2024年10月1日火曜日

MY DARLING CLEMENTINE WITH STEVE NIEVE:『カントリー・ダークネス -エルヴィス・コステロを歌う-』

 イギリスのカントリーデュオ、MY DARLING CLEMENTINE(マイ・ダーリン・クレメンタイン/以下表記MDC)が、10月末からの初来日公演ツアーを記念して、本国で発表していた『COUNTRY DARKNESS』(Fretsore Records/FR0022)にボーナストラックを追加収録して新装盤『カントリー・ダークネス -エルヴィス・コステロを歌う-』(Ca Va? Records / Hayabusa Landings / HYCA-8080)として9月25日にリリースした。

 MDCは2010年イギリスのバーミンガムで結成された、Michael Weston King(マイケル・ウェストン・キング)とLou Dolgleish(ルー・ダルグリーシュ)の夫妻によるデュオで、タイトルをご覧の通り、本作はイギリスが生んだ偉大なシンガー・ソングライターの一人、Elvis Costello(エルヴィス・コステロ)の楽曲を独自のカントリー・サウンドでアレンジしたカバー集なのだ。そもそもは2019年10月に4曲入り12インチ・アナログEPシリーズとして発表された『Country Darkness Vol.1』(FR0010)、同Vol.2(2020年6月/ FR0016)、Vol.3(2020年10月/FR0021)の計3枚の12曲に1曲プラスしてCDアルバム化したのが、前出の『COUNTRY DARKNESS』である。
 この諸作にはコステロの活動初期からの盟友で、ザ・アトラクションズのメンバーとして知られるSteve Nieve(スティーヴ・ナイーヴ)がキーボーディストとして参加し、アルバム化の際は共同プロデューサーとして彼らをバックアップしており大注目であろう。
 他の参加ミュージシャンとして、この『COUNTRY DARKNESS』シリーズの共同プロデューサーのColin Elliot(コリン・エリオット)はベースの他、ストリングスやホーンのアレンジを担当しており、ネオジャイヴ・バンド”King Pleasure And The Biscuit Boys”のメンバーでドラマーのDean Beresford、ギターをはじめ各種弦楽器をセッション・ギタリストのShez Sheridanがプレイしている。
 繰り返しになるが、今回の日本新装盤ではボーナストラック3曲を追加した全16曲を収録しているので、オリジナルを輸入盤で所有して聴いていたファンにも強くアピールするだろう。


 MDCのプロフィールについては、本作のブックレット(岡村詩野氏執筆)に詳しいので、弊サイトでは簡単に紹介する。彼らはこれまでに6枚のアルバム(10インチEP含む)を発表した後、2020年に『COUNTRY DARKNESS』をリリースしており、マイケル・ウェストン・キングとルー・ダルグリーシュは、MDC結成前からイギリスにおいて音楽的キャリアがあった。まず1961年ダービーシャー生まれのマイケルは、18歳から移り住んだリバプールのポストパンク・シーンで様々なマイナー・バンドにギタリストとして参加した後、1992年にオルタナティブ・カントリー・バンド“The Good Sons”を結成する。2001年までに4枚のオリジナル・アルバムをリリースしたが解散してしまう。ソロのシンガー・ソングライターとなったマイケルは、ヨーロッパやアメリカの大都市でのライヴ演奏をしたものを含め、9枚のオリジナル・アルバムと2枚のコンピレーション・アルバムをリリースしている。妻のルー・ダルグリーシュもシンガー・ソングライターとして1995年から99年までに4枚のソロアルバムを発表しており、確かなキャリアを歩んでいた。

 
Either Side of the Same Town (feat. Steve Nieve) 

 ここからは、本作で筆者が気になった収録曲を解説していく。
 冒頭の「Either Side of the Same Town」は、Elvis Costello & The Imposters名義の『The Delivery Man』(2004年)に収録されていたスケールの大きいバラードで、作曲はローリング・ストーンズのカバーで知られる「Time Is on My Side」(1963年/初演:Kai Winding)の作者として知られるジェリー・ラゴヴォイだ。オリジナルでもアコースティック・ピアノとハモンド・オルガンを弾いていたスティーヴのゴスペル・ライクなプレイが光る。マイケルとルーはヴァース毎に歌い分け、サビでデュエットを取っている。それぞれ個性的な声質ではないが、2人の声がブレンドして生み出されるマジックがMDCの最大の魅力だろう。

 筆者はリアルタイムでは、『Imperial Bedroom』(1982年)から『Brutal Youth』(1994年)までのコステロのソロ作品を特に愛聴していたので、この時期の楽曲カバーには強く反応してしまうが、The Costello Show Featuring The Attractions名義の『King Of America』(1986年)から「I'll Wear It Proudly」と「Indoor Fireworks」の2曲取り上げられている。ボブ・ディランのRolling Thunder Revue(1975~1976年)のツアー・メンバーだったT Bone Burnett (Tボーン・バーネット)と共同プロデュースしてロスアンゼルスでレコーディングされ、アメリカン・ルーツ・ミュージックに最接近したこのアルバムは、リリース時に音楽ジャーナリストから賛否両論があったが、この問題作から2曲もチョイスしているのはマイケルとルーの強い拘りを感じさせる。
 前者はコステロが当時交際していたCait O'Riordan(ケイト・オリオーダン/The Poguesの元ベーシスト)に贈ったとされるラヴソングで、ここではオリジナルと異なる全編アコースティックギターのアルペジオで歌われるので、2人の歌唱と共に繊細な歌詞もビビッドに浮き上がっている。
 後者はルーがソロアルバム『Calmer』(1999年)でアコギのバックだけで取り上げており、彼女にとって思い入れのある曲なのだろう。ここではルーが自ら弾くピアノだけをバックにマイケルとヴァース毎に歌い分けており、限りない愛を感じさせる。この曲はコステロをフックアップした兄貴分で、シンガー・ソングライター兼プロデューサーのNick Lowe(ニック・ロウ)も『The Rose of England』(1985年)でいち早く取り上げており、この曲が持つ原石の輝きを見抜いていたのだ。

