彼女達は今年2月10日に惜しくも逝去した、日本音楽界屈指のカリスマ・ジャケット・デザイナーである信藤三雄をリーダーとし、1982年にファースト・アルバム『娘ごころはスクーターズ』でレコード・デビューしたが、僅か2年間の活動で解散してしまう。その後91年と2003年にコンピレーション・アルバムがリリースされたことでリバイバルされ、ファーストから30年振りとなる2012年に橋本淳・筒美京平コンビ、宇崎竜童、小西康陽等希代のソング・ライター陣が楽曲提供したセカンド・アルバム『女は何度も勝負する』をリリースし活動を再開した。以降は不定期でライヴ活動を続け、14年には星野みちるとスクーターズ名義で「東京ディスコナイト/恋するフォーチュンクッキー」の7インチ・シングルをライヴ会場限定で発表している。
今回のカバーが実現したのは、昨年9月に高円寺で開催されたライヴ・イベント『GOING TO A GO GO』のステージで、ザ・スクーターズのセットにゲスト・ヴォーカルで参加していた小西康陽氏が、MC中当然「東京は夜の七時」をカバーすることをメンバーに提案し、当日客席にいた信藤三雄が快諾し、この企画がスタートしたという。
既に病で闘病中だった信藤は、療養先の大阪にて、幣サイトでお馴染みのDJでトラックメイカーのグルーヴあんちゃんのサポートを受けながら「東京は夜の七時」のデモを製作する。今年2月の信藤の没後、このデモテープを聴いたメンバーと、近年ザ・ファントムギフトを復活させ、このバンドにも参加し八面六臂の活躍をしているベーシストのサリー久保田が中心となり、ザ・スクーターズ版の「東京は夜の七時」は完成されたのだ。
現在のザ・スクーターズはボーカルのロニーバリー、ボーカルとコーラスを兼務するビューティ、コーラスのココとジャッキーの女性4名がフロント・メンバーで、リズム・セクションにギターの薔薇卍、ベースは前出のサリー久保田、ドラムとタンバリンはオーヤ、キーボードとバンド内アレンジャーの中山ツトムだ。ホーン・セクションはアルト・サックスのサンデーとビートヒミコ、テナー・サックスのルーシーの3名で、バンドのムードメーカーとしてMCとVocalのターバン・チャダJr.から構成されている。中山はピチカート・ファイヴの『Bellissima!』(88年)や『Soft Landing On The Moon = 月面軟着陸』(90年)、オリジナル・ラヴのセッションにも多く参加しているので、ご存知の音楽ファンもいるかも知れない。
なお本作ではピチカート・ファイヴのオリジナル版「東京は夜の七時」(シングル/93年)でボーカルを務めた、野宮真貴がゲスト参加しており、更にジャケットのイラストは湯村輝彦の描き下ろしというのも大きく注目される筈だ。プロデュースは信藤でアレンジは信藤とグルーヴあんちゃんがクレジットされている。またミックスとマスタリングは、本作でもマイクロスター佐藤清喜が担当し、ジャンルを超えて様々なミュージシャン達から厚い信頼を得ているのが理解出来る。
ここでは筆者による詳細な解説と、グルーヴあんちゃんが信藤氏とデモ制作中に聴いていた曲や思い出の曲をセレクトしたプレイリスト(サブスクで試聴可)をお送りするので、聴きながら読んでいただきたい。
PIZZICATO FIVE / 東京は夜の七時
※本作の原曲、参考動画。
タイトル曲「東京は夜の七時」は、93年12年にピチカート・ファイヴが発表した5作目のシングルで、もともとは当時フジテレビ系の子供バラエティ番組『ウゴウゴルーガ2号』のテーマソングとして世に出た曲である。ソングライティングは小西康陽氏で、アレンジはDJ兼プログラマーとして著名なダンス・ミュージック・クリエイターの福富幸宏氏だ。オリジナルはそんな福富が得意とするハウス・サウンドで90年代前半の最先端の東京音楽シーンをよく現わしている。
本作のヴァージョンでは、ザ・スクーターズらしい拘りのガレージな東京モータウン・サウンドとして生まれ変わっていて極めて新鮮である。イントロからマーヴィン・ゲイの「Stubborn Kind of Fellow」(同名アルバム収録 / 63年)よろしく、ターバンのシャウトとフロント・メンバー達のスキャットの渦からスタートするからたまらない。本編の基本リズム・パターンは、60年代モータウン黄金期を支えたスタッフ・ライター・チームのホーランド=ドジャー=ホーランド(以降H=D=H)と、ソウル・ベースの神と称されたジェームス・ジェマーソンらミュージシャンからなるファンク・ブラザーズで編み出した三連符の跳ねたビートである。ここでもサリー久保田とオーヤのリズム隊によるバネのあるコンビネーションをはじめ、各プレイヤー達の溌溂とした演奏が聴けて、誰もが高揚する多幸感に溢れている。
