2024年7月2日火曜日

短冊CDの日★Wink Music Service / 平野友里(ゆり丸)/ フレネシ


 1988年に8cmサイズのCDを短冊型パッケージにしたシングルCDが生産開始され、35周年となった2023年から展開されていた『短冊CDの日』のイベントが、今年も7月7日”七夕の日”に開催される。
 90年代に青春時代を送った世代には懐かしいが、生産終了後に育った若い世代にとってはこのフォーマットの存在は”未知との出会い”と言って過言ではないだろう。今では前時代の遺物とされる「カセットテープ」や「写ルンです」までもリバイバルされるご時世だが、急速な技術革新で合理化へと向かっていく中で失われたこれらが、次世代に再発見されて愛でられるのは決して悪いことではない。ファッションにもリバイバル・ブームがあるように、このような工業製品に再び光が当たるのは、カルチャーの輪廻転生と言えるのだ。
 ここでは『短冊CDの日 2024』にエントリーされ7月7日に同時リリースされる中から、弊サイトのカラーや筆者の好みやで選出した作品をレビューしたいと思う。 


Wink Music Service『ローマでチャオ/ヘンな女の子』
(VIVID SOUND / VSCD9738)
  

 まずは昨年筆者(弊サイト管理人)が選んだ邦楽ベストソングにも選出した、Wink Music Service(ウインクミュージック・サービス/以降WMS)のファースト・7インチ・シングル『ローマでチャオ/ヘンな女の子』が、初のCD(デジタル)音源としてリマスタリングし新装リリースされる。 

 今年の4月後半にサード・7インチ・シングル『Fantastic Girl』(VIVID SOUND/VSEP861)を紹介したのが記憶に新しいWMSは、サリー久保田と高浪慶太郎による拘りのポップ・グループで、このファーストとセカンドではハイティーンのハーフ・モデルで女優のアンジーひよりをゲスト・ボーカルに迎えている。WMSの詳しいプロフィールは前回のレビューを再読して頂くとして、ここでは本作の収録曲を解説していく。 

Wink Music Service
(左から高波慶太郎、サリー久保田)

ゲスト・ボーカル:アンジーひより

 タイトルの「ローマでチャオ」は、3人目のWMSとされる作編曲家の岡田ユミの作曲と同じくWMSには欠かせないマイクロスター飯泉裕子の作詞によるソフトロック・ナンバーで、編曲はベーシストであるサリーを中心としたWMSと岡田の共同名義になっている。
 60年代後半~70年前半の欧州映画サウンドトラックからの影響が非常に強く、フランシス・レイやエンニオ・モリコーネの熱心なファンは初見でこの曲の虜になるだろう。またリズムセクションは全盛期のモータウンを支えたホーランド=ドジャー=ホーランドのサウンドをルーツとしており、このように転調を多用した高度なアレンジに、アンニュイながらあどけなさが残るアンジーとデュエットする高浪の歌声のギャップが非常に面白く聴き飽きさせない。

    
Wink Music Service「ローマでチャオ / ヘンな女の子」Teaser

 カップリングの「ヘンな女の子」は、80年代にサリーを配したザ・ファントムギフトと同様ネオGSムーブメントで同時期にデビューした、ヒッピーヒッピー・シェイクスの88年作のカバーで、作詞:小西康陽、作曲:高浪慶太郎というピチカート・ファイヴ黄金コンビの共作である。オリジナルはコンボ・オルガンとファズ・ギターをフューチャーしたモッズ系サウンドだったが、ここではシェイクのリズムを強調しベースラインは「Taxman」(ビートルズ・ジョージ・ハリスン作/1966年)からインスパイアされており、ハモンドオルガンにシタールも活躍する、ネオGSの名残のある洗練されたダンス・ミュージックに生まれ変わった。アンジーと高浪のボーカルやコーラス・ワーク、サリーとリズム隊を組む原“GEN”秀樹の巧みなドラミングなど聴きどころは多い。
 今回の短冊CDには以上2曲のインストルメンタル・バージョンも初めて収録されているので、今や中古市場で高額取引されている7インチの入手を逃した音楽ファンはこの機会に必ず入手すべきだ。



平野友里(ゆり丸)『超ゆり丸音頭』
(なりすレコード / NRSD-3133) 


 今回の『短冊CDの日 2024』の中で音楽通にとって目玉となるのが、1976年6月に大瀧詠一のプロデュースによりシングル・リリースされたタイトル曲を含む、『ナイアガラ音頭 EP』ではないだろうか。布谷文夫 with ナイアガラ社中の歌唱によるタイトル曲とカップリングの「あなたが唄うナイアガラ音頭」、それに加えて78年にリリースされた同名アルバムのタイトル曲「Let's Ondo Again」(歌唱:アミーゴ布谷)の'81 Mixバージョンなど5曲を収録している。
 
