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2024年5月25日土曜日

漫画『音盤紀行』『音街レコード』 作者・毛塚了一郎 ロングインタビュー①「想像の音」

(上段左から、『音盤紀行』1巻 2022/『音盤紀行』2巻 2023/下段左から、『音街レコード』A面 2023/『音街レコード』B面 2023/いずれも 毛塚了一郎著  株式会社KADOKAWA刊)


『音盤紀行』――現代の日本、西側音楽への締め付けがきびしかった70年代の東欧、海上から違法に流すラジオ、近未来のアメリカ、70年代のフィリピン、現代アメリカ、戦後の横浜などを舞台に、音楽や1枚のレコードと、それを取り巻く人々の行動や想いが綴られている。その物語ひとつひとつが、とても愛しくて、清々しく、登場する人物の音楽を愛するピュアな心情が、ひしひしと胸に迫る。

作者の毛塚了一郎さんのどんな想いや経験が、この物語を生み出したのだろうか。今月と来月、2カ月にわたって、毛塚さんのインタビューをお届けする。1回目の今回は、毛塚さんが音楽マンガで表現したいこと、を中心に。


話し手:毛塚了一郎さん(漫画家)、担当編集さん   聞き手・構成:大泉洋子


(『音盤紀行』1巻「追想レコード」より。このあと二人は、この「中身の盤のないアルバム」の謎を解くための小さな旅に出る)

 

★CD世代の作者が思うレコードの魅力

〈「はじめまして」のごあいさつのあと、まずは、私とWebVANDAとの縁をつないだ『音楽ライター下村誠アンソロジー永遠の無垢』のことを簡単に説明させていただいた。話は音楽雑誌の話から始まった――〉

 

毛塚 音楽雑誌にいきおいがあった時代ですね。ぼくは(30歳代前半)そういう時代を経験していないので……。

 

―― 下村さんの本の取材のなかで、7080年代は、新しい音楽をつくっていこうとするミュージシャンを音楽雑誌が追っていく、音楽雑誌とラジオとアーティストが一緒に育っていきましょうという時代だったという話を聞きました。

 

毛塚 そういう時代への、ある種の憧れみたいなものがあって、経験はしていないんだけれども、伝え聞いたこと、そういう時代があったんだということを、マンガのなかで描いていきたいなという想いがありますね。それは、音楽マンガを描きはじめた当時より強くなっている気がします。

 

―― 毛塚さんのプロフィールを見ると、1990(平成2)年生まれなんですね。もうレコードは新譜ではほとんどなくて、CD全盛期だったと思うんですけど、レコードを聴くようになったきっかけは?

 

毛塚 祖父の家にレコードプレイヤーがあったんです。祖父が亡くなったあとも祖父の部屋は残してあって、レコードプレイヤー、オーディオ一式がそのままで、誰も使っていないから、勝手にぼくが使っていました。

 

―― CD世代の人にとって、レコードの魅力ってどんなことですか。

 

毛塚 いろいろあるんですけど、1つには、自分の好きなミュージシャンのルーツというか、こういうレコードを好きで聴いていたというのを、音楽雑誌のインタビューや動画で語っているのを知って、昔、そういう音楽があったのかと。それでさかのぼって聴いてみたくなったんですね。それが、大学生の頃で……。

 

―― 大学生というと、20……。

 

毛塚 2010年前後ですね。この頃、ぼくはデザインに興味があって、大学もデザイン科に通っていて、昔のデザインっていうものに、時代性とか、おもしろさを感じていたんですね。いいデザインって何なのかっていうことをいつも考えていました。それで、パッケージやポスター、いろいろある中で、自分にとって一番身近なレコードジャケットに興味をひかれて……。時間がたっているからボロくはなっているんだけど、なにかこう、当時の印刷、紙質とか、そういうものもちゃんと受け継がれているっていうところ、古い時代にデザインされたものが、何十年の時を経ながらも残っていることにも惹かれていましたねー。

 

―― 好きなミュージシャンのルーツとしての音楽、デザインとしてのアルバムジャケット、ということですね。その頃のお気に入りの1枚とかって、ありますか。

 

毛塚 そうですね~、昔のイラストって全然ちがうじゃないですか。有名なところだと、ビートルズの『リボルバー』とか。ああいうサイケデリックなイラストって、ぼくの目にはすごい鮮明で、かっこいいものに写ったんです。

 

―― そういえば、この、単行本の見返し部分にある毛塚さんの名前のマーク、『ラバーソウル』へのオマージュがありますよね。



毛塚 これはデザイナーさんがやってくれました。ぼくらはまったく資料も何も渡していなかったのに、デザイナーさんがこれをつくってきたので、編集さんとふたりでニヤニヤしながら(笑)、これいいねって話したんです。

 

―― そうなんですね! てっきり、毛塚さんの意向だと思っていました。

 

毛塚 ビートルズが活動していた1960年代、その頃のジャケットが好きなんですよねー。70年代は写真をつかったものも多くて、かっこいいデザインにするっていう、ロック系なんかはそういうのが多いんですけど、60年代はアート系のイラストが多くて、これがいいんです。

 

―― メインビジュアルだけじゃなくて、タイトルロゴも手描きですもんね。あ、じゃあ、大学生の頃はまだマンガを描いていない……?

 

毛塚 そうですね、卒業してから……201415年頃からですね。大学の頃もちょろちょろ描いてはいたんですけど、まだ、レコードを題材にとか、自分のなかでテーマを決めて描くっていうところまではいってないくらいの、自分が何を描けるかわかっていない頃ですね。

 

 

★レコードやCDなどメディアの移り変わりと、それとは別次元にある個人の音楽体験の両面性

―― 『音街レコード』には、そうそう!と思ったり、主人公の女の子が思っていることと今の私が感じているものと似てるなぁと思う、そういう場面が多かったです。『音盤紀行』と『音街レコード』は、別の感性があるような気がするんですけど……。

 

毛塚 『音街レコード』は同人誌で描いていた作品です。自分一人で描いていた頃で、当時は「音街レコード」というタイトルでもなかったんですが、ぼくの実体験をうまくマンガにしようっていうことぐらいで考えていたかなと思います。読んでいる人に、こういうこと、あるよねって感じてほしい、それだけで描いてました(笑)。だから、音楽マニアの人が『音街』をおもしろがってくれる印象がありますね。『音街』を描いたあとに、『音盤紀行』を描き始めるんですけど、もう少し普遍的というか……音楽が趣味、レコードが趣味ではない人にも伝わるマンガはどういうものだろう、ストーリーをちゃんと描いていかなきゃなっていうことを考え始めていた、ちょうどその頃、連載の話をいただいたんです。『青騎士』創刊のときで。

