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2024年11月20日水曜日

広瀬愛菜:『21』


 若き女性シンガーの広瀬愛菜が、4年振りとなる待望のセカンドアルバム『21』(なりすレコード/SUNDAY GIRLS/NRSD-30142)を11月27日にリリースする。
 前作でファーストアルバムの『17』(NRSD-3092)が各所で賞賛されたことで、彼女とプロデューサーである関美彦に多大なプレッシャーがあったと思うが、それを軽々とクリアした完成度に筆者も敬服している。

 先ずは広瀬のプロフィールに触れるが、彼女は山梨県出身で3歳から歌を始め、2012年に山梨県と東京近郊を中心に活動するアイドルグループPeach sugar snowのメンバーとしてデビューした。2016年に同グループ卒業後、新たに3776(みななろ)に参加し、静岡県富士宮市のアイドルグループに参加し山梨担当として2018年3月まで活動していた。同年6月にミニアルバム『午後の時間割』でソロデビューし、現在までに1枚のフルアルバム、2枚のCDシングル、7インチ・シングルを1枚リリースしている。 
 『午後の時間割』からプロデューサーとして関わっているのが、鬼才シンガーソングライターの関美彦で、これまで弊サイトで紹介したシンガーソングライター青野りえのファーストやセカンドアルバムなどを手掛けていて高い評価を得ていた。
 

 本作『21』には関の他、彼が所属するROSE RECORDS主宰で、サニーデイ・サービスのリーダーの曽我部恵一、インスタントシトロンの結成メンバーで、脱退後はプロデューサーとして活動する松尾宗能ら、拘り派のポップス職人達が楽曲提供しているのは注目に値する。またレコーディングには『17』から引き続き、”善福寺BAND”が参加し、ピアノの長谷泰宏(ユメトコスメ主宰)ギターの山之内俊夫ベースの伊賀航、そしてドラムの北山ゆう子という手練なミュージシャン達が参加して巧みな演奏を繰り広げ、ミックスとマスタリングも前作同様、佐藤清喜(マイクロスター)が手掛けており、隙のない音作りの人材が勢ぞろいしている。


 ここからは筆者による本作収録曲の解説と、プロデューサーの関がアルバム制作中にイメージ作りで聴いていた、プレイリストと同サブスクを掲載するので、聴きながら読んで欲しい。
 冒頭の「Motor Cycle Girl(Cowgirl Song)」は、松尾宗能のソングライティングで疾走感のある2ビートのカントリー・ロックでアレンジされており、作者の松尾はコーラスの他、ハーモニカ、YC-20コンボオルガンでレコーディングにも参加している。バッキングは伊賀と北山の鉄壁なリズム隊に、長谷のクールなホンキートンク・ピアノと山之内のチェット・アトキンス・スタイルのギター・フレーズなど巧みな演奏が、広瀬のナチュラルで存在感のある声質(独特な倍音成分がある)を引き立てており、早くも本作の完成度が伺える。
 続く「天国にいちばん近い島」は、原田知世の6thシングル(1984年10月)のカバーで、原田が主演した同名映画の主題歌だった。作詞:康珍化(かん ちんふぁ)、作曲:林哲司というヒットした前曲「愛情物語」(84年4月)からのコンビによるもので、アレンジは筒美京平作品を200曲以上手掛けた萩田光雄だった。ここでのカバーは関と長谷が共同アレンジしてオリジナルのミディアムテンポと雰囲気は踏襲しつつ、長谷がプレイするDX7や関がプログラミングしたデジタルシンセの響きが懐かしくも新しいサウンドで原曲が生まれ変わっている。広瀬のボーカルはこの様なライト・バラード系の曲でもしっかり耳に残り、音域的によく計算された佐藤のミックスは成功している。
 「Everlasting」は広瀬自身が作詞し、that's all folksことギタリスト兼ボーカルのリョウが作編曲を担当している。彼は”都市とカンタータ”という男女2人組グループでも活動しており、本曲でもリズムセクション以外のストリングスと木管のアレンジ、プログラミングを手掛け、非凡な才能を披露している。曲調的には70年初期のポップスがルーツだが、柔らかなフルートやオーボエが鳴っている空間に、山之内のやや歪んだエレキギター・ソロが響くコントラストは新鮮で、広瀬による歌詞と切ない歌声がこのサウンドに溶け込み感動してしまう。



