2023年4月28日金曜日

「旧伴家住宅」(滋賀県近江八幡市)へのミニカー展示の紹介

   2月にこのサイトでも紹介しましたが、今年2~3月にかけて近江八幡市の「旧伴家住宅」で開催された「びわ湖のひな人形めぐり」に我が家の人形(御雛と雌雛の二体もので人形一体のサイズ「全長50㎝、全幅60㎝」、人形三段台座「全長45㎝、全幅90㎝」、ぼんぼり高さ65㎝)を初展示(45畳大広間)、多くの来場者に楽しんでいただきました。

 このご縁で現在この施設で開催されている「5月人形展」(~5月7日(日))に、私が小中学生のころに収集していた「ミニカー」(注1)を展示(45畳大広間)をさせていただくことになりました。なおこの展示に関しては8月頃まで継続予定です。

 私は1996年に知り合った佐野邦彦さんに勧められ、雑誌VANDAで音楽評論家活動をスタートました。その後、2012年に発刊した著書「よみがえれ!昭和40年代」(小学館)をきっかけに、同年静岡県立大学大学院に入学。その院生だった時代に故小島教授から「展示学」を学び、先生の授業での講義助手や、学内にて私のコレクション(ミニカー&レコード・ジャケット等)を展示して実践体験をしています。

 その後は「レトロカルチャー研究家」として、音楽評論とともに昭和30~50年代の子供文化を発信しています。ちなみに小中学生時の私は「切手収集」「ミニカー収集を趣味に、夢は「漫画家」を目指して当時発行されていた月刊誌や週刊誌(ほぼ全誌)を読みまくっていました。そんな当時の小遣いは月500(小学校)~1,000円(中学)くらい、その中から漫画雑誌を購入の傍らプラモデル(50~500円の価格帯)に、ミニカー(150~1,000円の価格帯)をと買い集めていました。熱中するあまり、JMAC(注2)なるミニカー・コレクター・クラブに入会したこともありました。

 今回の展示は現在手元に残っている約100台で、その詳細について簡単に紹介しておきます。まずこの展示品でのイチオシは、1960年代後半に主に「コーギー(Corgi Toys)」(注3)より発売されていた当時の映画やテレビに登場していた特殊仕様車(コレクターの間では通称「マスコミミニカー」と呼ばれる)です。ちなみにこのシリーズのアイテムは人気はあったものの、価格が当時の小学生や中学生が簡単に購入できるものではなく、中でも飛びぬけて高価だったものは映画『チキチキバンバン』に登場していた「空飛ぶクラシック・カー」で、私の記憶では1,500円はしていたように記憶します。今回持参したその種のアイテムは手持ちの4台ですが、その高額価格故かなり苦労して手に入れたものでした。

 まずはこのシリーズで一番のヒット作(万単位で売れたらしい)『007シリーズ/ゴールドフィンガー(原題:Goldfinger)』に登場していた「アストンマーチンDB5」。これがヒットした要因は980円ながらも仕掛けの多さ。一番目を引くポイントは、「助手席が外部に飛び出す」という仕掛け、さらに「飛び出すバンパー・フック」「トランク防弾パネル」「タイヤ破壊ホイル」等々、子供ながらにわくわくしたものでした。


 そして同じく007映画『007は二度死ぬ(原題:You Only Live Twice)』(日本各地でロケ撮影)で使用された「TOYOTA2000GTオープンカー。この車は実際に3台製作され現存は2台で、うち1台は「トヨタ博物館」(愛知県長久手市)に保管されています。ちなみにこのミニカーは「トランクからミサイル」「拳銃を撃つジェームス・ボンド」が目を引き、「運転手はボンド・ガール若林映子」という仕様です。

 さらにイチオシは、あのブルース・リー(Bruce Lee:1940.-1973.)のハリウッド初出演TV.番組『グリーン・ホーネット(The Green Hornet)』に登場した「ブラック・ビューティー」!この車の仕様は「フロントからロケット発射」「トランクからヘリ」「拳銃を撃つホーネット」「運転手のカトー(ブルース・リー)」というもので、当時の価格は1,200円という高額品でした‼

