2025年2月22日土曜日

清浦夏実:『Breakfast 』


 ポップ・グループTWEEDEES(トゥイーディーズ)の清浦夏実が、昨年3月に配信リリースしたファースト・ミニアルバム『Breakfast』(SAVORY RECORDS / SVRY-1001)を、10インチ・アナログとして2月26日に限定プレスでリリースする。

 2023年末にクラウドファンディングを実施し、目標額を大幅に超える183%を達成し制作され翌年3月に配信リリースされたのが本作で、ソロ名義のアルバムとしては、2010年2月のファースト・フルアルバム『十九色』以来となる。それぞれ異ジャンルのクリエイター達とのソングライティング・タッグにより、ソロシンガーとして新たな活動に踏み出した記念碑的作品であり、配信後に多くのファンの切望によって今回10インチ・アナログとしてフィジカル化されたのは喜ばしいことだろう。
 本作に参加したクリエイターの顔触れを挙げると、新鋭のシンガーソングライター(以降SSW)でマルチプレイヤーの浦上想起、国立音楽大学出身のプロデューサーでTomggg(トムグググ)こと藤城達也。またアイドル・ユニットNegiccoなど多くの楽曲提供でも知られる女性SSWの辻林美穂、2017年に解散したファンクバンドの“カラスは真っ白”のボーカル兼ギタリストだったやぎぬまかなが、書き下ろしの新曲を提供しており、その人選の多彩さだけでも理解してもらえると思う。
 更に2018年清浦が、アイドル・ユニットRYUTisに作詞提供した「無重力ファンタジア」(作曲:ムハンマド・イックバル)のセルフカバーを追加し合計5曲を収録している。因みに今回のセルフ・ヴァージョンの編曲は、Plus-Tech Squeeze Boxのハヤシベトモノリが担当し、新たなサウンドに生まれ変わっているので注目だ。

 弊サイトでは2022年12月にTWEEDEESの『World Record』をレビューしているが、改めて清浦のプロフィールに触れておこう。
 2002年より子役~女優(『3年B組金八先生・第7シリーズ』の生徒・大胡あすか役で知られる)として活動し、2007年にはテレビアニメ『スケッチブック 〜full color's〜』のオープニングテーマ曲「風さがし」で歌手としてデビューする。その後計5枚のシングルと1枚のフルアルバムをリリースした。
 2012年4月のソロ・ライブ後に一旦歌手活動を休止し、2015年に元Cymbals(シンバルズ)のリーダーでメインソングライターの沖井礼二からの誘いにより、TWEEDEESを結成する。TWEEDEESでは現在までにアルバム4枚、ミニアルバム2枚をリリースしている。
 セッション・ボーカリストとしてはCM、映画やドラマ、アニメの劇伴、ゲーム音楽に参加し、その活動は多岐に渡る。また近年ではWink Music Serviceザ・スクーターズの活動で知られる、サリー久保田が率いるカバー・バンド、サリー久保田グループのフューチャリング・ボーカリストとして参加したことも記憶に新しい。

 
清浦夏実『Breakfast』ティザー

 ここからは収録曲の解説をしていく。
 A面冒頭の「Illusion」は浦上想起の作編曲に清浦が作詞した曲で、浦上が一人多重録音で構築したサウンド・スケープにいきなり圧倒させられる。清浦の歌詞も寓話的な散文詩もこのサウンドにマッチしており、透明感ある歌声と共にこの世界観を演出している。 
 続く「無重力ファンタジア」は、インドネシアで活動するAOR~シティポップ・バンドのイックバル(IKKUBARU)のフロントマン、ムハンマド・イックバル(Muhammad Iqbal)が作曲し、清浦の幻想的な歌詞でRYUTisに提供した名曲だ。RYUTistのオリジナル・ヴァージョンはメンバー達によるフェアリーなコーラスとソプラノ・サックス・ソロが印象的なメロウ・グルーヴで、筆者も2018年の年間ベストソングに挙げていた。イックバルによる2021年のセルフカバーでは、ムハンマドがオリジナルより早いBPMの異なるトラックで仕上げいて、間奏のソロもエレキ・ギターにアダプトしている。 
 そして清浦による本作のセルフカバーでは、編曲を担当したハヤシベトモノリのプログラミングにより再構築され、また新たに生まれ変わっている。アレンジのモチーフとなっているのは、Rah Bandの「Clouds Across The Moon」(85年)というのは、音楽通の読者なら一聴して理解出来るだろう。この腰のあるベース・ラインがグルーヴの肝になっており、隙間を活かしながらオブリガードやブレーク・パートを挟んだことでサウンド的にも広がって豊かになっている。またこの曲では、ひと際スウィートな歌唱法で挑んだ清浦は、作詞家としても優れていて、「真空のカルーセル(※回転木馬の仏語訳)乗って あなたと星を巡るの 銀河に抱かれたなら 私たち無重力」という、サビの幻想的なパンチラインは替えのきかない美しさなのだ。


