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2024年12月25日水曜日

WebVANDA管理人選★2024年のベストソング

 
 今年もWebVANDA管理人が選ぶ年間ベストソングを発表したい。幣サイト母体のVANDA誌の趣向とは異なるカテゴリーの楽曲も一部選出しているが、分け隔てなく音楽の多様性を許容することが管理人の信条であるのでどうか理解して読んで頂きたい。なお今年はリリース元が日本国内の海外ミュージシャンのアルバムも含んでいる。
 選出した楽曲は今年2024年にリリースされ、弊サイトで取り上げた作品を中心に最もリピートした収録曲であり、アルバムを象徴する曲である。
 今回もインディーズ・レーベルからリリースされたミュージシャンの作品が多いが、そんな彼らを後押して応援する意味で今後も続けていきたいと思う。毎年の繰り返しであるが、この記事で改めて知った各アルバムは、これからでも遅くないでリンク先から是非入手して聴いて欲しい。
 選出趣旨からコンピレーション、セルフカバーを除く他者のカバー作品は除外とした。 
 昨年同様、順位不同のリリース順で紹介する。

  ※サブスクに登録されたベストソング・プレイリスト



☆午前0時2分 / 秘密のミーニーズ
(『Our new town』収録・レビュー記事はクリック
 “令和のはちみつぱい”と称される西海岸フォーク・ロック・バンドの“秘密のミーニーズ”の3年半ぶりとなるフルアルバムから。ニュー・ソウル系の跳ねる3連リズムが心地良く、リズム隊の安定したコンビネーションが聴ける。比較的ストレートと思われるこの曲も一筋縄ではいかず、最終サビ以降の後半パートでは、スティーリー・ダンの「King Of The World」を彷彿とさせるジャズ・ロック的インター・プレイに転回していく。 


☆金木犀の部屋 / 小林しの 
(『The Wind Carries Scents Of Flowers』収録・レビュー記事はクリック 
2000年デビューのギターポップ・バンド出身の女性シンガー・ソングライター、8年振りのアルバムから。現代のフォークロック・サウンドで、素朴な歌詞の世界にもマッチしている。ギター・アルペジのフレーズからアレンジのアイディアを広げており、マルチプレイヤーであるサウンド・プロデューサーがギター以外の全楽器をプレイしてサウンドを構築して、稀なオータム・ソングに仕上がった。



☆Catch The Love / IKKUBARU
(『DECADE』収録・レビュー記事はクリック 
インドネシアで活動するAOR~シティポップ・バンドのデビュー10周年を記念したサード・アルバムから。イントロは80年代初期のテクニカルなフュージョン・サウンドからの影響を感じさせ、本編ではソウルフルなボーカルを高域のコーラスで引き立てており完成度が高い。バンドリーダー自身のプレイによる The Mothers Of Invention風のシンセ・ソロなど演奏面でも聴き応えがある。



☆Fantastic Girl / Wink Music Service
ベテラン・クリエイター2人が「極上のポップ・ミュージックを作ろう」と結成したユニットのサード・シングル曲で、初のフルアルバムにも収録されている。上物のアレンジは、筒美京平作品で南沙織の「美しい誤解」に通じる、ピッツィカートのシンコペーションやスラーが効いたストリングス、木管と金管が適材配置されたホーン・セクションとのコントラストが美しく、転調やモンド・パートの挿入など、ソフトロックとして非常に完成度が高い。 



☆月のパルス / RYUSENKEI
(『イリュージョン』収録・過去作レビューはクリック) 
女性シンガーを正式メンバーに入れユニット名もアルファベット表記に変え、新生ALFAミュージックよりメジャー・デビューしたアルバムから。流線形時代から類まれなプロデュース・センスを発揮していたが、ソングライターとしても一級であり、嘗ての「花びら」にも通じるソングオリエンテッドなこの曲は格別である。サウンド的にはリズム隊のプレイヤーが変わったことで、特にドラムの音は所謂ALFA的な音になったのではないだろうか。



