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2023年7月29日土曜日

音楽百景#49


  幣サイトでアルバムを紹介したミュージシャン達が出演するライヴイベントが、8月19日に下北沢ニュー風知空知で開催されるので紹介しよう。
 このイベントを企画、主催するのは、2019年10月にファースト・フルアルバム『come here my dear』をリリースした鈴木恵TRIOだ。リーダーの鈴木恵(すずき さとし)を中心に新潟で結成されたスリーピース・バンドで、現在のメンバーはヴォーカル兼ギターの鈴木とドラム兼コーラスの青木宏美、そして2021年2月よりベース兼コーラスの金子龍成が新たに加わった。因みに金子は鈴木とのパワーポップ・バンド、EXTENSION58(エクステンションファイブエイト/1994年~)のメンバーでもあり、気心が知れた間柄と言える。

『come here my dear』

 今回ゲストに迎えたのは、2018年7月にセカンド・アルバム『ISLAND(アイランド)』をリリースし、現在はヴォーカル兼ギターの小川タカシのソロユニット(本ライヴではバンド編成)となったカンバス。そしてRYUTist(リューティスト)への提供曲「愛のナンバー」で筆者が絶賛した、女性シンガー・ソングライターの℃-want you!という二組で、組み合わせとしても非常にユニークで見逃せないイベントとなっている。
 興味を持った音楽ファンは早期に予約しよう。 


 鈴木恵よりコメント
TRIO企画&出演の名物イベント「音楽百景」が8月19日(土)東京・下北沢にて開催されます! 
一時は、もうTRIOでは県境を越えられないのか、と思いましたが、ついにこの日が来ました! 
東京で企画をやるのは実に3年9ヶ月ぶり! 今回も豪華なラインナップでお待ちしております。


音楽百景#49
【会場】
下北沢 ニュー風知空知(東京都世田谷区北沢2-14-2 JOW3ビル4F)

【日時】
2023年8月19日(土) OPEN18:00 / START18:30

【料金】
3,000yen (+ 1drink 600yen) 

【LIVE】
カンバス(バンド編成)
 ℃-want you! 
鈴木恵TRIO

【DJ】
Melime (KOGA RECORDS / Finders Keepers)

【チケット予約・問い合わせ】
鈴木恵 OFFICIAL SITE 予約フォーム:


【プロフィール】

 「カンバス」https://canvasweb.net 
小川タカシ(Vo,Gt)、菱川浩太郎(Ba)の2人で地元福岡にて結成。 2013年にMIDI Creativeより1stアルバム「流星のベクトル」をリリース。その後、FenderRhodesにイノヒデフミ氏を迎え7インチシングル「MySweetLoveSong」「この街の夜さ/Sunset202」7inchをリリース 2018年にはHappiness Recordsより2ndアルバム「アイランド」発売。 現在は、小川タカシのソロユニットとして活動中だが、今回は久しぶりの嬉しいバンド編成のライブを聴かせてくれる。 

「℃-want you!」
ロック・バンド「住所不定無職」として活動後、2015年に「Magic, Drums & Love」を結成し、キーボード/ギターを担当。その後、雷音レコードから「℃-want you!」としてソロ・デビューを果たす。8月16日には、1年ぶりとなる待望の両A面7inchシングル「ペパーミント・パティTelephone」(ザ・グッバイのカバー)/「ときめきを教えて」をリリース。まさにニューリリース直後のグッドタイミングな弾き語りライブ。 

「鈴木恵TRIO」https://suzukisatoshi.com
70〜80年代のソフトロック、フォークに通じる米英洋楽を基調とし、そこに日常を切り取った日本語詞を絶妙にブレンドした新ジャンル「和製ドリーミーポップ」を確立した新潟のグッドミュージック伝道師3人組。2019年にFLY HIGH RECORDSより1stアルバム「come here my dear」をリリース。今回の企画「音楽百景」のオーガナイザーとして、良質なポップミュージックのコンサートを全国各地で展開している。


