(左)『音盤紀行』2巻 表紙 毛塚了一郎著 株式会社KADOKAWA 2023/(右)同書「探訪デイ・トリッパー」より。一番下のコマに、「レコードは誰かに聴き継がれていくモノだから」のセリフがある)
「レコードは誰かに聴き継がれていくものだから」「私の好きな曲が……50年、100年後の人にまで届いてくれるといいな」――『音盤レコード』2巻の中で語られるこうした言葉が印象に残った。
このセリフを書いた作者の毛塚了一郎さんにお話を伺ってみたい。これが、今回、インタビューをお願いしたいと思った動機である。いろいろと話をしていくなかで、毛塚さんから、こころ動かされる言葉がいくつも出てきて、毛塚さんの音楽への想い、音楽マンガを描くことへの真摯な姿勢が感じられて、とても気持ちのよいインタビューとなった。
インタビュー①「想像の音」とも併せ、ぜひ、毛塚さんの言葉をお読みください。
話し手:毛塚了一郎さん(漫画家)、担当編集 聞き手・構成:大泉洋子
★「曲そのものが本物」という音楽の特殊性
―― 何年か前に観た『音響ハウス』という映画の中で、「いい曲とは?」という問いかけがあって、それに対して、坂本龍一さんや佐野元春さんら出演アーティストの皆さんが、それぞれが考える「いい曲」について語っていたのが興味深くて、それが「いい曲ってなんだろう?」を考えるきっかけでした。そして昨年、『音楽ライター下村誠アンソロジー永遠の無垢』をつくっていく過程で、「いい曲ってなんだろう」ということを再び考え出すようになって。私の中では、「歌い継ぎたいと思う曲かな」という考えに至っているんですが、そんなこともあって、毛塚さんにも、同じ質問を投げかけてみたいと思ったという次第です。
毛塚 そうですね、時代を超えて、どう継がれていくかっていうのは、いろんな形があると思うんですよね。音楽だと、レコードやCDに記録されて、そのまま未来に残るということが音楽文化の継承という意味の大きなところだし、あと、音楽は楽譜として残ると、その人本人が歌わなくても、他の人が歌い継いだときに……それ自体はオリジナルではないんですけど……曲そのものが本物だから、それもひとつの継承なんじゃないかなっていう面もありますよね。それは、音楽の特殊なところかなと思います。絵画とかだと、その人本人が描いたものじゃないとオリジナルとは認められないから。
―― 確かにそう考えると、音楽って特殊ですね。音楽は、つくったり、最初に歌った本人が歌えなくなっても、歌自体は本物だし、後の人が歌えば、その曲が消えることなく、残っていきますし……。
(『音盤紀行』2巻「カンシオン・パラ・マニャーナ」より。三線を弾くシャイな少女が、人との出会いのなかで、少しずつ変わっていく)
毛塚 でもその一方で消えていった曲もあるはずなんですね。たとえば、少数民族のなかで、紙や楽譜もなくて、口承だけで伝わってきていた音楽は、レコードとしても記録されていないし、どこかの段階で消えてしまったんだろうなっていうのもあるし……。そういう、音楽そのものの儚さ、消えていった音楽もあったんだろうなというのは感じますね。でも、レコードっていうものができて、記録することができて、商品として売るという市場が生まれて、それによって結果的に受け継がれる。記録媒体が誕生したことで、受け継がれるっていうことが圧倒的に増えた。レコードが生まれてからの時間は、人間の時代でいうと、わずかな、まだ新しいメディアだと言えるのかもしれないんですけど……。
担当編集 ちょうどいま描いている話が、そういう話で……。
―― あ、そうなんですねー!