 本作中異色なのは、4曲目の「LA BLUE feat.MCあんにゅ ルカタマ」だろう。文化学園大学卒のファッションデザイナー兼ラッパーというMCあんにゅが作詞し、関とあんにゅが作曲したこの曲は、善福寺BANDのファンキーな演奏をバックに3名の女性がラップし合うという構成で、広瀬にとってはかなり新境地だ。レーベルメイトのシンガーソングライターのルカタマ(アイドルグループ”めろん畑a go go”出身)が、2023年7月に発表した「Lowlife( feat. MCあんにゅ)」で先にコラボしたことで、本曲に雪崩れ込んだと想像できるが、こういう異種ジャンル・コラボは今後のインディーズ界にとって、すそ野を広げるという意味で重要だと思う。肝心の演奏面では、伊賀の唸りまくるスラップベースや北山のフィルを多用したドラミング、後半突然現れる山之内によるインタープレイのギターソロでフェードアウトしていく。恐らくこのままセッションは続いて、スティーリー・ダンの『The Royal Scam』(1976年)セッションの様に長尺からベストテイク・パートをミックスしたのではないだろうか。関が演奏するCasiotone MT-65のフレーズ(Miles Davisの「Milestones」に通じる)も中毒性が高く、筆者が嘗て愛聴していたThe Brand New Heaviesの『Heavy Rhyme Experience  Vol.1』(1992年)で繰り広げられた、ヒップホップ・ビートと生のジャズファンクの融合を彷彿とさせて、本作中で最強無敵の曲かも知れない。
 善福寺BANDの長谷は男女ユニット”ユメトコスメ”を主宰していて、ソングライターとしても優れているが、本作には2曲を提供している。「女神と21番街のドレスアップ」はその一曲で、渋谷系を通過したトム・ベル(Thom Bell)などフィラデルフィア・ソウル・サウンドソフトロック・ファンにもアピールするだろう。生っぽいヴィブラフォンは長谷によるプログラミングで良いアクセントになっており、ニューヨークをモチーフとした架空の街でのストーリーを持つ歌詞を演出し、少し背伸びした世界観に広瀬の歌唱も溌溂としている。
 広瀬が作詞し関が作編曲した「new age」は、生演奏とプログラミングが融合されたクールなシティポップで、音数は少ない音像だが、マルチ・ショートディレイをかましたシンセパッドや無骨に連打されるキックなど関の打ち込みの拘りが感じられる。広瀬が自らの心情を吐露したような歌詞は言葉選びやその響きもサウンドによく溶け込んでいる。


 本作後半の「さよなら青春」は、広瀬のサークルバンド仲間である亀田奎佑のソングライティングで、広瀬は作詞を手伝っており、アレンジとオリジナルのバックトラックは亀田によって製作されていた。関の仕切りで善福寺BANDによってヘッドリアレンジされレコーディングされたと思われる。マイナー調のエイトビート・ポップスで、タイトルから想像できる通り、懐かしいメロディが印象に残る。
 長谷が提供したもう一曲の「女王陛下かく語りき」は、ボサノヴァのリズムで演奏され、ウィンドチャイムなど金物パーカッションは長谷がプログラミングしている。このタイプの曲では伊賀と北山によるリズム隊のダイナミックなプレイが肝であり、非常に素晴らしい。歌詞の世界観はアニメーションのテーマ曲のようで長谷の趣味が色濃く出ており、広瀬の若く瑞々しい声質にもよく合っていると思う。
 再び広瀬の作詞に関の作編曲のコンビによる「Let Us Go」は、本作中最もR&Bナンバーとして完成度が高く、善福寺BANDの長谷、山之内、伊賀、北山の掛け値なしの名演が聴ける。ストリングス・シンセのプログラミングとKORGのアナログ・ポリシンセは関がプレイしていて、広瀬のファルセット気味な歌声と共に、アーバンな歌詞の世界観を演出している。筆者的にはStephen Duffy & Sandiiの「Something Special」(1986年)など80年代中後期のUKソウル・サウンドに通じていて非常に好みなので、この曲と「LA BLUE」をカップリングした7インチ(12インチでも可)・シングルでのリリースを強く希望する。