 

―― 『青騎士』はいくつかのマンガ編集部の方が、編集部の枠を超えて集まって創刊されたマンガ雑誌でしたよね(*2021年4月20日創刊。隔月20日ごろ発売)。その創刊のときに……? どこかで、毛塚さんの作品をご覧になったんですか。

 

担当編集 同人誌とか、もっといろいろやっていた頃から、毛塚さんの作品は読んでいて、それで、『青騎士』創刊するので、描きませんか?という話をさせてもらいました。

 

毛塚 同人誌でずっと描いていたんですけど……レコードや音楽関連のテーマであっても、いろいろな視点であったり、舞台・時代など、描きたいものがちょっとずつ多くなっていったんですね。いっぱい描きたいことがあるっていう話をして、じゃあ、オムニバス形式でやったらいいんじゃない?っていう話になって、それで、やりますって。

 

担当編集 それが2020年の9月か10月頃でして、毛塚さんのなかに、なにかしらこう、もっと新しい表現をっていうのが生まれてきていたかなというタイミングだったと思いますね。

 

―― それで、『音盤紀行』の1巻が出たあとに、同人誌時代の作品を『音街レコード』として、まとめて単行本にしたということですね。

 

毛塚 同人誌だと一番多くて、250冊くらい……。それが、今では何千と読んでもらえるし、『音街レコード』も単行本にしたことで、読者さんが広がった感じはありますね。

(『音街レコード』A面「GET BACK」より。初めてレコ―ド屋さんに来た高校生たち)

 

毛塚 何年も前に描いたものを(単行本として)読んでもらうのは恥ずかしいっていうのもあったし(笑)、それでどんな感想をもらえるんだろうと思っていたんですけど、けっこう好評で。同じような経験、体験を語ってくれる人が多かったですね。ぼくは東京生まれなんで、同人誌でやっていると、同人即売会に来る人ばかりにしか読んでもらえないんですけど、単行本になって全国の書店に配本されると、すごく遠い地域の人も、似たような経験をしてきたんだっていうことを肌で感じられて、それがすごくおもしろかったですね。東京はまだレコード屋自体も文化として残っているんですけど、地方に行くと、町のレコード屋というのは数を減らしていて、ほとんどないようなところも多いので……。

 

―― 確かにそうですね。レコードも本も、ネットじゃないと買えないっていう地域もありますよね。

 

毛塚 でも、そういう地域でも、過去には、レコード店があって、そこでお小遣いためて買いにいったとか、洋楽のレコードをよく買っていたとか、いろんな街の、いろんなレコード体験があるんだなっていうことを、『音街レコード』の感想が届いたことで、実感として知ることができたんですね。それで、ストーリーとしても、いろいろな場所や国での音楽っていう体験のしかたというのを描いてみたいなっていうのがありました。

 

―― そういう気づきやひらめきが、『音街』と『音盤』の間にあるわけですね。

 

毛塚 音楽を聴かないで育つって、普通、考えにくいから、誰もが、どこかで音楽体験はしていたわけですよね。レコードに触れるっていうのは現代では少ないかもしれないんですけど。そう考えたときに、音楽っていう広いところから始まって、レコードやCD、ラジオ……メディアの話ですね。音楽の記録媒体として、時代がそうしたものをどう扱ってきたか、ということに興味ありますね。たとえば、80年代に入るとCDが出てきて、メディアが移り変わる、古いメディアは淘汰されていく。でも社会の移り変わりと、それとはまた別次元の、個人の体験という側面もあるので、それをどう描くかというところはおもしろいかな、って考えてますね。マンガで描くときには、個人の体験、個人の話で音楽を語りたい、キャラクターがいて、ストーリーがあってっていうのが好きなので、そこは崩さないで、描きたいなって思います。

 


★マンガでしか表現できない、「想像の音」

―― そういうことでいうと、私はレコードの時代が長かったので、CDが出てきたときに、絶対にあんなもの聴くもんか!(笑)って思ってたんです。

 

毛塚 (笑)

 

―― レコード針を下ろす、あの力の加減だったり、下りたときの、プッていう音だったり、レコードジャケットも、レコードの音も、そういうのが好きだったので、CDなんてと思っていたんですけど、あるとき、渋谷の東急東横店に入っていたレコード屋さんに行ったら、全部、CDになっていて……町のレコード屋さんじゃなくて、チェーン店の、しかも東急東横店という、わりと庶民的なデパートのレコード屋さんが、全部CDになってしまって、「あぁ、もう、レコードの時代は終わったんだ……」と思って観念して、CDプレイヤーを買ったんです。

 

毛塚 明確にあるわけですね、メディアが変わった瞬間の……。

 

―― そうなんです。だから、『音盤紀行』も『音街レコード』も、本当に懐かしく読むんですけど、でも、毛塚さんのマンガが懐古趣味ではないのが、すごいなと思ったんです。主要な登場人物が、若い女の子だったりするのもあるとは思うんですけど、周辺には、おじさん世代の人も、マニアックな人もいるのに、そこはいいな、と。

 

毛塚 ぼくはけっこう懐古趣味ですけど、自分がそうだからこそ、広い読者に受け入れてもらうために、むしろ逆に、懐古に訴えるのはやめようっていうような話を(担当編集さんと)しました。

 

―― 実在の曲やバンドは、ほぼ出てこないですよね。

 

担当編集 そうですね。どこかで出てくるのかなとほのめかすのと、本当にその知識がないとわからないっていうのは、全然違う……。わからないってなった瞬間に、読み進められなくなりますよね。心が離れてしまうというか。

 

毛塚 そこは気をつけようと思ってますね。基本的には、音は想像してほしいというのはあって、音のないマンガだからこそできることかな、と。想像の音でストーリーを読んでくれる。映画やアニメーションだと、音がついているので、そうなると、その音がイメージとして定まってしまうんですね。そこを、どう曖昧にできるかっていうところが、マンガ表現のいいところかなって思いますね。

(『音盤紀行』2巻「ロードサイド・ピッカーズ」より)

 