 B面冒頭曲は辻林美穂の作編曲による「対岸の人」で、A面とは一転して橋本歩ストリングスによる生の弦楽五重奏が、ドヴォルザークの室内楽を彷彿とさせるコントラバスが効いたサウンドで出迎えてくれる。辻林自身はアコースティックピアノをプレイする他、ボレロ・パターンのスネアドラムや木管セクションまでプログラミングしている。この様なクラシカルなサウンドに、清浦の瑞々しい風景描写の歌詞と無垢な歌唱が心を打つのだ。
 続く「さくら・フルール」は、Tomgggの作編曲による80年代テクノポップ風のプリティなアニバーサリー・ソングで、3分少々の短い尺にいくつものシーンを綴っていく歌詞と溌溂とした歌声が印象に残り、この曲でも清浦の非凡さを感じさせる。

 B面ラストでタイトル曲の「Breakfast」は、やぎぬまかなの作編曲による本作唯一のバンド編成サウンドで、レコーディングにはTWEEDEESのライブ・サポート・ギタリストでもあるqurosawaや、セッション・ベーシストとして活動する大澤伸広、the band apart(ザ・バンド・アパート)のドラマーである木暮栄一と手練ミュージシャン達が参加し、やぎぬま自身もプログラミングやその他の楽器をプレイしている。qurosawaの縦横無尽なギターをフューチャーした性急的エイトビートのこの曲は、本作中最も毛色が異なるかも知れないが、ライブ活動にも熱心な清浦の想いが込められているだろう 。

 以上のように本作は複数のクリエイターが持ち込んだ異なるサウンドを自身の世界に内包させたことで、シンガーソングライター清浦夏実としての新たな魅力を開花させた作品となった。
 なお本作は限定プレスの10インチ・アナログなので、非常に枚数が限られているため、筆者の解説で興味を持った弊サイト読者や音楽ファンは、下記リンク先から早期に予約して入手して欲しい。

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 (テキスト:ウチタカヒデ
 
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2025年2月15日土曜日

生活の設計出演ライブ★ハンナ×みやびpre.「言葉と旅する 音と言祝ぐ」


 2023年4月にファースト・フルアルバム『季節のつかまえ方』、同年11月に7インチシングル『キャロライン』をリリースし、ポップス・ファンや音楽通の間で評判になっていた生活の設計が出演するライブイベントが、3月22日に開催されるので紹介しよう。


 『季節のつかまえ方』

 音楽家の小西康陽氏をはじめ、弊サイトでも評価していて新作ごとに紹介している、彼らのプロフィールは『季節のつかまえ方』のレビューの際も紹介したが、東京で活動するバンドで、前身の“恋する円盤” と“Bluems (ブルームス)”を経て、2023年2月にバンド名を 現在の“生活の設計” に改名した。2024年11月にはファッション・カルチャー雑誌『POPEYE』の「BAND MUSIC ~ やっぱりバンドっていいよね。」特集号で、小西氏との対談取材が掲載されるなど、その存在は一般層にも広がっている。
 現在のメンバーはリーダーでボーカル兼ギターの大塚真太朗、大塚の実弟でドラム兼コーラスの大塚薫平の2名で、目下某一流プロデューサーの下、新作のレコーディングを準備しているので、弊サイト読者や音楽ファンは大いに期待しよう。 