☆ロング・ロング・ビーチ / 松尾清憲
(『Young and Innocent』収録・レビュー記事はクリック
伝説のブリティッシュロック系サウンドのバンド出身で、ソロデビュー40周年を迎えるベテラン・シンガー・ソングライターの6年振りとなるフルアルバムから。この曲はストリングスとコーラス・アレンジからソフトロック色が強く、アルバムのサウンド・プロデューサーが主宰しているmicrostarのサウンドに通じており、タイトルからイメージ出来るように、ビートルズとビーチボーイズ風のコーラス・パターンがマニア心をくすぐる。



☆Loving Makes It So / Linda Carriere
(『Linda Carriere』収録) 
長年正式リリースが待たれたこのアルバムが、日の目を見たことは今年のビッグニュースだろう。1977年当時細野晴臣が村井邦彦率いるALFAレコードとプロデューサー契約を結び、第一作となる予定だったアルバムから。レジェンド達が提供した中でも、この曲こそがリンダの声質やその個性にマッチしていると思わせる吉田美奈子作で、アレンジを担当した山下達郎の当時のサウンド・カラーもよく出ている。ホーン・セクションをスタッカートで際立たせるパートは、名匠チャーリー・カレロ譲りだと感じた。



☆あなたとNegi With You! / Negicco
(『What A Wonderful World』収録・レビュー記事はクリック 
結成20年になる新潟在住アイドル・ユニットの6年振りとなる5thオリジナル・フルアルバムから。このユニットの最大の功労者であるプロデューサー作の新曲で、彼が得意とするキャッチーで70年代ブラック・ミュージックを基にしたソングライティングと、著名アレンジャーによるフィラデルフィア・ソウルに通じるストリングスが効いたアレンジで華麗に仕上がっている。手練なミュージシャン達による隙のない演奏も聴きどころだ。



☆愛の雨粒 / emily hashimoto
(同名7インチ及び配信・レビュー記事はクリック
渋谷系音楽や60ʻsファッションを愛す女性シンガー・ソングライターの7インチ・シングル曲。この曲のアレンジのポイントは、最低限の音数ながら印象的なシンセサイザーのリフや木管系の音とヴォイスを混ぜた浮遊感あるパッドで空模様を表現し、パターンの異なるコーラスが複数ダビングされている点だろう。スウィートで特徴ある声質をバックアップさせるサウンドが構築され、ポップスとして完成度が高い。



☆LA BLUE feat.MCあんにゅ ルカタマ / 広瀬愛菜
(『21』収録・レビュー記事はクリック
若き女性シンガーの4年振りとなるアルバムから。アルバム中最も異色だが、ファンキーな演奏をバックにゲストを含めた3名の女性がラップし合うという構成はかなり新境地だ。演奏面では、唸りまくるスラップベースやフィルを多用したドラミング、後半突然現れるインター・プレイのギターソロでフェードアウトしていく。ヒップホップ・ビートと生のジャズファンクの融合は最高で、アルバム中最強無敵の曲ではないだろうか。


(選曲及びテキスト:ウチタカヒデ





























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2024年12月15日日曜日

畠山美由紀:『 Travelin' Light』


 シンガー・ソングライターの畠山美由紀が、9作目のオリジナル・アルバム『Travelin' Light』(Happiness Records/ HRBR-030)を12月18日にリリースする。 
 前作『夜の庭』は、orange pekoe(オレンジ・ペコー)のギタリスト、藤本一馬との共同名義で2022年にリリースされており、その活動ペースは安定していると言えるだろう。

 本作では、YMO高橋幸宏氏人脈として知られる、シンガー・ソングライターでギタリストの高野寛のソングライティングによるタイトル曲「Travelin’ Light」を筆頭に全8曲収録が収録されている。高野以外にもマルチ弦楽器奏者として多くのセッションに参加している、高木大丈夫(高木大輔)が2曲、ジャズ・サックス奏者の仲野麻紀が1曲をそれぞれ提供し、畠山自身のソングライティングで2曲、カバー曲2曲という構成になっている。 
 レコーディングには楽曲提供者以外に、前作からアコースティックギターの藤本をはじめ、ピアノに川口大輔と林正樹、キーボードに斉藤哲也、ベースに千葉広樹、ドラムに伊吹文裕というリズムセクション陣が参加している。また東京藝術大学出身でanonymassやThrowing a Spoonといったユニットの他、数多くの劇伴やセッションに参加しているチェリストの徳澤青弦や、本作リリース元のハピネス・レコードからソロアルバム3枚をリリースしている、ヴァイオリニストの江藤有希が参加しているのは注目である。
 ジャケットの写真は高野が撮影したカットを提供しており、音楽面以外も畠山をサポートしている。