―― 想像の音! 確かに自分の感性で読んでいますね。自分のなかで知っている音楽、ミュージシャンとか。こんな感じの音楽なのかなぁ、ここに出てくる世界的なバンドって、実は、あのバンドがモデルじゃないのかな、とかね。私が思い浮かべるのと、もっと若い、30代くらいの男性だったり、20代の女の子だったりすると、ぜんぜん違うはずですね。あ、だから、そういうことか……。なんというか、毛塚さんの表現は、そのあたりのバランスがいいんでしょうね。あと、いいなと思うのが、登場人物がみんな、音楽が大好きだっていうことが、すごく伝わってくるところ。とてもピュアですよね。「好きな音楽を聴きたいだけ」という真剣な思いや、気になる音楽をとことん調べて行動してみたり……。

 

担当編集 毛塚さん本人の感じが出てる、ってことですかね(笑)。

 

毛塚 音楽に対しては、行動力が……ひとつギアがあがるっていうか(笑)。


―― そうなんですねー!(笑)


(『音盤紀行』2巻「探訪デイ・トリッパー」より。レコードのことになると行動的になる暦実さん。モデルはもしや……w)

 

担当編集 そういう音楽の……あれですよね。いい部分でもあり、めんどくさい部分でもありっていう(笑)。

 

毛塚 ぼくはその2つを、どっちも描きたいんです。めんどくさい部分もあるんだよな、こいつはっていう。そういうのを、読者の人が、自分もそういうとこあるよね、っていうのを楽しんでくれれば、冥利に尽きますね。自分が男だから、そういうのを男にやらせると、めんどくせーなって思っちゃうけど(笑)。主人公に女の子が多いのは、そういう、1枚のレコードのことで、とことん、どこまでも調べに行く、みたいなことを、女の子ががんばっているのはかわいくていいな、っていうことですね。めんどくさい音楽ファンのおじさんたちが元気にやってる姿は、個人的にはいいなって思うんですけど(笑)。

 

―― 主人公の女の子のまわりには、ちょっと年上の店長さんだったり、ちょっとアヤシイ(笑)こだわりの強い人、近くの音楽好きの人だったり、マニアな音楽ファンのおじさんが、うまく絡んできますよね。それがなかなかいい味を出してる。


(『音盤紀行』1巻「密盤屋の夜」より。表向きは普通のレコード店の店長が、実は……。ふたりの関係性も優しくて、いい感じだし、やっとの思いで手に入れたレコードを聴くラナの表情も、とてもいい)

 

毛塚 店長とかはそうですね……ぼくが、そういう人と出会う場所がレコード屋なんで、店の人だったり、店に来るお客さんだったり、まぁ、いろんな人がいます。そういう音楽が大好きな人がたくさんいて、いまの音楽文化ができているんだなって思いますね。そういう音楽ファンの人はなかなか表には出てこなくて、店でしか目撃しないんですけど……。

 

 

★音楽はガラパゴス的変化をする!?

―― 『音盤紀行』の話はどれも好きなんですけど、中でも特に気に入っているのは、70年代フィリピンの話(「The Staggs Invasion」)なんです。

 

毛塚 実は、フィリピンには行ったことはないんですけど、でも、アジアのなかではアメリカの影響が濃い国だから、洋楽もだいぶ入り込んでいるんじゃないかな、そういうところに海外のバンドが足を踏み入れたら、どんなことが起こるんだろうっていうのはあって、実際に行ったことはないんですけど、想像で描き始めたんです。同じ音楽を他の国の人が聴くことによる反応……イギリスやアメリカの音楽が他の国でも聴かれていって、日本もそうだったと思うんですけど、それに対していろんなものが生まれてくるじゃないですか。日本だとグループサウンズとかもそうですし。海外の音楽をそのまま直接影響受けているというのではなくて、その国独自の、進化の仕方をするっていうのが、動物の進化みたいな感じで……。

 

―― あぁ、大陸が分かれてその先で、みたいな。

 

毛塚 そう、ガラパゴス的な進化をするんじゃないか、音楽っておもしろいなぁって。

 

―― アメリカのブルースやフォークソングが、日本のブルースやフォークになりっていうことですよね。そのまま入ってくるんじゃなくて、日本の精神性とか、文化とか。

 

毛塚 国によって政治の事情や社会背景みたいなものがまったく違うから、アメリカのフォークは人種や制度に対するものが多いですけど、日本のフォークになったら、やっぱり違ってくるわけで。日本人が日本の生活を歌った、その曲が、その時代を表す、ひとつの記録として残っているみたいなことがおもしろいですよね。

 

―― そうですねー。時代を表しますよね。でも固定されるわけでもなくて、いろいろな国で、いろいろな時代で、自在な感じ。フィリピンの話では、主人公の女の子のプライドもすごく好きです。フィリピンにツアーでまわってきたのは、世界的に有名なグループっていう設定ですよね。

 

毛塚 はい、そうですね。ミュージシャンに対する黄色い声援っていうか、アイドル性みたいなものは昔からあると思うんですけど、そういうのではない、芯を持った女の子っていいなと思っていて。ギターとか、楽器をやる人は、自分は負けないぞっていうプライドを持って、やっている人がかっこいいなというのがあるので。

 

―― なんか、最初は「負けないぞ」と思っているこの主人公が、演奏していくにつれて、だんだん変わってくる様子が、すごくいいなと思って。ミュージシャンたちも、はじめは、おもちゃみたいなギターだなとか、チープな音だとか言っているのに、一緒に演奏していくうちに、チカラのある音だなっていう感じ方になっていく……。最初はたぶんバラバラだった音が、重なってくる感じが伝わってくるというか、音が聞こえてくるようでした。

 

毛塚 音楽の演奏シーンを描くのはとても難しいところで……。音楽のマンガっていっぱいあって、描写もすごくうまい。ぼくは、友だちと遊びでバンドをやったことがある程度で、音楽は聴く専門だったから、ぼくに描けるかなっていう気持ちもあったんですけど、でもここで、一回やってみようと思って、それで描いてみたんです。だから、評価してくださるのは嬉しいんですけど……なかなか難しいっす。これからもずっと勉強だな、っていうところですね。

(『音盤紀行』1巻「The Staggs Invasion」より)


            ☆~°~☆~°~☆~°~☆~°~☆


そう言われれば、他の作品では、音楽にまつわるストーリーは「レコードで聴く」ことで展開していく作品が多い。フィリピンが舞台の作品「The Staggs Invasion」では、ひとつひとつの楽器の音が重なって、音楽ができていく過程がとてもよくて、たぶんとてもかっこいい音楽が奏でられているんだろうなというのが、誌面から伝わってきて、とてもよかった。

