リリース元は中塚武やArgyle、Francisの7インチ諸作で知られるグルーヴあんちゃんが主催するunchantable recoerdsだ。
両曲共にプロデュースとアレンジはカンバスの小川タカシが担当し、ギターとプログラミングなど演奏面でも中心となっている。配信時からのジャケットは、Special Favorite Musicの『World’s Magic』(2017年)や、多くの書籍装丁でも知られるイラストレーターの高橋由季とデザイナーのカヤヒロヤのデザインユニット”コニコ”が手掛けている。
hashimotoのプロフィールに触れるが、神奈川県小田原市出身で渋谷系音楽や60ʻsファッションをこよなく愛すシンガーソングライターで、作詞家、作曲家、コラムニストとしても活動している。YAMAHAが主催する音楽サイトの楽曲コンテストで1位を獲得したことをきっかけとして2007年にメジャーデビューする。同年YAMAHA×SwitchStyleのカバー・コンピレーション・アルバム『あの日にかえりたい I want to return on that day』に原田真二の「キャンディ」を提供し好評を得ていて、これまでにオリジナル・アルバム3枚とシングル6曲を配信リリースしている。現在では企業CMやアイドルへの楽曲提供もおこなっており、ラジオ・パーソナリティーとして自身の冠番組「EmiLyのおしゃれフリーク」を全国36局のコミュニティFMで放送中である。
タイトル曲「愛の雨粒」は、hashimotoのソングライティングで、アレンジは小川が担当している。今回のヴァージョンではオリジナルからイントロ冒頭の弾き語りのパートがカットされて、ドラムから始まるが基本アレンジは同じである。小川はギターの他、各種鍵盤とドラムのプログラミング、コーラスも担当している。ベースにはカンバスで小川の元同僚だった菱川浩太郎が担当し、2コースのバースで入る天気予報のアナウンスではその声を披露している。
アレンジのポイントになっているのは、最低限の音数ながら印象的なシンセサイザーのリフや木管系(フルート)の音とヴォイスを混ぜた浮遊感あるパッドと、パターンの異なるコーラスが複数ダビングされている点だろう。
hashimotoのスウィートで特徴ある声質をバックアップさせるサウンドが構築され、ポップスとして完成されているのは、小川によって丁寧に掬い上げられたアレンジの効果であるのは間違いない。筆者も音源を入手した7月から幾度もリピートして聴き込んでしまったほどだ。
愛の雨粒 / EmiLy Hashimoto MV
カップリングの「流れ星ビバップ」は、ご存知の読者も多いと思うが、小沢健二の1995年12月のシングル『痛快ウキウキ通り』のカップリングとしてリリースされ、2003年2月のベストアルバム『刹那』に収録された際「流星ビバップ」に改名された。このオリジナルは東京スカパラダイスオーケストラのメンバーが演奏に参加し、沖祐市のハモンドオルガンがフューチャーされたドラムレスのゴスペル・フォークだった。同バンドの名ドラマーの青木達之はタンバリンなどパーカッションを担当し、ホーンセクションのメンバー加えた5名でコーラス(コールアンドレスポンス)もやっていた。
『痛快ウキウキ通り』/ 小沢健二
(Eastworld/TODT-3631)
ここでのカバー・ヴァージョンは、小川のアレンジによりアコースティック・スウィング・スタイルで生まれ変わっている。このサウンドはアメリカン・ルーツ・ミュージックをベースにしており、ダン・ヒックスや今年リユニオンを果たした英国のフェアーグラウンド・アトラクションが特に知られるだろう。筆者はいずれの来日公演に行っているほど好きなサウンドであるが、2ビートのドラミングとウッドベースをプログラミングで再現し、チェット・アトキンスに通じるカントリー・スタイルのギター・プレイでこの曲に貢献している小川の研究心と技量には脱帽してしまった。また洒脱なピアノはジャズ・キーボーディストの植木晴彦のプレイで、hashimotoのボーカルに寄り添って引き立てている。
本作は数量限定の7インチ・シングルということなので、筆者の詳細レビューを読んで興味を持った音楽ファンや小沢健二ファンは、リンク先のレコード・ショップなどで早急に予約して確実に入手しよう。
◎ディスクユニオン予約:https://diskunion.net/jp/ct/detail/1008881472
(テキスト:ウチタカヒデ)
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