出来るだろう。この腰のあるベース・ラインがグルーヴの肝になっており、隙間を活かしながらオブリガードやブレーク・パートを挟んだことでサウンド的にも広がって豊かになっている。またこの曲では、ひと際スウィートな歌唱法で挑んだ清浦は、作詞家としても優れていて、「真空のカルーセル(※回転木馬の仏語訳)乗って あなたと星を巡るの 銀河に抱かれたなら 私たち無重力」という、サビの幻想的なパンチラインは替えのきかない美しさなのだ。


 B面冒頭曲は辻林美穂の作編曲による「対岸の人」で、A面とは一転して橋本歩ストリングスによる生の弦楽五重奏が、ドヴォルザークの室内楽を彷彿とさせるコントラバスが効いたサウンドで出迎えてくれる。辻林自身はアコースティックピアノをプレイする他、ボレロ・パターンのスネアドラムや木管セクションまでプログラミングしている。この様なクラシカルなサウンドに、清浦の瑞々しい風景描写の歌詞と無垢な歌唱が心を打つのだ。
 続く「さくら・フルール」は、Tomgggの作編曲による80年代テクノポップ風のプリティなアニバーサリー・ソングで、3分少々の短い尺にいくつものシーンを綴っていく歌詞と溌溂とした歌声が印象に残り、この曲でも清浦の非凡さを感じさせる。

 B面ラストでタイトル曲の「Breakfast」は、やぎぬまかなの作編曲による本作唯一のバンド編成サウンドで、レコーディングにはTWEEDEESのライブ・サポート・ギタリストでもあるqurosawaや、セッション・ベーシストとして活動する大澤伸広、the band apart(ザ・バンド・アパート)のドラマーである木暮栄一と手練ミュージシャン達が参加し、やぎぬま自身もプログラミングやその他の楽器をプレイしている。qurosawaの縦横無尽なギターをフューチャーした性急的エイトビートのこの曲は、本作中最も毛色が異なるかも知れないが、ライブ活動にも熱心な清浦の想いが込められているだろう 。

 以上のように本作は複数のクリエイターが持ち込んだ異なるサウンドを自身の世界に内包させたことで、シンガーソングライター清浦夏実としての新たな魅力を開花させた作品となった。
 なお本作は限定プレスの10インチ・アナログなので、非常に枚数が限られているため、筆者の解説で興味を持った弊サイト読者や音楽ファンは、下記リンク先から早期に予約して入手して欲しい。

◎ディスクユニオン予約:こちらをクリック
◎芽瑠璃堂予約:こちらをクリック

 (テキスト:ウチタカヒデ
 
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2025年2月15日土曜日

生活の設計出演ライブ★ハンナ×みやびpre.「言葉と旅する 音と言祝ぐ」


 2023年4月にファースト・フルアルバム『季節のつかまえ方』、同年11月に7インチシングル『キャロライン』をリリースし、ポップス・ファンや音楽通の間で評判になっていた生活の設計が出演するライブイベントが、3月22日に開催されるので紹介しよう。


 『季節のつかまえ方』

 音楽家の小西康陽氏をはじめ、弊サイトでも評価していて新作ごとに紹介している、彼らのプロフィールは『季節のつかまえ方』のレビューの際も紹介したが、東京で活動するバンドで、前身の“恋する円盤” と“Bluems (ブルームス)”を経て、2023年2月にバンド名を 現在の“生活の設計” に改名した。2024年11月にはファッション・カルチャー雑誌『POPEYE』の「BAND MUSIC ~ やっぱりバンドっていいよね。」特集号で、小西氏との対談取材が掲載されるなど、その存在は一般層にも広がっている。
 現在のメンバーはリーダーでボーカル兼ギターの大塚真太朗、大塚の実弟でドラム兼コーラスの大塚薫平の2名で、目下某一流プロデューサーの下、新作のレコーディングを準備しているので、弊サイト読者や音楽ファンは大いに期待しよう。 