 なお今回のライブでは以前からサポートをしている、ベーシストの大橋哲朗、キーボーディストの眞崎尚久(まさき やすひさ)、生活のレコーディングでも演奏しているパーカッショニストの關街(せき がい)が参加するので、演奏面でも期待できるライブになるだろう。興味を持った読者は早期に予約して参加しよう。


ハンナ×みやびpre.「言葉と旅する 音と言祝ぐ」

2025年3月22日(土)
12:00 open
12:30 start 
 
【会場】
Daydream Kichijoji 
(東京都武蔵野市吉祥寺南町1丁目1−4 三河屋ビル 6F 5F より階段)


☆フロアライブ 
【チケット】
一般:¥3000
 学生:¥2000
( 出店/出展で使える、500円分の「旅するチケット」付き)
ドリンク = ご自由にご注文いただける方式です。
予約方法 =下記リンクよりご予約をお願いいたします。


【出演決定】
・生活の設計 

左上から時計回りに砂の壁、
Johnson KOGA、Foolclam、路地

・砂の壁
    Xアカウント

・Johnson KOGA

・路地
     Xアカウント

・Foolclam


【出店/出展決定】

 【Food】
コーヒー・古着展示:ホニャララコーヒー
カレー・スパイスチャイ:みやたお!

 【Shop】
ZINE・Postcard:タローコジマ
ZINE・日記:ハンナ
編み物:はな屋さん
お手紙セット:Tsugu
どうぶつ雑貨:moon bird
Photo goods:Chiaki Suzuki
耳つぼジュエリー:Hiromi
顔にまつわるエトセトラ:ムラマツレイ 


(テキスト:ウチタカヒデ







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2025年2月5日水曜日

ザ・スクーターズ:『信藤三雄・プレゼンツ・ザ・スクーターズ・コンプリート・ボックス ~東京ディスコナイト~』


 80年代中期から30年以上に渡り、日本の音楽シーンのビジュアル・デザインを一新させたアートディレクターの信藤三雄氏が、その生涯に渡り情熱を注いだ大所帯バンド、ザ・スクーターズがコンプリート・ボックス『信藤三雄・プレゼンツ・ザ・スクーターズ・コンプリート・ボックス~東京ディスコナイト~』(ウルトラ・ヴァイヴ/CDSOL-2037TS/CDSOL-2037TM/CDSOL-2037TL/CDSOL-2037TX)を2月10日にリリースする。
 今回このボックスセットのアートワークを手掛けたのは、信藤の師匠である”テリー・ジョンスン”こと湯村輝彦氏で、ザ・スクーターズが2023年7月にリリースした7インチ・シングル『東京は夜の七時』から続くコラボレーションとなった。正立方体ボックスに描かれた群像画や封入されるポスターには彼等と交流のあった人々や「東京ディスコナイト」で楽しく踊るダンスフロアが描かれていて、ビジュアル面でも非常に個性的且つアーティスティックで、所有欲をくすぐるアート作品作品となっているのだ。

 
商品仕様(限定盤)
正立方体アートボックス化粧箱 
・CD5枚+DVD1枚(合計6ディスク)
・A2サイズ・ポスター・ブックレット5枚
・A3サイズ・ブックレット1枚
・テリー・ジョンスン・デザイン・
スペシャルTシャツ(S~XL)



