2024年8月25日日曜日

音楽と脳 ① 「音楽の記憶」の不思議

 

(写真:iStock)


「ヒトはなぜ歌うのか」―― 今年のGW中に放送されたNHKのドキュメンタリー番組のタイトルです。再放送もあったので、ご覧になった方もいらっしゃると思いますが、実は、昨年夏、私個人のブログで「人はなぜ音楽が好きなんだろう」というテーマで、音楽と脳の関係について書こうとしていたのです。結果的にはA4に1枚分くらい書いただけで、放り出してしまったのですが。

ではどうして、WebVANDAに書こうとしているのか。それも音楽サイトで脳の話……? そのあたりのことを、私個人のブログにまとめてみました。長い“ひとりごと”のような感じで恐縮なのですが、よろしければ、お時間のあるときにでも、お読みいただければ……。


「音楽と脳」25年来の自分への宿題とWebVANDA、そしてちょっと言い訳(💦)(ブログ「風の通る道」by  mamaneko から)

 

「音楽と脳」について調べてみたいというのは、私にとっては25年来の「やってみたいテーマ」で、きっかけは『特命リサーチ200X』というテレビ番組。この番組でリサーチャーという仕事をしていて、脳科学が関係する企画もいくつか考えて、リサーチをしました。そのなかで、「音楽と脳」に関する企画を立ち上げたいと思ったものの、その当時は「これ!」という資料を探しあてることができなくて、よって企画にもならず……。

そして、今。自分のブログに書いたような、ちょっとトホホな成り行きではあるものの、ここにきてやっと、なんとか形にすることができそうです。

「音楽と脳」ということで、脳科学の説明も出てきますが、できるだけ楽しく、「へぇ、そうなんだね~!」と思える記事にしたいと考えています。キーワードとなるのは、記憶、進化、脳内報酬系、言語と音楽。連載としては2回か3回になる予定です。どうぞおつきあいください。

 

音楽を聴いているときの脳が、一生懸命、働いていて、ちょっとかわいい

 

たとえば、8ビートの曲を聴いているとする。

ツツ-タン ツツ-タン ツツ-タン ツツ-タン ツツ-タン ・・・

ヒトの脳には先のことを「予測」する機能が備わっていて、こうしたリズム(ビート)があると、「次も、同じ間隔で、同じツツ-タン」が来るよね、と予測する。今回参考にした番組や書籍資料によると、予測して、予測通りになると「嬉しい」と感じることが研究で確かめられているそうだ。

 

脳には「報酬系」(快楽中枢)という回路があって、それは、人が生きていく上でとても重要な部分で(人類という大きな括りで考えると、生存、種の保存という意味でも)、五感などの生存に必要なあらゆる情報が伝わる部分なのだけれど、こんなささやかなこと、リズムの予測が当たった!ということだけで、「嬉しい」なんて、なんともかわいらしい。

 

が、安定したリズムは、安心感も呼ぶが、飽きてもくる。

(※幼い頃に聴く音楽の多くは、童謡「チューリップ」のように、リズムもメロディラインも単純なものだが、成長するにつれ、聴いた音楽を予測し、喜び、学習して、それらが蓄積されてきて、次第に飽きて、より複雑な音楽を好むようになってくる。14くらいから脳のそうした部分がより活発に動くようになり、成熟していくそうだ。日本で言えば中学2年生頃からか……!)

 

普段、実際に私たちが耳にする音楽は、ずっと単調なビートが続くことはなく、たとえば、こんなふうなリズムパターンが組み合わされ、もっと複雑なビートだ。

ツツ-タン ツツ-タン ツツ-タン ツツ-ドコドコ 

のように小節の最後に異なるリズムが入ったり、

ツツ-タン ツツ-タン ツツ(空のリズムがあって)ンタン! 

と決めのリズムが入ったりする。

こんなとき脳は、「あれ?」と予測とは違うことに気がつくが、この「ちょっと裏切られた感」も、楽しいらしい。

 

この、リズムを認知したり、リズムの“欠け”に気がついたり、ということは、新生児の脳でも確認されているので(NHK「ヒトはなぜ歌うのか」で実験の様子が紹介された。4拍子の単純なリズムパターンで実験。3拍目を抜くなど)、生まれてから獲得する機能ではなくて、ヒトの脳が本来持っている機能。

音楽には、リズムに加え、メロディがあって、ジャンルや曲によっては歌詞もあり、脳はそのすべてにおいて、予測する。リズムのところで説明したような小さな予測を常に行っていて、脳内で小さな「嬉しい!」がたくさんあるのかと想像すると、なんだか微笑ましい。

ライブで、CDとは少し違うメロディラインや繰り返しのリズムがあったりすると、人は「おぉ~!」と気持ちが盛り上がったりするが、その瞬間、脳の中では、予測が裏切られた楽しさを脳内報酬系が感じているというわけだ。


メロディといえば、先日、8月17日に放送された「タモリステーション~時代を作った!昭和のCMソング50」の中で、葉加瀬太郎さんが、昭和のCMのメロディラインのことを「跳躍している」と表現していた。例として出てきたのが、「牛乳石鹸の歌」(1956年)。この歌、日本人のほとんどが歌えますよね!


