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2024年7月14日日曜日

Negicco:『Perfect Sense』

 
 新潟在住のアイドル・ユニットNegicco(ネギッコ)が、結成20周年を記念し昨年7月20日に配信リリースしたミニアルバム『Perfect Sense』を、漫画家でイラストレーターの江口寿史氏が描き下ろしたイラストレーションをジャケットして、7月17日にフィジカル(Fall Wait Records / FAWA-0020)でリリースする。
 CDは全国流通し、同収録曲の7インチ・ボックスとカセットはリリース元であるFall Wait Recordsのオンラインショップと、新潟市内のNegiccoグッズショップ(EAST MOAT STREET BLUES)での限定リリースとなる。


 弊サイトでは、Negiccoのサード・アルバム『ティー・フォー・スリー』(2016年)をはじめ、リーダーであるNao☆のソロ・シングル『菜の花』(2018年)Lampの染谷大陽ウワノソラの角谷博栄が共同プロデュースしたKaedeの『秋の惑星、ハートはナイトブルー。』(2020年)をレビューしてきた。本作は結成20周年というアニバーサリーと、ジャケットのイラストレーションを江口氏が作画しており、弊VANDA監修の『The Beach Boys Complete Revised Edition』(2012年)にて、同氏のインタビューを筆者が企画、担当した縁もあり取り上げたい。 
 Negiccoのプロフィールに触れるが、2003年7月に地元・新潟県産ネギ “やわ肌ねぎ” PRのために結成されたアイドル・グループだ。所謂「ご当地アイドル」のパイオニアで、首都圏の大手事務所に所属せず、マネージャーなどスタッフを含め新潟在住を貫いた活動スタイルが特徴となっており、その人気は地元を飛び出して東京をはじめ全国各地に熱心なファンを獲得している。現在のメンバーは、Nao☆、Megu、Kaedeの3人で、結成当時から不動であり、他のアイドル・グループと比較しても活動歴が長いことで知られている。 
 その音楽性にも定評があり、やはり新潟在住で会社員兼業の音楽プロデューサーであるconnieの拘りにより、メジャーやインディーズ問わず様々なミュージシャン達に楽曲を発注しているのも人気のポイントだろう。2019年には最年長のNao☆が結婚したのを皮切りに、21年までにMegu、Kaedeの全員が既婚者となり、翌年には全員が第一子の出産を経験しているという、アイドルとしても極めて稀有な存在である。


 本作『Perfect Sense』は、前文通りNegiccoの結成20周年を記念し昨年配信リリースされていた全6曲を収録しており、2種の凝ったパッケージも含めその完成を待って今年リリースとなった。CD以外には、7インチの両面に1曲ずつ収録した3枚組ボックスと、Aサイドに4曲、Bサイドに2曲を収録したカセットテープの3種である。後者2種は数量限定であるため、コレクターズ・アイテムとなるのは必至だろう。
 そんなパッケージを飾るのは、雨上がりの歩道に反射するメンバー3人の姿をとらえた、江口氏によるひと際印象に残る、繊細なタッチのイラストだ。スカートの色やソックスの丈、スニーカー姿ということで、結成当時中高生だった彼女達を描いたという設定なのだろう。メンバーの個性から描かれた各人物達を推測するも面白いかも知れない。このように丁重な装丁で制作されているので、待ちわびたファンにとっては一層思い入れが強まったといえる。

 ここでは筆者による収録曲の解説をしていく。
 冒頭の「Make Up Promenade」は、これまでNegiccoやメンバーのソロ作で作編曲家としてレギュラー参加している、ユメトコスメの長谷泰宏が提供したインスト曲で、チェンバロやヴィブラフォン、グロッケンを配した欧州サウンドトラック風ジャズだ。彼らしい作風でミシェル・ルグランやトニー・ハッチに影響されたであろうサウンドは、弊サイト読者にもアピールする。 
 続く「お久しぶりです・お元気ですか」は、「アイドルばかり聴かないで」(フランス・ギャルの「N'ecoute Pas Les Idoles」とは同名異曲)以来10年振りとなる、小西康陽のソングライティングと編曲による提供曲で、トータル・コンプが効いたサウンドや歌詞(MVの構成についても)の所々にピチカート・ファイヴ感がセルフ・オマージュされている。この曲はメンバー全員の産休後の活動再開を祝して、昨年『Perfect Sense』の配信リリースに先立ち公開されたので、記憶に新しいファンも多いと思う。

