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2024年11月9日土曜日

Wink Music Service:『It Girls』


 サリー久保田と高浪慶太郎によるポップ・ユニット、Wink Music Service(ウインクミュージック・サービス/以降WMS)が、待望のファースト・アルバム『It Girls』(VIVID SOUND/ VSCD9741)を11月20日にリリースする。
 昨年のデビュー・シングル『ローマでチャオ/ヘンな女の子』(VSEP859)の発表後、今年に入って2月から隔月で7インチ・シングルを3枚リリースしており、その全てが即完売してしまったという。
 
  彼らWMSは、ネオGSムーブメントを牽引したザ・ファントムギフトでデビューし、近年ではSOLEILからザ・スクーターズなど数多くのバンドに参加するベーシストでプロデューサー、またデザイナーでもあるサリーが、ピチカート・ファイヴ解散後音楽プロデューサー兼作曲家として活動していた高浪に「極上のポップ・ミュージックを作ろう」と誘い結成されたユニットである。 このベテラン・クリエイター2人が、それぞれ培ってきたセンスと活動戦略によって、シングル毎にフォトジェニックな美少女ハーフ・モデルのアンジーひより、オーバンドルフ凜、そして現役アイドルの白鳥沙南をゲスト・ボーカルとして参加させて、大きな成果を残している稀な存在なのだ。


高浪慶太郎   サリー久保田

アンジーひより   オーバンドルフ凜    白鳥沙南

 今回CDアルバム制作に際し、7インチ・シングル4枚分8曲の既出曲にプラスして、サリー作のインスト曲と、高浪が1992年にクレモンティーヌの『アン・プリヴェ~東京の休暇』に提供した「マドモアゼル・エメ」のセルフカバーを収録している。またリマスタリングは今年6月にリリースされた、松尾清憲の『Young and Innocent』(名作!)のサウンド・プロデュースを務め、マスタリング・エンジニアとしても、目下売れっ子のmicrostarの佐藤清喜が担当し、CD化の音質向上も計られていて信頼度も高い。
 筆者がこれまでに弊サイトで紹介済みの『ローマでチャオ/ヘンな女の子』、『素直な悪女/ラ・ブーム ~だってMY BOOM IS ME~』、『Fantastic Girl/Der Computer Nr.3』は、当時の記事を読んで頂くとして、ここからは、フォース・シングル『ミツバチのささやき/ロマンス』収録曲と、新曲2曲について紹介していく。 

★『ローマでチャオ』(短冊CD盤)>レビューはこちら

『素直な悪女』+『Fantastic Girl』>レビューはこちら

 
  冒頭のタイトル曲「It Girls」は、前出の通り、サリー作の書き下ろしの新曲インストで、ボサノヴァのリズムにフルートと男女のスキャットがリードする。イタリア映画サウンドトラックの巨匠ピエロ・ピッチオーニの『I Giovani Tigre』(1968年)、イギリスのジャズ・ピアニスト、ロジャー・ウェッブがライブラリー・ミュージック・レーベルDe Wolfe Musicに残した『Vocal Patterns』(1970年)に通じる、愛らしく風通しの良いノベルティ・ミュージックだ。

 「マドモアゼル・エメ」は高浪の曲にクレモンティーヌ自身とエンジニアの青柳延幸が作詞をしていて、オリジナル・アレンジでは打ち込みのドラムトラックとシンセ・ベース、アコースティックギターのアルペジオによるリズムセクションに、ブルースハープとスライドギター、口笛が絡むという1992年当時でも斬新な編成だった。
 ここでのセルフカバーは、よりタイム感を緩くしてハース・マルティネスの「Altogether Alone」(『Hirth From Earth』収録/1975年)に近い変則ボサノヴァのリズムで高浪が歌唱する。ホールトーン・スケールのイントロやノベルティな男女コーラスをはじめ、キーボード類の音色やエフェクト処理により、ソフトサイケでマジカルな音像となった。その曲調からセルジュ・ゲンスブール・ミーツ・ハースというべき唯一無二なサウンドに仕上がっていて、筆者としても非常に好みである。