 なお今回のライブでは以前からサポートをしている、ベーシストの大橋哲朗、キーボーディストの眞崎尚久(まさき やすひさ)、生活のレコーディングでも演奏しているパーカッショニストの關街(せき がい)が参加するので、演奏面でも期待できるライブになるだろう。興味を持った読者は早期に予約して参加しよう。


ハンナ×みやびpre.「言葉と旅する 音と言祝ぐ」

2025年3月22日(土)
12:00 open
12:30 start 
 
【会場】
Daydream Kichijoji 
(東京都武蔵野市吉祥寺南町1丁目1−4 三河屋ビル 6F 5F より階段)


☆フロアライブ 
【チケット】
一般:¥3000
 学生:¥2000
( 出店/出展で使える、500円分の「旅するチケット」付き)
ドリンク = ご自由にご注文いただける方式です。
予約方法 =下記リンクよりご予約をお願いいたします。


【出演決定】
・生活の設計 

左上から時計回りに砂の壁、
Johnson KOGA、Foolclam、路地

・砂の壁
    Xアカウント

・Johnson KOGA

・路地
     Xアカウント

・Foolclam


【出店/出展決定】

 【Food】
コーヒー・古着展示:ホニャララコーヒー
カレー・スパイスチャイ:みやたお!

 【Shop】
ZINE・Postcard:タローコジマ
ZINE・日記:ハンナ
編み物:はな屋さん
お手紙セット:Tsugu
どうぶつ雑貨:moon bird
Photo goods:Chiaki Suzuki
耳つぼジュエリー:Hiromi
顔にまつわるエトセトラ:ムラマツレイ 


(テキスト:ウチタカヒデ







amazon 
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POPEYE (ポパイ) 2024年 11月号 [雑誌]
価格:980円(税込、送料無料) (2025/2/15時点)


2025年2月5日水曜日

ザ・スクーターズ:『信藤三雄・プレゼンツ・ザ・スクーターズ・コンプリート・ボックス ~東京ディスコナイト~』


 80年代中期から30年以上に渡り、日本の音楽シーンのビジュアル・デザインを一新させたアートディレクターの信藤三雄氏が、その生涯に渡り情熱を注いだ大所帯バンド、ザ・スクーターズがコンプリート・ボックス『信藤三雄・プレゼンツ・ザ・スクーターズ・コンプリート・ボックス~東京ディスコナイト~』(ウルトラ・ヴァイヴ/CDSOL-2037TS/CDSOL-2037TM/CDSOL-2037TL/CDSOL-2037TX)を2月10日にリリースする。
 今回このボックスセットのアートワークを手掛けたのは、信藤の師匠である”テリー・ジョンスン”こと湯村輝彦氏で、ザ・スクーターズが2023年7月にリリースした7インチ・シングル『東京は夜の七時』から続くコラボレーションとなった。正立方体ボックスに描かれた群像画や封入されるポスターには彼等と交流のあった人々や「東京ディスコナイト」で楽しく踊るダンスフロアが描かれていて、ビジュアル面でも非常に個性的且つアーティスティックで、所有欲をくすぐるアート作品作品となっているのだ。

 
商品仕様(限定盤)
正立方体アートボックス化粧箱 
・CD5枚+DVD1枚(合計6ディスク)
・A2サイズ・ポスター・ブックレット5枚
・A3サイズ・ブックレット1枚
・テリー・ジョンスン・デザイン・
スペシャルTシャツ(S~XL)