 
Negicco「お久しぶりです・お元気ですか」 - Music Video - 


 3曲目の「Neggy‘s House」は、シンガーソングライター南葉洋平によるソロプロジェクトThe Recreations(ザ・レクリエーションズ)の作編曲によるインスト曲で、メンバーのスキャットをフューチャーし、木管やアコーディオンを配したのどかな小曲だ。『Smile』のセッション時期のビーチボーイズにも通じ、アイドルのアルバム収録曲としてはレアなサウンドだろう。南葉は2022年Kaedeに「カラッポで満たして」を提供してからの繋がりである。
 続く「それって魔法かも?」は、OKAMOTO’Sのギタリスト、オカモトコウキがソングライティングと編曲をした、ファンキーでポップなダンス・ナンバーだ。歌詞には嘗ての曲のタイトルがオマージュされていて、アニバーサリー感が漂う。オカモトコウキは名盤の誉れ高い『ティー・フォー・スリー』収録の「SNSをぶっとばせ」を作曲(作詞:堂島孝平)しているので、前出の楽曲提供者同様にゆかりのあるミュージシャンといえる。 

 Negiccoの音楽的な最大の功労者として、その活動の初期から彼女達を支えてきたプロデューサーのconnieは、 本作に「ル・ルーラは愛の言葉」 を提供している。このタイトルを見て、フィラデルフィア(フィリー)・ソウル往年のファンは直ぐ気付くだろうが、同ジャンル最初期のヒット曲で名匠トム・ベルが手掛けた、デルフォニックスの「ララは愛の言葉(La La Means I Love You)」(1968年)からインスパイアされている。
 但しここでは、倍速のBPMでプログラミングされたのドラムン・ベースのリズム・トラックと、モジュレーションを効かせたキーボード類の上物で構築されたサウンドに、オートチューンで処理されたメンバーのボーカルが乗るという斬新なものだ。フィリーの名残としては、エレクトリック・シタールのオブリガートがアクセントになっている点だろう。Perfumeをリスペクトしている彼女達の意を汲んだ、未来志向のサウンドに仕上がっている。
 そしてラストの「サークルゲームのなかで」は、クラムボンのリーダーで音楽プロデューサーとしても知られるミトの提供曲で、クラムボンで唯一無二なソングライティングとアレンジを披露していたので音楽通に彼のファンは多い。ここでもバロック進行のアコースティックギターのアルペジオとグランドビート風のトラックを基本とし、ピアノやイングリッシュホルン(コーラングレ)が絡んでいく音数少ないサウンドに、母性愛を感じさせる慈愛に満ちた歌詞を自身も母親になったメンバーが歌唱している。
 2022年にメンバー全員が出産し、アイドルではなく一人の母親としての視点でソングライティングしたミトの着眼点は鋭く、作詞曲とも非常に完成度が高い。フォース・アルバム『MY COLOR』 (2018年7月)に「硝子色の夏」の作編曲を提供してからの関係だが、ここまで彼女達の心情に寄り添った楽曲に仕上げたのはさすがと言うしかなく、ラストに相応しい曲である。

 
Negicco「サークルゲームのなかで」 - Lyric Video -


 筆者のレビューを読んで興味を持った音楽ファンは、好みのパッケージで是非入手して聴いて欲しい。なお繰り返しになるが、数量限定の7インチ・ボックスとカセットは、リリース元であるFall Wait Recordsの下記オンラインショップでの予約をお薦めする。 

Fall Wait Recordsオンラインショップ:https://fallwait.base.shop/

(テキスト:ウチタカヒデ






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