彼らのファンならご存知の通り、両面共にカバー曲としてこれまでのアルバムで取り上げており、「Darlin'」はファースト・アルバム『Sound Of The Pen Friend Club』(2014年)、「土曜日の恋人」はサード・アルバム『Season Of The Pen Friend Club』(2016年)に収録されていた。今回の7インチ化に際し、プロデューサーでリーダーの平川雄一の拘りにより新たにオケとボーカル・トラックの全てをリレコーディングして生まれ変わったので、このシングルを入手して聴く価値があると言える。
新ボーカリストNiinaについては、昨年3月に弊サイトでおこなった独占インタビューを再読していただくとして、ここでは筆者による両曲の解説をおおくりする。
Darlin’ (試聴版)/ The Pen Friend Club
ご存知の通り、「Darlin'」はビーチボーイズの1967年12月のシングル曲でブライアン・ウィルソンによる作曲、マイク・ラヴが作詞しており、リード・ボーカルはカール・ウィルソンが担当している。同日にリリースされた13thアルバム『Wild Honey』のB面1曲目に収録されていた。弊サイト及び『ソフトロックA to Z』愛読者には、Tony Macaulay(トニー・マコーレー)がプロデュースし、シラ・ブラックの諸作で知れれるニッキー・ウェルッシュがアレンジしたペーパー・ドールズの『Paper Dolls House』(1968年)収録ヴァージョンが知られる。
そして日本国内では、山下達郎が1984年に米日合同製作ドキュメンタリー映画のサウンドトラック・アルバム『BIG WAVE』でカバーして収録されたことで知られるようになるが、同アルバムの山下自身のライナー・ノーツによると、シュガー・ベイブ時代のステージから既に披露していたということだ。またこの『BIG WAVE』ヴァージョンでは、「Darlin'」のプロトタイプとして知られる、Sharon Marie(シャロン・マリー)の「Thinkin' 'Bout You Baby」(1963年/画像参照)のサビのコーラス部がオマージュされている。同曲はマイクのガールフレンドだったSharonに提供され、1964年に「The Story Of My Life」のカップリングとしてブライアンのプロデュースでリリースされている。その後1972年にはブライアンの初婚相手マリリン・ロヴェルと姉ダイアンによるガール・デュオSpring(米国外はAmerican Spring表記)の唯一のアルバム『Spring』(1972年/画像参照)のA面2曲目でリアレンジして取り上げているので、ブライアンにとっても思い入れがある曲なのだろう。
Thinkin' 'Bout You Baby / Sharon Marie
(Capitol US 5195)
Spring / Spring(UAS-5571)
今回ペンクラでリレコしたヴァージョンは、ファースト収録のスタジオ版初演と基本アレンジは同じだが、ドラマーがテクニックのある祥雲貴行に代わったことやレコーディングの音質が向上されたことで、洗練さと奥行きのあるリズムトラックに仕上がっている。それによりイギリス出身であるNiinaのネイティブな英語発音と発声のボーカルが引き立っており、完成度が増しているのが理解できる。また藤本有華がボーカリスト時のライヴ・アルバム『IN CONCERT』(2020年)収録ヴァージョンでも聴けるが、セカンド・コーラスからヴァースに付加されるコーラス・アレンジもオリジナルやファースト収録にはないパートなので新鮮だ。オマージュ元はジョージ・ハリスンの「My Sweet Lord」(1970年)の“Hallelujah”のコーラス(「He's So Fine」(1963年)のそれとは異なる)ではないだろうか。このパートに限らず、曲全体にNiina、平川、リカ、そいによる美しいコーラス・ワークが施され、ペンクラらしさを象徴している。
更に弊サイトの上級読者を刺激するポイントとして、ビーチボーイズの『Live at Knebworth 1980』(2002年)収録ヴァージョンでのアドリブがNiinaによって再現されていることを挙げておく。このKnebworthのステージではオリジナルよりアップテンポで演奏されており、エキサイトしたリード・ボーカルのカールが後半1分58秒で “I keep thinkin' 'bout my darlin'!”(僕はダーリンのことを考え続けている!)とアドリブで歌う一節があり、今回のカバーで再現されている。こんな演出を考えつく平川のマニア心に感心してしまう。
Darlin'(Live at Knebworth 1980)/ The Beach Boys
カップリングの『土曜日の恋人』は1985年11月にリリースされた山下達郎のシングルで、翌年4月の8thアルバム『POCKET MUSIC』に収録された。
弊サイト読者ならご存知のように、イントロ・パートでオマージュされているゲイリー・ルイス&ザ・プレイボーイズの「We'll Work It Out」(1965年)をはじめ、同じく「Count Me In」(1965年)やボビー・ヴィーの「The Night Has A Thousand Eyes」(1962年)等々スナッフ・ギャレットがソングライティングやプロデュースした60年代ポップスの煌めきに満ちた名曲なのだ。昭和世代には『オレたちひょうきん族』(フジテレビ系列・毎週土曜日20:00~)のエンディング・テーマ(同曲オンエア期間:1985年10月~1986年9月)として知られる。
土曜日の恋人(Live at 大阪・雲州堂 2023.10)/The Pen Friend Club
ペンクラのリレコ・ヴァージョンは「Darlin'」同様に基本アレンジと尺はほぼ同じだが、間奏が現在休団中の大谷英紗子のテナーサックス・ソロに変わったことが大きい。『IN CONCERT』でもそのプレイが聴けるが、サード収録ヴァージョンでは山下のオリジナルや「We'll Work It Out」のイントロ(同曲間奏はレオン・ラッセルのピアノ)を踏襲して口笛(Whistle)だったので、中低域が豊かなサウンドになった。またオリジナルのドラマーである青山純のプレイ同様に、祥雲もハル・ブレインを意識したフィルを繰り出していてマニアは溜まらない。そして弊サイトの連載コラムでお馴染みの西岡利恵の的確なベース・プレイや、この曲の重要な肝である中川ユミのグロッケンも聴き逃せないのだが、コーダのフェイドアウト間際にゲイリー・ルイスの「Count Me In」のイントロ部の旋律を奏でているのに気付いたのは筆者だけだろうか?(笑)
とにかく両曲共に新体制ペンクラの魅力と多幸感に溢れたカバー・7インチであり、このレビューを読んで興味を持った読者は、下記ショップ・リンクから予約入手して是非聴いて欲しい。
JET SET RECORD & CD ONLINE SHOP:https://www.jetsetrecords.net/i/816006240069/
【イベント情報】
1月28日(日)
東京タワー:Club333
『Live At Tokyo Tower』
The Pen Friend Club
Megumi(前The Pen Friend Clubボーカリスト)
開場17:00 開演18:00
(テキスト:ウチタカヒデ/
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