 畠山のプロフィールにも触れるが、宮城県気仙沼市出身で1991年上京後、93年にダンスホール楽団“Double Famous”に参加して音楽活動を開始し、96年には男女2人組ユニット“Port of Notes”を結成し、耳の早い音楽通に知られるようになった。
 2001年にはこれらのバンドやユニットと並行して、シングル「輝く月が照らす夜」でソロデビューし、これまでに8枚のアルバムと5枚のシングル、3曲の配信シングルをリリースしている。ボーカリストとしては、他アーティストの楽曲やトリビュートアルバム、映画音楽からTV CMソング(ナレーション含む)等への参加も多く、松任谷由実、大貫妙子といった日本音楽界のレジェンドとも共演している。
 現在は故郷であるみなと気仙沼大使とみやぎ絆大使も務め、FMヨコハマで音楽・情報番組「Travelin’ Light」のパーソナリティーを長年担当し、八面六臂の活躍をしているのだ。


   
畠山美由紀「Travelin' Light」アルバムティーザー

 ここからは収録された主要曲を紹介していく。 
 冒頭のタイトル曲「Travelin' Light ~旅する気持ち」は、高野から贈られたタイトル曲で、編曲の他アコースティックギターのプレイと、プログラミングも高野が担当している。サビから始まる詩情溢れるミドルテンポのポップスで、千葉の確かなベースライン、斎藤のハモンドオルガンなど聴きどころもあり、間奏のコーラス・パートがサンバに展開して飽きさせない構造になっている。なにより畠山の巧みで表現力ある歌唱力により、歌詞の世界が目に浮かぶ。 
 続く「色香に惑う」は高木が作編曲し、NatsudaidaiというユニットのNanaeが作詞をしたアコースティック・ソウルで、矢吹がプレイするドラム以外の全楽器とプログラミングを高木が担当している。音数が少ない音像に畠山の優し気な歌唱が印象的である。
 
 「霧のコミューン~Commune du brouillard」は、パリ市音楽院ジャズ科を修了した仲野の作品らしく、近代クラシックのフランス印象派の匂いがするアーティスティックな楽曲だ。サキソフォンの他ピアノも仲野のプレイで、コード進行やヴォイシングなど細部に渡って拘りのあるサウンドで耳に残り、畠山の巧みなボーカリゼーションを演出している。 
 畠山のオリジナル曲「夢見ること」は、編曲とピアノを林正樹が担当し、徳澤がチェロで参加している。この曲では畠山のボーカルに寄り添い、ピチカット奏法まで駆使する徳澤のプレイが秀逸で、まるでデュエットしてかのような錯覚をしてしまった。
 「きっと、大丈夫」も畠山自身のソングライティングで、高野が編曲している。エレキギターのプレイとプログラミングも高野で、エレピは斎藤、ベースは千葉がプレイしている。この曲では江藤がヴァイオリンで参加し、全編で畠山のボーカルを引き立てる多彩なプレイを繰り広げる。 


左から『Waltz For Debby』Bill Evans Trio,
『Waltz For Debby』Monica Zetterlund / Bill Evans, 
『The Tony Bennett / Bill Evans Album』

 そしてラストは、モード・ジャズの起点となったマイルス・デイヴィスの『Kind of Blue』(1959年)に参加し多大な貢献をした、ピアニストのビル・エヴァンスの代表曲「Waltz for Debby」(1961年)のカバーである。歌曲としては1964年にスウェーデンの歌手、モニカ・ゼタールンドが「Monicas Vals(モニカのワルツ)」としてスウェーデン語でカバーしており、その後1975年に米ジャズ・ボーカリストのトニー・ベネットがエヴァンスとの共演作『The Tony Bennett / Bill Evans Album』で取り上げる際、ジャズ評論家ジーン・リースが英語詞をつけた。 
 本作ではそのトニー・ベネットのヴァージョンを採用しており、林のピアノと藤本のアコースティックギターの演奏をバックにカバーしている。慈愛に満ちたこの旋律は、国境を越えて全世界の人々に愛されているので、カバーとして取り上げるのはハードルが高いと思われるが、林の繊細なピアノ・タッチに導かれ、畠山の夢心地なボーカルが堪能できる名演となった。正に本作を締め括るに相応しい選曲である。 
 筆者のレビューを読んで興味を持った音楽ファンは、是非入手して聴いてみてほしい。


