2023年9月17日日曜日

わたくしのオフコース -1-/吉田哲人

 この度幣サイトに新たな投稿者を迎えました。
 第一弾は作編曲家でシンガーソングライターの吉田哲人(よしだ てつと)氏です。どうぞ今後ともよろしくお願い致します。
WebVANDA管理人 ウチタカヒデ 
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 WebVANDAをご覧の皆さん初めまして、吉田哲人です。現在は作編曲家として活動しておりますが、こちらWebVANDAさんで紹介された「小さな手のひら(c/w 光の惑星)」ムーンライト・Tokyo」等のシングルをリリースし、シンガーソングライターとしても活動しております。以後、お見知りおきを。 

 《VANDAとの出会い》

 1995年頃に大学時代の友人で歌謡曲マニアであり、後にコンピレーションをはじめとする「テクノ歌謡」シリーズ(1999年/P-Vine)を選曲家チーム・8-bitsとして僕と一緒に作る山本ニューさん(因みにもう1人のメンバーはDJフクタケさん)が「これめちゃくちゃ凄いよ」と言って『VANDA 18号 Soft Rock AtoZ大辞典』を貸してくれた事でした。


 それ以来手に入るバックナンバーは全て買い揃え(その年地元徳島に帰省した際、今は無き「アダムと島書房」で18号を手に入れる事ができた)読み耽り、若い頃に多大な影響を受けました。
 それと共にソフトロックのまつわる思い出として強烈に結びついているのが、その頃に山本ニューさんが作ってくれた”和製”ソフトロックのテープと、

 「吉田くん、何かソフトロックっぽいの知らない?」
 「だったらオフコースのファーストとセカンド辺りが好きかもよ?」

という会話。
 当時DJとして突出したセンスと技術、そして素晴らしい和モノ・レコード・コレクションを持っていた彼が、僕のそのひと言からフリーペーパーで他の知られざる和製ソフトロックと共に『歩こう(「オフコース1 / 僕の贈りもの」収録)』を選曲し、「なるほどそういう事か!」とそれを読んだ僕はソフトロックとは何たるかをかえって教わったように感じたのでした。
(山本ニューさんミックステープ) 


 ということで、VANDAとソフトロックとオフコースは僕の中で三位一体かの如く強い結びつきがあるものでして、光栄にもこの度執筆の機会をいただけましたので、ここは是非オフコースのことを書いていけたらと思っておりますが、その前に。 

 《オフコースと僕》

 Wikipediaで僕のことを調べると、概要欄に「レコード・オフコース大好きおじさん。」と書かれているくらいオフコース大好きなのですが、出会いは幼少期、1981年(5~6歳)頃に母が『SELECTION 1973-78』を購入し、僕がそれを聞いて「すごい!ビートルズみたいだ!(「やさしさにさようなら」の出だしのハーモニーにやられた)」と衝撃を受けた(The Beatlesはその前年の夏に赤盤・青盤のカセットをやはり母が購入し、それをぼくが気に入り僕の物にした。ジョン・レノンが亡くなる少し前にビートルズ好きになっていたという事)のがきっかけでした。 
 母は「さよなら」を聞きたかったのか、その後すぐ『SELECTION 1978-81』を購入しています。その後は各アルバムを僕がねだって買ってもらっていた感じで、「さよなら」の大ヒットには間に合っていないが、『NEXT』(1982年9月28日/TBS系特別企画番組)の放送はリアルタイムで観ている、リアルタイムで聞いてはいるが人気ぶりを体験できなかった、そういう人物が書くオフコース話と思って読んでいただきたいのです。 

 オフコースをについて書くとはいうものの、音楽的なことや詩の世界観など多角的に既に散々語り尽くされている感もあり、また、本人達のインタビューや書籍等含め沢山資料が残っているのに何を今更と思われるかも知れません。 ですが、VANDA読者の皆さんは音楽の探究者であると同時にレコード盤の探究者(コレクター/マニア)でもあると思います。(僕も含め)そんな皆さんにうってつけのオフコースの初回盤のこと、色々購入した結果ある程度まとまった情報と、残念ながら資料が見当たらず調べきれていないことも正直に書いていこうと思っています。さて、第一回目の今回は… 

 『オフ・コース1 / 僕の贈りもの』 です。



 我が家にはこのアルバムが現状6枚あるのですが、それぞれ細かな違いがあり、盤の研究のためには手放すわけにいきません。 
 細かく分類しますと、

1.ETP-8258 1S/1S 白ラベル見本盤 帯なし
 裏ジャケット東芝音工株式会社 ¥1,800表記

2.ETP-8258 1S2/1S TOSHIBA MUSICAL INDUSTRIAL LTD. 帯¥1,800
 裏ジャケット東芝音工株式会社 ¥1,800表記

