2024年4月29日月曜日

鈴木博文 古希記念 ライブ 「Wan-Gan King 70th Anniversary」


 今年5/19に70歳の誕生日を迎える鈴木博文(ムーンライダーズ)の古希を祝う、鈴木博文 古希記念 ライブ「Wan-Gan King 70th Anniversary」が6月1日 (土)に開催される。
 
 この記念すべきライブでは、博文氏の14thアルバム『どう?』(METROTRON NOTERON-1009/2017年)のプロデュースを手掛けた、シンガーソングライターの猪爪東風(ayU tokiO)がバンマスを務め、現ムーンライダーズのドラマーで、セッション・ドラマーや音楽プロデューサー、エンジニアとしても活躍している夏秋文尚をはじめ、カーネーションのベーシストの大田譲、同バンドの元ギタリストの鳥羽修、そしてayU tokiOのサポート・キーボーディストでシンガーソングライターのやなぎさわまちこがバンドメンバーとして参加している。
 またゲスト陣に、青山陽一、あがた森魚、emma、加藤千晶、直枝政広(カーネーション)(50音順)を迎え、彼のキャリアを総括する新旧の縁あるミュージシャンが一堂に会することでも注目されている。
 なお掲載日の時点でチケット予約は予定枚数を終了しているので、当日券について会場に事前チェックして欲しい。


鈴木博文 古希記念 ライブ 
「Wan-Gan King 70th Anniversary」
 2024年6月1日 (土) 
open 17 : 00 / start 18 : 00
新代田 FEVER

■出 演
鈴木博文
バンドメンバー : 
gt/etc 猪爪東風
ba 大田譲
gt 鳥羽修
dr 夏秋文尚
key やなぎさわまちこ
ゲスト: 青山陽一, あがた森魚, emma, 加藤千晶, 直枝政広

■チケット 前売り ¥7000 / 当日 ¥7500 +1d ¥600 (お土産付き)
■チケット取り扱い(4/6 AM10時より発売開始)

 ■問い合わせ
新代田 FEVER
03-6304-7899 


 昨年12月に紹介した、なんちゃらアイドルのカバー・アルバム『Sentimental Jukebox』のレビューでも少し触れたが、80年代にライダーズを愛聴していた筆者は、作詞面で鈴木慶一、博文兄弟が描いた唯一無二な詩世界に夢中になった。それは音楽批評文にまでおよび、10代の頃ミュージック・マガジン誌で博文氏が高評価した洋楽アルバムをレコードショップやレンタル・レコード店でチェックするのがルーティンになっていたので、筆者にとっては影響力が大きい。
 折角の機会なので、ここではそんな鈴木博文氏がソングライティングしたベストソングのプレイリストをサブスク化したので紹介する。

鈴木博文ベストソング★WebVANDA管理人選

(テキスト:ウチタカヒデ








2024年4月21日日曜日

Wink Music Service:『Fantastic Girl』


 サリー久保田と高浪慶太郎による拘りのポップ・ユニット、Wink Music Service(ウインクミュージック・サービス/以降WMS)が、今年2月から隔月で7インチ・シングルを3枚リリースするが、その第2弾『Fantastic Girl』(VIVID SOUND/VSEP861)を4月24日にリリースする。カップリングはフランス・ギャルがドイツ語で歌った1968年の「Der Computer Nr.3」のカバーということで取り上げたい。
 本作ではギャルのカバーのシチュエーションからゲスト・ボーカルには、日独ハーフのモデルで13歳という若さのオーバンドルフ凜を招いているのも注目である。 
オーバンドルフ凜

 WMSについては、昨年のデビュー・シングル『ローマでチャオ/ヘンな女の子』(VSEP859/現在廃盤)を筆者(弊サイト管理人)の年間ベストソングに選出したが、第3のメンバーというべき作編曲家の岡田ユミによるアレンジが凝りに凝りまくっていて、そのサウンドも音楽研究家に注目されているのだ。 
 そもそもWMSは、ネオGSムーブメントを牽引したザ・ファントムギフトを皮切りに、近年ではSOLEILからザ・スクーターズなど数多くのバンドに参加するベーシストでプロデューサーのサリー久保田が、ピチカート・ファイヴ解散後に音楽プロデューサー兼作曲家で活動していた高浪慶太郎に「極上のポップ・ミュージックを作ろう」と誘い結成されたユニットからスタートしている。ジャケット・デザインを含めたトータル・プロデュースはサリー久保田が手掛け、高浪の作曲とボーカル、マイクロスターの飯泉裕子の作詞、岡田のアレンジという4名によるサウンド・ラボと考えていいだろう。シングル楽曲ごとにボーカリストを迎えるというスタイルもデビューから崩していない。

Wink Music Service
(左から高浪慶太郎、サリー久保田)