ぎゅう にゅう せっけん よい    せっけん

 ド   ミ   ラ ソ   ミレ (下の)ソド


「なにもこんなに跳ねさせなくても、普通に「ドドドレ ミソソ」にしてもよかったのに、音符を跳ねさせたのは、これによってキャラクター(特色)を作るため」と解説していた。これを脳科学的に考えると、単調なメロディラインではなく、大きく上下することで、「予測」が裏切られて、次はなんの音が来るんだろう♪という楽しい予測をして、そうきたか~という「楽しさ」を感じる、ということだと思う。


ではここで、音楽を認知する脳科学的しくみを、ごく簡単に。 


これは、「音楽を聴いて、それがどんな曲かを認知する」基本の仕組みなので、ここに、「音楽を聴きながら、足でリズムを刻む」「聴いている曲に合わせて歌う」といった状況が加われば、「短期記憶」「長期記憶」も大きく関係し、「運動野」なども活性化することになり、もっと広範囲に脳を使うことになる。


 

老人福祉施設で、爆音でツェッペリン!

 

【「大音量でツェッペリンを聴く」会 老人福祉施設が開いたワケ】(「withnews」2022.09.02)という記事を知ったのは約2年前。記事がアップされて間もない頃だった。

ちょうどこの時期、編集の仕事で、高齢者サロンに関する書籍を制作しており、著者からの原稿が届いて、あれこれと作業をするなかで、自分の勉強用にと各地の高齢者サロン、老人福祉施設の取り組み等を検索していたときのこと。

タイトル1行で、たちまち惹きつけられて記事を読み、驚き、おぉ~、これは画期的だ、これからこういうの、大事だよー、うちの近くにもこういうセンターがあったらいいのにー♪  とテンションがあがったことをよく覚えている。

開催したのは、神奈川県横浜市にある「老人福祉センター横浜市戸塚柏桜(はくおう)荘」。

withnews」のこの記事で紹介されているのは、センターによる事業「No Music No Life」。開催日は20228月6日(土)7日(土)*この事業は現在も続いていて(素敵!)毎月第一土曜日の午後開催。参加できるのは、横浜市内に住む60歳以上の人、とある。

……思わず、横浜市に引っ越したくなった()

 

老人福祉センターらしからぬ企画に、開催前から旧twitterではツイートが相次いで、「セットリストはなんだろう」「なんの曲がかかるのか」など、話題になっていたようだ。

そして、当日明らかになったセットリストは、8月6日という開催日に合わせ、レッド・ツェッペリンが1971年に初来日し、広島で行った「愛と平和チャリティコンサート」と同じ。これは、ファンにとってはたまらないですよねー! センターの人が、当時の記録を調べて、セットしてくれたのかと思うと、グッときます。


普段、同センターの利用者は70歳以上が多いが、この“家ではとても聴けない大音量でレッド・ツェッペリンを聴く”企画に参加した多くが60代だったそうだ。

 「胸いっぱいの愛を」(1969)、「移民の歌」(1970)、「天国への階段」(1971)といったヒット曲のリリース年から考えると、中学生で初めて聴いたとしても……60代といっても60代後半の人がほとんどか? あ、でも、後追いで聴いている人もいると思うので……そうか、60代が中心というのはわかる気がする。

まさに「世代!」の企画。

また、参加者のほとんどが、この老人福祉センター横浜市戸塚柏桜荘の利用は初めてだった。老人福祉施設は基本的に60歳以上が対象だが、いまの60代には敬遠されがち(確かに私も、60歳で老人と言われると……という感じ、あります^^;)。

しかし、センターとしては、まだまだ若い60代のうちから、こういう施設の存在を知ってもらい、接点をつくってほしい、社会とのつながりが途切れないように……という意図もあったそうで、施設側の狙い通りの結果になったというわけだ。


さてそれで、なぜ、「音楽と脳」というテーマで、老人福祉センターによる事業「大音量で、みんなで、ツェッペリンを聴く」を紹介したかというと、音楽を聴いたり、歌ったりすることが、脳にとてもよいからだ。

