ファースト·アルバム『Looking for a key』から8年、女性シンガー・ソングライターの小林しのが、セカンド・アルバム『The Wind Carries Scents Of Flowers』(*blue-very label*/ blvd-043)を2月24日にリリースする。
昨年3月には彼女とthe Sweet Onionsの近藤健太郎と高口大輔によるギターポップ·バンド、Snow Sheep (スノー·シープ)の結成23年目のファースト·アルバム『WHITE ALBUM』をリリースしたことが記憶に新しいが、本作も同じく*blue-very label* (*ブルーベリー・レーベル*) を主宰するナカムラケイ氏のオファーにより実現したらしい。
また今年は小林を中心としたバンドHarmony Hatch(ハーモニー・ハッチ)の結成から25年で音楽活動のメモリアル·イヤーとして区切りの年でもあるので、同バンドからのファンにとっては嬉しいリリースとなっただろう。そのHarmony Hatchは、空気公団やMaybelle(弊誌VANDA読者だった著名劇伴音楽家の橋本由香利が所属)を輩出したCoa Recordsから2000年にデビューした。その後ソロのシンガー·ソングライターとして、前出のファースト『Looking for a key』を2016年2月にリリースしており、2018年11月には初のアナログ7インチ·シングル『Havfruen nat』、2020年12月には配信EP『Cold And Warm Winter』を発表し、都内を中心に定期的なライヴ活動、様々なバンドのコーラス·サポート等精力的に活動している。
本作はSnow Sheepのメンバーでもある高口と小林の2人でトータル·プロデュースをおこない、各曲にサウンド・プロデューサーとなるアレンジャーを立て、レコーディングには様々なミュージシャン達が参加しているのも注目である。渋谷系を牽引したバンドとして知られるbridgeの元メンバー、イケミズマユミ(Three Berry Icecream)をはじめ、マルチプレーヤーでエンジニア、マスタリング・エンジニア(本作も担当)として活動しているSmall Gardenを主宰する小園兼一郎、Trashcan Sinatrasと共演したジャパニーズ・ネオアコースティック・バンドThe Laundries(ランドリーズ)のギタリストである遠山幸生、 北海道でワンマン·ユニット、alvysinger(アルビーシンガー)を主宰する小野剛志、元melting holidaysで小林が所属するphilia recordsではレーベル・メイトであるポプリのササキアツシ、Snow Sheepのメンバーでphillia recordsを主宰するThe Bookmarcs、the Sweet Onionsのメンバーで弊サイトでもお馴染みの近藤健太郎、更にHarmony hatch時代の盟友である宮腰智子との当時の未発表!も収録しており、小林の幅広いフットワークを象徴した面々が参加した多彩なアルバムに仕上がった。そしてひと際目を惹くフォトグラフとデザインは、Snow Sheepの『White Album』等も手掛けたfumika arasawaが担当している。
ここでは筆者による全収録曲の解説と、小林におこなった本作の曲作りやレコーディングについてのテキスト·インタビューと、ソングライティングやレコーディング期間中彼女達がイメージ作りで聴いていたプレイリストをお送りするので聴きながら読んで欲しい。
小林しの『The Wind Carries Scents Of Flowers』
2nd Album 【Movie Trailer】
冒頭の「青い夜を浮かべて」は小林のソングライティングに、高口を中心にライヴのサポート・メンバーでヘッドアレンジされた爽やかでドラマティックなギターポップだ。ここ数年のライヴ・レパートリーにもなっており、小林のピュアなボーカルとコーラスのバックで、練り上げられたコンビネーションの演奏が聴ける。ドラムとキーボードを高口、ベースにはアイドルポップロック・シューゲイザーバンド(カテゴライズが凄い)Mint kit sand(ミント・キット・サンド)の前濱雄介、アコースティックとエレキギターはコルチャックというソロユニットを主宰する木本圭介、ピアノはベーシストでもある女性プレイヤーのtenが参加している。