 
サマービート/広瀬愛菜

 ラストの「サマービート」は前出の説明通り、サニーデイの曽我部恵一が提供し、善福寺BANDがヘッドアレンジしたキャッチーなロックンロール・ナンバーで、曽我部作品としては「夢見るようなくちびるに」(1999年)に通じる名曲だ。先行配信シングルとして10月1日にリリースされていて、サマービートと連呼するサビのリフレインするパートがこの曲の肝であり非常に耳に残る。本作中で最も広瀬のシャウトする声を聴ける。関はサビのコーラスとホーン・セクションのプログラミング、長谷はオルガンとDX7をプレイしてる。

 最後に本作の総評として多岐に渡るカラーを持つ収録曲の充実度と、数多のセッションで名演を残しているプレイヤーが揃った善福寺BANDの演奏、確かな耳を持つ佐藤のミックスとマスタリング、それをまとめ上げた関のプロデュース力によって、広瀬の最高傑作として仕上がっている。
 筆者の詳細レビューを読んで興味を持った音楽ファンは是非入手して聴いて欲しい。


広瀬愛菜『21』関美彦プレイリスト サブスク 


◎プロデューサー・関美彦
レコーディングの際に実際メンバーのみなさんに聴いて頂いた曲、また僕が思い描いたイメージの曲たちをあげさせて頂きます。

■Hot Dog / Led Zeppelin(『In Through The Out Door』/ 1979年)
◎松尾さんの「Motor Cycle Girl」をレコーディングする際みんなに聴いてもらった。
 めっちゃ盛り上がった。ゆう子さんはジョン・ボーナム好きだし!

■The Theme From Route 66 / Nelson Riddle
(『Route 66 And Other T.V. Themes』/ 1962年)
◎また松尾さんの曲。長谷さんにピアノのニュアンスの説明の際、こんな洒脱な感じと聴いてもらった。

■Don't Look back In Anger / Oasis 
 (『(What's The Story) Morning Glory?』 / 1995年)
◎That'sさんにつくってもらったEVER LASTING。
 最初はロジャー・ニコルス的なMORかと思ったがエレキが入ったらオアシスじゃないかと。その場でThat'sさんに伝えたら、「そう感じてくれたらうれしい」と言われた。

■Waterfalls / TLC(『Crazy Sexy Cool』/ 1995年)
■Mt.layerd / DMBQ(『Jinni』/ 2000年)
◎ラップ曲をつくるにあたっての漠然としたイメージはTLC。
 ドラムとエレキが入ったらDMBQみたいになった!

■Odara / Nara Leão and Caetano
 (『Os meus amigos são um barato』/ 1978年)
◎長谷さんから自作曲レコーディングの際に聴かせて頂いた曲。
 なるほどおしゃれだなあ。

■Super Shy / New Jeans(『Get Up』/ 2023年)
■Perfect Night / Le SSERAFIM(『Perfect Night』/ 2023年)
◎レコーディングに入るまえに愛菜さんに聴いたらK-POPが好きだとの事。
 僕の曲はこんなイメージがあった。曲つくりのディテールも。

■Heat Wave / The Jam(『Setting Sons』/ 1979年)
■Let's Go / The Cars(『Candy-O』/ 1979年)
◎サマービート。曽我部くんから曲を頂いたとき聴いたイメージはモータウン! 
 リハの際みんなでいろんなヒートウェイブ聴いた。
 ミックスはカーズのようにコンパクトなロックをと、佐藤さんに話した。

Surfer Girl / The Beach Boys(『Surfer Girl』/ 1963年)
 ◎レコーディングがすべて終わり、残ったメンバーでPVを見た。
  ただため息だった。
 


(テキスト:ウチタカヒデ















2024年11月9日土曜日

Wink Music Service:『It Girls』


 サリー久保田と高浪慶太郎によるポップ・ユニット、Wink Music Service(ウインクミュージック・サービス/以降WMS)が、待望のファースト・アルバム『It Girls』(VIVID SOUND/ VSCD9741)を11月20日にリリースする。
 昨年のデビュー・シングル『ローマでチャオ/ヘンな女の子』(VSEP859)の発表後、今年に入って2月から隔月で7インチ・シングルを3枚リリースしており、その全てが即完売してしまったという。
 