 この「ナイアガラ音頭」に対する令和アイドルからの回答と呼べるのが、同イベントでリリースされる、平野友里(愛称:ゆり丸)による『超ゆり丸音頭』だ。 
 ゆり丸こと平野は、2012年10月に2人組アイドルグループTAKENOKO▲により活動を開始し、15年5月の活動終了後にソロアイドルに転身した。その後ソロと並行してシャオチャイポン、エムトピ、APOKALIPPPS(あぽかりっぷす)、SZWARCといった多くのアイドルグループやユニットにも参加していた。現在はソロ活動をメインとして再開させて、出身地である千葉県旭市の一日警察署長を務めるなど地元にも貢献し、次期観光大使候補として知られる存在なのだ。 

平野友里(ゆり丸)

平野友里(ゆり丸) 『超ゆり丸音頭』MUSIC VIDEO

 そして今回の『超ゆり丸音頭』もそんな地元愛を綴ったハイブリッドな盆踊り歌謡ラップに仕上げられている。作詞はゆり丸自身で、作編曲とプロデュースはムーンライダーズのギタリストである白井良明が手掛けている。
 筆者はマスタリングされたばかりの音源を5月末に聴かせてもらったのだが、白井の作編曲とプロデュースの音頭ということで、直ぐに堀ちえみの「Wa・ショイ!」(作詞:鈴木博文/1985年)をイメージさせられた。同曲は米E-mu社製サンプラー内臓シンセサイザー EmulatorII(Depeche Modeが多用)を使用したと思しき、低いサンプリング周波数で粗い掛声がトリッキーなアクセントになって、オリコン9位のヒットとなった。
 そんな白井ワークスを再びと、リリース元レーベル主宰でライダーズ研究家としても知られる平澤直孝の熱烈なオファーにより、この様な稀有なコラボレーションが実現した。
 本作でも白井による特徴的なマルチトラックのギター・リフ、サンプリングで随所に散りばめられたゆり丸の「ワッショイ」の掛声をアクセントにしたメイン・パートに加え、ラウドなラップ・パートでも旭市を熱くピーアールしているのが微笑ましく、パート毎に表情を変える、ゆり丸のボーカリストとしての表現力も聴きどころだろう。何より地元愛を強く感じさせるので、新たなご当地ソングとして取り上げられることを願うばかりだ。
 今回カップリングには「あなたが唄う超ゆり丸音頭」と「超ゆり丸音頭〜超インスト〜」の2種類のインストルメンタル・バージョンも収録されているので、興味を持った音楽ファンやアイドル・ファンは入手して聴いてみて欲しい。



フレネシ『メルヘン-短冊CDバージョン』
(乙女音楽研究社 / OTMSH-101)


 シンガー・ソングライターでイラストレーションや文筆など多面的才女として知られるフレネシ(熊崎ふさ子)も、今回の『短冊CDの日 2024』にエントリーしているので紹介したい。

 彼女は2014年から活動を休止しており、19年には現Wink Music Serviceのサリー久保田が率いたバンド、SOLEIL(ソレイユ)のサード・アルバム『LOLLIPOP SIXTEEN』に楽曲提供していたが、表立ってソロ活動は再開していなかった。筆者が2006年に監修したインディーズ・コンピ『Easy Living Vol.1』に参加してくれた縁もあり、これまでのソロアルバムは弊サイトでも取り上げており、本作の3曲が収録されていた10年リリースのセカンド・アルバム『メルヘン』リリース時にもインタビューを掲載している。 
 フレネシのプロフィールに少し触れるが、大学生時代にnaphthaline squallというユニットで音楽活動を開始し、この時代に既に多くの楽曲をソングライティングしていたという。ソロ名義のフレネシ (frenesi)として1999年にファースト・ミニアルバム『Landmark Theater』、翌年には2人組ユニットbluenoでアルバム『blueno』を各リリースしている。

フレネシ

 彼女が広く知られるようになったのは、2009年6月のファースト・アルバム『キュプラ』だろう。リードトラックの「覆面調査員」は80’テクノ、「スカイバストーキョー」ではUKのネオアコースティック系の影響下にあるサウンドに、独特なウィスパーヴォイスで歌唱するという唯一無二の存在だった。翌年9月には、筆者も最高傑作に挙げるセカンドアルバム『メルヘン』をリリースし、更に多くの信奉者的ファンを獲得していく。松田聖子のオフィシャル・カバーアルバムを監修しフレネシに参加をオファーしたタレントの千秋を筆頭に、朝ドラ『あまちゃん』で一躍人気女優になった、のん(のうねん れな)や、SOLEILのボーカルで当時高校生だったそれいゆ等、ファンであることを公言している著名人も少なくない。
 その後も2012年9月にサード・アルバム『ゲンダイ』、13年11月には新曲と『Landmark Theater』全曲を中心としたコンピレーションアルバム『ドルフィノ』をリリースし、翌年12月のライヴイベント『フレネシ学園 伝説の終業式』をもってその活動を無期限休止していた。
 近年ではアジアを中心とする海外で人気が高まっており、SNSでは彼女の楽曲をBGMにした動画が多数アップされ、膨大に再生されているという。Lampと同様にジャケットのアートワークも含めた唯一無二な独自性とメルヘン感覚に、海外のファン達は魅了されているのだろう。 