続く「金木犀の部屋」はイントロからフォークロック・スタイルのサウンドで、小林の描く素朴な歌詞の世界にもマッチする。インタビューで詳しく説明されるが、The Laundriesの遠山幸生がまず仮のギター・アレンジをして構成が決まったようだ。全体のアレンジは高口が担当し、ドラムとキーボード、ピアノの他ベースもプレイしており、木本はアコースティックギターで参加している。また大サビでは近藤健太郎が印象的なコーラスをさり気なくつけているのが印象的だ。
フルートがリードするソフトロック風のイントロを持つ「風は花の香りを運ぶ」は、alvysingerの小野剛志がアレンジと全ての楽器をプレイしコーラスまでつけている。コーラス・アレンジは近藤が担当し、小林の作詞によるサビのパンチライン「風は花の香りを運ぶ・・・」の爽やかな空間を演出して効果的である。
「星の色に似た海(Snow Sheep Version)」は『Cold And Warm Winter』収録ヴァージョンより空間を広げたサウンドで、近藤の作曲ということもありSnow Sheepのカラーが濃く、ほぼ全編が小林と近藤のデュエットで歌唱されるので、『WHITE ALBUM』収録候補だったかも知れないプリティな曲だ。アコースティックとエレキギターは近藤、ドラムとキーボード、ベース、パーカッションは高口が担当している。
Small Gardenの小園兼一郎がアレンジし、生のフルート含め全楽器をプレイした「5メートルの永遠」は、これまでの小林のサウンドには無かった、南欧州の田園風景を感じさせて心地良い。小園の器用さとこのサウンドはSmall Gardenの作品でも聴けるのでチェックして欲しい。
一転して疾走感と陰鬱のあるネオアコースティック・サウンドの「かすみ草のように」は、再び高口がアレンジを手掛けて、The Laundries遠山のエレキギター以外は高口がプレイしている。この曲でも遠山の特徴あるギター・アルペジオがサウンドの肝であり、小林のシリアスな歌唱をバックアップする。
またまたガラッとサウンドが異なる「milky pop.song」は、Three Berry Icecreamのイケミズ゙マユミが作曲し、小林が作詞している。原曲は『Three Berry Icecream』(2021年)に収録されており、そこでは小林が英歌詞を提供していた。ここでのアレンジは高口でキーボードとベース、パーカッションも担当しているが、Three Berry Icecreamヴァージョンを踏襲した牧歌的なワルツの小曲に仕上がっている。同ユニットを主宰するイケミズはピアノとボーカル、コーラスで参加し小林とデュエットして仲の良さを見せている。
本作中最もキャッチャーな「白い恋人」は小野の作曲、編曲で小林が作詞した完全無欠のガールズ・ポップスで多くの音楽ファンの心を掴むだろう。小林の発声も他の曲とは異なっているのが興味深く、アイドル期の菊池桃子を彷彿とさせて微笑ましい。全ての楽器演奏とプログラミングは小野が担当している。
(philia records PHA014 / 現在廃盤)
2018年の7インチ・シングル『Havfruen nat』収録の和訳タイトル曲「人魚の夜」は、ササキアツシがmelting holidays時代に書いた「morning star lily」が原曲で、小林が日本語歌詞をつけて完成させた、ソフトロック~MORとして非常に完成度が高い。元melting holidaysのタサカキミアキがプレイする間奏のクリーン・トーンのギター・ソロを含め、当時筆者はかなり気に入っていたので同年の年間ベストソングにも選出していた。本作収録にあたりCD用にリミックスしているとのことだ。
イントロのアルト・サックス含め全楽器をプレイした小園のアレンジによる「海の底で」もMORのテイストがあり、前曲からの流れも良い。元々は小林が、chelsea terraceのmayumi、スイスカメラの梶山織江とのユニット”Lilly chilly blue stars”に提供した曲だが、この小園のアレンジでまた生まれ変わっている。ギターポップ・バンドからスタートした小林にとっても、新境地なサウンドとして歓迎したい。
