7月20日に『Perfect Sense』を発売して、1ヶ月も経たない内に立て続けにアルバム・リリースというのは極めて異例だが、メンバーのNao☆、Megu、Kaedeの3人が2019年から21年までに既婚者となり、翌年には全員が第一子の出産を経験したという、現役アイドルとしては稀な経験を経てリリースされたフルアルバムの意義は大きい。
本作には既出シングルの「I LOVE YOUR LOVE」(西寺郷太作/2019年9月)、「午前0時のシンパシー」(一十三十一作/2020年8月)、配信限定シングルで、恒例イベント・テーマ曲の続編「私をネギーに連れてってII」(connie作/2023年12月)を収録している。
またその他の楽曲提供者では、Nao☆のソロ曲で「悠久の星」を提供した関西在住の若手バンドNagakumo、Negiccoへは初の楽曲提供となるノンブラリや阿佐ヶ谷ロマンティクス、シンガー・ソングライター(以降SSW)の辻林美穂などが参加して、各々多彩なソングライティングで新たなNegiccoサウンドに貢献している。なお収録曲の内プロデューサーのconnie作「あなたとNegi With You!」は、7インチ・シングルとして7月27日に一部店舗とオンライン限定で緊急で先行リリースされ話題になった。また本作『What A Wonderful World』のジャケットやブックレットのデザインは、これまでとは異なるネイチャー・フォトグラフを基調としているのも新生Negiccoを現わしている。
冒頭の「まるばつさんかくしかくとわたし」は、2010年に東京で結成された4人組バンド、ノンブラリのボーカル兼キーボーディストの山本きゅーりのソングライティングで、アレンジと演奏はバンドによるものだ。70年代アメリカンロックをルーツしたゆるいエイトビートの曲調は、日常のささやかな幸せを綴った歌詞とマッチしており、Negiccoの各メンバーがソロと3人全員でパート毎に歌い分けていてボーカル・アレンジ的にも工夫されている。
続く「I LOVE YOUR LOVE」は、結成29年になるメジャー・バンド、NONA REEVES(ノーナ・リーヴス)のボーカルでフロントマンの西寺郷太が2019年に提供したダンス・ナンバーで、同バンドのギタリスト奥田健介と共同でアレンジし、演奏にはドラマーの小松シゲルも加わりノーナの3名がそろい踏みしている。これまでNegiccには「愛のタワー・オブ・ラヴ」(2013年)を皮切りに、そのキャリア上重要な楽曲を提供している西寺だが、日本国内ではマイケル・ジャクソン研究家として広く知られており、その曲調はブラック・ミュージックの影響がかなり濃い。この曲では筒美京平氏のセンスもあり、少年隊に提供した某ヒット曲を彷彿とさせていて、京平マニアはチェックすべき曲である。また2コーラス目のファースト・バースの歌詞には「君の瞳は フランキー・ヴァリばり」というラインがあり、弊サイト管理人としては触れない訳にはいかないのだが、サビのコーラスには同曲からの影響がしっかり聴ける。
前文通り、関西在住のネオネオアコ・バンドで昨年管理人が『JUNE e.p.』を紹介しプッシュした、Nagakumoのオオニシレイジも本作に「眩しくて可愛い!」を提供し、アレンジと演奏にはベースのオオムラテッペイ、ドラムのホウダソウが参加している。Negiccoメンバーの声質に対しNagakumoサウンドは違和感がなく、特にNao☆はボーカリストとして同バンドのボーカリスト、コモノサヤのキャラクターに近いのかも知れない。オオニシはギター以外にプログラミングから、ウィッスルやグロッケンまでプレイしている。
「午前0時のシンパシー」、同曲12インチ、
「私をネギーに連れてってII」
新潟のご当地アイドル・ユニットだったNegiccoの音楽性を高め、全国規模の知名度に押し上げた功労者でプロデューサーのconnieは、本作では4曲(内1曲はリプライズ)を担当しており、昨年12月に配信限定でリリース済みなのは「私をネギーに連れてってII」である。ウインター・シーズンに苗場プリンスホテルで開催されるイベントのテーマ曲で、21thシングル『愛、かましたいの』(2016年12月)のカップリングとして発表された「私をネギーに連れてって」とは詞曲共に異曲であるが、いずれもスキーなどウインター・スポーツで苗場を訪れる若者達の恋愛模様を綴ったラヴソングである。この曲ではテンポを上げた四つ打ちのキックが効いたテクノ系サウンドが特徴となり、「私をネギーに連れてって」よりスポーティーで人気が出るかも知れない。