  『King Of America』/『The Rose of England』


 本作がカバー集として優れているのはコステロが本人名義で発表した曲だけはなく、コラボレーションした曲も含まれている点だ。ポール・マッカートニーの『Flowers In The Dirt』(1989年)でポールとコステロは4曲を共作しているが、最もアメリカン・ルーツ・ミュージック然とした「Different Finger」を選んでいるのはさすがである。
 オリジナルは同時期コステロがリリースした『Spike』(1989年)や前出の『King Of America』、『Mighty Like A Rose』(1991年)にも参加した、鬼才キーボーディストでプロデューサーでも成功していたMitchell Froom(ミッチェル・フルーム)のカラーが強く出たサウンドだった。ここではコリンの奇をてらわない的確なホーン・アレンジをはじめ、スティーヴの豊かなピアノ、Shezのドブロ・ギターが有機的に絡んでおり、本来この曲が持つ、The Bandに通じる理想的サウンドに仕上がったのではないだろうか。


 この新装盤製作時期の関係で、ボーナストラックについてはブックレットで触れられていないで、こちらで解説しておく。 
 3曲の内2曲はライヴ音源で、「April 5th」は、2008年アメリカのカントリー・シンガー・ソングライター達とのコラボレーション曲で、Johnny Cashの娘、Rosanne Cash(ロザンヌ・キャッシュ)、Kris Kristofferson(クリス・クリストファーソン)やJohn Leventhal(ジョン・レヴェンソール)との共作曲だ。後の2015年にコステロの自伝本『Unfaithful Music & Disappearing Ink』出版時に同時企画でリリースされたコンピレーション・アルバム『Unfaithful Music & Soundtrack Album』に収録されている。本作でのカバーは、2022年7月9日リバプールのSt. Michael's In The Hamletでの演奏と思われるが、マイケルとルーに、スティーヴがピアノでサポートしている。
 続く「I’m Your Toy」は、コステロのカントリー・カバーアルバム『Almost Blue』(1981年)に収録されており、オリジナルはThe Flying Burrito Brothers の『The Gilded Palace of Sin』(1969年)に収録された「Hot Burrito #1」が原曲だ。The Byrdsを脱退して同バンドを結成したGram Parsons(グラム・パーソンズ)と、同僚のベーシストChris Ethridge(クリス・エスリッジ)の共作で、コステロは『Almost Blue』の翌年にライヴ・ヴァージョンをシングルでもリリースしていた。本作のカバー音源は、その残響から前曲とは異なる狭い空間(カフェか?)での演奏ではないだろうか。マイケルとルーの2人だけのシンプルな演奏と歌唱である。

 
The Crooked Line (feat. Steve Nieve)
※ノーマル・ヴァージョン 

 もう1曲は、本作5曲目に収録された「Crooked Line」のリミックス・ヴァージョンだ。オリジナルは『Secret, Profane & Sugarcane』(2009年)収録で、グラム・パーソンズとの共演でも知られるカントリー・シンガー・ソングライターのEmmylou Harris(エミルー・ハリス)がゲストで参加し、コステロとデュエットしている。
 本作ではBPMをアップしてスティーヴのコンボ・オルガンをフューチャーした軽快なアレンジで高揚感がある。リミックス・ヴァージョンでは同じ3分25秒の尺だが、Shezの複数のエレキギターが大きくミックスされており、ダイナミックなサウンドに仕上がっているので、カントリー・ロック好きにはこちらが好まれそうだ。


 最後にMDCの来日公演ツアーについて紹介する。70年代後半日本国内では一部の音楽ファンにしか知名度が無かったトム・ウェイツやエルヴィス・コステロを。いち早く日本に招聘したプロモーター会社Tom’s Cabin(トムス・キャビン)。同代表で伝説のカレッジ・フォーク・グループ ”モダン・フォーク・カルテット” のメンバーとしても知られる麻田浩氏が、今回も尽力したという
 これは今年4月にエルヴィス・コステロとスティーヴ・ナイーヴがデュオで来日公演(※注釈)した際、スティーヴからMDCの来日について相談があり、麻田氏率いるThe flying Dumpling Brothersが全公演のバックバッドを務めることで可能になり、この来日公演ツアーが実現したのだ。
 本作『カントリー・ダークネス -エルヴィス・コステロを歌う-』のレビューを読んで興味を持った音楽ファンは、この来日公演ツアーにも是非参加して欲しい。

【MY DARLING CLEMENTINE●公演日程】 

10/28 大阪クアトロ
10/29 金沢もっきりや
10/30 名古屋TOKUZO
10/31 横浜サムズアップ
11/02 北海道鶴居村ヒッコリーウインド
 
INFORMATION
Tom’s Cabin


【参考元サイト】
●The Elvis Costello Wiki

※筆者は4月12日の追加公演に参加。
終演後『This Year's Model』(1978年)CDのインナースリーヴに
コステロとスティーヴからサインを入手した。
その際1999年2人の来日公演時もらったサイン入りのパンフレットを
コステロに見せると、嬉々としてその上からサインをしてくれたのだ。

(テキスト:ウチタカヒデ







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