「forget me not」は「かすみ草のように」同様にThe Laundries遠山のエレキギターをフューチャーした硬質なネオアコースティック・サウンドで、本作中唯一の英歌詞で小林の文才さを計り知れる。全体のアレンジは高口でギター以外の楽器を担当しているが、ピアノのオブリガードやエンディングのソロで光るプレイをしているのでチェックしてほしい。
「小さな夜」は『Cold And Warm Winter』収録ヴァージョンと基本アレンジは同じだが、ボーカルのリバーブが抑えられて楽器も差し替えられてスッキリした音像になっている。アレンジと全ての楽器を高口が担当しており、イントロやオブリで使用されるピアニカが印象的だ。
ササキアツシのソングライティングとアレンジによる「うさぎのウシャンカ」は、『Cold And Warm Winter』収録ヴァージョンをCD用にリミックスしたもので、レコーディング・メンバーは「人魚の夜」と同様、タサカのエレキギター以外の全ての楽器とプログラミングをササキが担当している。このウシャンカも詞曲共に小林好みのウインター・メルヘンに溢れた良曲で、ポール・マッカートニーに通じる美しいコード進行とソフトサイケなアレンジがササキらしい。
ラストの「ライラックブライド」は、Harmony hatch時代にメンバーの宮腰智子が作曲し、小林が作詞して未発表だったアップテンポのハッピーソングで、高口のアレンジによって初レコーディングされた。ここでは小林自身のエレキギターとイケミズのアコーディオン、その他の楽器全てを高口がプレイしている。北海道出身の小林らしい歌詞の世界は雪国における春の訪れの高揚感をよく表している。
アレンジの幅、演奏力も年々深みが増していて、
高口さんがいなければ
自分の音楽活動は停止してしまうかもしれないな・・・
というくらいお世話になりました。
●先ずはファースト·アルバム『Looking for a key』から8年を経て、本作『The Wind Carries Scents Of Flowers』のリリースに至った経緯をお聞かせ下さい。
◎小林:2024年2月18日(日)にphilia records主催のライブイベントを行うことになり、レコード店のディスクブルーベリーさんに出店依頼のやりとりをしていたところ、当日に関連作品をリリースできるといいですねというお話になり、4~5曲入のミニアルバムをリリースすることに決まりました。
制作を進めるうちにあの曲もこの曲も録音したい。。となってしまい、過去にカセットテープや7インチレコード、配信でリリースした曲も収録してセカンド·アルバムとして発売することになりました。昨年の8月頃にお話しをして決まったので、本当に短い製作期間で急遽作ることになりました。
●成る程、とんとん拍子の内にセカンド·アルバム制作に至った訳ですね。では本作の曲作りとレコーディングに入った時期を教えて下さい。
またファーストの『Looking for a key』から向上されたレコーディング方法などあれば教えて下さい。
◎小林:新曲のレコーディングは2023年の9月頃~12月です。
作曲については、一番古い「海の底で」は20年以上前に作った曲、「青い夜を浮かべて」「風は花の香りを運ぶ」や「金木犀の部屋」はここ数年で、「5メートルの永遠」「かすみ草のように」等はアルバム発売が決まってから作りました。
『Looking for a key』はハードディスクのMTR「ROLAND VS-1680」を使用して、演奏してくれたミュージシャンの皆様のもとへ出張レコーディングしていましたが、今回は編曲してくださった方によって自宅、スタジオ、対面、オンライン等、様々な方法でレコーディングできて楽しかったです。
●ROLAND VS-1680!私は90年代後半の発売直後に入手し曲作りしていた時期があったので懐かしいです。同MTRによるモービル方式のファーストから各アレンジャーによって様々な制作環境に変わっていったということで、レコーディング中の特筆すべきエピソードをお聞かせ下さい。各アレンジャーの方々をはじめ、参加したミュージシャンの方々の印象についてもお願いします。
◎小林:今回連名でトータルプロデュースの高口大輔さんはHarmony hatch時代からの友人で、Snow Sheepでも一緒にバンドをやっているので自分にとって家族みたいな感じの方です。今回、制作が急に決まったので最初はスケジュールが合わず、当初2曲の参加予定でしたが高口さんのレコーディング作業が非常に早く、最終的には半分以上の曲の編曲や演奏に関わっていただくことになりました。高口さんのレコーディングが早すぎて、当初のミニアルバムの予定から14曲入りのフルアルバムになった感じなので、本当に感謝しています。