なお7インチの収録時間は短冊CDより1分程短いミックスになっているので、熱心なファンでレコ資金に余裕がある人は両フォーマットで入手すべきだろう。
カップリングの「Hey Girl」は、歌謡界の大家である橋本淳・筒美京平両氏がセカンドの『女は何度も勝負する』に提供した曲のリアレンジ・ヴァージョンで、本作のためにリレコーデイングされている。オリジナル・ヴァージョンは、イントロから「Soulful Strut」(「Am I The Same Girl」のインストVer / 68年)をモチーフにしたノーザン・ソウル・スタイルのアレンジが心地よかった。筒美京平作品としては、堺正章に提供した「ベイビー・勇気をだして」(『Sounds Now! = サウンド・ナウ!!』収録 / 73年)に通じるハニー・コーン(H=D=Hが67年にモータウン離脱後に設立したレーベル”Hot Wax”に所属したソウル・ガールグループ / 68年-73年)を意識した曲調がファンに愛されている。
ここではBPMを上げたシェイク系のリズムにアダプトされて、よりバンドとして引き締まった演奏により一体感が出ている。中山によるアナログ・シンセのオブリガート、ホーン・セクションのリフが良いアクセントになっていて、筆者的にもこちらのヴァージョンの方を気に入っている。また意図的にカップリングされたのか、偶然なのかは不明だが、橋本淳氏の歌詞はA面「東京は夜の七時」と対極にあるトーチ・ソングのストーリーになっているのが興味深い。ロニーバリーとビューティの声質もそんな悲恋な世界観にマッチしているから完成度が高いと感じる。
伝説のバンド、ザ・スクーターズを率いた信藤三雄氏の追悼という意味でも、このシングルを入手して熱く聴き続けてほしいと願う。
【グルーヴあんちゃんプレイリスト】
◼️Cry / Godley & Creme (『History Mix (Vol. 1)』/ 1985年)
先生DJプレイ。とにかく最高な曲!耳に残る名曲。
◼️万事快調 / ピチカート・ファイヴ (『Sweet Pizzicato Five』/ 1992年)
MVでのbrother SHINDO the scooter do the horseがかっこいい!
先生とはよくピチカートの話をしました。
◼️Sexual Healing / Marvin Gaye(『Midnight Love』/ 1982年)
マーヴィン・ゲイははずせないねぇと先生。
◼️Want Ads / Honey Cone(『Soulful Tapestry』/ 1971年)
スクーターズは東京モータウン・サウンドですが、Hot Waxも最高のレーベルです。
◼️ヤングブラッズ / 佐野元春(『月と専制君主』/ 2011年)
先生DJプレイ。佐野元春さんの大ファンと公言されております。
もちろんジャケットのデザインも先生です。
◼️タイガー&ドラゴン / クレイジーケンバンド(同名シングル/ 2002年)
先生とぼくでクレイジーケンバンドのライヴを拝見する機会がありました
そのライヴの時、剣さんがライヴのMCでジャケットデザインをされた信藤さんなくして
この曲のヒットはなかったと語られておりまして・・・あらためて偉大な先生だと実感。
◼️MYSTIC LADY / T.Rex(『The Slider』/ 1972年)
この曲収録のアルバム「THE SLIDER」のジャケットに多大なる影響を受けたと先生。
「ジャケットのカラーの写真を見たんだけど、粒子の荒いモノクロ写真が最高」
◼️ロキシーの夜 / 近田春夫&ハルヲフォン(『電撃的東京』/ 1977年)
先生DJプレイ この曲最高だね~~と先生。
◼️世迷い言 / 日吉ミミ(同名シングル / 1978年)
先生DJプレイ とにかくいろんなジャンルの音楽を聴かれる先生。昭和歌謡も大好物でした。
◼️あたしのselect / hi-posi
(『性善説 The View Of Humannature As Fundamentally Good』/ 2000年)
奥様である、もりばやしみほさんのユニットhi-posi、いま聞いても古さを感じない尖がったサウンド。
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