“令和のはちみつぱい”と称される西海岸フォーク・ロック・バンドの“秘密のミーニーズ”が、2021年のセカンド・ミニアルバム『down in the valley』以来約3年半ぶりとなる、フルアルバム『Our new town』(NARISU COMPACT DISC/HAYABUSA LANDINGS / HYCA-8066)を1月24日にリリースする。
ファースト・フルアルバム『It's no secret』(2017年)や前作『down in the valley』が、音楽通に高い評価を得ているだけに、この新作にも期待が高まるばかりだ。
先ず彼らのプロフィールに触れるが、2011年3月リーダーでメイン・ソングライター、各種ギター兼ボーカルの渡辺たもつを中心に結成し、翌年ボーカル兼アコースティック・ギターの菅野みち子が加入する等メンバー変遷を経て、2018年より現在のバンド編成になった。60~70年代の西海岸ロックに影響されており、特にクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングやザ・バーズを彷彿とさせる複合コーラスを活かしたフォークロック・サウンドを持ち味としたバンドである。
これまでに2枚のミニアルバムとフルアルバムは『It's no secret』、ファースト・ミニアルバム『おはなフェスタ』(2014年)にデモ音源や未発表音源、ライヴ音源をボーナス・トラックとして追加し14曲を収録した拡張盤『おはなフェスタ~past masters~』を2018年にリリースしている。
現メンバーは渡辺の他に、ベースの相本廉、リード及びスライド・ギターの青木利文、ドラム、パーカッションの高橋U太、そしてメインボーカルだった菅野みち子が2021年5月で音楽活動を休止したため、本作ではオリジナル・メンバーだったボーカル兼コーラスの淡路遼が6年振りに復帰した。更にサポート・女性ボーカルとしてmayugen(マユゲン)を加え、男女混成3声コーラスを復活させている。
また本作では現ムーンライダーズで、ジャック達のオリジナル・ドラマー、セッション・ドラマーとしてはあがた森魚を皮切りに、大江千里、堂本剛等々多くの著名シンガーのサポート実績があり、音楽プロデューサーやレコーディング・エンジニア、マスタリング・エンジニアとしても活躍している夏秋文尚(なつあき ふみひさ)をプロデューサー、エンジニアとして迎えており、その存在は極めて大きい。それにゲスト・キーボーディストとして、ソロプロジェクトbirchや多くのセッションで知られる松野寛広も参加している。
ジャケット・イラストにも触れるが、KADOKAWA発行の隔月刊漫画誌『青騎士』に「音盤紀行」を連載中で単行本化もしている漫画家の毛塚了一郎(けずか・りょういちろう)が、本作のために描き下ろしのイラストを提供しており、以前弊サイトでも紹介したIKKUBARU(イックバル)の7インチ・シングル『Summer Love Story』と『LAGOON / THE FOUR SEASONS』のジャケットも手掛けていたので、記憶に新しいと思う。
秘密のミーニーズ『Our new town』トレーラー
ここでは筆者による全曲レビューと、バンドを代表してリーダーの渡辺が曲作りやレコーディング中のイメージ作りで聴いていたプレイリストを紹介する。
冒頭の「イディオムズ」は、渡辺のソングライティングによるブルース系シャフル・ビートと仏教用語に通じる四文字熟語を持つ歌詞が特徴的で、センターの12弦アコースティック・ギターのカッティングに右チャンネルの青木のリード・ギターのリフや松野によるフェンダー・ローズのフレーズが有機的に絡んでいく。
渡辺のリード・ボーカルに重ねられた淡路とmayugenのコーラスのヴォイシングもこの曲のムードをよく形成していて耳に残る。本作の導入曲として相応しいと言える。
続く「午前0時2分」も渡辺作だが、一転してメジャー・キーでニュー・ソウル系の跳ねる3連リズムが心地良く、高橋と相本によるリズム隊の安定したコンビネーションを聴ける。リード・ボーカルは淡路が取っており、渡辺とmayugenがコーラスをつけている。比較的ストレートと思われるこの曲も一筋縄ではいかず、最終サビ以降の後半パートでは、スティーリー・ダンの「King Of The World」(『Countdown To Ecstasy』収録 1973年)のそれを彷彿とさせるジャズ・ロック的インター・プレーに転回して、スティーリー・マニアの筆者は好きにならずにいられない。この曲では渡辺がエレキ・シタール、プロデューサーの夏秋がボンゴやタンバリン、トライアングルなどパーカッションをプレイしている。
秘密のミーニーズ「午前0時2分」MV
カントリー系のロッカ・バラードである「さよならジンジャー」も渡辺のソングライティングで、ここでは前曲同様に淡路のボーカルに渡辺とmayugenがコーラスをつけて美しいハーモニーを形成している。このハーモニーに呼応する松野によるハモンド・オルガンのプレイも出色である。
本アルバム中最も問題作は10分を超える尺の「雲の影」だろう。同名の『雲の影(Obscured By Clouds)』は1972年のピンク・フロイドのアルバムとしてプログレッシブ・ロックのファンに広く知られるが、渡辺のソングライティングによるオリジナル曲でこれまでにもライヴで演奏しているらしい。イントロからフロイド等を意識したプログレ・サウンドであり、淡路のリード・ボーカルには深いリバーブを効かせて、いきなりスタイルがパラダイムシフトしたかのようだ。右チャンネルではデイヴィッド・ギルモアが多用したユニバイブをかましたギターを渡辺が弾き、センターからやや左に青木のリード・ギターが位置して巧みなソロを披露しているが、『Red』(1974年)期キング・クリムゾンのロバート・フリップを彷彿とさせるフレーズやギター・ノイズも聴けて溜まらない。ためを効かせて空間を演出する高橋のドラミング、ブルースとバロックを行き来する松野のハモンド・オルガン等も含め、従来のミーニーズ・サウンドとは異なるので、ファンにとっては賛否が分かれるだろうが筆者は非常に好みである。