音楽を聴くことは一般に、脳を広範囲に活性化する。同世代の音楽、好きなミュージシャンを一緒に聴き、リズムに乗ったりすることは、さらに強く脳が活動することになる。ヒトも生物だから加齢には抗えない……ショボン。でもそんな世代に差しかかる時期に、こういう催しで音楽を聴くことは、とてもよいことだと思える。仲間も増えるし。

そしてさらに、近年、音楽は脳によい……というレベルをはるかに超えて、ヒトにとって計り知れないほどの重要な役割を持っていることが、近年、わかってきている。そのひとつが……



若い頃に好きだった曲で記憶が蘇った


今年の5月2日、NHKのドキュメンタリー番組「フロンティア」で、「ヒトはなぜ歌うのか」が放送された。番組で取り上げられた事象は大きく分けて2つ。

1つは、アルツハイマー型認知症患者の、言葉と音楽と記憶の不思議

もう1つは、アフリカのカメルーン共和国やコンゴ共和国などの熱帯雨林に暮らす狩猟民族「バカ族」の、「音楽が言葉よりも大事な意味をもつ」という生活が示す深い意味について。バカ族は、1020万年前のDNA(もしくは遺伝的特徴)を色濃く残しており、近年、人類と音楽や言葉の関係、進化的意味などを探るべく、注目されているそうだ。

 (※番組のサイトはこちら。ただ、公式サイトではバカ族の話がメインで、認知症患者の話題はほとんど出ていないです。それについては今からここでまとめていきます)

  

番組で紹介されていたのは、トミーとポールという2人の男性(現在の年齢が明記されていなかったが、たぶん70歳台)。10年ほど前にアルツハイマー型認知症を発症し、発症からしばらくの間は、自分の名前も、銀行ATMのパスワードも、家族との思い出も忘れてしまって、また、周囲の人との会話も難しかったそうだ。会話には、相手の言うことを聞いて理解して、短期的に記憶して、それに対して自分の考えを話すという、複雑なしくみがある。アルツハイマー型認知症では、認知症の中でも特に「記憶」に関する部分がダメージを受けやすいという特徴があるという。

 

しかし現在、トミーとポールは、家族と普通に日常を送り、お互いの家を行き来したり、ふたりで会うときには、ポールがギターを弾いて、ふたりでビートルズを歌い、新たに歌を作ることもあるというのだ。

 

特別なことをしたわけではない。ふたりで会うときに、ビートルズの歌を一緒に歌う時間を持った、というだけ。

 

(写真:iStock)


番組のなかで、ふたりは認知症の会で出会ったというナレーションはあったが、出会った時期や、なぜ親しくなっていったのか、などの詳細が紹介されていなかった。そのため推測の域を超えないが、会の活動のなかで、ビートルズの歌を聴く機会があったか、あるいは、なにかのきっかけで仲良くなり、ポールがギターを弾きながらビートルズの歌を歌うのを聴き、トミーも自然に口ずさんだ(たぶん)……という出来事があったのだと思う。

アルツハイマー型認知症を患い、自分の名前も思い出せなくなっていたのに、若い頃に好きでよく聴いていたビートルズの歌詞とギターコードはいとも簡単に思い出した、ということだ。それも偶然ではなく、常に。

そして、ビートルズの歌やそのほか自分が好きだった歌を歌っているうちに、それに関連した記憶を思い出せるようになり、自分の名前も、家族や友人のこと、仕事のことなど、次第にさまざまな記憶も思い出し、症状もだいぶ安定した。アルツハイマー型認知症の患者であることに変わりはないようなのだが、しかし、快適に、幸せな日々を送っている。


研究者が語る。

「ポールとトミーのなかで、何か不思議なことが起きているんです。

 

「不思議なこと」とは何か。その謎を解く鍵が、「バカ族」の「音楽が言葉よりも大事な意味をもつ」という生き方にあるという。それはいったいどういうことなのか。来月、この謎を解いていきます。来月もお楽しみに……!


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

ちょっと追記

今回、記事を書くにあたり、老人福祉センター横浜市戸塚柏桜荘の現所長、金田さんに電話でお話を伺うことができた。

No Music No Life」はセンターの事業として、2022年7月に始まったもので、当時の所長が音楽好きなで、矢沢永吉のファンだったそう。60代の人にもこうした施設に馴染みをもってほしい、どうしたらよいか、と考えたときに、「音楽」に注目した背景には音楽好きな人がいたというわけだ。