毛塚 フォークとか民謡とかが、どうやって受け継がれてきたんだろうっていう。民謡は、譜面だけが残って、それを次の時代の人が、新しい解釈、いろんな演奏もしながら、継いでいるわけですね。そういうなんか……なんでしょうね、パブリックドメインみたいな、公共のものになっているんですね。
担当編集 アメリカだと、スミソニアン博物館群のなかにカントリー・ミュージック殿堂博物館っていうのがありますね。
毛塚 その曲自体が文化となっているという……。
―― 民謡は楽譜によって……楽譜ということは明治以降の話ですか。
毛塚 いや、そうとも限らないです。楽譜っていっても、西洋の楽譜と、日本古来の楽譜は違うので……。
―― あぁ、確かに……。
毛塚 楽譜を買うって、一般の人はあまりしなくなりましたけど、明治のころは、レコードと、そのレコードに入っている音楽の楽譜が別売りで売られていて、レコードは高価だから、その代用として、一般庶民の人は楽譜を買って楽しむっていう文化があったらしいんですよね。装丁もちゃんとされていて、本のような感じで売られていたようなんです。レコードの前、SPレコードの時代ですね。SPレコードって再生回数が限られるメディアで、レコード以上に摩耗が早くて、本当に高価な品だったんですね。でも、昭和の時代でも、レコード、LPとかはおいそれと何枚も買えるものじゃなかったって聞くんですけど……。
―― 高かったと思いますよー。うちにあるLPで一番古いのが、1970年代のはじめに出た、サイモン&ガーファンクルのベスト盤なんですけど、CBSソニーから出たもので、確か2100円だったかな。でも、2100円といっても、いまの2100円よりずっと高価なものだった気がします。兄が中学生の頃、たぶん、おこづかいを貯めて買ったんだと思います。
毛塚 ですよね。そういう高価なものだったから、友だち同士で貸し借りする文化とか、ダビングとか……。音楽市場に中古市場やレンタルレコード屋が生まれたりとか、人の行動、行動範囲を増やすようなことになっていったと思うんですね。最近では、レンタル文化はほとんどなくなってしまって、サブスクリプションの文化になってきましたけど。
―― 中古市場ということで言うと、本もそうだと思うんですけど、音楽も、どんどん新しいものが入ってくるから、どんどん返品もされて、店頭から消えてしまうけど、中古レコード屋さんって、それを留めている存在、消えていくものを留めてくれる存在なのかなって思います。
毛塚 中古レコード店のなかでも個人店は流通のペースがゆっくりしているので、いろんな古いものが何十年と残っているパターンも多いし、眠っている在庫みたいなものが多い。そういうところは大手とは違うと思うので、『音盤紀行』で描いていくのは個人店が多いですね。ぼく自身、そういう店が好きなので。
―― 少し前に、『音楽ライター下村誠アンソロジー永遠の無垢』のお取り扱いをご相談しに、ある中古レコード店に行ったとき、棚を見ていて、「American Flyer」というバンドのアルバムが目に留まったんです。American
Flyerのバンド名は聞いたことがあったんですが、〈曲は聴いたことないかも、ジャケットもかっこいいし、買ってみよう~〉と思って、レジに持っていったら、店長さんに「これは名盤ですよ」って言ってもらえて、あ、そうなんだとすごく嬉しくなって、いそいそとうちに帰って、聴きました。私にとっては初めての出会いなんだけど、50年近くも前のものだったりするのはおもしろいなぁと思いました。
毛塚 世間で言う音楽の文化とは別に、自分個人のなかでの音楽の再発見っていう体験があるじゃないですか。それは音楽、レコードのよい部分だなと思うんですよね。その時代じゃなくても、それを知る機会が存在する場所っていうのがレコード屋なんだな、って。
―― 再発見の体験。確かに。
毛塚 その人にとっては、そのときの体験が初体験、というところがあるので、古いも新しいもない。ビートルズって60年代がメインの活動だったから、それ以降に聴いた人はみんな「後追い」ですけど、ビートルズがCD化されたときに、でっかいブームが起こりましたよね。ブームっていう言葉自体が流行だから、それ自体は普遍性とは違うかもしれないんですけど、でも、そういうサイクルが起きることが、その作品の普遍性を表しているんじゃないかな、と。
―― 2巻で、「いつの曲でも、今の体験として聴けばいいんだよね」っていうセリフがありましたね。
(『音盤紀行』2巻「風を聴いたら」より。音楽好きの常連さんやミヤマレコードの店長さんと話すことで、暦実ちゃんがいろいろと考えて、レコードや音楽への想いを口にしていく過程が、とてもいいんです♪)
毛塚 その時代、その時代で、そういうタイミングが巻き起こすおもしろさ、という面と、個人の体験として、そこで再発見するおもしろさ、音楽の二面性というか……。ちょっと話を戻して、「いい曲ってなにか」を考えると、聴いた人のなかに、どれだけ残っているかっていうこともある気がしますね。昔、好きだった曲って、どうでもいいようなときに、あ、あの曲!って思い出して、頭の中で一日中流れていること、ありませんか。
―― 頭の中で、ですよね。あります、あります!
