2024年12月15日日曜日

畠山美由紀:『 Travelin' Light』


 シンガー・ソングライターの畠山美由紀が、9作目のオリジナル・アルバム『Travelin' Light』(Happiness Records/ HRBR-030)を12月18日にリリースする。 
 前作『夜の庭』は、orange pekoe(オレンジ・ペコー)のギタリスト、藤本一馬との共同名義で2022年にリリースされており、その活動ペースは安定していると言えるだろう。

 本作では、YMO高橋幸宏氏人脈として知られる、シンガー・ソングライターでギタリストの高野寛のソングライティングによるタイトル曲「Travelin’ Light」を筆頭に全8曲収録が収録されている。高野以外にもマルチ弦楽器奏者として多くのセッションに参加している、高木大丈夫(高木大輔)が2曲、ジャズ・サックス奏者の仲野麻紀が1曲をそれぞれ提供し、畠山自身のソングライティングで2曲、カバー曲2曲という構成になっている。 
 レコーディングには楽曲提供者以外に、前作からアコースティックギターの藤本をはじめ、ピアノに川口大輔と林正樹、キーボードに斉藤哲也、ベースに千葉広樹、ドラムに伊吹文裕というリズムセクション陣が参加している。また東京藝術大学出身でanonymassやThrowing a Spoonといったユニットの他、数多くの劇伴やセッションに参加しているチェリストの徳澤青弦や、本作リリース元のハピネス・レコードからソロアルバム3枚をリリースしている、ヴァイオリニストの江藤有希が参加しているのは注目である。
 ジャケットの写真は高野が撮影したカットを提供しており、音楽面以外も畠山をサポートしている。


 畠山のプロフィールにも触れるが、宮城県気仙沼市出身で1991年上京後、93年にダンスホール楽団“Double Famous”に参加して音楽活動を開始し、96年には男女2人組ユニット“Port of Notes”を結成し、耳の早い音楽通に知られるようになった。
 2001年にはこれらのバンドやユニットと並行して、シングル「輝く月が照らす夜」でソロデビューし、これまでに8枚のアルバムと5枚のシングル、3曲の配信シングルをリリースしている。ボーカリストとしては、他アーティストの楽曲やトリビュートアルバム、映画音楽からTV CMソング(ナレーション含む)等への参加も多く、松任谷由実、大貫妙子といった日本音楽界のレジェンドとも共演している。
 現在は故郷であるみなと気仙沼大使とみやぎ絆大使も務め、FMヨコハマで音楽・情報番組「Travelin’ Light」のパーソナリティーを長年担当し、八面六臂の活躍をしているのだ。


   
畠山美由紀「Travelin' Light」アルバムティーザー

 ここからは収録された主要曲を紹介していく。 
 冒頭のタイトル曲「Travelin' Light ~旅する気持ち」は、高野から贈られたタイトル曲で、編曲の他アコースティックギターのプレイと、プログラミングも高野が担当している。サビから始まる詩情溢れるミドルテンポのポップスで、千葉の確かなベースライン、斎藤のハモンドオルガンなど聴きどころもあり、間奏のコーラス・パートがサンバに展開して飽きさせない構造になっている。なにより畠山の巧みで表現力ある歌唱力により、歌詞の世界が目に浮かぶ。 
 続く「色香に惑う」は高木が作編曲し、NatsudaidaiというユニットのNanaeが作詞をしたアコースティック・ソウルで、矢吹がプレイするドラム以外の全楽器とプログラミングを高木が担当している。音数が少ない音像に畠山の優し気な歌唱が印象的である。
 
 「霧のコミューン~Commune du brouillard」は、パリ市音楽院ジャズ科を修了した仲野の作品らしく、近代クラシックのフランス印象派の匂いがするアーティスティックな楽曲だ。サキソフォンの他ピアノも仲野のプレイで、コード進行やヴォイシングなど細部に渡って拘りのあるサウンドで耳に残り、畠山の巧みなボーカリゼーションを演出している。 
 畠山のオリジナル曲「夢見ること」は、編曲とピアノを林正樹が担当し、徳澤がチェロで参加している。この曲では畠山のボーカルに寄り添い、ピチカット奏法まで駆使する徳澤のプレイが秀逸で、まるでデュエットしてかのような錯覚をしてしまった。
 「きっと、大丈夫」も畠山自身のソングライティングで、高野が編曲している。エレキギターのプレイとプログラミングも高野で、エレピは斎藤、ベースは千葉がプレイしている。この曲では江藤がヴァイオリンで参加し、全編で畠山のボーカルを引き立てる多彩なプレイを繰り広げる。 


左から『Waltz For Debby』Bill Evans Trio,
『Waltz For Debby』Monica Zetterlund / Bill Evans, 
『The Tony Bennett / Bill Evans Album』

 そしてラストは、モード・ジャズの起点となったマイルス・デイヴィスの『Kind of Blue』(1959年)に参加し多大な貢献をした、ピアニストのビル・エヴァンスの代表曲「Waltz for Debby」(1961年)のカバーである。歌曲としては1964年にスウェーデンの歌手、モニカ・ゼタールンドが「Monicas Vals(モニカのワルツ)」としてスウェーデン語でカバーしており、その後1975年に米ジャズ・ボーカリストのトニー・ベネットがエヴァンスとの共演作『The Tony Bennett / Bill Evans Album』で取り上げる際、ジャズ評論家ジーン・リースが英語詞をつけた。 
 本作ではそのトニー・ベネットのヴァージョンを採用しており、林のピアノと藤本のアコースティックギターの演奏をバックにカバーしている。慈愛に満ちたこの旋律は、国境を越えて全世界の人々に愛されているので、カバーとして取り上げるのはハードルが高いと思われるが、林の繊細なピアノ・タッチに導かれ、畠山の夢心地なボーカルが堪能できる名演となった。正に本作を締め括るに相応しい選曲である。 
 筆者のレビューを読んで興味を持った音楽ファンは、是非入手して聴いてみてほしい。


「Traveln' Light」リリースライブ 
畠山美由紀 冬の音楽会

2024 年12月9日(月) 渋谷 duo MUSIC EXCHANGE>終了

2025 年 1 月19日(日) 名古屋陶磁器会館 2階大ホール

2025 年 1 月20日(月) 神戸VARIT.

2025 年 1 月21日(火) 京都・冬青庵能舞台

予約など詳細は下記オフィシャルサイトで
 

(テキスト:ウチタカヒデ







0 件のコメント:

コメントを投稿