センターのホームページを見てみると、「横浜ROCK会」という活動があることもわかった。

金田所長によると、これはセンターの利用者による自主サークル。「No Music No Life」の事業が始まった同じ時期に、市内のロック好きな人が集まって生まれたのだそうだ。毎月第一土曜日の午前中に開催されており、参加者はそれぞれ「思いの詰まった1曲」を選んで持ち寄り、午後に開催される「No Music No Life」同様に、自宅ではなかなか聴けないほどの爆音にして、音楽を楽しんでいるという。

センターのブログには、8月に開催されたときのリストが公開されている。おぉ、Jeff Beck Groupの「Highways」が入ってる! 70年代80年代のハードロックは名曲、名盤がたくさんあるので、みんなで集まって聴くと盛りあがるでしょうね。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

もうひとつ、追記

音楽サイトでの記事なので「音楽」に限定しているが、絵を描くことや、運動すること、映画や舞台を観ること等だって、脳内ではたくさんの場所が動き、予測して、報酬系が喜んでいる。音楽の作用とは異なる点があるかもしれないが、脳によいのは音楽だけではないと思うので、そのことも書き加えておく。

また、脳の持ち主である人間の状況も大事かも。音楽を聴くこともそうだが、好きなことを能動的に行うのは、実はわりとエネルギーのいることなので、そんな元気なーいという時や、気が向かない時は、無理せずにっていうことも、大事だと思う。

老人福祉センター横浜市戸塚柏桜荘で「爆音で音楽を聴く会」が開催されるのを知って、参加した人のように、何かがきっかけになる、ということもいいよね。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・


●参考文献

『音楽する脳 天才たちの創造性と超絶技巧の科学』大黒達也著 朝日新聞出版 2022

『音楽と人のサイエンス 音が心を動かす理由』デール・パーヴス著 小野健太郎監訳 徳永美恵訳 ニュートンプレス 2022

『脳の闇』中野信子著 新潮社 2023

『新版 音楽好きな脳 人はなぜ音楽に夢中になるのか』ダニエル・J・レヴィティン著 柏野牧夫解説 西田美緒子訳 ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス 2021

NHK フロンティア「ヒトはなぜ歌うのか」(2024年5月2日放送)

 

 

大泉洋子

フリーのライター・編集者。OLを経て1991年からフリーランス。下北沢や世田谷区のタウン誌、雑誌『アニメージュ』のライター、『特命リサーチ200X』『知ってるつもり?!』などテレビ番組のリサーチャーとして活動後、いったん休業し、2014年からライター・編集。ライター業では『よくわかる多肉植物』『美しすぎるネコ科図鑑』『樹木図鑑』など図鑑系を中心に執筆。主な編集書に『「昭和」のかたりべ 日本再建に励んだ「ものづくり」産業史』『今日、不可能でも 明日可能になる。』など。編著書に『音楽ライター下村誠アンソロジー永遠の無垢』がある。


2024年8月17日土曜日

Hully Gully 2024

 先日、夏季オリンピックが閉幕した。次回オリンピックの舞台はLos Angeles!と、なれば我らがThe Beach Boysも最後の一花を咲かせて欲しい、と期待を持ち彼の地での閉会式をTV視聴したものの、浜辺で一節「Hully Gully」でも唸ってくれるかと思えば残念ながら登場せず今回はご縁がなかったようだ。現在は民主党政権であり、Karen Bass L.A市長は民主党系であるので、なかなか出番がまわらないのが現実だ。
 Bass市長は最近Sunset Sound周辺のホームレスコミュニティを解体させ施設等へ移送させている。近年同地周辺に居着いたホームレスの振る舞いが問題となっており、一部スタジオに侵入し機材などの盗難や放火も増えていたという。ある意味The Beach Boysには「恩人」かもしれない。

                                


 The Beach Boysとオリンピックとの関係は一見すると遠いように思えるかもしれないが、実際には興味深い接点が存在する。彼らがカバーした楽曲の一つに、
The Olympicsの「Hully Gully」がある。(1965年『Beach Boys' Party!』収録)
同曲は1960年代初頭に流行したダンス・ミュージックであり、そのシンプルでリズミカルなステップは多くの若者に受け入れられた。The Olympicsというバンド名は、まさにオリンピック競技大会を連想させるものであり、この名前がつけられた背景には、競技のように活気ある音楽を提供したいという意図があったのかもしれない。
 一説によるとデビューの際同名バンドが多いのでたまたまオリンピック開催年にちなんで命名したとのこと、Brianもこの曲を好んだのかデビュー前の高校時代に校内の生徒会選挙に立候補した女生徒の応援歌を歌詞を変えて学友とカルテットのコーラスを披露したという。また、Love家でのパーティーなどで家族の前でBrian兄弟とMikeで歌う曲の定番としてしばらく「Hully Gully」を好んで取り上げていたようだ。The Olympicsは西海岸出身なのでThe Beach Boysのデビュー後共演することもあった。
 アルバム『15 Big Ones』は1976年にリリースされた。このアルバムは、バンドの結成15周年を記念したものであり、タイトルが示す通り、彼らのヒット曲15曲が収録されている。このアルバムのジャケットデザインは、特に注目に値する。ジャケットには、5つの色で構成された円形のデザインが配置されており、これがオリンピックの旗に似ていると多くの人が指摘している。指摘の通りMikeまたはDean Torrenceの発案でオリンピック開催年にちなんでデザインが決定したようだ。