 先ずこのバンドのプロフィールにも触れよう。日本音楽界でカリスマ・ジャケット・デザイナーと称される信藤三雄をリーダーとし、周辺のデザイナー仲間で結成され、そのガレージ・バンドがプレイする東京モータウン・サウンドは、業界の音楽通に知られることになった。1982年にファースト・アルバム『娘ごころはスクーターズ』でレコード・デビューするが、僅か2年間の活動で解散してしまう。その後91年と2003年にコンピレーション・アルバムがリリースされたことでリバイバルされ、ファーストから30年振りとなる2012年に橋本淳・筒美京平コンビ、宇崎竜童から小西康陽のソング・ライター陣が楽曲提供したセカンド・アルバム『女は何度も勝負する』をリリースし活動を再開した。
 以降は不定期でライヴ活動を続けており、現在のザ・スクーターズはボーカルのロニーバリー、ボーカルとコーラスを兼務するビューティ、コーラスのココとジャッキーの女性4名がフロント・メンバーで、リズム・セクションにギターの薔薇卍、ベースはサリー久保田、ドラムとタンバリンはオーヤ、キーボードとバンド内アレンジャーの中山ツトムだ。ホーン・セクションはアルト・サックスのサンデーとビートヒミコ、テナー・サックスのルーシーの3名で、バンドのムードメーカーとしてMCとボーカルのターバン・チャダJr.から構成されている。
 なおサリーは弊サイトで以前紹介した元ザ・ファントムギフトのメンバーとして、SOLEILや現在は高浪慶太郎とのWink Music Serviceの活動で知られている。また中山はピチカート・ファイヴの『Bellissima!』(88年)や『Soft Landing On The Moon = 月面軟着陸』(90年)、オリジナル・ラヴのセッションにも多く参加している手練ミュージシャンでもある。


 本ボックスセットは全6枚組で構成され内5枚はCDとなっている。2枚のオリジナルアルバムには初CD化を含むボーナストラックが収録され、1982年のファースト・アルバム『娘ごころはスクーターズ』には4曲。2012年のセカンド『女は何度も勝負する』には、2023年2月10日に惜しくも逝去した新藤三雄本人によるアルバム解説の貴重な音声が追加されている。  オリジナルアルバム以外では、2015年~2023年の間にリリースしたシングル音源12曲(内初CD化10曲)を収録した『THE VIVID YEARS』で、目玉は元アイドルでシンガーソングライターの星野みちるとスクーターズ名義の『東京ディスコナイト/恋するフォーチュンクッキー』まで収録している。また2017年11月下北沢BASEMENT BARでのワンマン・ライブTHE SCOOTERS COMES ALIVE!を収録し、翌18年3月にカセットとCDの完全受注生産で発売された『COME ALIVE!/THE BASEMENT TAPE』も含まれて、Motown Medleyを含むライヴ演奏が聴ける。 
 更にアルバム未収録音源、未発表ライヴ音源収録した『RARITIES』には、いずれも現在入手困難なSolid Recordsのコンピレーション『Best Of Solid Vol.3』(1992年)から2曲と、本作のアートワークを手掛けた湯村輝彦氏のトリビュート・ミニアルバム『A Tribute To Terry Johnson Pillow Talks』(2001年)に提供したシルヴィア・ロビンソンの「Pillow Talk」(1973年)のカバーも収録している。またデビュー直後の1982年11月池袋西武スタジオ200での12曲と、デビュー前の81年8月新宿Jamでの5曲の非常に貴重なライヴ音源まで収録している。

THE SCOOTERS - BASEMENT TAPE (Official Teaser)


 disc6のDVDは『WELCOME TO THE SCOOTERS SHOW ~ NOW&THEN ~』のタイトルの通り、THENの章はデビュー直前の1981年から第1期解散の1983年のライヴ映像と1986年のレコーディング風景。NOWの章では「かなしいうわさ」のミュージックヴィデオの他、再結成する2012年を挟んだ1998年から2023年までのライヴ映像が収録されている。
 以上の通り、コンプリートの名に相応しい、ザ・スクーターズの活動を辿って、その全貌が視聴出来るボックスセットとなっているので、このレビューを読んでスクーターズを初めて知った音楽ファンにもお勧めである。
 なおこのリリースを記念した個展も開催されるので、興味を持ったら是非遊びに行って欲しい。