そして、「あぁ、いいな、この話はどうやって終わるんだろう~」と思いながら読んでいたら、このときの演奏は、少女から“仙人”と呼ばれる、音楽の師匠的存在の男性によってこっそり録音されていて、海賊版レコードとなって、第1話「追想レコード」の舞台である、現代日本のミヤマレコードの棚におさまっていた。「おぉ~、そうきたか! やられたなぁ~」と、なんとも心地のよい、期待の裏切られ感だった。

このレコードは、フィリピンの少女の手を離れたあと、誰の手に渡って、どんなふうに時空を旅して、聴き継がれてきたんだろう。想像すると、楽しい。

さて、毛塚了一朗インタビュー2回目の来月では、そんな「継がれていく音楽」についてお話を伺います。また、これまでにWebVANDAでもご紹介しているIKKUBARUさんのアルバムジャケット画ジャケット画等のお話も! 来月もぜひお楽しみに。

 


☆毛塚了一郎(けづか・りょういちろう)さん 自画像とプロフィール

1990年東京都生まれ。漫画誌『青騎士』創刊号でデビューし、現在も『音盤紀行』を連載中。好きなものはレコードとレトロ建築。



大泉洋子プロフィール

フリーのライター・編集者。OLを経て1991年からフリーランス。下北沢や世田谷区のタウン誌、雑誌『アニメージュ』のライター、『特命リサーチ200X』『知ってるつもり?!』などテレビ番組のリサーチャーとして活動後、いったん休業し、2014年からライター・編集。ライター業では『よくわかる多肉植物』『美しすぎるネコ科図鑑』『樹木図鑑』など図鑑系を中心に執筆。編集した主な書籍に『「昭和」のかたりべ 日本再建に励んだ「ものづくり」産業史』『今日、不可能でも 明日可能になる。』など。編著書に『音楽ライター下村誠アンソロジー永遠の無垢』がある。



2024年5月19日日曜日

コンピレーション:『16 SONGS OF HIROBUMI SUZUKI - DON’T TRUST OVER 70 -』


 本日5月19日に70歳の誕生日を迎えたムーンライダーズの鈴木博文をリスペクトするミュージシャン達による、トリビュート・カバー・アルバム『16 SONGS OF HIROBUMI SUZUKI - DON’T TRUST OVER 70 -』(NARISU COMPACT DISC/NRSD-30130/AICP-040)がリリースされる。
 一般発売日は6月25日だが、下記の3店舗では本日付で先行発売されている。

●ペット・サウンズ・レコード:https://www.petsounds.co.jp/
       ●パイドパイパーハウス:https://twitter.com/PiedPiperHouse
    ●ディスクユニオン:https://diskunion.net/ 


 本作は先月弊サイトでも紹介した6月1日開催予定の”鈴木博文 古希記念 ライブ「Wan-Gan King 70th Anniversary」” 出演ミュージシャン達を中心として参加し、このライブのバンマスを務めるシンガーソングライターの猪爪東風(ayU tokiO)と、なりすレコード主宰の平澤直孝により共同プロデュースされている。 
 収録曲とカバー・ミュージシャン、オリジナル収録アルバムを下記に挙げるので、各参加ミュージシャンの選曲センスやアレンジを想像しながら入手して聴いて欲しい。
              

1.大寒町 / あがた森魚 with 秘密のミーニーズ 
 (あがた森魚『噫無情 (レ・ミゼラブル)』1974年)
2.工場と微笑 / PORTABLE ROCK
 (ムーンライダーズ『マニア・マニエラ』1982年)
3.MR.SUNSHINE 3x7x7x6 Edit / 3776
 (リサ SG『私の恋は自由型 / MR.SUNSHINE』1983年)
4.夢見るジュリア / MUSEMENT(ミオ・フー『Mio Fou』1984年)
5.ウルフはウルフ / カーネーション 
 (ムーンライダーズ 『アニマル・インデックス』1985年)
6.駅は今、朝の中 / XOXO EXTREME
 (ムーンライダーズ 『アニマル・インデックス』1985年)
7.ボクハナク / 本日休演 
 (ムーンライダーズ 『ドント・トラスト・オーバー・サーティー』1986年)
8.Kucha-Kucha / GRANDFATHERS(鈴木博文『Wan-Gan King』1987年)
9.Fence / やなぎさわまちこ(鈴木博文『Wan-Gan King』1987年)
10.Early Morning Dead / 佐藤優介(鈴木博文『Wan-Gan King』1987年)
11.どん底人生 / ayU tokiO(鈴木博文『どん底天使』1988年)
12.ゴンドラ / 青木孝明(鈴木博文『無敵の人』1989年)
13.穴 / スカート(鈴木博文『石鹸』1990年)
14.今日も冷たい雨が / 加藤千晶&鳥羽修(鈴木博文『孔雀』1995年)
15.ぼくは幸せだった / emma mizuno(ムーンライダーズ 『月面賛歌』1988年)
16.くれない埠頭 / Bright Young & Old Wan-Gan Workers 
  (ムーンライダーズ 『青空百景』1982年)