過去にレコーディングした曲もいつの間にかアレンジを変えて更に良くして、私の希望を確認してくれながら色々なアイディアを試してくれて、臨機応変に対応してくださることにいつも驚いています。アレンジの幅、演奏力も年々深みが増していて、高口さんがいなければ自分の音楽活動は停止してしまうかもしれないな・・・というくらいお世話になりました。
「小さな夜」という曲は2020年に『Cold And Warm Winter』で発表した曲ですが、セカンド·アルバムに収録するにあたり再アレンジしてくれて、素朴で幻想的な美しさがアルバム後半の核になるような曲になりました。高口さんは様々な楽器を演奏できるオールマイティなプレイヤーで飄々としてみえますが、きっと人一倍練習して努力を重ねてる方だと思います。コミュ力が高い高口さんがいるといつも楽しい場になるので安心します。
●高口君はこのセカンド制作にあたって第一の功労者なんですね。挙げられた「小さな夜」はオリジナル·ヴァージョンに比べ、楽器も差し替えられてスッキリした音像に生まれ変わっていました。この曲を含め7曲を手掛けていて、Snow Sheepとして関わった「星の色に似た海」を含めると実に8曲に参加しているんですね。
中でもフォークロック·スタイルの「金木犀の部屋」、ネオアコースティックでザ·スミスに通じる「かすみ草のように」はサウンド的に完成度が高いです。こういうアイディアはしのさんから高口君に具体的にリクエストするんでしょうか?
◎小林:私は楽器が下手で編曲などはできないので、編曲や演奏のリクエストはいつもふんわりしている事が多いです。自分が信頼する方に編曲や演奏をお任せしているのでほとんどの場合はイメージ以上に素敵になる事が多いです。ただ、作った曲のイメージから大きく離れてしまいそうという時だけは、自分のイメージを守ることを一番大切にして、自分らしさを残せるように依頼しています。
●Small Gardenの小園さんは弊サイトでも3作品を取り上げて高評価しているクリエイターですが、これまでのしのさんの楽曲とイメージが結びつかなかったです。Small Gardenの楽曲で気に入った曲があったら具体的に挙げて下さいますか。
◎小林:「5メートルの永遠」「海の底で」を編曲してくださった小園兼一郎(Small Garden)さんは、何度かマスタリングをしていただいたことがあることや、小園さんが携わった曲が好きで編曲を依頼しました。
small gardenでは「8番目の月」がすごく好きです。小園さんの作品の優しい太陽の日差しのようなオーガニックな音作りや、反対に深夜のような暗さがあるところも好きでした。小園さんの携わる音楽の、緻密だけれど自然体で、計算されているような、されていないような、華やかなのに派手ではない不自然ではないところが好きでした。
どこか浮世離れした研究者のようなイメージの方と思っておりましたが、自分と価値観が似ているところがありとても話しやすい方でした。最初に喫茶店で打ち合わせをし、その時に自分の好きなものや苦手なものを音楽/音楽以外にも細かく聞き取りしてくださり、はじめての共作でしたが、おかげで自分の好きなイメージ以上に好きな曲になりました。
フルートやサックスの演奏もすばらしく、曲が完成に近づくたびに感動していました。「海の底で」はLilly Chilly Blue Starsというユニットでも発表した曲ですが、小園さんヴァージョンはサックスで深い海の底に落ちていくような怖さもあります。それぞれの良さがありどちらも良いので是非聞き比べていただきたいです。小園さんに編曲していただいた2曲も私の宝物になりました。自宅のレコーディングスタジオにお邪魔してボーカル録音させていただき、おいしいコーヒーやお茶を飲みながらお話できたのも楽しい思い出です。
●alvysingerの小野さんは、The Laundriesのヴォーカリスト木村孝之さんとのネオ·アコースティック·ユニットDiogenes Clubでも知られていました。ディープなギタポ、ポップス・オタク(笑)とて注目していましたが、彼がクリエイトする楽曲の魅力はなんでしょうか?