「Traveln' Light」リリースライブ 
畠山美由紀 冬の音楽会

2024 年12月9日(月) 渋谷 duo MUSIC EXCHANGE>終了

2025 年 1 月19日(日) 名古屋陶磁器会館 2階大ホール

2025 年 1 月20日(月) 神戸VARIT.

2025 年 1 月21日(火) 京都・冬青庵能舞台

予約など詳細は下記オフィシャルサイトで
 

(テキスト:ウチタカヒデ







2024年12月6日金曜日

ザ・コーギス、3年ぶりのニューアルバム

 


Beginnings」に始まり、「Beginnings」に終わる収録曲の並び。そして、『UNUnited Nations BLUE』と『UNUnited Nations RED』という意味深なアルバムタイトル(以下、『BLUE』、『RED』と略して表記)。2作を並べると、地球のあちこちが線でつながっている。ザ・コーギスが3年ぶりにリリースするニューアルバムの全体のテーマとして、彼らは、「世界のつながり」とそれに相反する「分断」、そして「音楽の世界旅行」を考えた。どんなアルバムなのか、アルバムのライナーに収録された彼らの言葉を中心に、その想いをさぐってみたい。

  

抒情的なメロディと美しいストリングスが印象的なイギリスのポップグループ


……と、アルバムの話に行く前に、ザ・コーギスの説明を簡単に。

ザ・コーギス(THE KORGIS、以下コーギス)は、元スタックリッジのメンバー、ジェームス・ウォーレンとアンディ・デイヴィスの2人を中心に結成された伝説のポップ・ユニット。デビューシングルのリリースは1979年。

スタックリッジは「パストラル・ミュージックのビートルズ」(田園的なのどかな音楽のビートルズといった意味合い)と称され、その後継バンドであるコーギスもビートルズの影響を受けていることをメンバーが公言している。

2枚目のシングル「とどかぬ想い(If I HadYou)」(1979)と、3枚目の「永遠の想い(Everybody’s Got to Learn Sometime)」(1980)が英米で大ヒット。抒情的なメロディ、美しいストリングスやコーラスの音の重なりが印象的で、日本でも、洋楽ファンの心をぎゅっととらえたが、アンディ・デイヴィスの脱退などもあり、1982年、解散。その後、再結成、再解散、レコードの再発、ベスト盤のリリース、ライブなど、つかず離れずといった感じでの活動が続いてきた。

 

                  The Korgis「Everybody’s Got to Learn Sometime」(1980)

 

新型コロナウイルス感染症のロックダウン中にレコーディングされた前作

 

そして202111月、約30年ぶりとなる新作のアルバムKartoon Worldをリリース。2020年の新型コロナウイルス感染症によるロックダウン中に、レコーディングを開始したそうだ。このときのメンバーの言葉を紹介しよう。

 「コーギスのニュー・アルバムは、途切れなく50年間にわたる壮大な音楽です。それは1980年に始まり、目も眩むような成就と共に2030年に終わります。世界はとてつもない没落へと向かっており、テクノロジーではなく、愛の力だけが唯一の明白な答えなのです。過去から未来へ、我々と旅をしましょう。そして我々が知っている人類の滅亡から、我々がどのように辛うじて逃れるのかを見ようではありませんか! Kartoon Worldは誓いと共にリリースされます。その誓いは愛に始まり、愛に終わり、それこそが今の世界に必要なことなのです」

 今、世界に向けて歌わなければ、いつ歌うのか、という強い意志を感じる。そしてこのときの想いが、今回のアルバムUNUnited Nations BLUE』と『UNUnited Nations REDにもつながっていると感じる。


現在のコーギスのメンバーは、コーギス結成時からのオリジナルメンバーであるジェームス・ウォーレン(Ba./Vo./Gt.)と、1982年の最初の解散前には既にコーギスの一員になっていたジョン・ベイカー(Vo./Gt./Key.)、ジェームスの古くからの音楽仲間で2000年代に入ってからメンバーとなったアル・スティール(Vo./Gt./Key.)の3人がフロントを担い、ポール・スミス(Dr./Perc.)、ダニエル・ニコルス(Vo./Gt./Perc.)も含めた5人。