鈴木博文(ムーンライダーズ)カヴァー・アルバム
「16 SONGS OF HIROBUMI SUZUKI」トレーラー

 ここでは先月マスタリングしたばかりの本作音源を入手し、80年代にライダーズを愛聴していた筆者が収録曲の中から気になった曲を解説していく。
 冒頭の「大寒町」は、オリジナル提供先のあがた森魚が取り上げた再演で、アレンジと演奏には今年1月にセカンド・フルアルバム『Our new town』をリリースした秘密のミーニーズが参加している。鈴木にとって音楽活動最初期の提供曲で、詞曲共に完成度が高く、最高傑作候補の一曲ではないだろうか。ここではイントロからミーニーズの淡路と渡辺によるスキャットから始まり、本編でもこのコーラスが活かされていく。メイン・ボーカルに呼応する淡路のサイド・ボーカル、間奏の渡辺によるペダルスチールと青木のエレキ・ギターのフレーズなど聴きどころが多く、いきなりクライマックスという感じだ。
 続く「工場と微笑」は、ムーンライダーズの問題作『マニア・マニエラ』収録曲でファンにも人気が高い。オリジナルは当時最先端のシーケンサーだったMC4と生楽器を融合させた独特なグルーヴで、武川雅寛によるジプシー・スタイルのヴァイオリンとユニゾンする複数のエレキ・ギターのリフなど唯一無二のサウンドだった。カバーしたのは再結成したPORTABLE ROCKで、彼らはソロ・シンガーとしてデビューした野宮真貴と、バックバンドのメンバーだったギターの鈴木智文とベースの中原信雄の3名で1982年に結成され86年には解散した短命のバンドだが、ムーンライダーズのリーダーで鈴木の兄、慶一のプロデュースによる83年のコンピレーション・アルバム『Bright Young Aquarium Workers (陽気な若き水族館員たち)』に参加し、同作でエンジニアを務めた鈴木から知己を得ており、その後の各メンバーの活躍振りはファンの知るところだろう。ここではオリジナルのサウンドをライトに解釈し、コンボ・オルガンをフューチャーして英国のモッズビート~パブロック風に仕上げている。90年にピチカート・ファイヴ3代目ボーカリストとなり渋谷系の顔となった野宮にとっては、今回のトリビュート企画による再結成レコーディング音源は、彼女にとって貴重な音源になっただろう。 

 政風会(1986年~)というユニットを鈴木と組んで繋がりが深い直枝政広が率いるカーネーションは、「ウルフはウルフ」(『アニマル・インデックス』収録1985年)を取り上げている。オリジナルは変則ビートの抒情的ニューウェイヴ・サウンドだったが、ここでは90年代中期のオルタナティヴ・ロックの色濃いサウンドになっている。超音楽マニアの直江のセンスの引き出しは、カーネーションの諸作でも披露されているが、現メンバーの大田譲のベースとコーラス以外は、ボーカルとギターからプログラミングからミックスまで自身で担当する拘っている。
 一転するが同じ『アニマル・インデックス』収録で屈指の名曲「駅は今、朝の中」は、なんとプログレッシヴ・アイドルグループのXOXO EXTREME(キス・アンド・ハグ・エクストリーム)が取り上げている。弊サイトで幾度か紹介したパブロック・アイドルの一色萌(ひいろ もえ)が所属しており、現在は5名で構成され前身グループxoxo(Kiss&Hug)(キス・アンド・ハグ)からの活動歴は9年になる。ここでは曲頭でもあるサビ1をメンバー全員でユニゾン、サビ2やヴァースをソロで歌唱している。各メンバーの歌唱スタイルの違いが分かって楽しめる。オリジナルのアレンジを現代的に解釈したサウンドは、全てのバックトラックの演奏とプログラミング、ミックスまで彼女達が所属するレーベル、Twelve-Notes代表の大嶋尚之が自ら手掛けている。

 「ボクハナク」(『ドント・トラスト・オーバー・サーティー』収録1986年)は昨年12月にリリースされた、なんちゃらアイドルのカバー・アルバム『Sentimental Jukebox』で取り上げたばかりで作者の鈴木も参加して話題になったが、本作では京都府出身のロックバンド“本日休演”がカバーしている。リーダーでボーカル兼ギターの岩出拓十郎は、以前弊サイトで高評価していたツチヤニボンドの準メンバーで、新鋭シンガーソングライター伊藤尚毅のプロデューサーとしても注目されている。ここではアコースティックギターと複数のエレキ・ギターを重ねたベーシック・トラックに、無国籍なパーカッションや深いリバーブを効かせたメンバー3名によるコーラスをダビングし独自の音像をして、オタクのための失恋ソングをよりオルタナティブに仕上げてくれた。
 ラストの「くれない埠頭」(『青空百景』収録1982年)は、鈴木博文 古希記念 ライブ「Wan-Gan King 70th Anniversary」のバンドメンバーによる“Bright Young & Old Wan-Gan Workers”名義でカバーされている。アレンジも担当した本作共同プロデューサーの猪爪東風を中心に、現ムーンライダーズのドラマーで音楽プロデューサーの夏秋文尚、カーネーションのベーシストの大田譲、同バンドの元ギタリストの鳥羽修、シンガーソングライターのやなぎさわまちこ、更にライダーズの準メンバーでキーボーディストの佐藤優介もシンセサイザー(対位法のオブリガート・ソロだろう)で参加している。リードボーカルは全メンバーでパート毎に担当し、“Sitting on the Highway”のリフレインなどコーラスは猪爪とやなぎさわが担当している。音数少ない空間を活かした音響系サウンドに各自のボーカルがフューチャーされる愛溢れるカバーで、リアルタイムにこの曲を10代前半で愛聴していた筆者も感動してしまった。



【関連ライブイベント情報】
鈴木博文 古希記念 ライブ 
「Wan-Gan King 70th Anniversary」
2024年6月1日 (土) 
open 17 : 00 / start 18 : 00
新代田 FEVER 

■出 演
鈴木博文
バンドメンバー : 
gt/etc 猪爪東風
ba 大田譲
gt 鳥羽修
dr 夏秋文尚
key やなぎさわまちこ

ゲスト: 青山陽一 あがた森魚 emma 加藤千晶 直枝政広

■チケット 前売り ¥7000 / 当日 ¥7500 +1d ¥600 (お土産付き) 
※チケット前売り予約は予定枚数を終了しているので、
当日券について会場に問い合わせて欲しい。

 ■問い合わせ
 新代田 FEVER
03-6304-7899


鈴木博文ベストソング★WebVANDA管理人選


(テキスト:ウチタカヒデ


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2024年5月15日水曜日

The Pen Friend Club:『Back In The Pen Friend Club』

 
『Back In The Pen Friend Club』
(PENPAL RECORDS/PPRD-0006)


The Pen Friend Club (ザ・ペンフレンドクラブ) 

【メンバー】
平川雄一 (Gt, Cho)
Niina (Vo)
西岡利恵 (Ba, Cho)
祥雲貴行 (Dr)
中川ユミ (Glo)
リカ (A, Gt, Cho)
そい (Key, Cho)
大谷英沙子 (Sax) ※現在休団中


 こんにちは、ザ・ペンフレンドクラブのリーダー、平川雄一です。今回は202451日に発売されたザ・ペンフレンドクラブの9thアルバム『Back In The Pen Friend Club』についてメンバー達がバンドやアルバムに関する設問に答える、という形で記事にさせて頂きました。僕自身も答えております。ではどうぞ。