 デビュー・シングル『ローマでチャオ/ヘンな女の子』と今年2月にリリースされた『素直な悪女 c/w ラ・ブーム ~だってMY BOOM IS ME~』(VSEP860 /現在廃盤)では、コロンビア人元プロボクサーの父親と日本人の母親の間に生まれたハイティーンのモデル兼女優、タレントのアンジーひよりを迎えて制作していた。この2枚はノスタルジックなキャビンアテンダントのコスチュームを着用した彼女のジャケット・フォト効果もあり、即ソールドアウトしてしまったという超人気盤だった。
 
 そんな前作にも少し触れるが、「素直な悪女」は高浪と飯泉のオリジナル曲で、岡田によるホーン・アレンジにはフランスの巨匠ミッシェル・ルグランの「la pasionaria」(『Le Jazz Grand』収録/1979年)からの影響が強く、ルグランが作編曲した緻密で構造的なスコアを米東海岸のミュージシャンがプレイしたというヨーロピアン・ジャズの匂いがするクールでハードエッジなリズムを持つポップスだ。DJ諸兄はレコードバックに入れておくべき1曲だろう。 
 カップリングの「ラ・ブーム ~だってMY BOOM IS ME~」は、シンガーソングライターのカジヒデキがブリッジ解散後の1997年にソロでメジャー・デビューしたシングル曲で、渋谷系アーティストとして一般にもその名を知らしめたヒット曲である。セカンド・バースからサビに掛けての広範囲をXTCの「Mayor Of Simpleton」(『Oranges & Lemons』収録/1989年)からの影響を受けていた。ここでのカバー・ヴァージョンは、全編的にディスコ・ビートのダンス・ミュージックにモディファイされており、イントロにはBeckの「The New Pollution」(『Odelay』収録/1997年)のそれを引用していてマニア心をくすぐる。

『素直な悪女 c/w ラ・ブーム ~だってMY BOOM IS ME~』
/ ゲスト・ボーカル:アンジーひより

 
 ここからは本作の収録曲を解説していく。
 「Fantastic Girl」は、サリーがゲスト・ボーカルのオーバンドルフ凜をイメージして作曲し、飯泉が作詞した書き下ろしの新曲で、ソフトロックとして非常に完成度が高い。編曲クレジットはWMSと岡田の共同名義になっているので、リズムセクションはサリーを中心にヘッドアレンジしているのだろう。ゲスト・ミュージシャンでノーナ・リーヴスのギタリスト、奥田健介のインタープレイが聴きものだ。
 また岡田による上物のアレンジは、筒美京平氏追悼企画で筆者がベストソングに挙げた南沙織の「美しい誤解」(『20才まえ』/ 1973年)に通じる、ピッツィカートのシンコペーションやスラーが効いたストリングス、木管と金管が適材配置されたホーン・セクションとのコントラストが美しく、転調やモンド・パートの挿入など展開が複雑で聴き飽きさせない。ゲスト・ボーカルのオーバンドルフの幼さが残るボーカルは高浪が終始サポートしていて微笑ましく、60年代後期のソフトロックの空気さえ感じさせる。なお間奏の英語と独語のモノローグは、オーバンドルフ自身が担当していて非凡さを感じさせる。

 
Wink Music Service / Fantastic Girl - Der Computer Nr.3
2024/4/24 Release 

 カップリングの「Der Computer Nr.3」は、ユーロ・ガールポップの最高峰とされるフランス・ギャル(France Gall 本名:Isabelle Geneviève Marie Anne Gall)がドイツ語で歌った1968年作のカバーで、ドイツ人作詞家兼プロデューサーのGeorg Buschorと、彼とのコンビで多くのヒット曲を生み出した作曲家のChristian Bruhnのソングライティングによる曲だ。1968年7月4日にドイツのポピュラー・ミュージック・コンクール“Deutscher Schlager-Wettbewerb”で3位を獲得し、同国のポップス・チャートでも最高24位を記録した。歌詞のテーマはコンピューターによる恋人選びで、登録されたデータベースから相性が合う異性を的確に紹介するという点で、現在の婚活サイトの先祖だろう。
 それはさておき、肝心のサウンドに触れよう。この曲は一聴すれば陽気なバブルガム・ポップスだが、イントロから重要なエレメントとなるリフで牽引する構造はR&Bがルーツである。ホーランド=ドジャー=ホーランドがモータウン専属だった時代(1961年~1967年)にこのパターンを発明したと言って過言ではないと思うが、彼らは古き良きスイング・ジャズやジャイヴ・ミュージックで演奏されたホーン・セクションのフレーズを、当時エレキギターやエレキベースにアダプトしてポピュラー・ミュージックのエレメントとして昇華させたのだ。弊サイト読者にはお馴染みのトニー・マコウレイが作曲した「Love Grows (Where My Rosemary Goes)」(Edison Lighthouse/1970年)から京平先生作曲の「男の子女の子」(郷ひろみ/1972年)、ニューウェイヴ時代にはXTCのコリン・モールディング作の「Life Begins at the Hop」(1979年)などもこの構造でアレンジされているのが理解出来る筈だ。
 ここではオリジナルを踏襲しつつ、よりスムーズなシェイクのリズムを基調とし、肝心のリフはイントロでサリーのベースから奥田のエレキギターが受け継いでオクターブ・ユニオンでプレイしている。原“GEN”秀樹の巧みなドラミングも含め、YMOヴァージョンの「Tighten Up」(1980年/オリジナル:Archie Bell & the Drells/1968年)に通じる洒脱なダンス・ミュージックに仕上げられていて、一流のセンスを感じさせるのだ。このサウンドに高浪にサポートされたオーバンドルフのボーカルが乗ることで新鮮に聴けてしまう。またオリジナルではベルリン訛りが強い独人男性によるブレイクのコンピュータ・ヴォイスの台詞は、オーバンドルフと高浪が独語の呪文のように節をつけ、二人楽しく歌っているのがハートフルでいい感じだ。原曲の良さを継承し、オーバンドルフのキャラクターを活かしたチルドレン・ソフトロック風のガールポップにブラッシュアップされていて、ギャル・ファンの筆者も非常に嬉しいカバー・ヴァージョンである。