  彼らWMSは、ネオGSムーブメントを牽引したザ・ファントムギフトでデビューし、近年ではSOLEILからザ・スクーターズなど数多くのバンドに参加するベーシストでプロデューサー、またデザイナーでもあるサリーが、ピチカート・ファイヴ解散後音楽プロデューサー兼作曲家として活動していた高浪に「極上のポップ・ミュージックを作ろう」と誘い結成されたユニットである。 このベテラン・クリエイター2人が、それぞれ培ってきたセンスと活動戦略によって、シングル毎にフォトジェニックな美少女ハーフ・モデルのアンジーひより、オーバンドルフ凜、そして現役アイドルの白鳥沙南をゲスト・ボーカルとして参加させて、大きな成果を残している稀な存在なのだ。


高浪慶太郎   サリー久保田

アンジーひより   オーバンドルフ凜    白鳥沙南

 今回CDアルバム制作に際し、7インチ・シングル4枚分8曲の既出曲にプラスして、サリー作のインスト曲と、高浪が1992年にクレモンティーヌの『アン・プリヴェ~東京の休暇』に提供した「マドモアゼル・エメ」のセルフカバーを収録している。またリマスタリングは今年6月にリリースされた、松尾清憲の『Young and Innocent』(名作!)のサウンド・プロデュースを務め、マスタリング・エンジニアとしても、目下売れっ子のmicrostarの佐藤清喜が担当し、CD化の音質向上も計られていて信頼度も高い。
 筆者がこれまでに弊サイトで紹介済みの『ローマでチャオ/ヘンな女の子』、『素直な悪女/ラ・ブーム ~だってMY BOOM IS ME~』、『Fantastic Girl/Der Computer Nr.3』は、当時の記事を読んで頂くとして、ここからは、フォース・シングル『ミツバチのささやき/ロマンス』収録曲と、新曲2曲について紹介していく。 

★『ローマでチャオ』(短冊CD盤)>レビューはこちら

『素直な悪女』+『Fantastic Girl』>レビューはこちら

 
  冒頭のタイトル曲「It Girls」は、前出の通り、サリー作の書き下ろしの新曲インストで、ボサノヴァのリズムにフルートと男女のスキャットがリードする。イタリア映画サウンドトラックの巨匠ピエロ・ピッチオーニの『I Giovani Tigre』(1968年)、イギリスのジャズ・ピアニスト、ロジャー・ウェッブがライブラリー・ミュージック・レーベルDe Wolfe Musicに残した『Vocal Patterns』(1970年)に通じる、愛らしく風通しの良いノベルティ・ミュージックだ。

 「マドモアゼル・エメ」は高浪の曲にクレモンティーヌ自身とエンジニアの青柳延幸が作詞をしていて、オリジナル・アレンジでは打ち込みのドラムトラックとシンセ・ベース、アコースティックギターのアルペジオによるリズムセクションに、ブルースハープとスライドギター、口笛が絡むという1992年当時でも斬新な編成だった。
 ここでのセルフカバーは、よりタイム感を緩くしてハース・マルティネスの「Altogether Alone」(『Hirth From Earth』収録/1975年)に近い変則ボサノヴァのリズムで高浪が歌唱する。ホールトーン・スケールのイントロやノベルティな男女コーラスをはじめ、キーボード類の音色やエフェクト処理により、ソフトサイケでマジカルな音像となった。その曲調からセルジュ・ゲンスブール・ミーツ・ハースというべき唯一無二なサウンドに仕上がっていて、筆者としても非常に好みである。