Niina加入から1年ですが、ご感想をお願いします。


◎平川:Niinaに最初に出会ったのが2022年の7月。翌年20233月に加入。4月に初ライブ。それ以降数々のライブとレコーディングをこなし、20245月に本作9thアルバム『Back In The Pen Friend Club』 完成、発売。

ペンクラにとってもNiinaにとっても怒涛の1年 (1年半だったと思います。その圧倒的な才能と魅力でペンクラというバンドに変革をもたらしました。これからも更にペンクラは変化を見せていくことになると思います。どんなふうになるか僕自身も楽しみでしょうがないです。普段のNiinaは面白くていつもみんなを笑わせてくれる、めっちゃおもろい最高な奴です。


Niina入ってから、もう1年もたったと思えないくらい楽しい経験を色々してきました!バンドとのライブも沢山できたのはもちろんですけど、バンドメンバーと仲を深めることができてとても嬉しいです。仲のいい人達と自分の好きなことがこんなレベルまでできるなんて最高です!1年でこんなにできるなら、これからが益々楽しみです!

 

西岡:まだ1年なのかと考えるとちょっとびっくりするくらい変化した気がします。Niinaの加入が決まった頃、みんなで喫茶店に行ったんです。その時Niinaと平川であれもやろう、これもやろうってカバー候補をどんどん出しあってて、これはとんでもなく忙しくなりそうだなと笑。話にあがる曲は私は知らないのが多かったけど、モータウンとか、これまでのペンクラではあがってこなかったような内容でした。レパートリーも大きく変わって、Niinaの存在はペンフレンドクラブの印象も大きく変えたんじゃないかと思います。

 

祥雲:音楽に対してオープンで純粋な愛のあるNiina。一緒に演奏していると色々刺激になることがあります。まだ二歳の娘さんをときどき練習に連れてくるので雰囲気が和んでありがたいです。

 

中川:キー変更、ライブ、レコーディングと常に走り続けているような状態だったのでもう1年という感じです。

 

リカ:あっという間な1年で大変さもあったけど、とても楽しかったなぁという印象が大きいです。Niinaは本当にパワフルで、しっかりした部分もあるし、子供みたいに無邪気にはしゃいでる時もあってかわいいです。みんなとも直ぐに仲良くなって、なんだかNiinaとリーダーが妙に馬が合う感じが面白くて、2人でふざけ合ってる姿を見ると微笑ましいです。


そい:Niinaが加入してくれて本当に良かったなあと思っています。Niinaの歌声が大好きだから演奏するのがいつも楽しくて、あっという間にもう1年経ったのか〜という感じです!Niinaのパワフルでポジティブな姿に救われることも多いです。ペンフレンドクラブがより元気に突き進んで行ける気がしてこれからも楽しみ!!



Back In The Pen Friend Club』全曲試聴トレーラー

・本作『Back In The Pen Friend Club』レコーディングで印象に残っている曲とエピソードを語ってください。※複数可


平川:

①クラウドファンディングの返礼品で「ハンドクラップで録音に参加できる権」というのがあって、購入された方々とブースに入って一緒にハンドクラップをレコーディングしたんですが、リズムがズレる場面があると「ちゃんと合わせる!全身でリズムに乗りながら叩く!」等、怒鳴ってしまったんですね、、、。高額なお金を出してくれた大切な方々なのに。後で考えたら大変申し訳なくて。お陰でいいハンドクラップが録れました。

 

②「Let It Shine」「The Girl From Greenwich Village」では僕がリードボーカルなのですが、ネイティブの英語を話せるNiinaに僕の英語の発音の悪い所を全て挙げて、改善策を教えてもらって再録音したこと。


③「Can't Take My Eyes Off You」ではフランキー・ヴァリの溜めた歌いっぷりに寄せるために一度録ったボーカルテイクを破棄し、後日、泣きの再録音を願い出たところNiinaが快諾してくれたこと。

 

Niina印象に残るエピソードは2回目のレコーディングセッションにクラウドファンディングでファンの方々が聴きに来てくださって、曲のクラップを一緒にレコーディングした時です。その時の平川さんが、みんなを完璧に合わせるように、凄い熱さでリードしてるところがとても面白かったです!真剣で真面目な平川さん、緊張してて頑張ってるファンの方々、リズム完璧なさくもくんのニヤケを見てて、面白いシチュエーションについ笑ってしまったのがいい思い出になってます!

レコーディングの印象に残った曲は「Can't Take My Eyes Off You」です!最初はスタジオでレコーディングしましたが、あとから少し歌い方の変更があって、また録り直すことになりました。それは鍵盤のそいさんの家で録ることになり、凄く楽な空間で録れました。

レコーディングの全てのサンプルが集まったのはそいさんの家が最後だったので、お疲れ様会としてみんなで飲みながらジャムセッションしたのが一番印象に残ります。

 

西岡:ベースのレコーディングは自宅でやってるんですけど、「Let It Shine」や「Alfie」を1人でじっくり聴きながら弾いてると曲の美しさがじわじわと再認識できた感じです。


祥雲:「Hey There Lonely Boy」

三拍子の曲をやることが少ないので新鮮でした。力を抜いてオリジナルのアダルトな雰囲気に近づけることを意識しました。

 

中川:Alfie」です。いつもおちゃらけてばかりのNiinaの普段とのギャップに、帰りの電車でもドキドキしていました。

 

リカ:今回のアルバム制作の為に実施したクラウドファンディングの返礼品の中に、購入してくださった方とメンバーと一緒にハンドクラップの録音をするというのがありました。ファンの方と一緒に録音するっていう、こんな特別な機会はなかなか無いことなのでとっても嬉しく楽しかったです。

For Once In My Life」「Let It Shine」「Can't Take My Eyes Off You」「Do You Believe In Magic?」の4曲に収録されています。

 

そい:Can't Take My Eyes Off You」 のピアノのリズムをとるのがなかなか難しくて、ディレクションしてくれる平川さんが全身を使って表現してくれたんですけど、その姿がすごく面白くて。集中しないといけないから笑っちゃいけないけど、他のメンバーがそれを動画で撮影してくれてて、あとで見たらすごく笑いました!

私の家にメンバーが集まって、レコーディングした後は、ごはんをつまみながら楽器を演奏したり歌ったり…そんな中で新しい曲のワンフレーズができちゃったりしたのも楽しかったです!



