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2024年9月18日水曜日

わたくしのオフコース-4-/吉田哲人


 こんにちは、吉田哲人です。 
 去年の短冊CDの日から今年の短冊CDの日までの1年間にかけまして、ユニット(BABY JOHNSONZ)含む自身の作品をたくさん発売しました。
 短冊CD2枚CDアルバム3枚(特典CD含む)、ボーカル・アルバム(『The Summing Up』)のアナログ盤(CDと内容違い)が1枚と結構な量のリリースとなりましたが、皆さま、どれかひとつでも手に入れて頂けましたでしょうか。
 WebVANDAさんをはじめ、皆さまの応援のおかげで予想よりも売れていたり、思ってもいない方にまで作品がリーチしたりと、遅咲きである僕は本当に皆さまへの感謝の念が絶えない日々であります。
 ところがその一方で、若い頃からの悲願である自身のアルバム発売がこの歳(48歳)でやっと達成(本来なら若い頃に、出来れば遅くとも15年くらい前には達成しておきたかった)出来たからか、悲願というか執着していたモノから解放されたのもあり、今になって幼年期の終わり的なモノが始まり、これから精神的・作品的な成長をし始める気配を感じつつも、それと同時に所謂ミッドライフクライシスでしょうか、上手く言えないのですが年齢から来るそういったモノに襲われ、人生の点検を始めてしまい、前向きと後ろ向きな気持ちの両方が混在する、精神的にバランスを大きく崩して如何ともし難い、一向に埒が明かない日々が続いてしまっております。
 僕のような生き方をしてる方が他に見当たらない(大概の方は若いうちにアルバムを出していたりする)のもあり、アドバイスのもらい様も無く、ただただ困惑し悶々とする日々ですが、それも含めて僕しか経験出来ない人生を歩んでいると思えば、少しは気が楽になる、ような気もしております。
 ただ、めちゃくちゃしんどいっていうのが正直なところですが…。
 そんな事情もあってか暫くオフコースを聴いていなかったのですが、最近、ふとした拍子に「NEXTのテーマ」が聴きたくなり再生したところ、あまりの素晴らしさに思わず涙ぐんでしまいました。
オフコース万歳!


 さて、今回は『SONG IS LOVE』です。

 オフコースのレコードの謎に関しては、前回の『ワインの匂い』が見た目(帯)にも音的(マトリクス)にも分かりやすく、本連載の話題的にはピークだったのですが、実は、いくら探しても一向に答えどころかヒントも見つからない、連載の動機である「答えが知りたい」の、最たるものが実はこのアルバムなのです。

「マトリクス1Sの『SONG IS LOVE』をどなたかお持ちではないですか?」

 はい、このアルバムの1Sの存在が知りたいのです。本当に出会わない。最低限、僕は一回も見た事がないです。結構な量を購入したり、何枚もお店で検盤したりしてみたのですが「1S」や、「1S2」等の”1S”に準ずるモノを僕は一度も手に入れたことが無いのです。全て「2S」か、それ以降のマトリクスでした。 
 何故こんなにも出会わないのだろう?ひょっとして「1S」って市販されてない?

 「これはサンプル盤を手に入れなくては答えが出ない…。」

 そう考えたまでは良かったのですが、中々の入手困難アイテムでして、手に入れるのに時間が掛かりました。まあ、手に入れたから連載を開始したのも実はあるのですが…。

答えは『2S/2S』でした。
 

 Oh…。

 愕然としました。確定ではないものの「1S(および準ずるモノ)」は市販されていない可能性が高いと思われるからです。そりゃあ、何枚見ても「1S」に出会わないはずだわ…。
 でも、そうなると疑問がまた湧きます。
 「1S(および準ずるモノ)」は存在すらしないのか、テストプレスでは「1S」は存在したのか。
 そして、あくまで可能性が高いということからの疑問ですが、何故「1S(および準ずるモノ)」は世に出なかったのか。

これらの答えをご存知の方、若しくは、マトリクス1Sの『SONG IS LOVE』をお持ちの方からの連絡をお待ちしております。 

 さて、4回にわたって書かせてもらいました「わたくしのオフコース」ですが、
 
 今回で最終回です。
 えええええええええ~~~?! 

 レア・アイテムは他にもあるのですが、その辺は存在自体は有名ですので連載の趣旨からは離れてしまいますから触れませんが、とはいえ『ANTHOLOGY』(PRT-8085)収録の「CMメドレー」なんかは機会があればぜひ聴いて頂きたいですね。めっちゃ凄いですよ。



 という事で、最後に1番反響がありました、
 『ワインの匂い』の追加情報です。
 連載を読んでくださった方からいただいた情報によりますと、 
・ラベルの違いが確認出来るので、幾つかのプレス工場で生産されたのは間違いない(と思われる)。
・サンプル盤も円周キズがあり、針飛びする。

 これらが分かったのは本当に嬉しいです。ありがとうございました。ファン同士で共有して解ることはこれ以上は難しいのではないかと思われます。あとはもう、関係者からのタレコミや第一級の内部資料が出てくる以外、分かりようがないでしょうし。おかげさまで僕の『ワインの匂い』の探究の旅は終了です。

 話は変わって。

 最近、Prophet-10(Prophet-5 rev4の10声version)を手に入れました。当時の機材ではなく現行モデルなのですが、それでもオフコースが、特に小田和正さんはどのようにアレンジを考え、どの様に演奏したかを想像する、または、弾いて聴いて体感するには十分過ぎる楽器です。ソフトシンセでは分からなかったことが沢山ありました。

 レコードの情報もこれからもまだまだ探究していきますが、今後はサウンドの面も研究していきたいと思っております。それらが自分の作品に反映されるかどうかは、また別のお話ですが。  これまで読んでくださった皆様、オフコースのレコード盤について書かせてくださったWebVANDAさん、ありがとうございました。WebVANDAさんの方ではまた別の機会に書くこともあるでしょうから、またその日まで皆様どうぞお元気で。 

吉田哲人

p.s. 