毛塚 そういうのって、聴いていないときでも、頭のなかでちゃんと循環している感じなのかな、って思ったりしますね。ライブの即興性とか、その場その場で感動できるすばらしさというのもあるんですけど、何も聴いていない、その音楽を体験していないときでも、自分のなかでちゃんと循環している、残っている。その残響というか、その残る時間というのは、いい曲ってなんだろう、を考える1つのポイントになるのかもしれない。
★自分の時間と一緒に変化していく音楽や作品
毛塚 昔よく聴いた曲で、そのときは本当にいいなと思っていた曲でも、あまり聴かなくなったとか、忘れちゃうっていうのも、たくさんあって。……マンガの話になってしまうんですけど、すぐにフワッと消えてしまわないような作品をつくりたいっていう思いは、ずっとありますね。そういう作品をどうつくればいいのかっていうのは、なかなかわからないんですけど、1回読んだだけではわからない、でもそれは複雑なものということではなくて、1回読んだだけでのおもしろさがあって、さらにもう1つ深さがあるっていう。マンガの場合、ぼくはそれをよく感じます。
―― 毛塚さんの話を聞いて思ったのが、小説やマンガ、映画でも、「わかりたい」と思うのがいい作品なのかなって。1回ぱーっと読んで、読んだ、読み終わった、じゃなくて、もう1回読んでみたいなと思う感じ。それじゃあ、音楽、いい曲はどうなんだろうっていうのはあるんですけど……。
毛塚 う~ん……。その……当時の自分の心境とか時間、時を経て、自分の気持ちもだんだん変わってきて、また別の見方ができるようになるときがあって、自分の時間と一緒に変化していく作品っていうのがあるんですよね。それは想い出ともつながっていったりするので、そういう作品や音楽は、いいと思いますね。
―― 自分の時間と一緒に変化していく。それが、いい曲であり、いい作品。あぁ、それ、あるかもしれない。
★自分が選び取るという体験が、自分の「好き」への自信につながる
―― 私が『音盤紀行』を知ったのは……下村さんの本をつくるときに、音楽関係の本をたくさん読んだんですね。新刊書店や古本屋さんで見つけることもあったし、ネットでも検索したり、探したりして、そのなかで『音盤紀行』も知ったんです。タイトルと簡単な内容説明と、あとは表紙の絵に惹かれて購入しました。内容もしみじみといいなぁ~と思ったし、それと本のつくりがとてもきれいでした! 表紙カバーも、レコードの部分がつるつるとした加工を施していたりして、凝ったつくりをしているなぁって……。
担当編集 UV厚盛という加工です。『青騎士』はまだ新しい雑誌なので、雑誌もコミックスも、書店の棚のなかでも一番端のほうに置かれることが多いんですね。そういう場所だからこそ、紙や造本、ブックデザインにこだわってつくっていかないとって考えてます。加工も積極的におこないます。
―― コミックスというより、書籍のようなつくりになっていますよね。ただ、あの……ネットで単行本を購入したので、最初から単行本で読んでしまったんですけど、本来はマンガ雑誌の『青騎士』で連載があって、何話かたまると単行本になるという、普通の流れですよね。
毛塚 そうですね。
―― 私、10歳で『りぼん』を読み始めて40歳まで30年間、毎月、マンガ雑誌を買い続けてきた人生だったんです。『りぼん』から始まって、『別マ』『mimi』『LaLa』、そのあとは、少女マンガもオトナになるっていうキャッチコピーで誕生した『コーラス』とか『ヤング・ユー』とか……。レディースコミックじゃなくて、作家さんも歳を重ねていくから、若い頃は主人公が高校生だったのが、歳をとってきたら、主人公も働く女性になっていたりっていう。
担当編集 少女マンガ特有の現象ですよね。描き手が成長して、読者も成長して、一緒に成長していくというかたちで、これは少年マンガ、青年マンガよりも少女漫画に顕著な現象です。
―― あ、そうなんですね。でも、出産、子育てで、マンガ雑誌を買わなくなって、間が空いてしまったら、マンガ雑誌を買う行為に戻れなくなってしまって、気になるマンガがあると、単行本で買うようになってしまって……。
担当編集 いや、それは大泉さんだけのことではなくて、近年は雑誌ではなく単行本のほうが商売の要になる時代になってしまってます。
―― 今度、本屋さんに『青騎士』を探しに行きます!