本作中唯一mayugenがリード・ボーカルを取る「春は間近」は渡辺作で、フォーク・ロック調のサウンドだがポップスとしても完成度が高い。間奏後のパートでは渡辺と淡路がソフトロック的複雑なコーラスをつけ、松野と夏秋はメロトロンとグロッケンをプレイし、ソフトサイケな雰囲気を演出している。
続く「さすらい人」は淡路のソングライティングとリード・ボーカルで、渡辺とは作風が異なる、不器用な男心を綴った歌詞が印象的だ。
松野によるニッキー・ホプキンス風のピアノ・ソロに青木のアーシーなギター・リフが絡む間奏も非常に良い。
カントリー・フォークの「ひとみしり」は渡辺が作曲し、元東京パピーズで現在男女ユニットar syura(アルシュラ)を組んでいる酒井陽久が作詞している。70年代のカントリー系フォーク・シーンに通じる大らかでポジティブな歌詞がサウンドにもマッチしており、淡路のボーカルに渡辺とmayugenがコーラスをつけ、この世界感を広げている。また青木のラップ・スティール・ギターと渡辺のバンジョー、松野のアコーディオンのプレイも聴きものである。
ラストの「シングルマン・ワウワウ・フリースキャット」は渡辺の一人多重録音によるインストルメンタルで、タイトル通りエフェクティブ加工したコーラスとスキャットにギターのボディを叩いたパーカッションが入る小曲だ。
最後に本作の総評として、これまでのミーニーズ・サウンドの主軸だった西海岸フォーク・ロックに留まらず、ブルースやニュー・ソウル、カントリー、そして英国プログレッシブ・ロックの要素までも内包したバンドのミュージシャンシップと、プロデューサーの夏秋文尚の力を得て結晶した彼らの最新の姿を捉えたアルバムと感じた。
筆者のレビューを読んで興味を持った読者は是非入手して聴いて欲しい。
秘密のミーニーズ『Our new town』レビュー
・プレイリスト サブスク
◎秘密のミーニーズ・渡辺たもつ
アルバム制作前後で、自分の中の「デヴィッド・クロスビーからの影響」を再認識し、彼のソロアルバムを過去〜現代まで遡って深掘りしてた時間が長かったですね。その結果がアルバムのトラック(特にNo.1,4)にも色濃く反映されている様な気がします。その他、各アルバム収録曲の直接のリファレンスとなった曲を、それぞれ挙げました。
※ボーナストラックの選曲はオリジナルではなくリイシュー盤リリース年を記載。
■Laughing / David Crosby
(『If You Could Only Remember My Name』1971年)
■I Think I / David Crosby(『For Free』2021年)
■Triad / The Byrds
(『The Notorious Byrd Brothers(Reissue Edition)』1997年)
■Mercy Mercy Me / Marvin Gaye(『What’s Going On』1971年)
■Dear Landlord / Bob Dylan(『John Wesley Harding』年)
■大寒町 / あがた森魚(『噫無情(レ・ミゼラブル)』1974年)
■Bird Song(live at Capitol Theatre) / Grateful Dead
(『Workingmans Dead(50th Anniversary Deluxe Edition)』2020年)
■Any Colour You Like / Pink Floyd(『The Dark Side Of The Moon』1973年)
■Heard It In A Love Song / The Marshall Tucker Band
(『Carolina Dreams』1977年)
■Another Sunny Day / Belle & Sebastian(『The Life Pursuit』2006年)
■Before The Deluge / Jackson Browne(『Late For The Sky』1974年)
■New Kid In Town / Eagles(『Hotel California』1976年)
■Sugar Babe / The Youngbloods(『Earth Music』1967年)
■Christian Life / The Byrds(『Sweetheart Of The Rodeo』1968年)
■Wild Honey Pie / The Beatles(『The Beatles』1968年)
【イベント情報】
★秘密のミーニーズ「Our new town」ワンマンショー★
日時:2024.2.25(日)
開場:11:30 開演:ST12:00
会場:渋谷7th FLOOR
出演:秘密のミーニーズ
ゲスト:松野寛広(Keyboard, from夢見る港、birch)
前売料金2500円 / 当日料金2800円(+1ドリンク注文要)
来場者限定特典:メンバーによる当日限定
『Our new town』プロダクションノートを配布予定
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