3.ETP-8258 1S2/1S TOSHIBA MUSICAL INDUSTRIAL LTD. 帯¥2,000シール修正
 裏ジャケット東芝音工株式会社 ¥2,000シール修正

4.ETP-8258 1S2/1S TOSHIBA-EMI LTD. 帯¥2,000シール修正
 裏ジャケット東芝EMI株式会社 ¥2,000

5.ETP-8258 1S2/1S TOSHIBA-EMI LTD. 帯¥1,800
 裏ジャケット東芝EMI株式会社 ¥2,000 表記

6.ETP-72118 2S/2S TOSHIBA-EMI LTD. 帯¥2,300
 裏ジャケット東芝EMI株式会社 ¥2,300 表記(注:シングルジャケット)

(レコード番号 / マトリクス / ラベル / 帯 / 裏ジャケットの順) 

 持っているものだけでもこれだけの違いがありますし、ひょっとするとまだ手に入れられていないものが存在し、細かな違いがあるのかも知れません。入手できたものでこれだけの違いが発生しているのは、僕が知る限りこのアルバムだけです。マトリクスですが、基本的に東芝からのリリースものは1Sが初回と考えて差し支えないようです。1Sと1S2に、レコード盤の溝の見た目上、違いはありません。1S(1S2含む)と2Sは見た目的に明らかに違いがあり、2Sの方がより内側にカットされています。ただ、聴感上の差異はほとんど感じられませんでした。1Sと1S2も同様でした。 

 それにしても、社名変更と価格変更による帯やラベルの違いが存在するのは分かりますが、(ここからが解明できていない部分になるのですが)何故、1Sは白ラベルの見本盤でしか僕は手に入れられないのか、1S2が最初から基本的に全国に流通したものなのかどうか、1,800円帯と裏ジャケ2,000円表記のものは果たして売られていたのか(中古で買っているため、考えられるのは後で別々のものが組み合わせられてしまった)、¥2,000表記の帯は存在するのか。 
 これらの謎の情報や正解、まだ別の盤(バージョン)があるよ!等の情報をお持ちの方、是非僕に御教示ください。後追いではここまでが限界です…。

(白ラベル 1S/1S) 

(TOSHIBA MUSICAL INDUSTRIAL LTD.)

(TOSHIBA-EMI LTD. )

(2S/2S) 


以上、吉田哲人でした。また、次回。


吉田哲人プロフィール
作編曲家。 代表作『チームしゃちほこ/いいくらし』『WHY@DOLL / 菫アイオライト 』『Sputrip / 光の惑星』『WAY WAVE / SUMMER BREEZE』 等。シンガーソングライターとしてアナログ盤シングル『ひとめぐり』『光の惑星』、短冊CD 『ムーンライト・Tokyo』発売中。

(テキスト及びVANDA誌表紙除く画像提供:吉田哲人/編集:ウチタカヒデ

2023年9月10日日曜日

Argyle:『Yellow Magic Carnival / Down Town(Toshiya Arai Remix)』(unchantable recoerds/ CT-049)


 大阪で活動する大所帯パーティー・バンドのArgyle(アーガイル)が、3年振りとなる7インチ・シングル『Yellow Magic Carnival / Down Town(Toshiya Arai Remix)』を9月13日にリリースする。
 リリース後即完売した7インチの前作『DOWN TOWN / ぼーい・みーつ・がーる』(2020年10月)もタイトル曲は70年代邦楽ポップスのカバーだったが、本作も日本音楽界の至宝とされる細野晴臣がティン・パン・アレー時代にファースト・アルバム『キャラメル・ママ』(1975年11月)に提供した「Yellow Magic Carnival」を取り上げている。またカップリングは、前作「DOWN TOWN」を冗談伯爵の新井俊也がリミックスしたニュー・ヴァージョンということで注目をあびることは間違いない。


 Argyleはキーボーディストとして複数のバンドで活躍する甲斐鉄郎を中心に1995年に結成された。その甲斐とYURIによる男女ツイン・ヴォーカルをフロントとして、ホーン隊とフルートを含む11名から構成されるバンドなのだ。ソウル・ミュージックをベースにして、ファンク、ラテン、ジャズ、ラウンジ、ソフトロックなど様々なジャンルのエッセンスを取り入れていて、現在でも音楽通に注目されている。これまでに『HARMOLODIC』(2003年)と『Go Spread Argyle tune』(2005年)のオリジナル・アルバム、EPを1枚、7インチ・シングルを4枚それぞれリリースしている。 
 