 オリンピックの旗には、5つの大陸を象徴する5つの輪が描かれており、それぞれが異なる色を持っている。このデザインは、世界中の人々が一つの目標に向かって団結するというオリンピックの精神を表している。一方、『15 Big Ones』のジャケットもまた、多様な色使いが特徴であり、これがオリンピックの旗を彷彿とさせるのは偶然ではないだろう。時代の皮肉なのか?実際はこの年を起点にWilson家は不倫・薬物等中毒・死に包まれ自壊していく運命が待ち受けていた。
 1976年の夏季オリンピックは、CanadaのMontrealで開催された。この大会は、冷戦時代の真っ只中にあり、国際的な緊張が高まる中で行われた。Montrealオリンピックは、スポーツが国際政治の舞台でどのように利用され、競技が国家の威信をかけた争いとなるかを象徴するイベントであった。特に東ドイツやソビエト連邦といった共産主義国家が、オリンピックでの成功を国際的な優位性を示すための手段とし、それに対抗する形でアメリカもメダル獲得を目指した。1976年の米国では、Watergate事件による政治的な混乱が続いており、その影響は共和党にとって深刻なものであった。Nixon大統領の辞任後、Fordが大統領に昇格したが、彼の政権は共和党の再建を目指して苦戦を強いられた。Fordは、Nixonの恩赦という決定により、多くの国民からの支持を失うことになった。
 1976年の共和党予備選では、California州知事のReaganがFordに対して挑戦を仕掛けた。Reaganは、保守的な政策を強調し、小さな政府や経済的自由主義を掲げることで、多くの保守派からの支持を集めた。共和党予備選は激しい戦いとなり、最終的にFordが僅差で勝利したが、この対立は党内の亀裂を深め、共和党の将来に大きな影響を与えることとなった。Reaganの登場は、共和党が新たなリーダーシップを求める動きを象徴しており、彼の影響力は後に共和党を保守的な方向へ導く要因となった。同時に伝統的価値に忠実なMikeは共和党への傾斜が始まり(どちらかといえばBush家だが)共和党系のイベントへの出演が増えていくこととなる。

 1960年代に入ると、The Beatlesなどのアーティストが、アルバムジャケットを通じて自曲の世界観を表現し始めた。特に、彼らのアルバム『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』は、ジャケットアートが音楽の一部として評価される象徴的な作品となった。この時期から、アーティストとレコード会社の間で、アルバムジャケットに関する重要性について意識されるようになった。
 1970年代には、アルバムジャケットがアーティストのブランドとして機能し始め、ジャケットデザインが商業的成功に直結するようになった。この時期には、プログレッシブ・ロックバンドやパンクバンドが、ビジュアルアートを通じて強いメッセージを発信することが多く、アートワークが音楽のイメージを形成する重要な要素となった。
 我らがThe Beach Boysといえば、その辺りには無頓着でWarner移籍の際にもアートワークやパッケージなどのポリシーについては契約上明記していなかった。その重要性についてJan and DeanのDean Torrenceは指摘し、もっとグループのアイデンティティやメッセージを視覚に訴えるよう助言があった。Janはすでにグラフィックデザインの世界で成功しており多くのアルバムジャケットを手がけていた、Warnerでの仕事もあり信頼関係も強く、ビジュアル面についてグループ側からの関与を強化する方向性についてもWarnerを説得しやすい立場にあった。
 『15 Big Ones』のデザインでもっとも印象的なのはグループのネオンサイン調のロゴである。本作で採用以来、半世紀弱も固定して使われている。これもデザインしたJanのアイディアであるが、描いたのはJim Evansというイラストレーターである。Jimは50~60年代のサーフィン文化にインスパイアされた作風で定評がある。70年代にリリースされたSurf musicの名作V.A『Golden Summer』もJimの手によるものだ。














1962年のロゴ

1963年のロゴ

1964年のロゴ 同年でも何種類もあり以後毎年違うロゴを採用


近年はネオン調を活かしつつこちらのロゴが多用されている






(text by Akihiko Matsumoto-a.k.a MaskedFlopper)