【出演者関連過去記事】
★RYUTist 『きっと、はじまりの季節』:https://www.webvanda.com/2019/10/ryutist-penguin-disc-pgdc-0011.html
★追悼・筒美京平を讃えるベストソング:https://www.webvanda.com/2020/11/blog-post.html 
★名手達のベストプレイ第6回~ニック・デカロ:https://www.webvanda.com/2019/10/blog-post.html
★名手達のベストプレイ第7回~スティーヴ・ガッド:https://www.webvanda.com/2020/07/blog-post.html
★名手達のベストプレイ第8回~デイヴィッド・T・ウォーカー:https://www.webvanda.com/2020/08/8t.html

(テキスト:ウチタカヒデ

2023年7月22日土曜日

ビジーフォーについて(改編)

 ビジーフォーは、1990年代に一大ブームを巻き起こしたフジテレビの番組『ものまね王座決定戦』に出演していた。番組が初めて放映されたのは1973年。この頃から高視聴率を記録していたそうだけれど、1987年に番組の担当プロデューサーが木村忠寛に変わり、パロディ芸の要素を加えたエンターテインメント性の高い番組へ変化させたことで人気が高まり、一気にブームが広がったそうだ。

ものまね四天王 ビジー・フォー
(PCBC51528)

 そんな世の中の風潮を意識していたわけではないにせよ、子供ながらに感じていた熱気は今でもわくわくするような思い出として記憶に残っている。ビジーフォーはグッチ裕三とモト冬樹のコンビで1983年から出演し、ものまね四天王(コロッケ、清水アキラ、栗田貫一、ビジーフォー)として活躍した。私にとって四天王の中でもとりわけ気になる存在だったビジーフォー。大人になった今なら、スタイリスティックスやプラターズ、フォー・シーズンズライチャス・ブラザーズなどを演っていた彼らを音楽的な視点で見ることも自然かもしれないけれど、当時も別の出演者を見るのとは違った期待をよせていたように思う。外国なんて行ったことがなかった子供の頃、洋楽を歌って演奏しているビジーフォーは、ものまねという根幹がありながらも似ているか似ていないか以上に、得体の知れないどこか遠い場所の空気を味わわせてくれる人たち、という風に見えた。その頃ビジーフォーが4人組のバンドだったということや音楽的背景なんてまったく知らず、あくまでもバラエティ番組のタレントとして見ていた子供の私にも、本格的な異国情緒を感じさせてくれた二人のすごさを今になって改めて思う。


ビジーフォー/スタイリスティックス 愛がすべて

ビジーフォー/ラ・マラゲーニャ【トリオ・ロス・パンチョス】

 小中高同級生だったグッチ裕三とモト冬樹は高校時代に親しくなり、卒業後はモト冬樹の兄エド山口に誘われブルーエンジェルというソウルバンドをやっていたそうだ。しばらくしてエド山口が抜けた後、2人はブルーエンジェルのドラム、キーボードと新しいベースを入れてサジテリアスという、同じくソウルバンドを結成して活動するのだけれど、そんな中モト冬樹に別のバンドからスカウトがくる。ピープルという、元オックスの福井利男がリーダーのGSバンドだった。何度かライブを観に行ったモト冬樹は、コーラスが素晴らしかったことや、なによりドラムだった牧ツトムとバンドをやってみたくなったことでサジテリアスを辞めピープルへの加入を決めた。ところがその直後に牧ツトムは脱退しチャコとヘルス・エンジェルを始めてしまったそう。モト冬樹(ここでのアーティスト名は東冬木)が加入、メンバーチェンジを経てピープルはローズマリーという名前に変わり(ローズマリーと名付けたのは内田裕也らしい)、TBSテレビで生放送されていた関東ローカルの情報バラエティ番組 『ぎんざNOW!』や日本劇場で開催されていた音楽フェスティバル『日劇ウエスタン・カーニバル』などに出演。ローズマリーでのモト冬樹はギターとメロトロンも演奏していたそうだ。在籍時のリリースはトリオ・レコードからのシングル4枚とアルバム1枚。