 先ずこのバンドのプロフィールにも触れよう。日本音楽界でカリスマ・ジャケット・デザイナーと称される信藤三雄をリーダーとし、周辺のデザイナー仲間で結成され、そのガレージ・バンドがプレイする東京モータウン・サウンドは、業界の音楽通に知られることになった。1982年にファースト・アルバム『娘ごころはスクーターズ』でレコード・デビューするが、僅か2年間の活動で解散してしまう。その後91年と2003年にコンピレーション・アルバムがリリースされたことでリバイバルされ、ファーストから30年振りとなる2012年に橋本淳・筒美京平コンビ、宇崎竜童から小西康陽のソング・ライター陣が楽曲提供したセカンド・アルバム『女は何度も勝負する』をリリースし活動を再開した。
 以降は不定期でライヴ活動を続けており、現在のザ・スクーターズはボーカルのロニーバリー、ボーカルとコーラスを兼務するビューティ、コーラスのココとジャッキーの女性4名がフロント・メンバーで、リズム・セクションにギターの薔薇卍、ベースはサリー久保田、ドラムとタンバリンはオーヤ、キーボードとバンド内アレンジャーの中山ツトムだ。ホーン・セクションはアルト・サックスのサンデーとビートヒミコ、テナー・サックスのルーシーの3名で、バンドのムードメーカーとしてMCとボーカルのターバン・チャダJr.から構成されている。
 なおサリーは弊サイトで以前紹介した元ザ・ファントムギフトのメンバーとして、SOLEILや現在は高浪慶太郎とのWink Music Serviceの活動で知られている。また中山はピチカート・ファイヴの『Bellissima!』(88年)や『Soft Landing On The Moon = 月面軟着陸』(90年)、オリジナル・ラヴのセッションにも多く参加している手練ミュージシャンでもある。


 本ボックスセットは全6枚組で構成され内5枚はCDとなっている。2枚のオリジナルアルバムには初CD化を含むボーナストラックが収録され、1982年のファースト・アルバム『娘ごころはスクーターズ』には4曲。2012年のセカンド『女は何度も勝負する』には、2023年2月10日に惜しくも逝去した新藤三雄本人によるアルバム解説の貴重な音声が追加されている。  オリジナルアルバム以外では、2015年~2023年の間にリリースしたシングル音源12曲(内初CD化10曲)を収録した『THE VIVID YEARS』で、目玉は元アイドルでシンガーソングライターの星野みちるとスクーターズ名義の『東京ディスコナイト/恋するフォーチュンクッキー』まで収録している。また2017年11月下北沢BASEMENT BARでのワンマン・ライブTHE SCOOTERS COMES ALIVE!を収録し、翌18年3月にカセットとCDの完全受注生産で発売された『COME ALIVE!/THE BASEMENT TAPE』も含まれて、Motown Medleyを含むライヴ演奏が聴ける。 
 更にアルバム未収録音源、未発表ライヴ音源収録した『RARITIES』には、いずれも現在入手困難なSolid Recordsのコンピレーション『Best Of Solid Vol.3』(1992年)から2曲と、本作のアートワークを手掛けた湯村輝彦氏のトリビュート・ミニアルバム『A Tribute To Terry Johnson Pillow Talks』(2001年)に提供したシルヴィア・ロビンソンの「Pillow Talk」(1973年)のカバーも収録している。またデビュー直後の1982年11月池袋西武スタジオ200での12曲と、デビュー前の81年8月新宿Jamでの5曲の非常に貴重なライヴ音源まで収録している。

THE SCOOTERS - BASEMENT TAPE (Official Teaser)


 disc6のDVDは『WELCOME TO THE SCOOTERS SHOW ~ NOW&THEN ~』のタイトルの通り、THENの章はデビュー直前の1981年から第1期解散の1983年のライヴ映像と1986年のレコーディング風景。NOWの章では「かなしいうわさ」のミュージックヴィデオの他、再結成する2012年を挟んだ1998年から2023年までのライヴ映像が収録されている。
 以上の通り、コンプリートの名に相応しい、ザ・スクーターズの活動を辿って、その全貌が視聴出来るボックスセットとなっているので、このレビューを読んでスクーターズを初めて知った音楽ファンにもお勧めである。
 なおこのリリースを記念した個展も開催されるので、興味を持ったら是非遊びに行って欲しい。

信藤三雄 × テリー・ジョンスン プレゼンツ
ザ・スクーターズ展
THE SCOOTERS IN BOX BY 320 × TJ

■開催期間:2025年2月7日(金)~2025年2月18日(火)
■会場:Bankrobber LABO(バンクロバーラボ)
■所在地:〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町36-2
HMV record shop 渋谷 2F
■営業時間:11:00~21:00
■入場料:無料
▶Bankrobber LABO 公式ページ:https://www.hmv.co.jp/news/article/230421155#scooters
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