P.S 本年初頭に申立てのあったBrianの後見については
本年5月末裁判所で許可された






2024年8月11日日曜日

The Allman Joysについて

  


 サザン・ロックの有名な兄弟、Duane AllmanとGregg Allmanがまだ10代だった頃に組んでいたバンドが Allman Joysだ。Allman Brothers Band関連の初期音源という歴史的価値に注目されることが多くその意味でも興味深いのだけれど、ひとつのガレージバンドとして魅力を感じる存在でもある。

 1965年の結成当初はThe Escortsという名前で、その後すぐにThe Allman Joysと改名された。Duane Allmanはリードギター、Gregg Allmanがオルガンとリードボーカルを担当。1966年にシングル 「Spoonful」(Dial – 45-4046) をリリースしている。Howlin' Wolf や、数ある聴き慣れた「Spoonful」とは印象が違ってファズガレージのようで、初めは同名の別曲のカバーかと思ったけれど、Willie Dixon作の「Spoonful」のカバーだ。B面曲の「You Deserve Each Other」は、このシングルのプロデューサーで、世界的ヒット曲 「Tobacco Road」の作者として知られるソングライターJohn D. Loudermilkによって書かれたもの。


You Deserve Each Other / The Allman Joys

 

 The Allman Joys名義での当時のリリースはシングル1枚のようだけれど、アルバムも録音はされていて、その音源は1971年にバイク事故で亡くなったDuane Allmanの追悼盤として、Early Allman (Featuring Duane And Gregg Allman) のタイトルで1973年になってから初リリースされた。


Early Allman(Featuring Duane And Gregg Allman)
Dial – DL-6005)

 1989年にAllman Brothers Bandの20周年を記念してリリースされたアンソロジー『Dreams』(Polydor 839-417-1)や、2013年リリースのDuane Allmanのアンソロジー『Skydog: The Duane Allman Retrospective』(Rounder Records 11661-9137-2)にもThe Allman Joysの音源が含まれていて、『Dreams』には「Spoonful」のデモバージョンが収録されている。

 1965〜66年の活動期間中、彼らはフロリダ州ペンサコーラのまだ12、13歳といった女の子たちのボーカルトリオ、The Sandpipersと出会い、そのバックバンドとしてツアーを行ったりもしていたようだ。

 そして1966年にThe Spotlightsという変名で参加した「Batman And Robin」(Smash Records – S-2020)というシングルがある。これは当時のヒーローブームに乗じたプロジェクトだったようで、もともとは1965年に、人気コミックのキャラクターが題材の「Dick Tracy」 (Liberty-55840)をJJ Cale作品としてSnuff Garrett、Leon Russell がプロデュースし制作したことがきっかけになっている。その後放送予定だったテレビシリーズ「バットマン!」の成功につながるような、アメリカンコミックを題材にしたアルバムを構想したSnuff Garrett、Leon RussellがアイデアをMercury Recordsに売り込んだことでプロジェクトがスタートしたらしい。The Allman Joysはライブの仕事を得るためにThe Spotlightsとして振る舞うのを了承しただけという話もあるようなので、実際演奏にどこまで参加していたのか定かではないのだけれど。


Batman And Robin / The Spotlights

 

 アルバムは当初、Mercury Recordsの姉妹レーベルSmash Recordsと契約したばかりだったThe Spotlightsの作品として、Smash Recordsからリリースする予定で進められていたそうだけれど、12曲録音したものの最終的にThe Spotlights作品としてリリースされたのはシングル2枚だった。残りの8曲はDesign RecordsからThe Super Dupersという名義でリリースされている。


The Superrecord Of Superheroes / The Super Dupers
(Design Records DLP-257)




【リリース】
■NEWアルバム『Back In The Pen Friend Club』をCD、配信にて発売中。

試聴トレーラー:

【ライブ】
■9/23(月・祝) ​西永福JAM『ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY』
■10/13(日・昼) 荻窪・TOP BEAT CLUB『SHE'S GOT RHYTHM!』

詳細・ご予約






2024年8月4日日曜日

Negicco:『What A Wonderful World』


 結成20周年記念ミニアルバム『Perfect Sense』(Fall Wait Records / FAWA-0020)に続き、新潟在住のアイドル・ユニットNegicco(ネギッコ)が、2018年7月の『MY COLOR』以来約6年振りとなる5thオリジナル・フルアルバム『What A Wonderful World』(Fall Wait Records / FAWA-0025)を8月14日にリリースする。
 7月20日に『Perfect Sense』を発売して、1ヶ月も経たない内に立て続けにアルバム・リリースというのは極めて異例だが、メンバーのNao☆、Megu、Kaedeの3人が2019年から21年までに既婚者となり、翌年には全員が第一子の出産を経験したという、現役アイドルとしては稀な経験を経てリリースされたフルアルバムの意義は大きい。