あいつに気をつけろ!』/ローズマリー


1973年 「あいつに気をつけろ!」/「ROSEMARIE」(TRIO 3A-106)

1973年 『あいつに気をつけろ!』(TRIO 3A-1012)

1974年 「ふたりの休日」/「悲しい旅」(TRIO 3A-122)

1974年 「センチメンタル急行」/「はじめての朝」(TRIO 3A-127)

1974年 「傷心」/「一枚の銅貨」(TRIO 3A-129)

 この頃グッチ裕三は、サジテリアスのメンバーの一部や宮本典子(mimi)ら新たなメンバーも加えスリーチアーズ&コングラッツレイションズというソウルバンドで活動。このバンドのドラムがウガンダ・トラだった。米軍キャンプや高級ディスコで演奏していたそうだ。ロサンゼルスでレコーディングを行ったようなのだけれど、リリース情報が見当たらなかった。飛び抜けて日本人離れしたソウルミュージックを聴かせるバンドだったらしい。

 モト冬樹はローズマリーの後、ジュテーム(多くはローズマリーのメンバー)というGSバンドでもシングルを1枚リリース(「鏡の中のあなた」/「哀しみの悪戯」WARNER PIONEER L-1282A)、その後もいくつかバンドをやっていたよう。しばらくして何か別の面白いことがやりたいと友人だったウガンダに話し、ウガンダが連れてきた元ザ・クーガーズの島田与作と3人で銀座のミニクラブで練習代わりに演奏し始める。この頃にはスリーチアーズ&コングラッツレイションズも活動しておらず、時々グッチ裕三が遊びにきてオンリーユーやアンチェインド・メロディなどを歌っていて4人でバンドをやろうという話になったそうだ。

 こうして1977年に結成されたビジーフォーの前身バンドは、当初は仕事がたくさんきて忙しくなるようにとの願いがこめられた『いそがしバンド』という名前だった。コミックバンドとして六本木界隈のナイトクラブで掛け持ちして演奏していたところ話題になり、多くのプロダクションからスカウトがきたそうだ。その中から目標だったコミックバンド、クレイジーキャッツが在籍していた渡辺プロダクションに入ることを決める。その際、「busy」と、4人組の意味の『ビジーフォー』に改名している。

結成時のメンバー

Ba リーダー:島田与作(イタッケ島田)

Vo: グッチ裕三(初期:高田グッチ裕三)

Gt :モト冬樹(初期:武東スリム冬樹)

Dr :ウガンダ (ウガンダ・トラ)

ビジーフォー/SOUL MUSIC MEDLAY 初期1981

 自分達でチケットを売って大規模なホールで演奏したり、渡辺プロの仕事でとしまえんのステージに立ったり日本テレビの番組に出演するなど、様々な活動を行っていたそう。大瀧詠一の特別ラジオ番組で、レコーディングの機材や環境によるサウンド変化の実験・解説を行う 『笛吹銅次ショー』にビジーフォーがゲスト出演し演奏していたことも驚いた。『ものまね王座決定戦』へはグッチ裕三、モト冬樹のコンビで出演。フジテレビからものまねをやってみないかと持ちかけられたことがきっかけだったらしく、ものまねなんてやったことがないと最初は躊躇したようだけれど、やっているのは洋楽の"コピー"だと考え承諾したそう。(※後にモト冬樹はコピーとものまねは違うものだと話している。)継続的な人気を得ていた中、ウガンダ・トラがタレントとしてソロで活動するためにビジーフォーの脱退を決める。この時、ウガンダがいなければビジーフォーではないからとリーダーの島田与作はバンド自体を解散することにしたそうだ。