◎小林:「風は花の香りを運ぶ」編曲、「白い恋人」作編曲で参加してくれた小野剛志さん(alvysinger)は、北海道に住むネオアコ・シンガーソングライターです。何回か共演経験や、The Laundriesのサポートを一緒にしたことなどで仲良くなり、同郷の同い年ということでお互い動向を気にかけていた感じです。「いつか共作しましょう」と話していたこともあり、「風は花の香りを運ぶ」というずっと温めていた大切な曲を小野さんに託しました。
小野さんがクリエイトする楽曲の魅力は、ネオアコやギターポップや音楽に対する小野さんの愛の深さでしょうか。私は小野さんのその部分をとても尊敬しているので、「自分の曲を歌ってもらいたい」と提供してくださった曲についてはデモを聴かせていただく前からアルバム収録することを決めていました。どんな曲が来ても、絶対に好きな曲だと信じていたからです。
その小野さん作曲の「白い恋人」の歌詞を書かせていただき、「北海道」「遠距離恋愛」というテーマを与えられて作詞したのもはじめての経験で、楽しかったです。LINEビデオや電話で打ち合わせを重ね、時には雑談をし、ボーカルが難しくて試行錯誤し(50回は歌いました)、小野さんのきらめくギター・カッティングが心地よい、いつでも北海道に心を飛ばすことができる大好きな曲になりました。
リハで皆さんと一緒に歌うのが楽しくて、
ライヴを定期的にやっている感じもあります。
大人になってからこんな素敵な音楽仲間に出会えたことも
宝物の一つだなと思います。
●その他の参加されたミュージシャンの方々についてもお聞かせ下さい。
◎小林:「青い夜を浮かべて」はライヴでもよく演奏する曲で、ライブサポートメンバーの高口大輔さん、tenさん(デカパンチョ)、木本圭介さん(コルチャック)、前濱雄介さん(mint kit sand)に演奏していただきました。
tenさんは普段はベース弾きの優しい可愛らしい女性です。私のライヴではキーボードを担当してくださり、音源に近い音色を音源に可能な限り忠実に演奏してくださるので、本当にいつも感謝でいっぱいです。Tenさんがいてくださるので、音源に近いライヴ演奏ができると思っています。
前濱雄介さんはベース担当で、ムードメーカーのような存在です。最年少ですが演奏も性格も頼りがいがあり、ユニークなところが可愛らしい青年です。
木本圭介さんはアコギとエレキを2つ、担当してくださいました。切れ味のあるアコギカッティングと、エレキギターで曲に青い夜の青さと芯のある強さをもたらしてくれて感動しました。普段は優しい青年で、いてくれると落ち着きます。
この曲が一番自分自身の心情に近いというか等身大の自分という感じがする曲なので、信頼する皆さんと一緒に今回あらためてアルバムに残しておくことができて心から嬉しいです。皆さん優しくて穏やかな方ばかりで練習も楽しいため、リハで皆さんと一緒に歌うのが楽しくて、ライヴを定期的にやっている感じもあります。大人になってからこんな素敵な音楽仲間に出会えたことも宝物の一つだなと思います。
「人魚の夜」作編曲、「うさぎのウシャンカ」作詞作曲編曲で参加してくれたササキアツシさんについては、もう20年近くの友人になります。「人魚の夜」は2018年に発売した7インチ「Havfruen nat」の収録曲、「うさぎのウシャンカ」は2020年配信でリリースした「Cold And Warm Winter」で発表した曲をリマスタリングして収録しました。どちらの曲も華やかさと切なさをいったりきたりするような素敵な曲で、とくに「人魚の夜」を好きだと言ってくださる方も多いので、今回セカンド·アルバムにも改めて収録できてうれしかったです。佐々木さんは優しくて繊細で研究熱心で、そしてすごく温かな方です。作る音楽のファンも多い方なので、佐々木さんの曲を歌えることが光栄です。
●近藤健太郎君やThree Berry Icecreamのイケミズマユミさんが参加している曲についてはいかがだったでしょうか?