『ミツバチのささやき/ロマンス』

 フォース・シングルのタイトル曲「ミツバチのささやき」は、まずその題にヨーロッパ映画マニアは強く反応するだろう。名匠ビクトル・エリセの1973年監督作スペイン映画で、主演の少女アナを演じたアナ・トレント(Ana Torrent)による、5歳とは思えない存在感に圧倒される。日本では後の1985年に初公開後、拘りを持つ映画マニアに絶賛された、知る人ぞ知る作品なのだ。因みにアメリカのカルト・ロードムービー『Stranger Than Paradise』(1984年)、『Down by Law』(1986年)などで知られる、ジム・ジャームッシュ監督もフェイヴァリット映画に挙げており、アナに求婚したいとまで言わしめた映画と説明すれば、その素晴らしさを理解してくれるだろう。
 余談が長くなったが、この曲は高浪の作曲とWMSの準メンバーでmicrostarの飯泉裕子による作詞で、アレンジはWMSと岡田ユミが担当している。ゲスト・ボーカルにはアイドル・グループさくら学院(所属期間:2018年~2021年)出身で、2023年からはLIT MOONのメンバーとして活動している白鳥沙南を迎えている。
 小柄で愛らしいドール・フェイスを持つ白鳥のキャラクターを活かした歌詞と、ドリーミーな古き良きハリウッド・スタイルのコンボ編成アレンジは、弊サイトの主な読者であるソフトロック・ファンにもアピールするだろう。サリーのベースに、原"GEN"秀樹のドラムとノーナ・リーヴスの奥田健介のエレキギターのリズムセクションを基本として、アレンジャーの岡田がキーボード類と上物を被せたサウンドは、各自の巧みな演奏もさることながら、楽し気なこの曲の雰囲気をうまく演出して、プリティな声質の白鳥と高浪のデュエットを引き立てている。

 7インチでは「ミツバチ・・」のカップリング曲で、本作『It Girls』のラスト曲となるのは「ロマンス」のカバー曲で、オリジナルはトーレ・ヨハンソン(Tore Johansson)がアレンジとプロデュースを手掛けた、原田知世の1997年リリースの20thシングルだ。
 原田自身の作詞に、作曲はヨハンソンが手掛けたスウェーデンのバンド”Freewheel”のウルフ・トゥレッソン(Ulf Turesson)によるものだ。ヨハンソンはThe Cardigansを中心に1990年代中期に日本でも渋谷系の文脈で注目された、スウェーデン・ポップ・バンドを多く手掛けたことで音楽マニアにも広く知られていた。原田もこの曲が収録された『I Could Be Free』(1997年)と前年の『Clover』(1996年)の5曲、翌年の『Blue Orange』(1998年)の3作をスウェーデンのマルメにあるTambourine Studiosでレコーディングしている。原田のオリジナルでは、このTambourineサウンドを象徴する60年代~70年代前半のメロディ重視の良質なポップスに80年代ネオアコを内包させたような、アコースティックギターのカッティングが効いた、ホーン入りのエイトビートで演奏されている。
 ここでのカバーは、なんとスカでアレンジされて、オリジナルとはカラーの異なる風合いになった。日本最初のスカバンドとされるThe SKA FLAMES(1985年~)からトロンボーンの溝呂木圭、パーカッションにはジャズ・ドラマーとしても知られる井谷享志がゲスト参加しており、このスカ・サウンドに貢献している。サリーをはじめとするWMSのリズムセクションもフレキシブルに対応しているが、特に原のドラミングは白眉で、NORTHERN BRIGHTのメンバーとして活躍してきたプレイは聴きものだ。このように疾走感のあるスカ・サウンドでカバーされたことで、マイナー・キーの原曲は白鳥と高浪の歌唱により、更に切なく耳に残るのである。

 サリー久保田と高浪慶太郎による究極のポップ・ユニット、Wink Music Servicの全貌が、正式にアルバムとしてリリースされるので、筆者の詳細レビューを読んで興味を持った音楽ファンは是非入手して聴いて欲しい。

(テキスト:ウチタカヒデ







2024年11月1日金曜日

shino kobayashi / small garden:『Mijn Nijntje(“私のナインチェ”)』


 今年2月に8年振りのアルバム『The Wind Carries Scents Of Flowers』(*blue-very label*/ blvd-043)を発表した、シンガー・ソングライターの小林しのが、同アルバムに2曲でアレンジャーとして参加したSmall Gardenの小園兼一郎とのタッグで7インチEP『Mijn Nijntje(“私のナインチェ”)』(blvd-051)を11月3日の「レコードの日」にリリースする。
 オランダ語のタイトルを持つ本作は、架空のサウンドトラックというコンセプトで『The Wind ・・・』でのコラボレーションの続編と言うべきサウンドに仕上がっている。アレンジと全演奏の他、ミックスとマスタリングも小園が担当し、アートワークはスリーヴ・デザインの岩渕あすかとジャケット・フォトのdavis k.clainという2人で、同じブルーベリー・レーベルからリリースされている、女性シンガー・ソングライターのツキトウミの諸作も手掛けている。