 この後モト冬樹はコメディアンの桜金造とお笑いコンビAJAPAとして活動したそうだけれど1年で解散。しばらくしてグッチ裕三と2人でまたやろうと、バックバンドにウーロン茶(Ba)、ロバよしお(Dr)、紅一点(Key)を加えビジーフォー・スペシャルとして再スタートした。後にドラムはエデン東に変わり、北海龍がマネージャーで参加。ビジーフォー・スペシャルは日本テレビ系列の音楽バラエティ番組 『夜も一生けんめい。』『THE夜もヒッパレ』での演奏も担当した。

■ビジーフォー

1981年 「たいへん!バイキン音頭」(CBS/SONY 07SH 1102)

1981年 「じゃりン子チエ/春の予感」(CBS/SONY 07SH960)

■ビジーフォースペシャル

1991年 「身から出たサビしさ」/「CRYIN’ FOR YOU」(SRDL-3420)

1991年 「学問のスズメ」/「嫌いにならずにはいられない」(PCDA-00148)

 1992年以降は、グッチ裕三はグッチ裕三とグッチーズ、モト冬樹はモト冬樹とナンナラーズ(当初はモト冬樹とフリーマーケット)やエド山口とのユニット、東京ドンバーズなどで活動していた。最近ではそれぞれのタレント活動が主体と思われるけれど、モト冬樹は自身のブログでビジーフォーは解散したわけではないと書いていた。

 昔はコミックバンドが今ほど珍しくなかったのかもしれないけれど、現代ではなかなか見ることができない。実力派でありながらオリジナル曲を演奏することはほとんどなく、エンターテイナーであり続けるビジーフォーは特別な存在に思える。

※幣サイトは非営利音楽研究サイトですが、引用した動画が著作者に不利益を与える場合は直ちに削除します。

【文:西岡利恵

執筆者・西岡利恵

60年代中期ウエストコーストロックバンドThe Pen Friend Clubにてベースを担当。

【リリース】
8thアルバム『The Pen Friend Club』をCD、アナログLP、配信にて発売中。

■ザ・ペンフレンドクラブ10周年企画『2023 Mix』随時配信リリース

【ライブ】
現在、Niinaボーカリストとして迎えた新体制にてライブ活動開始。

■8/6(日・昼) ​上野恩賜公園野外ステージ『ワイキキと雨のサマーコンサート』
8/26(土・昼) 下北沢LIVE HAUS 『SHE'S GOT RHYTHM!』
9/23(土) 東高円寺U.F.O CLUB 『SHE'S GOT RHYTHM!』
10/7 (土) 大阪・雲州堂 『The Pen Friend Club Live In Osaka 2023』


2023年7月5日水曜日

ザ・スクーターズ:『東京は夜の七時』(VIVID SOUND / HIGH CONTRAST HCR9721)


 “東京モータウン・サウンド”として音楽通に知られる伝説のバンド、ザ・スクーターズがピチカート・ファイヴの『東京は夜の七時』をカバーし、アナログ7インチと短冊CDの2形態のシングルとして7月7日に同時リリースする。

 彼女達は今年2月10日に惜しくも逝去した、日本音楽界屈指のカリスマ・ジャケット・デザイナーである信藤三雄をリーダーとし、1982年にファースト・アルバム『娘ごころはスクーターズ』でレコード・デビューしたが、僅か2年間の活動で解散してしまう。その後91年と2003年にコンピレーション・アルバムがリリースされたことでリバイバルされ、ファーストから30年振りとなる2012年に橋本淳・筒美京平コンビ、宇崎竜童、小西康陽等希代のソング・ライター陣が楽曲提供したセカンド・アルバム『女は何度も勝負する』をリリースし活動を再開した。以降は不定期でライヴ活動を続け、14年には星野みちるとスクーターズ名義で「東京ディスコナイト/恋するフォーチュンクッキー」の7インチ・シングルをライヴ会場限定で発表している。