◎小林:近藤健太郎さんもSnow Sheepのメンバーで、自分にとっては家族のような存在です。近藤さん作曲の「星の色に似た海」は以前「Cold And Warm Winter」という配信アルバムでササキアツシさん(ポプリ)が編曲してくださりそちらもとても素敵ですが、今回はSnow Sheepでアコースティックな感じで編曲しました。原曲が素晴らしいので、また別のヴァージョンでも歌うことが出来て嬉しかったです。
今回の制作はSnow Sheepのグループラインで打ち合わせを進めることが殆どで、近藤さんにはいろんな局面で相談に乗っていただき、各曲のデモの段階から沢山のアドバイスをもらっていましたので、スペシャルアドバイザーとして名前をクレジットしました。
アルバム・タイトルも花の付く曲名が多いことから「風は花の香りを運ぶ」という曲の英詩タイトルにすることなども近藤さんが考えてくれました。近藤さんは一見フロントマンで華やかな感じに見えますが、実際は縁の下の力持ち的なところがあり、そういうことを自分から言わない人間性も含めて尊敬しています。自分を含めて色々な方から頼りにされていると思います。「星の色に似た海」のメロディは本当に美しく、歌詞も自分でも好きなので、自分の曲として歌わせてもらえて嬉しいです。
イケミズマユミさんは「milky pop.song」作曲、ピアノボーカル、「ライラックブライド」アコーディオンで参加してくださいました。昔から憧れの方で、ここ数年は一緒にご飯を食べに行ったり仲良くしていただけてとても嬉しく思っています。
タイトルでもある「milky pop.」はお菓子作家のmilky pop.さんのことで、イケミズさんがmilky pop.さんの誕生日に曲をプレゼントし、私がイケミズさんの誕生日に歌詞をつけてプレゼントしたことで生まれた曲です。今回のアルバムでは日本語ヴァージョンですが、 イケミズさんのソロユニットthree berry ice creamのアルバム「Three Berry Icecream」(miobell-records)には同タイトルの英詩ヴァージョンが収録されています。
レコーディングは高口さんと3人で、ピアノのあるスタジオで行いました。限られた時間の中、さくさく楽しく進むイケミズさんのボーカルやピアノレコーディングに圧倒され、立ち会う事ができて幸せでした。池水さんは夏のヒマワリのような元気いっぱい温かくてパワフルで優しい方です。
●「金木犀の部屋」や「かすみ草のように」のリード·ギターのプレイはひと際印象に残りますが、The Laundriesの遠山幸生さんでしょうか?