※筆者所有フランス・ギャル『Der Computer Nr.3』
オリジナル・ドイツ盤7インチ(Decca / D19935)

 今回のWMSに限らず、サリー久保田がプロデュースした企画はその審美眼によるセンスを感じさせるものが多い。昨年12月リリースの”サリー久保田グループ feat. 平山みき”名義では伝説の一流女性歌手に、本作同様にフランス・ギャルの知る人ぞ知るアフロサンバのシングル曲「ZoZoi」(1970年 ※オリジナルでピアノ演奏しているのは後年エリス・レジーナの夫となり音楽面を支えたセザル・カマルゴ・マリアーノだ)や、The Velvet Underground の「I'm Waiting For The Man」(『The Velvet Underground & Nico』収録/1967年)を取り上げて歌唱させるなど、ボーカリストの資質を見抜き、意表を突く絶妙のカバー選曲で音楽通を唸らせてくれたのだ。オリジナルが世界的にヒットしてアドバンテージのある選曲とは一線を画す、彼のような審美眼に裏打ちされたカバー企画は極めて少ないので今後も期待したい。
 なお本作『Fantastic Girl』は予約分が受付終了しているようなので、大手レコード・ショップの店頭発売分を事前チェックして入手し聴いて欲しい。

56年の時を超えて・・・

(テキスト:ウチタカヒデ

2024年4月14日日曜日

IKKUBARU:『DECADE』


 海外での再評価を背景に現在も続くシティポップ・ブームにおいて、インドネシアで活動するAOR~シティポップ・バンドのイックバル(IKKUBARU)が、デビュー10周年を記念したサード・アルバム『DECADE』(CA VA? RECORDS / HAYABUSA LANDINGS / HYCA-8070)を4月20日にアナログLP盤でリリースする。
 
 本作は“RECORD STORE DAY 2024”のアイテムであり、前アルバル『Chords & Melodies』からは実に4年振りとなる。 2021年08月の『Summer Love Story』、2022年12月の『Lagoon』の各7インチ、昨年7月の8cm CDの『The Man In The Mirror』といったシングルのタイトル曲も含め全10曲を収録している。
 これまでの作品同様に全曲がフロントマンのムハンマド・イックバル(Muhammad Iqbal、以降ムハンマド)によるソングライティングで、プロデュースとミックスも彼自身が担当しており、マスタリングはマイクロスター佐藤清喜が担当し、上記で挙げたシングル同様である。そして南国感溢れるジャケット・イラストレーションにも触れるが、KADOKAWA発行の隔月刊漫画誌『青騎士』連載中で単行本化もされた「音盤紀行」が、音楽ファンの間でも知られる、漫画家の毛塚了一郎(けずか・りょういちろう)が本作でも担当している。今年1月に弊サイトで紹介した秘密のミーニーズの『Our new town』のジャケットでも、その緻密で印象に残るイラストレーションを描き下ろしていたので記憶に新しいと思う。 