 今回のカバーが実現したのは、昨年9月に高円寺で開催されたライヴ・イベント『GOING TO A GO GO』のステージで、ザ・スクーターズのセットにゲスト・ヴォーカルで参加していた小西康陽氏が、MC中当然「東京は夜の七時」をカバーすることをメンバーに提案し、当日客席にいた信藤三雄が快諾し、この企画がスタートしたという。
 既に病で闘病中だった信藤は、療養先の大阪にて、幣サイトでお馴染みのDJでトラックメイカーのグルーヴあんちゃんのサポートを受けながら「東京は夜の七時」のデモを製作する。今年2月の信藤の没後、このデモテープを聴いたメンバーと、近年ザ・ファントムギフトを復活させ、このバンドにも参加し八面六臂の活躍をしているベーシストのサリー久保田が中心となり、ザ・スクーターズ版の「東京は夜の七時」は完成されたのだ。 
 現在のザ・スクーターズはボーカルのロニーバリー、ボーカルとコーラスを兼務するビューティ、コーラスのココとジャッキーの女性4名がフロント・メンバーで、リズム・セクションにギターの薔薇卍、ベースは前出のサリー久保田、ドラムとタンバリンはオーヤ、キーボードとバンド内アレンジャーの中山ツトムだ。ホーン・セクションはアルト・サックスのサンデーとビートヒミコ、テナー・サックスのルーシーの3名で、バンドのムードメーカーとしてMCとVocalのターバン・チャダJr.から構成されている。中山はピチカート・ファイヴの『Bellissima!』(88年)や『Soft Landing On The Moon = 月面軟着陸』(90年)、オリジナル・ラヴのセッションにも多く参加しているので、ご存知の音楽ファンもいるかも知れない。 
 なお本作ではピチカート・ファイヴのオリジナル版「東京は夜の七時」(シングル/93年)でボーカルを務めた、野宮真貴がゲスト参加しており、更にジャケットのイラストは湯村輝彦の描き下ろしというのも大きく注目される筈だ。プロデュースは信藤でアレンジは信藤とグルーヴあんちゃんがクレジットされている。またミックスとマスタリングは、本作でもマイクロスター佐藤清喜が担当し、ジャンルを超えて様々なミュージシャン達から厚い信頼を得ているのが理解出来る。 

 ここでは筆者による詳細な解説と、グルーヴあんちゃんが信藤氏とデモ制作中に聴いていた曲や思い出の曲をセレクトしたプレイリスト(サブスクで試聴可)をお送りするので、聴きながら読んでいただきたい。

PIZZICATO FIVE / 東京は夜の七時
※本作の原曲、参考動画。

 タイトル曲「東京は夜の七時」は、93年12年にピチカート・ファイヴが発表した5作目のシングルで、もともとは当時フジテレビ系の子供バラエティ番組『ウゴウゴルーガ2号』のテーマソングとして世に出た曲である。ソングライティングは小西康陽氏で、アレンジはDJ兼プログラマーとして著名なダンス・ミュージック・クリエイターの福富幸宏氏だ。オリジナルはそんな福富が得意とするハウス・サウンドで90年代前半の最先端の東京音楽シーンをよく現わしている。
 本作のヴァージョンでは、ザ・スクーターズらしい拘りのガレージな東京モータウン・サウンドとして生まれ変わっていて極めて新鮮である。イントロからマーヴィン・ゲイの「Stubborn Kind of Fellow」(同名アルバム収録 / 63年)よろしく、ターバンのシャウトとフロント・メンバー達のスキャットの渦からスタートするからたまらない。本編の基本リズム・パターンは、60年代モータウン黄金期を支えたスタッフ・ライター・チームのホーランド=ドジャー=ホーランド(以降H=D=H)と、ソウル・ベースの神と称されたジェームス・ジェマーソンらミュージシャンからなるファンク・ブラザーズで編み出した三連符の跳ねたビートである。ここでもサリー久保田とオーヤのリズム隊によるバネのあるコンビネーションをはじめ、各プレイヤー達の溌溂とした演奏が聴けて、誰もが高揚する多幸感に溢れている。
 なお7インチの収録時間は短冊CDより1分程短いミックスになっているので、熱心なファンでレコ資金に余裕がある人は両フォーマットで入手すべきだろう。