『ミツバチのささやき/ロマンス』

 フォース・シングルのタイトル曲「ミツバチのささやき」は、まずその題にヨーロッパ映画マニアは強く反応するだろう。名匠ビクトル・エリセの1973年監督作スペイン映画で、主演の少女アナを演じたアナ・トレント(Ana Torrent)による、5歳とは思えない存在感に圧倒される。日本では後の1985年に初公開後、拘りを持つ映画マニアに絶賛された、知る人ぞ知る作品なのだ。因みにアメリカのカルト・ロードムービー『Stranger Than Paradise』(1984年)、『Down by Law』(1986年)などで知られる、ジム・ジャームッシュ監督もフェイヴァリット映画に挙げており、アナに求婚したいとまで言わしめた映画と説明すれば、その素晴らしさを理解してくれるだろう。
 余談が長くなったが、この曲は高浪の作曲とWMSの準メンバーでmicrostarの飯泉裕子による作詞で、アレンジはWMSと岡田ユミが担当している。ゲスト・ボーカルにはアイドル・グループさくら学院(所属期間:2018年~2021年)出身で、2023年からはLIT MOONのメンバーとして活動している白鳥沙南を迎えている。
 小柄で愛らしいドール・フェイスを持つ白鳥のキャラクターを活かした歌詞と、ドリーミーな古き良きハリウッド・スタイルのコンボ編成アレンジは、弊サイトの主な読者であるソフトロック・ファンにもアピールするだろう。サリーのベースに、原"GEN"秀樹のドラムとノーナ・リーヴスの奥田健介のエレキギターのリズムセクションを基本として、アレンジャーの岡田がキーボード類と上物を被せたサウンドは、各自の巧みな演奏もさることながら、楽し気なこの曲の雰囲気をうまく演出して、プリティな声質の白鳥と高浪のデュエットを引き立てている。

 7インチでは「ミツバチ・・」のカップリング曲で、本作『It Girls』のラスト曲となるのは「ロマンス」のカバー曲で、オリジナルはトーレ・ヨハンソン(Tore Johansson)がアレンジとプロデュースを手掛けた、原田知世の1997年リリースの20thシングルだ。
 原田自身の作詞に、作曲はヨハンソンが手掛けたスウェーデンのバンド”Freewheel”のウルフ・トゥレッソン(Ulf Turesson)によるものだ。ヨハンソンはThe Cardigansを中心に1990年代中期に日本でも渋谷系の文脈で注目された、スウェーデン・ポップ・バンドを多く手掛けたことで音楽マニアにも広く知られていた。原田もこの曲が収録された『I Could Be Free』(1997年)と前年の『Clover』(1996年)の5曲、翌年の『Blue Orange』(1998年)の3作をスウェーデンのマルメにあるTambourine Studiosでレコーディングしている。原田のオリジナルでは、このTambourineサウンドを象徴する60年代~70年代前半のメロディ重視の良質なポップスに80年代ネオアコを内包させたような、アコースティックギターのカッティングが効いた、ホーン入りのエイトビートで演奏されている。
 ここでのカバーは、なんとスカでアレンジされて、オリジナルとはカラーの異なる風合いになった。日本最初のスカバンドとされるThe SKA FLAMES(1985年~)からトロンボーンの溝呂木圭、パーカッションにはジャズ・ドラマーとしても知られる井谷享志がゲスト参加しており、このスカ・サウンドに貢献している。サリーをはじめとするWMSのリズムセクションもフレキシブルに対応しているが、特に原のドラミングは白眉で、NORTHERN BRIGHTのメンバーとして活躍してきたプレイは聴きものだ。このように疾走感のあるスカ・サウンドでカバーされたことで、マイナー・キーの原曲は白鳥と高浪の歌唱により、更に切なく耳に残るのである。

 サリー久保田と高浪慶太郎による究極のポップ・ユニット、Wink Music Servicの全貌が、正式にアルバムとしてリリースされるので、筆者の詳細レビューを読んで興味を持った音楽ファンは是非入手して聴いて欲しい。

(テキスト:ウチタカヒデ







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