信藤三雄 × テリー・ジョンスン プレゼンツ
ザ・スクーターズ展
THE SCOOTERS IN BOX BY 320 × TJ

■開催期間:2025年2月7日(金)~2025年2月18日(火)
■会場:Bankrobber LABO(バンクロバーラボ)
■所在地:〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町36-2
HMV record shop 渋谷 2F
■営業時間:11:00~21:00
■入場料:無料
▶Bankrobber LABO 公式ページ:https://www.hmv.co.jp/news/article/230421155#scooters
▶Bankrobber LABO 公式Instagram:@bankrobber_lab 

2025年1月26日日曜日

いい湯だな〜『にほんのうた』シリーズ

  先日、しりあがり寿presents 新春!(有)さるハゲロックフェスティバル'25〜あなたとわたしの温泉郷〜にThe Pen Friend Clubで出演し、イベントのテーマ曲だった「いい湯だな」を演奏した。

いい湯だな / The Pen Friend Club / さるフェス25

 これまで子供の頃にテレビで親しんだ "ドリフの曲" という認識だったけれど、この機会に改めて聴いてみると、なんとも他にないような風情がある曲だなと思う。この曲はもともと群馬県のご当地ソングだそう。「上を向いて歩こう」の作詞でも知られる作詞家永六輔と、「手のひらを太陽に」「ゲゲゲの鬼太郎」などの作曲家いずみたくが、日本各地を旅して作りあげた『にほんのうた』シリーズのひとつだそうだ。1965年から1969年にかけて発表されたこのシリーズの題材が46都道府県と本土復帰前の沖縄になっていて、全部で52曲ある。

 シリーズの歌い手に選定されたのはNHKの音楽バラエティ番組『夢であいましょう』のレギュラー出演などで活躍していたコーラスグループ、デューク・エイセスだった。黒人霊歌を得意とし、ジャズや落語、童謡など、幅広い分野をレパートリーに取り入れているグループということもあって適任と考えられた。取材の旅にはデューク・エイセスが同行することもあったらしい。

 1965年に発表された、京都を題材とした「女ひとり」は「いい湯だな」と同様に歌いつがれているヒット曲。〽︎きょうとおおはらさんぜんいん、の歌い出しには聴き覚えがある。この曲のヒットで大原・三千院への観光客は急増したという。

女ひとり / Duke Aces  

 「いい湯だな」は、翌年1966年に発表された。ドリフターズ版では歌詞の舞台となる温泉地の範囲が広がっていたけれど、デュークエイセスの原曲では上州の温泉について歌われている。

いい湯だな / Duke Aces

 『にほんのうた』シリーズの内容は楽しげなものや情緒溢れるものなど様々だけれど、一定層から注目を集める1969年発表の「クンビーラ大権現」などは異彩を放つ。

クンビーラ大権現 / Duke Aces

 この曲の題材になっている香川の金刀比羅宮(ことひらぐう/ 愛称: こんぴらさん)は明治元年の神仏分離令が出される以前は、神道と仏教が融合された神仏習合の神、金毘羅大権現(こんぴらだいごんげん)が祀られ、海上交通の守り神として特に船のりから信仰されていたそう。「金毘羅」の語源がサンスクリット語の「クンビーラ」で、歌詞に出てくるようにこの「クンビーラ」とはガンジス川に棲むワニが神格化された水神のこと。「大権現」は神号で、仏、菩薩が衆生を救うために仮の姿で現れたものを尊んで呼ぶそうだ。

 『にほんのうた』シリーズは、今では私がそうだったように「いい湯だな」や「女ひとり」などの曲単位でしか知らない人も多いようだけれど、シリーズとして聴いてみるとまた味わい深い。


執筆者・西岡利恵
60年代中期ウエストコーストロックバンドThe Pen Friend Clubにてベースを担当。


【リリース】
■ベストアルバム第二弾『Best Of The Pen Friend Club 2018-2024』
■カバーアルバム『Back In The Pen Friend Club』

試聴トレーラー:

CD、配信にて発売中。

【NEWS】
■クラウドファンディング開始!

2枚組NEWアルバム『Songularity - ソンギュラリティ』
制作&レコ発ツアー応援プロジェクト

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