 カップリングの「Hey Girl」は、歌謡界の大家である橋本淳・筒美京平両氏がセカンドの『女は何度も勝負する』に提供した曲のリアレンジ・ヴァージョンで、本作のためにリレコーデイングされている。オリジナル・ヴァージョンは、イントロから「Soulful Strut」(「Am I The Same Girl」のインストVer / 68年)をモチーフにしたノーザン・ソウル・スタイルのアレンジが心地よかった。筒美京平作品としては、堺正章に提供した「ベイビー・勇気をだして」(『Sounds Now! = サウンド・ナウ!!』収録 / 73年)に通じるハニー・コーン(H=D=Hが67年にモータウン離脱後に設立したレーベル”Hot Wax”に所属したソウル・ガールグループ / 68年-73年)を意識した曲調がファンに愛されている。
 ここではBPMを上げたシェイク系のリズムにアダプトされて、よりバンドとして引き締まった演奏により一体感が出ている。中山によるアナログ・シンセのオブリガート、ホーン・セクションのリフが良いアクセントになっていて、筆者的にもこちらのヴァージョンの方を気に入っている。また意図的にカップリングされたのか、偶然なのかは不明だが、橋本淳氏の歌詞はA面「東京は夜の七時」と対極にあるトーチ・ソングのストーリーになっているのが興味深い。ロニーバリーとビューティの声質もそんな悲恋な世界観にマッチしているから完成度が高いと感じる。
 伝説のバンド、ザ・スクーターズを率いた信藤三雄氏の追悼という意味でも、このシングルを入手して熱く聴き続けてほしいと願う。



【グルーヴあんちゃんプレイリスト】 
※左から信藤三雄氏、グルーヴあんちゃん

  

 ◼️Cry / Godley & Creme (『History Mix (Vol. 1)』/ 1985年) 
 先生DJプレイ。とにかく最高な曲!耳に残る名曲。

◼️万事快調 / ピチカート・ファイヴ (『Sweet Pizzicato Five』/ 1992年) 
 MVでのbrother SHINDO the scooter do the horseがかっこいい! 先生とはよくピチカートの話をしました。

◼️Sexual Healing / Marvin Gaye(『Midnight Love』/ 1982年)
 マーヴィン・ゲイははずせないねぇと先生。

◼️Want Ads / Honey Cone(『Soulful Tapestry』/ 1971年) 
 スクーターズは東京モータウン・サウンドですが、Hot Waxも最高のレーベルです。

◼️ヤングブラッズ / 佐野元春(『月と専制君主』/ 2011年) 
 先生DJプレイ。佐野元春さんの大ファンと公言されております。 もちろんジャケットのデザインも先生です。

◼️タイガー&ドラゴン / クレイジーケンバンド(同名シングル/ 2002年)
先生とぼくでクレイジーケンバンドのライヴを拝見する機会がありました そのライヴの時、剣さんがライヴのMCでジャケットデザインをされた信藤さんなくして この曲のヒットはなかったと語られておりまして・・・あらためて偉大な先生だと実感。

◼️MYSTIC LADY / T.Rex(『The Slider』/ 1972年)
 この曲収録のアルバム「THE SLIDER」のジャケットに多大なる影響を受けたと先生。 「ジャケットのカラーの写真を見たんだけど、粒子の荒いモノクロ写真が最高」

◼️ロキシーの夜 / 近田春夫&ハルヲフォン(『電撃的東京』/ 1977年) 
 先生DJプレイ この曲最高だね~~と先生。

◼️世迷い言 / 日吉ミミ(同名シングル / 1978年)
 先生DJプレイ とにかくいろんなジャンルの音楽を聴かれる先生。昭和歌謡も大好物でした。

◼️あたしのselect / hi-posi
  (『性善説 The View Of Humannature As Fundamentally Good』/ 2000年)
 奥様である、もりばやしみほさんのユニットhi-posi、いま聞いても古さを感じない尖がったサウンド。



(本編テキスト:ウチタカヒデ