 

愚かさと優しさ、人間の内面を見つめる『BLUE

 

「漠然としたアイデアではあるが、このアルバムは国や都市といった場所をテーマにできそうだと思った。『Nations』という言葉を使った何かがふさわしいように思えたが、その後、ロシアがウクライナに侵攻したことで、UNUnited Nationsに変更することにした」(BLUEブックレットより)

 『BLUE』はオーケストラによるイントロが印象的な小曲Beginnings(作:アル・スティール)で始まり、Mud Huts(泥の小屋の意)」(ジェームス・ウォーレン/アル・スティール)という曲に続く。美しい地球の森を切りひらき、自然を容赦なく切ってきた人間社会を批判する内容だ。


BLUEには他に、Good Old Days Of The Cold War(アル・スティール/ジェームス・ウォーレン)という曲もある。古き良き冷戦時代とは、なんと皮肉な内容だろう。ピアノの低音域のベースラインと右手のコードが8ビートを刻むアレンジが特徴的。どこか陽気で、古い映画音楽のような雰囲気の楽曲なので、タイトルや歌詞を見なければ、社会的な歌だとはわからない、そのギャップがおもしろい。制作を始めた頃の仮タイトルは、なんと、「プーチンとトランプ:ミュージカル編」だったらしい。その後、ロシアによるウクライナ侵攻が始まったため、歌詞の内容が現実とはズレてしまったが、「時が経てば(この歌詞もまた)歴史に沿ったものになると予測している」とブックレットに解説されている。

 

 もちろん、コーギスらしいポップスも健在。ポンポンポン……というかわいらしい音のカウントから、風が吹き抜けるような爽やかなアコースティックギターで始まるSomeday, Charlie, Someday(イアン・クーパー/アル・スティール/ジェームス・ウォーレン)は、私がこの『BLUE』で一番好きな曲。ブックレットに収められたインタビューでは、それぞれのアルバムで「自分たちが好きな曲、おすすめの曲」を聞いているが、アルとジェームスが、この曲をあげている。

明るい旋律ながら、時折、切ない音が入る。コーラスの音の重なりも、コーギスらしい清々しさ。ブックレットの曲紹介によれば、「トーキー映画が生まれた時期のハリウッドにタイムスリップし、チャーリー・チャップリンを批判する(彼には何の罪もない)」とのことだが、歌詞をみる限り、批判しているようには見えないけれど……。


       The Korgis「Someday, Charlie, Someday」(2024)

  

 次の曲Letter To Geelong(ジョー・マテラ/アル・スティール)もアコースティックギターと明るくおだやかな旋律が印象的な曲。故郷に残してきた人びとと手紙のやりとりをするストーリーは、優しさに満ちている。女性ボーカルの声はダニエル・ニコルズ。コーギスに女性ボーカルが加入したことで、歌の表現も、コーラスのニュアンスの幅も広がっているのだとわかる。


  そのあとも、Prison Break(クリス・ホプキンス/アル・スティール/ジェームス・ウォーレン)Another Perfect Day in St.Thopez(ジョン・ベイカー/アル・スティール)と、ポップでコーギスらしい曲が続く。

Prison Breakは後半の間奏にプログレアレンジが入ってくるところで、思わず、ニヤリ。そこまでのアレンジが、イギリスのポップグループらしい、どこかキュートでピュアな雰囲気のメロディとアレンジなので(歌詞は、脱獄しようっていう内容だけどね……())、一瞬、お?と思うが、そこからまたポップなメロディに戻っていくアレンジ、歌詞とのギャップも含めてすべて、ウイットに富んでいて、これもコーギスの魅力のひとつである。

 Another Perfect Day in St.Thopezは、〈君は今どこにいるの〉の歌詞で始まる。終わった恋を思い出し、昔の恋人に心の中で話しかけている。ちょっと切ないけれど、かわいらしいラブソング。この曲を作ったジョン・ベイカーの18歳の頃の経験がもとになっているそうだ。歌詞に、The Beach BoysThe Beatlesも出てくる。遠い日の思い出は、とてもやさしい眼差し。年齢を重ねた今だからこそ書ける、ということだろう。