◎小林:はい、そうです。「金木犀の部屋」「かすみ草のように」はギターが主役の曲にしたかったので、The Laundriesのギタリスト、遠山幸生さんに弾いていただきたいとデモの段階から考えていました。「金木犀の部屋」は、まずに遠山さんにデモをお渡しして仮ギター・アレンジを入れていただき、全体の構成が決まりました。その後高口さんに遠山さんのギター入りのデモをお渡し、ドラムやベース、ピアノなどを録音していただきました。遠山さんと高口さんと一緒に話し合いながら、録音を重ねて最終的なアレンジにたどり着いた感じです。Cメロは最初ありませんでしたが、遠山さんのアルペジオを聴いてメロディが思い浮かび、付け足すことになりました。
「かすみ草のように」は疾走感のある曲にしたいという希望がありましたが、自分では具体的なイメージがわかず、こういう風にはしてほしくない、という要点だけお伝えしてデモを渡しました。高口さん一人で演奏をされた段階でもタイトで硬質な感じが素敵でしたが遠山さんのギターが入り、スミスのようなネオアコの陰鬱さと輝きが混じった感じが出たと思います。そこは、遠山さんのギターの影響力が大きいと思います。
The Laundriesのライヴに何度かゲスト出演させていただき、レコーディングに参加させていただいていましたが、遠山さんのギターが大好きで自分の曲でも弾いてほしいと思い、今回もお願いしました。とくに「金木犀の部屋」は、遠山さんのギターをイメージして作った曲でもあるので、デモにギターを重ねていただいた時は感動でした。
遠山さんのご友人の青木多果さんのスタジオでレコーディングさせていただき、色々なギターでたくさんのアレンジを考えてくれました。間近で録音風景を見られたのも嬉しかったです。遠山さんは新潟にお住まいなのでなかなか普段は会えないため、貴重な制作時間も楽しい思い出です。ストイックな方なので音楽には厳しい面がありますが、だからこそ遠山さんのOKが出ると安心しますし、根がとても優しく温かい方で信頼しています。
●小林さんのアルバムやシングルのジャケット·デザインは、サウンドに通じるファンシーで幻想的なイメージが強くありますが、本作のデザイン·コンセプトについてお聞かせ下さい。
◎小林:デザインをSnow Sheepのジャケット担当してくださった荒澤文香さんにお願いすることになり、文香さんの写真も好きだったので、撮影もお願いしました。
最初に打ち合わせをしたときにファースト·アルバムを持ってきてくださり、並べた時に違和感がないように··と色選びから相談にのってくれました。そんなところも信頼しています。アルバムのコンセプトは最初決めていなかったんですが、花の名前がつく曲名が多かったことや、文香さんが撮影時にかすみ草の花束を持ってきてくださったところから「花」に決まっていきました。私の歌詞は花や鳥や動物たちに思いを寄せ、健気に生きる喜びに憧れながら、でも誰もが持っている寂しい暗い部分にどうしようもなく惹かれることで書けている気がします。
そんな自分の陽と陰が混じる部分も、淡い色や枯れかかった花の色、絶妙なくすんだ色を使用して、文香さんが表現してくださった気がします。
フォントや裏ジャケット、盤面など細かな部分まで美しく、私の稚拙なイラストもところどころ陰影をつけて仕上げて配置してくれて、愛犬のむぎちゃんとこめちゃん、愛鳥のコザクラも登場させられましたし、宝物のような一枚になりました。
●ソングライティングやレコーディング期間中、イメージ作りで聴いていた曲をサウンド・プロデューサーの方々も含めて挙げて下さい。
【小林しの】
■Chipped Nails / Noa Mal(『Impostor syndrome』 / 2021年)
◎大galaxy trainから出ているNoa Malさんアルバム。
ビートルズ好きらしく、
前衛的だけど普遍的なメロディに憧れて
このような曲を作れたらいいなと
思って聴いていました。
■Right Side of My Neck / Faye web steri
(『Atlanta Millionaires club』 / 2019年)
◎けだるげな女性ボーカル好きで、
こんな風に歌えないかと参考に聴いていました。
■SMOOTH ESCALATOR / FINAL SPANK HAPPY(『Single』/ 2020年)
◎よく眠れるのでよく聴いていました。裏声の出し方が好きです。
■Alameda / Elliott Smith(『Either/or』/ 1997年)
◎エリオットスミスは心のお守りのため、疲れたら聴いています。
■Yesterday’s Children / The Automatics(『Good Girls Don’t』/ 2003年)
◎ハーモニーハッチ時代の曲も収録していたため、
バンドを始めた頃に大好きで、
たくさん影響を受けたことを思い出して。
■Good Night Song/ Tears For Fears(『Elemental』 / 1993年)
◎5月にカバーして好きな曲になったため。