担当編集 文化として習慣をつくる。人に習慣になってもらうっていうところが最終的な行動の目標としてありますね。マンガは雑誌を読む習慣、音楽はレコード屋に行く習慣……。
毛塚 習慣ってブームの対極にあるものだから。その場の熱量だけじゃなくて、定期的に足を運ぶ、行動するっていう。それができたら、いいなと思いますね。
―― さっきも少しお話ししましたが、下村誠の本をお取り扱いいただきたくて、ある中古レコード屋さんに行ったときに目に留まったのがAmerican Flyerのアルバムで、買うときに店長さんに「これは名盤ですよ!」と言われて、すごく嬉しかったですね~。アマ〇ンだったら、American Flyerは薦めてこない、絶対に(笑)。
毛塚 そういうのは、わかります(笑)。
担当編集 そういう本をつくろうとしていますよね、我々も。見つけられて、「お!」ってなるやつね。これ、おれが見つけたんだって思ってもらえる本。
毛塚 本屋もそうなんですけど、レコード屋も……自分が主体として動いて、作品を見つけられるっていう環境が、ぼくはすごく大事だと思っていて。店からのおすすめ、その店に何度か通っているうちに、だんだん信頼関係っていうのが生まれてくるので、この店がおすすめしているんだったら間違いないな、とか、平積みで置かれていたりとか、そういう中から自分が選び取った、多くの中から選んだっていう行為自体が、その作品に対する思い入れと強くする、ということはあると思うんですよ。たくさんある中から選び取るのって、いろんなものに触れないと、自分が本当に好きと思えるものかっていうことがわからない。失敗しながらでも、ジャケ買いしたら思っていたのと違った、とか、そういうこともありながら、それを自分の経験として積み重ねていくっていうのは、自分の「好き」っていうものに対する自信みたいなものにつながってくるんじゃないかなって思いますね。音楽でも、マンガでも。
★音楽が聴こえてきそうな店や街並み
―― ストーリーもそうなんですけど、誌面を見ると、毛塚さんの限りないレコード愛を感じます。店内のレコード棚に並んでいるアルバムジャケットやポスターが本当に細かい! 見たことないようなジャケットもあれば、これってあのアルバムを参考にしているのかなぁ、と思ったり……。(表紙などカラー面で)アルバムにつけられたラベルの色で、実際にあるアルバムか架空のアルバムかを分けているという記事を読みましたが……。
(『音盤紀行』1巻「追想レコード」で出てくるミヤマレコードの店内の様子。アルバムジャケットがていねいに描かれていて、つい1枚1枚、確かめたくなる)
毛塚 そう…ですね(笑)。これは、何かを描くと、「あ、これ、あのジャケだ」って言ってくる音楽マニアが多いから、対策として、架空のものもまぜたんですよ。全部、答え合わせをされるのが恥ずかしいので(笑)、架空のジャケットもまぜて描こうって。
―― (笑)。でも、店の中に置かれているレコードジャケット1枚1枚が、とてもていねいに描かれているから、本当にレコード屋さんにいるようです。それと、お話ごとに描かれる街並みも好きです。街の様子やバイクとかの乗り物、昔ながらの、ちょっとひなびた喫茶店とか、片側アーケードの街とかも……。水澤レコードを探しに行く話に片側アーケードが出てくるじゃないですか。片側アーケードのある街並みって、なんか、いいですよね。
(向かって右から『音盤紀行』2巻「探訪デイ・トリッパー」より。片側アーケードの街並み/中央『音盤紀行』1巻「追憶レコード」より。背景の道が少しねじれて交差している。こういう道、どこかで歩いたことがあるような、ないような…/左「探訪デイ・トリッパー」より。すべての話にこういう見取り図がついているのも、イメージが広がって楽しい)