 バンドのプロフィールも紹介するが、彼らはムハンマドを中心として、2011年にインドネシアのジャワ島西部の州都バンドゥンで結成された4人組で、ムハンマドはボーカルとギター、キーボードを担当し、ギター兼ボーカルのRizki Firdausahlan、ベースのMuhammad Fauzi Rahman、ドラムのBanon Gilangの4名から構成されている。2015年に来日公演をして、TWEEDEES、脇田もなり、RYUTistなど国内アーティストとのコラボレーションも多く、昨年7月には日本テレビの番組『世界一受けたい授業』のシティポップ特集にも出演して、その知名度を一般層にも広げていた。
 筆者はムハンマドが作曲し、TWEEDEESの清浦夏実が作詞してRYUTistに提供した「無重力ファンタジア」をいたく気に入って、リリースした2018年に年間ベストソングに選出している。タイムリーにもその「無重力ファンタジア」を清浦がセルフカバーし、ソロ・ミニアルバムBreakfastに収録して、3月15日に配信リリースしたばかりなので、そちらも是非チェックして欲しい。

 
 IKKUBARU『DECADE』Album Teaser 2024 

 ここでは本作収録の全曲を解説していく。
 冒頭の「Horizon」とB面2曲目の「Out of Your Love」は、21年6月リリースの『Amusement Park・Expanded Edition』のディスク2に収録されていた既出曲で、尺が異なるので今回のアナログ用にミックスを変えていると思われる。前者はミッドテンポのシャッフルビートのドラムに、太いシンセベースからなるリズムトラックに、ギターのアルペジオが絡む軽快なポップスで、80年代中期のUKシンセポップにも通じるので懐かしむ読者もいるだろう。後者は左右チャンネルのギター・カッティングのイントロが耳に残り、やはりシンベによるグルーヴが曲を支えている。ムハンマドのボーカルに絡むRizkiのコーラスも効果的だ。
 A面2曲目の「Sound of Rainfall」は、風通しのいいソウル経由ボサノバのリズムと情熱的な歌詞のコントラストが印象的なラヴソングで、女性シンガーのMirna Nurmalaがバッキング・ボーカルで参加して、ストーリーをうまく演出している。
 続く「Catch The Love」はイントロから80年代初期の日本のカシオペアからの影響を一瞬感じさせるが、本編はソウルフルなムハンマドのボーカルをRizkiが高域のコーラスで引き立てた歌ものとして完成度が高い。またゲスト・パーカッショニストのRezki Delian Kautsarによるコンガや、クレジットはないがサックス・ソロ、ムハンマドにプレイと思われるシンセ・ソロなど演奏面でも聴き応えがある。
 ミッドテンポ・バラードの「Karena Cinta」では、再びMirnaがバッキング・ボーカルで参加して、70年代ブルーアイド・ソウルの雰囲気を醸し出した良曲だ。ディレイを効かせたRizkiのギター・リフも効果的である。
 A面のラスト曲「Summer Love Story」はレビュー前文で紹介した通り、2021年8月に7インチで先行リリースされている。故ジェフ・ポーカロが70年代後半に編み出した”ポーカロ・シャッフル”に影響されたドラミングを持つヴァース、ジェイ・グレイドン風のRizkiによる間奏のギター・ソロなどから、アル・ジャロウの「Breakin' Away」(82年/同名アルバム収録)のオマージュというべき良質なサマーAORなので必聴だ。ゲスト・ミュージシャンとしてトランペットのWisnu Mawl、トロンボーンのAldy Nugraha Noor Maasirが参加している。

 
Ikkubaru - Summer Love Story (Official Music Video) 


 B面冒頭の「I Will Be」は、オールド・タイミーなローファイ・ピアノとプログラミングされた簡素なリズムトラックにアコースティック・ギターが絡む、スローなニュージャックスイング系リズムのナンバーで、ここでもソウルフルなムハンマドのボーカルと、それをバックアップするRizkiのコーラスのコンビネーションも良い。
 バラードの「So Real」はドラムレスで、エレピとベースのみのオケで歌われるが、ハンマドのボーカルをバックアップするコーラス・アレンジが素晴らしく、曲の良さを引き出していて何度もリピートして聴き込みたくなる。
 「LAGOON」は2022年12月の7インチで、オーバードライヴが効いたRizkiのギター・プレイから高中正義の「BLUE LAGOON」(1980年)へのオマージュと思しき曲で、高中ファンだった筆者は一聴して好きになってしまった。ゲストのRezkiによるコンガの他、複数のパーカッションも効果的に配置されて、サマーアンセムとして素晴らしい仕上がりである。
 B面ラストで、昨年7月の8cm CDでリリースされた「The Man In The Mirror」は、完全にスウィート・ソウルのサウンドと歌唱であり、IKKUBARUとしては新境地のサウンドになるだろう。この手のソウルも大好きな筆者も一聴して気に入ってしまった。 

 なお本作『DECADE』は“RECORD STORE DAY 2024”のアイテムにより数量限定なので、筆者の解説を読んで興味を持った音楽ファンは、リンク先のオンラインショップ等で早期に予約して入手することをお薦めする。 

 ディスクユニオン予約:https://diskunion.net/indiealt/ct/detail/1008800850 













(テキスト:ウチタカヒデ