 本作「Yellow Magic Carnival」は、2008年ORANGE RECORDSからリリースされたコンピレーション・アルバム『incense』に提供していたが、今回7インチ用にリミックスとリマスタリングされた新装ヴァージョンとなっており、「Down Town(Toshiya Arai Remix)」同様本作でしか聴けない音源となっている。
 プロデュースはリーダーの甲斐と、今年7月のリリースも記憶に新しいザ・スクーターズの『東京は夜の七時』を共同アレンジで参加したグルーヴあんちゃんが手掛け、ミックスとマスタリングは、関西を中心にTREMORELA名義で電子音楽家として活動する田中友直が担当している。 ジャケットにも触れるが、アート・ワークとイラストレーションは前作に引き続き、さくらいはじめが担当し、無国籍且つノスタルジックな雰囲気を醸し出している。なお初回限定盤はクリアイエローのカラーバイナル仕様であり、今回も完売必至と予想されるので、興味を持った読者は早急に入手しよう。


 ここからは筆者による収録曲の解説と、前作レビューの際作成した「DOWN TOWN」を考察するサブスク・プレイリストを更新し、山下達郎作品のオマージュ元を追加したので聴いてみて欲しい。
 これまでに「Yellow Magic Carnival」のカバーとして最も知られるのは、ティン・パン・アレーがバックアップした、女性シンガー・ソングライターのMANNA(マナ)が79年に取り上げたヴァージョンだろう。プロデューサーはドラマーの林立夫で、アルバムとシングルではアレンジが異なり、後者はギタリストの鈴木茂がアレンジを手掛けていて、キャプテン&テニールの「Love Will Keep Us Together」(1975年)に通じるシンコペーションが効いたアレンジが好評となり、当時「夜のヒットスタジオ」にも出演していた。
 本作でのヴァージョンは、BPMを下げたメロウで大人のラテン・ソウル・ポップとなっており、その洗練さに耳を奪われる。これはオリジナルではストリングスによるチャイニーズ・スケールのメイン・リフを梅田麻美子のフルートにアダプトしたことや、左右のチャンネルで異なる展開をする2名のギタリストのプレイ、リズム隊とコンガの絶妙なポリリズム、ホーン・セクションの適切な配置など、隙間を活かしながらじわじわと有機的に絡んでいくバンド・アレンジにした効果だと思われる。
 高域でハスキーな声質が魅力のYURIと、ソウルフルでダンディーな甲斐のヴォーカルのコントラストもこのサウンドに溶け込み、彼ら流に言えば「シュッとした」とした名カバーに仕上がっている。 
 
WebVANDA管理人が考察するDOWN TOWNと
達郎イズム・プレイリスト


 『ONE』冗談伯爵/『My Romance』前川サチコとグッドルッキングガイ 

 カップリングの「Down Town(Toshiya Arai Remix)」は、前作好評だったカバーを冗談伯爵の新井俊也がリミックスしたニュー・ヴァージョンで、昨年7月リリースされた彼らのファースト・フルアルバム『ONE』に通じる緻密なサウンドがここでも展開されている。
 コーラスを含むヴォーカルは前作同様、前川サチコとグッドルッキングガイを率いる前川サチコがゲスト参加したトラックが使用されており、彼女のキュートなヴォーカルがフューチャーされているのだ。なおグッドルッキングガイのメンバーとして甲斐も参加した、2021年7月のサード・アルバム『My Romance』は、幣サイトでも紹介したので記憶している読者もいるだろう。 
 本作のニュー・ヴァージョンでは、弊誌監修『ソフトロックAtoZ』(初版1996年)でも巻頭で紹介された、アルゾ&ユーディーンの「Hey Hey Hey, She's O.K.」(『C'mon And Join Us!』収録/68年)をオマージュしたコーラス・トラックが効果的にリサイクルされており、新井による疾走感あるノーザン・ソウル風のバックトラックと相まってフロアを熱く沸かせるだろう。 
 最後に繰り返しになるが、リリース後即完売した前作同様に数量限定の7インチ・シングルなので、本レビューを読んで興味を持った読者はリンク先のレコード・ショップなどで早急に予約して入手しよう。