毛塚 そういうのは、ぼくが実際に行った場所を参考にしています。地方のレコード屋はやっぱりアーケードの中だろうなとか、ひなびた喫茶店があるといいな、とか。ちょっとした日帰り旅行的なおもしろさが描けたらいいなとか、と思って。『音盤紀行』という、せっかくタイトルに「紀行」という言葉が入っているので、旅するおもしろさみたいなものも少しずつ増やしていってます。
担当編集 いま描いている3巻は、わりと「旅」がテーマですね。コンセプトアルバム的なつくりかなぁ、っていう感じで。
―― お、そうなんですね~、3巻が楽しみです! では最後に、ジャケット画の話を聞かせてください。このWebVANDAでもご紹介させていただいていますが、何枚か、アルバムのジャケット画を描かれていますよね。IKKUBARUさん、秘密のミーニーズさん……。きっかけは何かあったのですか?
毛塚 IKKUBARUさんが最初でしたね。ぼくが、当時のtwitterにイラストをアップしていて、それを見たんじゃないかなと思います。IKKUBARUさん側からジャケットを描いてほしいという依頼がきました。最初は2020年の秋頃ですね。秘密のミーニーズさんは、ぼくが昔からファンで。IKKUBARUさんと同じレーベルというご縁もあって、依頼されて描きました。カーネーションさんも、ぼくが昔からファンで、トークイベントをさせてもらったり、いろいろとご縁がありまして。
―― ジャケット画を描くというのは、マンガを描くのとは違う緊張感とか、ありますか。
毛塚 ジャケット画の場合は、自分の画風というものを期待して、求めてもらっての依頼なので、その音楽を端的に表現できるかという話ですね。そこに関して、ぼくができることって何だろう、と。イラストを描くとき、まずは「場所」から考えることが多いですね。どういう雰囲気の場所か、そのアルバムに収められている音楽が聴こえてくるような場所っていうものを、ジャケットのイメージの最初のアイデアとしてあるかな。それが、ぼくが一番大事にしていることですね。
―― その音楽が聴こえてきそうな街の風景、街に流れる音楽……なるほど。
毛塚 ぼく自身が昔からレコードジャケットを見てきたなかで、あ、この音楽にはこのジャケットだなって、バシっとハマるものが何枚かあって、そういうものはやっぱりデザインとして優れているので、そういうことを大事にしました。写真とイラストとでは、ジャケットの印象が大きく変わる。ぼくがイラストを描くっていうことは、写真ではなくて、イラストじゃなきゃならないということを意識しましたね。描いているのは架空の場所だけど、どこかにあるような場所を描いているというイメージです。
―― IKKUBARUさんのほうには人物が出てきますが、そのあたりは何かイメージがあったんですか。
(日本80年代の洋楽や、日本のシティ・ポップなどに影響を受けているというIKKUBARUさん。そのサウンドは軽快でおしゃれな展開、そして、どこかせつなくて優しい音色。ジャケット画をこうして並べてみると、なにか、続いてゆくストーリー性も感じる)
毛塚 IKKUBARUさんの場合は、イラストの依頼として、キャラクターを出してほしいというのがあったので、つながりのなかで全部登場させています。秘密のミーニーズさんは、アルバムのタイトルが『Our new town』で、「街」という言葉が入っているので、街の灯りで、人がいる世界みたいなものを感じ取れればキャラクターは必要ないかなと考えて、こういう絵になりました。
(秘密のミーニーズさんのアルバム『Our new town』。よーく目を凝らして見ると、街の要素がていねいに描き込まれていることがわかる。確かにここには住む人がいて、日常がいとなまれていることが伝わってくる)