小林しの

Small Garden・小園兼一郎

 弊サイトでこれまでの作品を高評価していた両者のコラボは、小林のセカンド・アルバム『The Wind ・・・』収録の「5メートルの永遠」と「海の底で」でその成果を感じていたが、本作では更に深化して魅力的なサウンドに仕上がっているので、収録曲を解説していく。
 サイドA冒頭の「Garden's Gate」は、小園が作曲したスキャット入りボサノヴァ・インストルメンタルの小曲で、フルートを含め全ての演奏を小園が担当している。スキャットは二人によるもので、サウンド的には『ランプ幻想』(2008年)時のLampにも通じた独特の音像である。
 続くタイトル曲「私のナインチェ(Mijn Nijntje)」は、小林のソングライティングだが、小園のアレンジによりSmall Gardenの諸作に近く、引き算の美学で音数を整理し空間系エフェクターで処理されたサウンドは、小林のファンシーなボーカルをよく引き出して視覚的歌詞を浮かび上げている。柔らかい音色のシンセサイザーのフレーズやモジュレーション・ディレイの処理など、トーマス・ドルビーが手掛けていた頃のプリファブ・スプラウトを彷彿とさせて、好きにならずにいられない。

 
短編映画サントラ"Mijn Nijntje ~ 私のナインチェ" trailer (blvd-051) 

 サイドBの冒頭「A Tsui A-KI」(暑い秋?)は小園作のインスト小曲で、ソプラノ・サックスがリードを取り、フルートのアンサンブルにピアノとヴィブラフォン、パーカッションによる編成で演奏される。マルチ・プレイヤーである小園の才能がここでも発揮されている。
 続く「summer in blue jelly」は小林のソングライティングで、本作収録の歌物の一曲で、彼女の作風を活かすべく、ベースとドラムのリズム隊にエレキギターが入るギター・ポップ風ながら、他の楽器を加えて全体的な音像をSmall Garden印に持って行くのが小園らしさだろう。 休符を活かした表情豊かなニュアンスのソプラノ・サックスのソロ、エレキのカッティングのトリートメント、ウィンドチャイムやチャフチャスといったパーカッションまで使用しており、繊細なミックスも非常に素晴らしい。
 ラストの「Garden's Gate part 2」は、小園作のスキャット入りインストルメンタル小曲で、小林作の「Garden's Gate」の変奏曲ではない同名異曲だ。こちらはアコースティック・ピアノとエレピ、アコースティックギターだけのシンプルな演奏に、小林の一人多重スキャットが乗るミニマル・ミュージックで、後ろ髪を引かれるノスタルジーを感じさせる。
 
 全体的に小園のサウンド・プロダクションに信頼を置いている姿が、”shino kobayashi in Small Garden”といったファンタジー・ワールドを観ているようで、『The Wind ・・・』リリース時の小林へのインタビューで語っていた小園へのシンパシーを改めて感じさせた。

「小園さんの作品の優しい太陽の日差しのようなオーガニックな音作りや、反対に深夜のよ うな暗さがあるところも好きでした。 小園さんの携わる音楽の、緻密だけれど自然体で、計算されているような、されていないような、華やかなのに派手ではない不自然ではないところが好きでした。」

 数量限定の7インチEPなので、筆者の詳細レビューを読んで興味を持った音楽ファンは、リリース元レーベルのオンラインショップで予約して確実に入手しよう。

*blue-very label*オンラインショップ:


【小林しの出演イベント:11月のフィリアパーティー
〜Harmony hatch 25th anniversary〜


11月恒例のレーベルイベントです。
小林しのはファーストキャリアのバンドHarmony hatchセット。
Abebeによるユニットarchaic smileは、初期メンバーで現在は作詞家として
活動する磯谷佳江を迎えた貴重な編成。
また名古屋からthe vegetablets、山口からshinowaが東京に集結。
DJはtarai、そしてブルーベリーレーベルの出店、物販も充実です。

2024/11/17(日)
mona records
11:30 OPEN 
12:00 START
出演 :
archaic smile
(Abebe with Yoshie Isogai)
the vegetablets
shinowa
小林しの(Harmony hatch set)
DJ : tarai(hdht!)
Store : blue-very label
前売¥3000+1drink
当日¥3500+1drink

もしくは各出演者まで 。


(テキスト:ウチタカヒデ


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