ジョン・ベイカーの年齢は不明だが、ジェームス・ウォーレンと同世代だとすれば、60代後半~70代前半、か(Wikipediaによると、ジェームスは1951年8月10日生まれ。御年73歳!)。 70代になって、恋の歌をこんなに瑞々しくうたい、演奏するのはとても素敵なことだと思う。


  BLUEも終わりに近づき、最後から2曲目の曲Matala Moon(マーリー・デヴィッドソン/アル・スティール/ジェームス・ウォーレン)は、美しいピアノの音色で始まる。バカラック・スタイルのフルオーケストラの演奏、メインボーカルをつとめたゲストミュージシャンのマーリー・デヴィッドソンとジェームス・ウォーレンのコーラスワークが息をのむほど美しい1曲。マーリーはこの曲でグランドピアノも弾いている。普通のコーラスに加え、ジェームスが対旋律をとる部分もあり、彼の高音域の声が楽曲に清らかさを添える。この「Matala Moon」も、アルとジェームスが「好きな曲」にあげている曲だ。

 


 

悲観の先に希望を見つける『RED

 

 コーギスのコア・メンバーであるジェームス・ウォーレン、ジョン・ベイカー、アル・スティールの3人が唯一そろって「自分が好きな曲、おすすめの曲」としてあげたのが、End Of An Era Feeling(クリス・ホプキンス/ジェームス・ウォーレン/アル・スティール/イアン・クーパー)。重厚で美しいオーケストラサウンドで始まるこの曲は、歌の部分にもすべてコーラスワークが入っており、音の重なりのやわらかさ、優しさが感じられる。

全体でみると、〈Aahit’s that end of an era feeling〉という1行、曲のタイトルでもあるこの部分が鍵となって、それぞれテーマを持ったいくつかの曲パートをつなぎ、構成される「組曲」のような楽曲にしあがっている。

ブックレットに収められた3人のインタビューによると、この曲は1960年代終わりのリバプールが舞台。ビートルズは解散し、ラブ&ピースは終わり、サイケがグラムロックにとって代わろうとしていた時代を表現しているという。歌詞にも1960年代の出来事が綴られており、それは、いっけんポップなサウンドやアレンジとは真逆の、悲観的なもので、現代の私たちが生きる世界にも同じことが言えるのではないかと、どこか不安にかられるような内容でもある。


一転して、ソウルフルなアレンジのCoffee In New York(アル・スティール/ジョン・ベイカー)に続く。ブルックリンのカフェで、まだ見ぬ君へ、そして去っていった人への想いを歌うラブソングのようでいて、同時に、時を超えて継がれていく「何か」にも思いを馳せる。

コーギスの歌詞は(特に、今回の新作BLUE』『REDでは)文字となった単語の裏に、あるいは、その言葉を選んだ背景に、違う意味合いを持たせるものが多く、聴く人によっていろいろに解釈できるものが多い。

新作のアルバムを聴く際、まず最初に聴くときには全体のサウンドから入る人が多いと思う。そこから、歌詞や細かいところを聴いていく感じ。今回、私もそうだったが、歌詞の世界も感じていくにつれ、矛盾を感じたり、気づきもあったりした。もしかしたら、今後、数カ月後、数年後に聴いたら、また違う聴き方になるかもしれない。


3曲目のBorn Under A Full Moon(アル・スティール/ジェームス・ウォーレン)もそんな曲のひとつで、アル・スティールの子どもが誕生した日のことがモチーフとなっている。その日、ライブに出演したあと、病院に向かう途中、見上げた空に満月が輝いていたのだそうだ。

命が継がれていくことの希望を感じる一方で、「深い闇」「道化師」「愚か者」といった歌詞も出てくる。ブックレットに収録されたインタビューでアル自身も、この曲について、「悲観的な‘世界の終わり’タイプの曲」と語っているが、楽曲のアレンジはボサノバ調の陽気な響き。これをどう聴くか。

 