 本作には既出シングルの「I LOVE YOUR LOVE」(西寺郷太作/2019年9月)、「午前0時のシンパシー」(一十三十一作/2020年8月)、配信限定シングルで、恒例イベント・テーマ曲の続編「私をネギーに連れてってII」(connie作/2023年12月)を収録している。
 またその他の楽曲提供者では、Nao☆のソロ曲で「悠久の星」を提供した関西在住の若手バンドNagakumo、Negiccoへは初の楽曲提供となるノンブラリや阿佐ヶ谷ロマンティクス、シンガー・ソングライター(以降SSW)の辻林美穂などが参加して、各々多彩なソングライティングで新たなNegiccoサウンドに貢献している。なお収録曲の内プロデューサーのconnie作「あなたとNegi With You!」は、7インチ・シングルとして7月27日に一部店舗とオンライン限定で緊急で先行リリースされ話題になった。また本作『What A Wonderful World』のジャケットやブックレットのデザインは、これまでとは異なるネイチャー・フォトグラフを基調としているのも新生Negiccoを現わしている。


 ここでは筆者による収録曲の詳細解説をしていく。
 冒頭の「まるばつさんかくしかくとわたし」は、2010年に東京で結成された4人組バンド、ノンブラリのボーカル兼キーボーディストの山本きゅーりのソングライティングで、アレンジと演奏はバンドによるものだ。70年代アメリカンロックをルーツしたゆるいエイトビートの曲調は、日常のささやかな幸せを綴った歌詞とマッチしており、Negiccoの各メンバーがソロと3人全員でパート毎に歌い分けていてボーカル・アレンジ的にも工夫されている。
 続く「I LOVE YOUR LOVE」は、結成29年になるメジャー・バンド、NONA REEVES(ノーナ・リーヴス)のボーカルでフロントマンの西寺郷太が2019年に提供したダンス・ナンバーで、同バンドのギタリスト奥田健介と共同でアレンジし、演奏にはドラマーの小松シゲルも加わりノーナの3名がそろい踏みしている。これまでNegiccには「愛のタワー・オブ・ラヴ」(2013年)を皮切りに、そのキャリア上重要な楽曲を提供している西寺だが、日本国内ではマイケル・ジャクソン研究家として広く知られており、その曲調はブラック・ミュージックの影響がかなり濃い。この曲では筒美京平氏のセンスもあり、少年隊に提供した某ヒット曲を彷彿とさせていて、京平マニアはチェックすべき曲である。また2コーラス目のファースト・バースの歌詞には「君の瞳は フランキー・ヴァリばり」というラインがあり、弊サイト管理人としては触れない訳にはいかないのだが、サビのコーラスには同曲からの影響がしっかり聴ける。
 前文通り、関西在住のネオネオアコ・バンドで昨年管理人が『JUNE e.p.』を紹介しプッシュした、Nagakumoのオオニシレイジも本作に「眩しくて可愛い!」を提供し、アレンジと演奏にはベースのオオムラテッペイ、ドラムのホウダソウが参加している。Negiccoメンバーの声質に対しNagakumoサウンドは違和感がなく、特にNao☆はボーカリストとして同バンドのボーカリスト、コモノサヤのキャラクターに近いのかも知れない。オオニシはギター以外にプログラミングから、ウィッスルやグロッケンまでプレイしている。