・本作からリスナー目線で好きな曲とその理由をお願いします。※複数可

 

平川:全部。出来がいい。

 

Niinaこれは何曲かありますね~!個人的に聴いてて気持ちいい曲は 「For Once In My Life」「Do You Believe In Magic?」 と 「The Girl From Greenwich Village」 です。全部ノリがいいって言うのもありますし、「For Once In My Life」のギターソロがめちゃくちゃ好きで、ライブでもソロと一緒に歌いたいくらいテンションがあがります。

Do You Believe in Magic」 もハッピーな感じで最後の Aaaah って言うところが歌うのも、聴くのも好きです。「The Girl From Greenwich Village」 は、正直初めて聴いた時、メロディとかパッと来なかったけど(知らなかった曲だったって言うのがその原因だと思いますが、、)、何回か聴いてから凄く気に入った曲になりました!平川さんの英語発音もめっちゃ良かったので、ライブでいつか聴けるのも楽しみです!

雰囲気が全然違うけど、「Alfie」も好きです!これは曲自体って言うより、小さい頃からお父さんの音楽の影響で一番最初に聞いた60年代のアルバムの最初の曲が「Alfie」でした。まさか自分のアルバムで歌うとは思ってなかったので、お父さんと沢山歌った思い出を含んで好きな曲の一つです!

 

西岡:1曲目 「Got To Get You Into My Life」 の賑やかな感じで始まるのが好きです。Niinaのパワフルな歌声がマッチしててかっこいいし、楽器の重なりも気持ちいい。

平川単独ボーカル曲の 「Let It Shine」 は1人の多彩な声色が心地よく調和してて、いい曲だなあと感じます。

Cant Take My Eyes Off You」 は今のペンクラらしいカバー曲という感じがしてます。

 

祥雲:Hey There Lonely Boy

アダルトな雰囲気が出せたので。

 

中川:For Once In My Life」が楽しい気分になれるのでお気に入りです。

 

リカ:全曲好きなので本当は選べないんですが、なんとか3曲に絞ってみました!


For Once In My Life

自分の中でも大好きだったこの曲を、華やかなペンフレンドクラブらしいサウンドでやっている不思議さと、嬉しさがあります。個人的に前ボーカルのMegumiさんの吹いてくれているフルートの音色がめっちゃお気に入りです。

 

Hey There Lonely Boy

原曲を知らなかったんですがすっかり大好きな曲になり、演奏したらより一層この曲の良さをしみじみと感じる事ができました。胸がキュッとなりますね。Niinaの歌いっぷりが最高!

 

Let It Shine

とってもイイ曲だし、ふぁ〜っと拡がる全ての音像が温かくて聴いていると心がキラキラしてきます。リーダーご自身のソロ作品ももっと作ったらいいのにって、この曲や「The Girl From Greenwich Village」 を聴いて思いました。

 

そい:全部良くて本当に迷ってしまいます。強いていうなら、「Tell Me」ですかね。「Tell Me」のボーカルの歌声はまろやかで優しくて、一言で言うとラブリーな感じ。メロディもボーカルもコーラスも、楽器隊の演奏も、一体になってる感じがすごく好きです。あと今回は平川さんボーカルの曲も2曲入ってて(Let It Shine」 と 「The Girl From Greenwich Village)、平川さんの歌声も実はすごく好きなので、何回も聴いちゃいます!



・本作の魅力を挙げて、アピールしてください。

 

平川:Niinaという新しいボーカルが加入したペンフレンドクラブの、まずは挨拶代わりのアルバムです。スピード感が大事と思ってるので急ピッチで作りましたが、メンバーのお陰で満足できる仕上がりになりました。

いつも応援してくれているファンの方々にもこの場をお借りして感謝を申し上げます。

こんな内容のカバーアルバムを作れるバンドは他にいないと思います。

誇りに思っています。

是非お聴きください。

 

Niina

①ジャケット、可愛くて最高。

②違う音色のペンフレンドクラブ、最高。

③ジャケットの中の写真、最高。

60/70年代の洋楽ジャンルの中でもいろんなジャンルとスタイルの曲が楽しめるアルバム。1つのCD12の楽しみ。最高。

 

西岡:Back In The Pen Friend Club』 は "コロナ禍を経て、また明るく楽しいペンフレンドクラブへ戻る" というコンセプトがあったんですが、ただ戻るだけでなく、これまでとも違う明るさ、楽しさのあるアルバムになってると思います。新しいペンフレンドクラブも楽しんでもらえたら嬉しいです。

 

祥雲:Niinaのエモーショナルな魅力を引き出す構成になっています。またバンドの進化したコーラスワークなども楽しんで下さい。

 

中川:有名な曲が多いので、まだ聴いたことがない、どれから聴けばいいか迷っているというペンクラ初心者にオススメです。

 

リカ:ペンフレンドクラブの新境地もたくさん詰まった、美味しい所だらけなカバーアルバムです!聴いたら力が湧いてくるようなエネルギーに満ち溢れた1枚だと思います☆

 

そい:今回はなんといってもクラウドファンディングによって出来上がったのと、前ボーカルのMegumiのフルート演奏も入っていたりして、皆んなの期待とサポートによって出来上がった作品だと感じています。個人的にはジャケットのカラフルなメンバーの弾けた感じがお気に入りで、ぜひ皆さんのお部屋に飾ってもらいたいと思っています。新ボーカルNiinaを迎えて初めてのアルバム!コーラスも、どんどんレベルアップしてるんじゃないかな(!?)と思います。ぜひたくさん聴いてくださいね!




(テキスト:The Pen Friend Club)



2024年5月4日土曜日

The Beach Boys by The Beach Boys(Genesis Publications 2024)

 本年1月30日Melinda Wilsonが77歳で逝去された。哀悼の意を捧げる。
 2000年代以降、音楽界の伝説Brianの傍らには常にMelindaという存在があった。
 単なる伴侶やビジネスパートナーを超え、彼女は彼の音楽、人生、そして精神を支える光であり、時に影となる複雑な関係を築き上げてきたのだ。
 公私に渡ってブライアンを支え、彼の才能を開花させたMelinda。しかし、その関係は常にスムーズだったわけではない。Brianは躁うつ病などの精神疾患を抱えており、Melindaは彼の世話役や精神的な支柱となることもあった。時には、彼の気分や行動に振り回され、苦悩することもあっただろう。しかし、彼女は決して彼を見捨てず、献身的に愛情を注ぎ続けた。
 Melindaは、Brianにとってかけがえのない存在であり、彼の音楽、ビジネス、そして私生活において重要な役割を果たしてきた。彼女の献身的なサポートと深い愛情が、Brianを支え、彼の人生をより豊かに彩っている。