原稿を書いておりましたら『Kazumasa Oda Original Album Analog Complete Box』が届きました(本日がフラゲ日)。明日からどっぷり浸かろうと思います。





吉田哲人プロフィール
作編曲家。 代表作『チームしゃちほこ/いいくらし』『WHY@DOLL / 菫アイオライト』等。自身もシンガー・ソングライターとしての1stアルバム『The Summing Up』、テクノ/アンビエント系楽曲アーカイブ集『The World Won’t Listen』を2023年11月に同時発売。

(テキスト:吉田哲人/編集:ウチタカヒデ

2024年9月4日水曜日

emily hashimoto:『愛の雨粒 / 流れ星ビバップ』


 シンガーソングライター(以下SSW)のemily hashimoto(橋本絵美利)が、2018年に配信でリリースしていたシングル「愛の雨粒」を7インチ・アナログ盤(unchantable recoerds / UCT057)で9月11日にリリースする。カップリングには彼女がリスペクトしている、カリスマSSWの小沢健二の「流れ星ビバップ」のカバー収録ということで話題になるだろう。
 リリース元は中塚武ArgyleFrancisの7インチ諸作で知られるグルーヴあんちゃんが主催するunchantable recoerdsだ。

 両曲共にプロデュースとアレンジはカンバスの小川タカシが担当し、ギターとプログラミングなど演奏面でも中心となっている。配信時からのジャケットは、Special Favorite Musicの『World’s Magic』(2017年)や、多くの書籍装丁でも知られるイラストレーターの高橋由季とデザイナーのカヤヒロヤのデザインユニット”コニコ”が手掛けている。
 hashimotoのプロフィールに触れるが、神奈川県小田原市出身で渋谷系音楽や60ʻsファッションをこよなく愛すシンガーソングライターで、作詞家、作曲家、コラムニストとしても活動している。YAMAHAが主催する音楽サイトの楽曲コンテストで1位を獲得したことをきっかけとして2007年にメジャーデビューする。同年YAMAHA×SwitchStyleのカバー・コンピレーション・アルバム『あの日にかえりたい I want to return on that day』に原田真二の「キャンディ」を提供し好評を得ていて、これまでにオリジナル・アルバム3枚とシングル6曲を配信リリースしている。現在では企業CMやアイドルへの楽曲提供もおこなっており、ラジオ・パーソナリティーとして自身の冠番組「EmiLyのおしゃれフリーク」を全国36局のコミュニティFMで放送中である。


 ここでは筆者による収録曲の詳細な解説をしていく。 
 タイトル曲「愛の雨粒」は、hashimotoのソングライティングで、アレンジは小川が担当している。今回のヴァージョンではオリジナルからイントロ冒頭の弾き語りのパートがカットされて、ドラムから始まるが基本アレンジは同じである。小川はギターの他、各種鍵盤とドラムのプログラミング、コーラスも担当している。ベースにはカンバスで小川の元同僚だった菱川浩太郎が担当し、2コースのバースで入る天気予報のアナウンスではその声を披露している。
 アレンジのポイントになっているのは、最低限の音数ながら印象的なシンセサイザーのリフや木管系(フルート)の音とヴォイスを混ぜた浮遊感あるパッドと、パターンの異なるコーラスが複数ダビングされている点だろう。
 hashimotoのスウィートで特徴ある声質をバックアップさせるサウンドが構築され、ポップスとして完成されているのは、小川によって丁寧に掬い上げられたアレンジの効果であるのは間違いない。筆者も音源を入手した7月から幾度もリピートして聴き込んでしまったほどだ。

 
愛の雨粒 / EmiLy Hashimoto MV 

 
 カップリングの「流れ星ビバップ」は、ご存知の読者も多いと思うが、小沢健二の1995年12月のシングル『痛快ウキウキ通り』のカップリングとしてリリースされ、2003年2月のベストアルバム『刹那』に収録された際「流星ビバップ」に改名された。このオリジナルは東京スカパラダイスオーケストラのメンバーが演奏に参加し、沖祐市のハモンドオルガンがフューチャーされたドラムレスのゴスペル・フォークだった。同バンドの名ドラマーの青木達之はタンバリンなどパーカッションを担当し、ホーンセクションのメンバー加えた5名でコーラス(コールアンドレスポンス)もやっていた。

『痛快ウキウキ通り』/ 小沢健二
(Eastworld/TODT-3631)

 ここでのカバー・ヴァージョンは、小川のアレンジによりアコースティック・スウィング・スタイルで生まれ変わっている。このサウンドはアメリカン・ルーツ・ミュージックをベースにしており、ダン・ヒックスや今年リユニオンを果たした英国のフェアーグラウンド・アトラクションが特に知られるだろう。筆者はいずれの来日公演に行っているほど好きなサウンドであるが、2ビートのドラミングとウッドベースをプログラミングで再現し、チェット・アトキンスに通じるカントリー・スタイルのギター・プレイでこの曲に貢献している小川の研究心と技量には脱帽してしまった。また洒脱なピアノはジャズ・キーボーディストの植木晴彦のプレイで、hashimotoのボーカルに寄り添って引き立てている。

 本作は数量限定の7インチ・シングルということなので、筆者の詳細レビューを読んで興味を持った音楽ファンや小沢健二ファンは、リンク先のレコード・ショップなどで早急に予約して確実に入手しよう。


◎ディスクユニオン予約:https://diskunion.net/jp/ct/detail/1008881472

(テキスト:ウチタカヒデ