一転してクールな「午前0時のシンパシー」は、RYUSENKEI(旧:流線形)のクニモンド瀧口とのコラボレーションでも知られる、R&B系女性SSWの一十三十一(ヒトミトイ)の2020年の提供曲で、作曲にはトラックメイカーで音楽プロデューサーのPARKGOLFが協力しアレンジと全てのプログラミングも彼が掛けている。4年前の曲であるが、リズム・トラックやストリング・シンセのピッツィカート、シーケンス・トーンなど色褪せないサウンドになっており、艶のあるコケティッシュな声質とメロウ・サウンドで人気の高い一十三のセンスが注入された、ナイト・ドライヴィング・ミュージックに仕上がっている。
再びconnie作の「終わらないGood Times」は、本作のために書き下ろされた新曲で、彼が得意とするR&B系のダンス・ナンバーである。注目すべきはギターで弓木英梨乃が参加していることだ。彼女は2009年にSSWとしてメジャー・デビュー後、13年から20年にかけてバンド形態になったKIRINJIのギタリスト兼ボーカリストとして活動し、翌21年からはマレーシアの音楽大学に留学し23年9月に帰国していた。connieが構築したトラックにマルチ・トラックでその手練で多彩なギターを披露していて、Negiccoのボーカルをバックアップしている。
続く「ポーカーフェイス」は、東京出身の5人組バンド、阿佐ヶ谷ロマンティクスのギターの貴志朋矢とキーボーディストの堀智史によるソングライティングで、バンドで参加した他の曲同様にバンドによるヘッドアレンジと演奏でレコーディングされている。ここでのサウンドも70年代後半~80年代初期のニュー・ミュージックをルーツにして、例えばシンセサイザーのパッドのトーンが懐かしくも新しいのだ。何より彼らはシティポップ系のグルーヴ優先型より、詩情溢れる歌詞を持つ“歌”そのものを大切しているのが理解できる。Negiccoメンバーのボーカルもソロ・パートが多く、それぞれの個性の違いが聴けるので興味深い。
Negicco「Walk With」―Music Video―
「Walk With」は、女性SSWの辻林美穂のソングライティンとアレンジで、演奏にはギタリストとしてカンバスの小川タカシが参加しているのも注目である。彼女は弊サイトではお馴染みのThe Bookmarcsや青野りえ、KARIMAで知られるFLY HIGH RECORDSから2019年09月にセカンドアルバム『Ombre』をリリースしており、作編曲家としても多くのシンガーやアイドルへの楽曲提供、テレビ子供番組やアニメの劇伴も担当するなど八面六臂の活躍している。この曲では辻林自身がピアノとコーラスを担当し、サポート・ドラマーでRYUTistの『柳都芸妓』(2017年8月)にも参加した井上拓己と、ベーシストの尾崎旅人によるラテン・フィールのリズムに、小川の巧みなギター・プレイが絡んでいき、Negiccoの直向きなボーカルに多幸感をあたえたサウンドになっている。
7インチ・シングルで先行リリースされた「あなたとNegi With You!」は、connieのソングライティングとsugarbeansことキーボーディストの佐藤友亮のアレンジによるアッパーなダンス・ナンバーだ。佐藤は東京音楽大学在学中から業界仕事に多く関わり、KinKi Kids やA.B.C-Zなどのメジャー・アイドルから、カーネーションやCOUCHなど弊サイトでも高評価している、こだわり派のロックバンドのサポートでも知られ、作編曲家としても無数の作品に参加している売れっ子クリエイターである。因みに前出の弓木英梨乃がRYUTistに提供した「きっと、はじまりの季節」(2019年10月発表シングルでアルバム『ファルセット』に収録)は佐藤のアレンジである。
この曲は『ティー・フォー・スリー』(2016年5月)収録の「RELISH」や「マジックみたいなミュージック」にも通じ、connieが得意とするキャッチーで70年代ブラック・ミュージックを基にしたソングライティングが、佐藤が施したフィラデルフィア・ソウルに通じるストリングスが効いたアレンジで華麗に仕上がっている。リズムセクションのミュージシャンにはメジャー・ワークスでも活躍するドラムの岡本啓佑やベースの千ヶ崎学をはじめ、ギターの設楽博臣、パーカッションの高橋結子が参加し、佐藤自ら担当するピアノやクラヴィネットと共に隙のない演奏を繰り広げている。Negiccoのボーカルでは、キーが高いパートでNao☆が天性の“キャンディ・ボイス”を披露している。続くチルアウトな「あなたとNegi With You! (reprise) 」と共に、新生Negiccoを代表するであろうこの曲で大団円していくのが本作の完成度を高めている。
筆者のレビューを読んで興味を持った音楽ファンは、是非入手して聴いてみて欲しい。
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