 前出の通り本作には『メルヘン』から3曲選曲されており、「不良マネキン」、「街」、タイトル曲の「メルヘン」という代表作が収録されているので、これからフレネシの楽曲に触れる音楽ファンにも最適だろう。 
 冒頭の「不良マネキン」は、凝ったドラマ仕立てのPVの演出含め彼女自身が全て担当しており、大映テレビ『ヤヌスの鏡』(主演:杉浦幸、山下真司/1985~1986年)がモチーフになっている。このPVが公開された2010年当時サブカル界隈でかなり話題になった記憶があるが、先に挙げた著名人達もこのPVをきっかけにファンになったと推測できる。楽曲自体のサウンドは完全なテクノ歌謡で、ツイストをルーツとする八分刻みのベースラインにシンセタムを多用したドラムのリズム隊、FM音源系シンセのパッドやリフ、スラップ・ベースのアクセントなど、彼女より上の世代である筆者には懐かしさに溢れているが、多様性が進んでいる今こそ改めて視聴して欲しい名曲なのだ。

 
フレネシ「不良マネキン」PV  


 「街」では一転して、坂本龍一がサウンド・プロデュースしていた頃の大貫妙子を彷彿とさせるヨーロピアン・テイストの洗練されたサウンドで、隙間を活かしたアレンジの中で、パーカッションやシーケンス音など細部に渡ってよく構築されていて完成度が高い。
 この曲でひと際美しいアコースティックピアノをプレイしているのは、当時レーベルメイトでblue marbleを主宰し、フレネシのライヴ・サポートメンバーだったショック太郎だ。現在彼は無果汁団(mukaju dan)というポップスユニットで、3枚のオリジナルアルバムをリリースしているのでこちらもチェックして欲しい。
 ラストの「メルヘン」は、更にヨーロピアン・サウンドへの傾向が強く、欧州映画のサウンドトラックやフレンチポップの匂いがするワルツの小曲だ。本人によると、フランソワ・トリュフォー監督の諸作で知られる映画音楽家のジョルジュ・ドルリューの『The Day of the Dolphin(イルカの日)』(マイク・ニコルズ監督/1973年)のテーマ曲を主に影響を受けて作曲したという。そんな儚い曲調に、散文詩と一人称が融合した歌詞にイマジネーションを駆り立てられてしまう。わずか2分9秒の小曲であるがPVが制作されており、インスパイアされたのが、1974年NHKで放映された異色ドラマ『夢の島少女』(中尾幸世主演)だという。
 当時NHKドラマ・ディレクターで後に映像作家となった佐々木昭一郎の作演出によるこのドラマは、肝心の台詞が極端に少なく、感覚的なカットと編集がなされて、劇伴としてヨハン・パッヘルベル作曲の「カノン」が多用されるという抽象的な映像作品で、映画監督やミュージシャンに信奉者がいることで知られるカルト的名作だ。Lampの染谷大陽もフェイヴァリットに挙げており、筆者も10年前プレミアムアーカイヴでの再放送をドラフト画質で録画し今でも大事に保存している。
 このように大映テレビ・ドラマと佐々木昭一郎作品を同じ地平で許容してしまう拘りこそが、フレネシの唯一無二の才能を形成している根幹ではないだろうか。本格的なソロ活動復活を願っているファンが多いのも理解できると思う。
 先に紹介した2作同様に限定数量プレスなので、彼女の世界観に興味を持った音楽ファン、熱心なフレネシ・ファンはコレクターズ・アイテムとして早期に入手し聴いて欲しい。

 
フレネシ「メルヘン」PV 




 BABY JOHNSONZ『BABY JOHNSONZ e.p.』
(GOUACHE/NEO NEW MUSIC/なりすレコード
 / GCNM-0001)

 
 最後に番外だが、弊サイトにコラムを寄稿している作編曲家でシンガー・ソングライターの吉田哲人が、TREMORELA名義で電子音楽家として活動しながら、プロデューサーやエンジニアとしても知られる田中友直と組んだ2人組テクノ・ユニット、BABY JOHNSONZとしてこのイベントにエントリーしている。今月後半の彼のコラムの中で、この『BABY JOHNSONZ e.p.』のセルフ・レビューを予定しているので是非読んで欲しい。
 筆者は近年のテクノ・ミュージックに疎く門外漢であるが、収録曲の「POLE SHIFT」を非常に気に入っており、マスタリング音源入手直後から何度も何度もリピートしている。
 共に芸大出身者による端正なテクノと言うべきか、19世紀初頭の初期ロマン派に通じる麗しい旋律、4つ打ちキックでドライヴしていくラグジュアリーなバックトラック、ブレイクでの美しいコーラスを配したサウンドに一聴して虜になってしまった。
 ジャンル的に歌モノではない点で弊サイト読者の趣味とは異なるが、興味を持った音楽ファンは是非入手して聴いて欲しい。

BABY JOHNSONZ e.p. Trailer


※短冊CDの日オフィシャルサイト:https://tanzaku-day.jp/#release2024
 (各紹介作品のオンラインショップ・リンク付)


(テキスト:ウチタカヒデ