―― 『音盤紀行』や『音街レコード』での、音楽と楽器、レコードにまつわる人間模様のストーリーと、その幸福な音楽の世界。そして、アルバムジャケットや書籍のカバーのイラストという、マンガとはまた別の表現。これからの活躍も楽しみにしています。長い時間のインタビュー、本当にありがとうございました。
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後日談
インタビューから数週間後の4月20日、マンガ雑誌『青騎士』を買った。書店のなかでマンガ雑誌のコーナーに行くのも、買うのも、とても久しぶりだ。
背表紙の『青騎士』のタイトルまわりのデザインが洒落ているなぁと思いながら表紙をめくって、びっくりした。見返しがある! 見返しというのは、書籍の構造である。目次ページもシンプル。サイズは一般的なマンガ雑誌より小さめ。表紙がペーパーバックというだけで、本体の紙質も厚みがあって、コミックスのようだ。マンガ雑誌でありながら、コミックスでもある。そういう意図もあったのだろうか。いずれにしても、担当編集の方が話されていたように、紙質もブックデザインも、こだわってつくられていることがよくわかる。
私が昔、マンガを、コミックスではなく、マンガ雑誌で読んでいたのは、コミックスとしてまとまって発行されるまで何カ月もかかるのが、待ちきれなかったから。続きが早く読みたい、ファン心理。今回、久しぶりにマンガ雑誌を購入して、眠っていたマンガ雑誌ファン心がウズウズ。もうすぐ、20号の発売日ですね(偶数月20日頃の発売)。マンガ雑誌を毎号買う生活に戻りそうな予感……。
「いい曲ってなんだろう」という問いかけに、真摯に、いろいろな角度から考えてくださって、いい言葉がいくつも飛び出しました。私の心に一番しっくりきたのは、(最初に聴いたときから)「時を経て、自分の気持ちもだんだん変わってきて、また別の見方ができるようになるときがあって、自分の時間と一緒に変化していく作品っていうのがあるんですよね。それは想い出ともつながっていったりするので、そういう作品や音楽は、いいと思いますね」という話でした。
皆さんは、どの話が気になりましたか。
また、私からの質問や考え、ときに経験などを話しているときに、「うん、うん」とまっすぐにこちらを見て、じっくりと聞いてくださる、その姿がとても印象的でした。お人柄ですね。
人が生きていくとき、音楽は常にそばにありますよね。思い出とセットになっていることも多い。音楽マンガとカテゴリーされる毛塚さんの作品、登場人物の多くは音楽が好きな普通の人です。ミュージシャンや楽器を演奏する人物も出てきますが、それ以外は、なにか音楽的に特別な人というのはあまりいなくて、だから、誰が読んでも、「あぁ、なんか、わかる~」という気持ちになれる。楽しくて、ときどきせつなくて、でもハッピーで、心地よいのだと思います。これからの作品も、楽しみです。
毛塚了一郎ロングインタビュー、5月、6月の2カ月にわたって読んでいただき、ありがとうございました!
毛塚了一郎(けづか・りょういちろう)さん 自画像とプロフィール
1990年東京都生まれ。漫画誌『青騎士』創刊号でデビューし、現在も『音盤紀行』連載中。好きなものはレコードとレトロ建築。
大泉洋子プロフィール
フリーのライター・編集者。OLを経て1991年からフリーランス。下北沢や世田谷区のタウン誌、雑誌『アニメージュ』のライター、『特命リサーチ200X』『知ってるつもり?!』などテレビ番組のリサーチャーとして活動後、いったん休業し、2014年からライター・編集。ライター業では『よくわかる多肉植物』『美しすぎるネコ科図鑑』『樹木図鑑』など図鑑系を中心に執筆。編集した主な書籍に『「昭和」のかたりべ
日本再建に励んだ「ものづくり」産業史』『今日、不可能でも 明日可能になる。』など。編著書に『音楽ライター下村誠アンソロジー永遠の無垢』がある。