次の曲は、OppenheimerStuck In This Moment)」(クリス・ホプキンス/アル・スティール/ジェームス・ウォーレン)で、理論物理学の研究に生涯を捧げたロバート・オッペンハイマー、‘原爆の父’である彼の生涯のパラドックスがテーマ。しかし、アコースティックギターの音で始まり、コーギスらしいコーラスアレンジが施され、重いテーマを歌うわりには、メロディもアレンジも優しい。こうしたバランス感覚もコーギスらしさのひとつなのだろう。


           The Korgis「Oppenheimer」(2024)

 このあとも、ポップなロックテイストの曲が続くが、テーマ、世界観はさまざまだ。たとえば、オーストラリアの熱帯雨林の森林火災にアイデアを得て作られたRed Flag Day(ジョー・マテラ/ジェームス・ウォーレン/アル・スティール)。あるいは、年配の人物が鏡を眺めながら過ぎ去った年月に思いを巡らせるHey Old Friend(ジョン・ベイカー/ジェームス・ウォーレン/アル・スティール)。昔のことを思い出す歌詞にはビートルズのエピソードも。曲の最後はアレンジが一変し、マイナーに変調して、淋しさが漂うエンディングになっているが、最後の歌詞は「Oh yeah…」が続く。ビートルズの「I’ll Get You」からのオマージュだそうだ。

 

 最後から2曲目は、Sticky Note For The End Of The World(アル・スティール/ジェームス・ウォーレン)。人類が地球を支配した後の世界が舞台。熱帯雨林は燃え上がり、天変地異が次々と陸地を海に沈めていく地球上に、わずかに残った人類が生き延びるためにもがく物語だ。

sticky noteとは付箋のこと。歌詞には、「欲しければ与えよ」「誠実な人間になれ」「すべての人種の血は赤い」といった言葉が並び、生き残った人類がこれからなにをすべきか、大事なことを忘れないように付箋に書いていると意味合いだろうと思う。豊かに広がる印象のオーケストラアレンジ、落ち着いたメロディライン、コーギスらしい瑞々しいコーラスアレンジに、大事なことを成し遂げるための決意のようなものさえ感じる。まさに、名曲。

 

 そして、REDラストの曲は、BeginningsBLUEの1曲目Beginningsと2曲目Mud Hutsを受ける内容であり、初心に戻り、泥小屋を建て直そうと歌う。

ブックレットに収録されたインタビューで、ジェームス・ウォーレンは、「BLUEがあえて全曲シングルにできそうな、わかりやすいアルバムにしたのに対し、REDはやや実験的で、歌詞も終焉に向かうものが多いなど、それぞれのアルバムの性格に違いがあるわけだが、Beginningsが両者の架け橋となり、UN-United Nationsの世界観をひとつにしてくれる」と語っている。


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Beginnings」で始まり「Beginnings」で終わる今回の新作2枚のアルバムは、環境問題や社会情勢、政治、戦争など多くのメッセージを放っていた。一方で、昔の恋人や離れて住む家族や友人を想ってうたうあたたかな楽曲もあった。思うに、ザ・コーギスにとって、地球を想ってうたう歌も、人を想ってうたう歌も、等しく、ラブソングなのだろうなぁ。前作『Kartoon World』から続く、愛の歌。いまを生きる私たちみんな、コーギスからのラブソングを、どう受け取るか……。

 

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 UN-United Nations BLUE』『UN-United Nations RED』は、2枚に連なる一大コンセプト作。あえて2枚組にしないで、2作でひとつの作品にしあげたのは、ジャケットデザインを見ればわかると思う。ぜひ、2作セットでお聴きください。

タワーレコードオンラインUN-United Nations BLUE

タワーレコードオンラインUN-United Nations RED


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大泉洋子プロフィール

フリーのライター・編集者。OLを経て1991年からフリーランス。下北沢や世田谷区のタウン誌、雑誌『アニメージュ』のライター、『特命リサーチ200X』『知ってるつもり?!』などテレビ番組のリサーチャーとして活動後、いったん休業し、2014年からライター・編集。ライター業では『よくわかる多肉植物』『美しすぎるネコ科図鑑』『樹木図鑑』など図鑑系を中心に執筆。主な編書に『「昭和」のかたりべ 日本再建に励んだ「ものづくり」産業史』『今日、不可能でも 明日可能になる。』など。編著書に『音楽ライター下村誠アンソロジー永遠の無垢』がある。