2024年グラミー賞でもMelindaへの弔意が捧げられた

 Melindaの死から2週間後の2月14日、ロサンゼルス郡上級裁判所へ後見申立てが行われる。申立てはBrianのパブリシストである Jean Sieversとビジネスマネージャーである Lee AnnHardの両名による申立てであった。
 Brian自身のケアにまつわる代理人や後見行為には過去様々な経緯があった代表的なものとしては以下の通りである。


1970年代後半: Stan LoveがBrianの身上監護のためにWilson家に派遣される。
後年StanはDennisに対する住居侵入等の不始末やWilson家に対する利益相反行為で放逐される。

1989年9月: Eugene Landyのコントロール下にあったBrianが、Irving Musicらを相手にSea Of Tunes売却に関する訴訟を起こす。

1990年: StanはBrianに対する後見申立てを行い、Stanの後見は認められなかったが主張の一部は裁判所で認められる。

1991年: 裁判所は、LandyとBrian間の個人的および経済的関係の切断を命じる。

1992年:

3月9日: Brianが精神的に無能力であると法廷で判断された後、Jerome Billetが後見人に任命される。

4月: Sea Of Tunesの訴訟は法廷外で和解し、Brianは1000万ドルを受け取る。

8月: MikeがBrianに対して作曲クレジットと報酬の分け前を求め公訴の提起を行う。

1994年:

12月24日: Mikeは裁判で勝訴し、Brianは500万ドルを支払い、35曲の将来の印税を折半することに同意する。

1995年:

BrianはMelindaとの婚姻後Billetを後見から解任し以後Melindaが後見行為を行う

9月: Brianは、前保佐人となったBilletをMikeとの訴訟での利益相反行為を持って1000万ドルで訴える。

Melindaの死去により後見が終了となるため、今回申立ては必要となるのは自然な流れである、肉親以外のビジネス関係の人物が後見人または​​保佐人に就任するのは一抹の不安があるが、Wilson家側としてはSNSなどを通じて今回の申立てについてはBrian、彼の7人の子供たち(Carnie及びWendyそして養子の五人)、Brianの医師等ケアに関わるスタッフとの慎重な検討と協議の末決定したことである旨主張しているので問題ないと思われる。

筆者の入手した法廷資料から伺われるのは、今回の申立ての目的はBrianに対する全ての権利のコントロールというよりは、今後も在宅ケア中心にBrianが自宅で快適に暮らしていけるための大きな配慮が感じられる。

同資料から

「Wilson氏は、自身の身体的健康、食事、衣服、または住居のための適切な世話を提供することができないため、妻であるWilson夫人が日常生活の世話をしていました。ウィルソン氏は、健康管理のために妻を代理人として指名する事前ケア指示書を持っています。しかし、ウィルソン氏の事前ケア指示書には後継代理人が指名されていませんでした。そのため、Wilson夫人の死去と事前ケア指示書に後継代理人が指名されていないことから、Wilson氏のために保護者が任命される必要があります。」



 とある、事前ケア指示書は自身が意思無能力状態や話すことができなくなった場合にのみ使用するもので、本人が希望する医療における選択肢を周りの人に知らせるための文書である。そして代理人は、本人が意思表示できない場合に、医療に関する代理決定を行うことができる。第二、第三のEugene Landyの跳梁跋扈を許さないための抑止力としては後見申立ては適切な措置と考える。Melinda死後の適切な代理人選定までの後見行為ということを信じてBrianを見守っていこう。


閑話休題と、いうか前置きが長くなってしまったが

 2024年4月刊行された本書は前年に500部限定でメンバーのサイン入りで販売されている。
普及版としての出来はというと、こちらも公式バイオ本だけあって装丁や品質のクリティも非常に高い。サイズ自体30cmx25cmx4cmで4キロ弱もありパラパラ軽く紐解くには程遠い重厚感がある。そもそも発行元のGenesis publication社はミュージシャン/バンド系の豪華本を得意としてきたので、さもありなんといった風情である。

CDと比べても圧倒的な大きさ

 本書の監修はIconic Brothers IP LLCとBrother Record両名で行われている。
 Iconicは音楽マネジメント界の大立者Irving Azoffの傘下にあるIconic Artist Groupと繋がりがある。同社はミュージシャン/バンド系の知的財産及びブランディング管理に特化した企業だ。同社は近年活発にミュージシャン/バンド系の知的財産の購入を行い、Bryan Ferry,Rod Stewart,Graham Nash,Cher,Joe Cocker,David Crosbyなど多くの顧客を持ち、同社へ知的財産や原盤権など様々な権利・ブランドの売買が行われている。我らがThe Beach Boysも顧客の1人だ、同社は2021年にBrother Recordの過半数議決権相当の株式を購入しており資本を通じてAzoffの影響下にある。Azoffは多くのレーベルの運営も行っておりその中のGiantからはBrianのソロ作「Imagination」がリリースされている。Giantには当時、今回Brianに関する後見申立を行った人物のうちの一人であるJean Sieversがおり、以降のBrianのソロ作でも積極的にサポートしていくことになる
 本書の構成は編年体で出生から時系列に時代ごとの出来事が編纂されているが編集方針としてオリジナルメンバー存命期にフォーカスしたため1980年までの事績を対象としている。


序文はBrianだ、「共同創業者」の顔を立てて
Mikeの御真影も掲載


こういったレア写真が大判で
これでもかと出てくるのが本書のいいところ


Surfer Girlの手書き歌詞は珍しい


これでもかと出てくるのは素敵じゃないか?


Brian邸のステンドグラスはもちろんあのジャケットの.....


 大半の事績や画像は既出の物で数ページおきに初出の事実などが現れ、飽きさせない内容となっている。しかし編者Howie Edelsonによる文章はビジネスライクというよりThe Beach Boysに寄り添う内容となっている。Howieは過去「Sail On Sailor」「Feel Flows」のライナーを担当しているから信頼性の点では折り紙付きだ。参考にしたテキスト群については各書のつぎはぎではなく、Alan Boysがかつて「Endless Harmony」作成時に行ったインタビュー等を基盤としている。ただし、決定的な研究書を求める御仁には期待外れかもしれない。むしろ「終活本」としての側面が強いので愛蔵版としてはふさわしい内容だ。