自分の中のロックな気持ちが目覚める。
【小野剛志】
■I Get The Message / IVY(『Apartment Life』/ 1997年)
◎「風は花の香りを運ぶ」レコーディング中によく聞いていました。
エンディングのアルペジオがそれっぽいフレーズです。
■A Solid Bond in Your Heart / The Style Council
(同名シングル / 1983年)
◎「白い恋人」のサビをどうしようかと悩んでいるときに聴いて参考にしました。
■自転車に乗って、 / モダンチョキチョキズ
(『別冊モダチョキ臨時増刊号』/ 1994年)
◎「白い恋人」の最初のイメージはこの曲。
結果ぜんぜん違う感じになったけど
楽しくてちょっと切ない感じは参考にしました。
■ロマンス / 原田知世(『I could be free』/ 1997年)
◎「風は花の香りを運ぶ」はスウェディッシュポップ風にという
オーダーだったので原田知世さんやエッグストーンをよく聞きました。
■LOVE GOES DOWN THE DRAIN / 101 DALMATIANS
(『PERMANENT WAVES 』/ 1998年)
◎下田さんはいつでも私の先生なのです。
ギターサウンドの参考のため聞きました。
■This Guy's In Love With You / The Spiral Starecase
(『More Today Than Yesterday』/ 1969年)
◎ソフトロック系で最近好きで聴いていたお気に入りの曲です。
甘いストリングスに透明感のあるボーカル、素敵です。
■Kiss,Kiss,Kiss / オノ·ヨーコ,Peaches(『Yes,I'm A Witch』/ 2007年)
◎オノヨーコのアルバムの中でも異色な、
様々なクリエイターとコラボした作品で、
中でも好きな曲です。
■One Hundred Years / ザ·キュアー(『Pornography』/ 1982年)
◎最近はニューウェーブ系のアーティストの曲を聴くことが多く、
中でもキュアーは昔から好きで、
この曲の切迫したドラムと陰鬱なギターが好きです。
【小園兼一郎】
■ナマで踊ろう / 坂本慎太郎(『ナマで踊ろう』/ 2014年)
◎数年前から坂本さんの音楽は僕の一部と化すようになっているので、
不定期ローテーションで聴いています。
去年の野音も最高でした。
■Magical Mystery Tour / The Beatles(『Magical Mystery Tour』/ 1967年)
◎去年から始めたフルートですが、楽曲の中でどう効果的に用いていくか
ということを沢山のアーティストから学ばせてもらっていますが、
そのうちの一枚のアルバムです。
■Oncle Jazz / Men I Trust(『Oncle Jazz』/ 2019年)
◎このバンドはYouTubeで知りました。
落ち着いた感じのボーカルが気持ちよくて、
僕の中ではしのさんと被るものが
あったので制作前に 少し聴いていました。
■kom hem / Anna Jarvinen(『samling』/ 2013年)
◎この方はしのさんに教えていただいて、YouTubeで聴きました。
北欧の方らしいのですが、僕の好きなハニャラニさんと
気質が似ているところがあって気持ちが良かったです。
■Everytime/ boy pablo(『Roy Pablo』/ 2017年)
◎落ち着いていながらもとても熱量のある雰囲気が好きなバンドです。
今回しのさんの楽曲をアレンジしている最中にボーイパブロの音の雰囲気が
僕の中に出てきたので、思い出すように聴いていました。
●リリースに合わせたライヴの予定が判明していればお知らせ下さい。
◎小林:2月18日(土)に渋谷7th floorにてレコ発ライヴを行います。Snow Sheep、three berry icecreamが共演です。
12時開演、是非来ていただけたらうれしいです。アルバムを先行発売します。
●最後に本作『The Wind Carries Scents Of Flowers』のアピールをお願いします。
◎小林:自分の好きな「繊細で可憐で可愛らしい、だけどどこかくすんだ世界観」を、自分1人では不安定なままにしか存在させられませんが、それをしっかりとした演奏やデザインで固めてもらえて、形に残せたのが今回のアルバムだと思っています。
音楽的にはやっぱりキラキラとして陰鬱なギターサウンドが好きなこともあり、ネオアコやギターポップがベースになっている曲が多いです。また、ソフトロックやボサノヴァ、ドリームポップ等の要素も感じられると思います。
一人の時間にそっと聴いてもらえるような作品になれたら嬉しいです。
(インタビュー設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ)
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