左上から時計回りに「I LOVE YOUR LOVE」、 
「午前0時のシンパシー」、同曲12インチ、
「私をネギーに連れてってII」 

 新潟のご当地アイドル・ユニットだったNegiccoの音楽性を高め、全国規模の知名度に押し上げた功労者でプロデューサーのconnieは、本作では4曲(内1曲はリプライズ)を担当しており、昨年12月に配信限定でリリース済みなのは「私をネギーに連れてってII」である。ウインター・シーズンに苗場プリンスホテルで開催されるイベントのテーマ曲で、21thシングル『愛、かましたいの』(2016年12月)のカップリングとして発表された「私をネギーに連れてって」とは詞曲共に異曲であるが、いずれもスキーなどウインター・スポーツで苗場を訪れる若者達の恋愛模様を綴ったラヴソングである。この曲ではテンポを上げた四つ打ちのキックが効いたテクノ系サウンドが特徴となり、「私をネギーに連れてって」よりスポーティーで人気が出るかも知れない。
 一転してクールな「午前0時のシンパシー」は、RYUSENKEI(旧:流線形)のクニモンド瀧口とのコラボレーションでも知られる、R&B系女性SSWの一十三十一(ヒトミトイ)の2020年の提供曲で、作曲にはトラックメイカーで音楽プロデューサーのPARKGOLFが協力しアレンジと全てのプログラミングも彼が掛けている。4年前の曲であるが、リズム・トラックやストリング・シンセのピッツィカート、シーケンス・トーンなど色褪せないサウンドになっており、艶のあるコケティッシュな声質とメロウ・サウンドで人気の高い一十三のセンスが注入された、ナイト・ドライヴィング・ミュージックに仕上がっている。
 再びconnie作の「終わらないGood Times」は、本作のために書き下ろされた新曲で、彼が得意とするR&B系のダンス・ナンバーである。注目すべきはギターで弓木英梨乃が参加していることだ。彼女は2009年にSSWとしてメジャー・デビュー後、13年から20年にかけてバンド形態になったKIRINJIのギタリスト兼ボーカリストとして活動し、翌21年からはマレーシアの音楽大学に留学し23年9月に帰国していた。connieが構築したトラックにマルチ・トラックでその手練で多彩なギターを披露していて、Negiccoのボーカルをバックアップしている。
 続く「ポーカーフェイス」は、東京出身の5人組バンド、阿佐ヶ谷ロマンティクスのギターの貴志朋矢とキーボーディストの堀智史によるソングライティングで、バンドで参加した他の曲同様にバンドによるヘッドアレンジと演奏でレコーディングされている。ここでのサウンドも70年代後半~80年代初期のニュー・ミュージックをルーツにして、例えばシンセサイザーのパッドのトーンが懐かしくも新しいのだ。何より彼らはシティポップ系のグルーヴ優先型より、詩情溢れる歌詞を持つ“歌”そのものを大切しているのが理解できる。Negiccoメンバーのボーカルもソロ・パートが多く、それぞれの個性の違いが聴けるので興味深い。


 
Negicco「Walk With」―Music Video―

 「Walk With」は、女性SSWの辻林美穂のソングライティンとアレンジで、演奏にはギタリストとしてカンバスの小川タカシが参加しているのも注目である。彼女は弊サイトではお馴染みのThe Bookmarcs青野りえKARIMAで知られるFLY HIGH RECORDSから2019年09月にセカンドアルバム『Ombre』をリリースしており、作編曲家としても多くのシンガーやアイドルへの楽曲提供、テレビ子供番組やアニメの劇伴も担当するなど八面六臂の活躍している。この曲では辻林自身がピアノとコーラスを担当し、サポート・ドラマーでRYUTistの『柳都芸妓』(2017年8月)にも参加した井上拓己と、ベーシストの尾崎旅人によるラテン・フィールのリズムに、小川の巧みなギター・プレイが絡んでいき、Negiccoの直向きなボーカルに多幸感をあたえたサウンドになっている。


 7インチ・シングルで先行リリースされた「あなたとNegi With You!」は、connieのソングライティングとsugarbeansことキーボーディストの佐藤友亮のアレンジによるアッパーなダンス・ナンバーだ。佐藤は東京音楽大学在学中から業界仕事に多く関わり、KinKi Kids やA.B.C-Zなどのメジャー・アイドルから、カーネーションCOUCHなど弊サイトでも高評価している、こだわり派のロックバンドのサポートでも知られ、作編曲家としても無数の作品に参加している売れっ子クリエイターである。因みに前出の弓木英梨乃がRYUTistに提供した「きっと、はじまりの季節」(2019年10月発表シングルでアルバム『ファルセット』に収録)は佐藤のアレンジである。
 この曲は『ティー・フォー・スリー』(2016年5月)収録の「RELISH」や「マジックみたいなミュージック」にも通じ、connieが得意とするキャッチーで70年代ブラック・ミュージックを基にしたソングライティングが、佐藤が施したフィラデルフィア・ソウルに通じるストリングスが効いたアレンジで華麗に仕上がっている。リズムセクションのミュージシャンにはメジャー・ワークスでも活躍するドラムの岡本啓佑やベースの千ヶ崎学をはじめ、ギターの設楽博臣、パーカッションの高橋結子が参加し、佐藤自ら担当するピアノやクラヴィネットと共に隙のない演奏を繰り広げている。Negiccoのボーカルでは、キーが高いパートでNao☆が天性の“キャンディ・ボイス”を披露している。続くチルアウトな「あなたとNegi With You! (reprise) 」と共に、新生Negiccoを代表するであろうこの曲で大団円していくのが本作の完成度を高めている。 
 筆者のレビューを読んで興味を持った音楽ファンは、是非入手して聴いてみて欲しい。

(テキスト:ウチタカヒデ