◎ディスクユニオン予約リンク:https://diskunion.net/jp/ct/detail/1008706414 

 (テキスト:ウチタカヒデ

2023年9月2日土曜日

大泉洋子(編著):『音楽(ビート)ライター下村誠アンソロジー 永遠の無垢』(虹色社)


 下村 誠(しもむら まこと / 1954年12月12日-2006年12月6日)という音楽ライター兼シンガー・ソングライターをご存知だろうか。
 1974年武蔵野美術大学在学中から劇画製作プロダクションでアシスタントを務め、その人脈を切っ掛けに翌年ロサンゼルスに渡米し、当時のリアルなライヴ体験をしたことがその後の人生に強く影響されたと考えられる。
 帰国後月刊誌や週刊誌に音楽評を寄稿したことで、本格的に音楽業界に関わることになり、76年には自由国民社の新譜ジャーナルに入社する。同年バンド「舶来歌謡音楽団」を結成し、本格的な音楽活動も開始していく。このバンドには後に佐野元春をバックアップするTHE HARETLANDのメンバーとなり、セッション・キーボーディストとして知られる西本明が参加していた。 
 79年12月の新譜ジャーナル退社後は、フリーの音楽ライターとして多くの音楽誌に寄稿していて、音楽家としても精力的に活動し「下村誠バンド」や「ラスタマンバイブレーションズ」(ボブ・マーリィから影響されたであろう)など複数のバンドを並行して始動させている。80年12月にはインディー・レーベル「ナッティレコード」を設立し、若いミュージシャンを発掘し育成して、2004年までに30作程のシングルやアルバムをリリースしていた。
 また佐野元春との交流も彼のファンには知られていて、ヒットしたサードアルバム『Someday』(82年5月)収録の「Happy Man」と「Rock & Roll Night」、それと「So Young」(シングル『スターダスト・キッズ』カップリング/82年11月)のレコーディングにコーラスで参加している。筆者が10代前半だった頃、当時佐野氏がパーソナリティーを務めていたFM番組のリスナーだったが、下村氏がゲストで出演した回も聞いていた記憶がある。
 
 
NHK-FM サウンドストリート 佐野元春
ゲスト: 下村誠 1984.5.14 ※ 

 この様に人並外れた濃い音楽人生を20歳代の若さで送った、下村誠という人物に興味を惹かれる読者は多いのではないだろうか。
 今回紹介する『音楽(ビート)ライター下村誠アンソロジー 永遠の無垢』は、音楽ジャーナルとして彼を敬愛していた大泉洋子によって、多くの音楽誌に寄稿されていた批評記事やインタビュー記事の中から厳選し、思い入れが強いとされるミュージシャンを50音順に編集していて、生前交流があったミュージシャン達へのインタビュー記事、同業者として同時代に活動したベテラン音楽評論家達からの特別寄稿文など新たに追加した記事も多く含まれ、この書籍でしか読めない貴重なものである。
 弊サイト絡みでは、VANDA誌1993年度のVol.1012、1995年度のVol.18からエッセイがピックアップされており、弊誌佐野編集長との交流関係を伺い知れた。

 全体を通して感じたのは、自らもシンガー・ソングライターである下村だからこそ執筆できたであろう、ミュージシャンとその作品に真摯に向き合った文章、彼を回想した様々なインタビュー記事や特別に寄稿された文章など、溢れ余る音楽愛に尽きるのだ。
 興味を持った幣サイト読者や音楽ファンは是非入手して読んで欲しい。


【目次】
 第一章 音楽(ビート)ライター下村誠の仕事1
アルフィー/伊藤銀次/エコーズ/大塚まさじ他

第二章 時代と音楽シーン
シンプジャーナル元編集長 大越正実 インタビュー

第三章 音楽(ビート)ライター下村誠の仕事2
ザ・ストリート・スライダーズ/ザ・ストリート・ビーツ/ザ・ブルーハーツ
/篠原太郎/シバ/白鳥英美子/ジュンスカイウォーカーズ/高田渡他

第四章 アーティストからの言葉(インタビュー)
西本明  スズキコージ

第五章 仲間たちからの言葉
三輪美穂 若松政美 村田博

付録 下村誠の詩(うた)/1954~2006
下村誠と彼が生きた時代の音楽シーンと世相年表

特別寄稿
田家秀樹 山本智志 中川五郎


本記事参考出典元:「BOUND FOR GLORY-下村誠 SONG LIVE-実行委員会」~ https://13makotoshimomura.jimdofree.com/

※:FM番組のエアチェック動画ですが著作権を侵害する場合は削除します。

(テキスト:ウチタカヒデ / 画像提供:大泉洋子)