  

   そして最近亡くなられた団次郎さんがウルトラマンを演じた『帰ってきたウルトラマン』の地球防衛隊「Matt」の「マツダ・コスモ・スポーツ」ベースの「マットビハイクル」(このアイテムのみ日本製ダイヤペット)この4台目です。

 今回展示されているミニカーには、ドアやドアやトランクが開閉する「ディンキー(Dinky)」(注4)「コーギー」ブランドの1/48スケールの精巧なアイテムもありますが、その他約100台で一番多いものは当時150円という価格で、子供の小遣いでも簡単に購入できた1/75スケールのマッチボックス(Match Box)」(注5)のアイテムです。

 このミニカー・コレクターはヨーロッパ中心にかなり存在しているようです。中でもイングランドのコレクターは突出していると言われています。その元祖と言われている人物のひとりに第二次世界大戦終結時のイングランド国首相チャーチル(Sir Winston Leonard Spencer Churchill: 1874.-1965.)がいます。


(注1)このネーミングは和製英語で、イングランドではダイカスト・スケール・モデルカー、アメリカではコレクショントーイ、フランスではオートモビル・ミニアチュールと呼ばれている。

(注2)ジャパン・ミニチュア・オートモビル・クラブ。当時会費300円で月刊誌”コレクター”が1年購読できた。

(注3)イングランド、スワンセーにあった欧州でも屈指の専門メーカー、メットトーイ社のミニカー・ブランド。英国王室御用達のコーギー犬がトレードマーク。

(注4)イングランド、リバプールに1901年創業されたメカノ社が発売したミニカーのブランド。1964年経営悪化によりライバル会社に買収され、1971年にはそこも倒産し、フランスのメーカーに身売り。1980年代末期にはアメリカのマテル社に買収され、以後マッチボックスの傘下になっている。

(注54)イングランド、トッテンハイムで1947年設立したレズニー社のミニカー・ブランド。このブランドは世界的に有名で、小型モデルが多く安価な価格設定で生産数、輸出量は突出していたといわれる。1982年に経営破綻後は、アメリカの大手玩具メーカーのマテル社ブランドになっている。

◎開催日:4/8(土)~5/7(日)/休館日:月曜・祝日の翌日(4月無休) 

◎近江八幡市会場:旧伴家住宅~近江八幡市新町

◎公共交通機関:JR近江八幡駅より近江バスで約5分「小幡町資料館前」下車すぐ

◎マップリンク:https://www.kyu-banke.com/guide#access


2023年4月21日金曜日

FMおおつ/音楽の館~Music Note 2023年3月号 Burt Bacharch追悼特集


 2023年3月のFMおおつ「音楽の館~Music Note」は、2月8日に94歳で亡くなられた20世紀を代表する作曲家「Burt Bacharach特集」を放送しました。

 Bacharachが活動を始めたのは1950年代で、マレーネ・ディトリッヒに才能を認められ,
彼女のバックを務め注目されるようになっています。その後作詞家Hal Davidとコンビを組み1960年代に作曲家としての最盛期を迎え、幅広い分野で活躍し不動の地位を築いています。

 この特集のトップは1969年に手掛けたアカデミー賞を受賞した映画『Butch Cassidy and the sundance Kid(明日に向かって撃て)』の挿入歌でBacharachの2曲目の全米1位曲B.J.Thomas<Raindrop Keep Falling On My Head(雨にぬれても)>です。

 第1パートBGはこのサントラから<Raindrop Keep Falling On My Head(雨にぬれても)>のインスト。
 
 本編トップは名曲の聴き比べで<Baby It's You>。まずは1961年に全米11位を記録したThe Shirellesのオリジナル。1963年The Beatlesのファースト『Please Please Me』に収録したテイク、そして1969年に全米5位を記録したGayle McComickが参加したSmithのデビュー曲。

 第2パートのBGは<Don't Make Me Over>の
Bacharachのインストこのパートでは1960年代の名コンビとなったDionne Warwickお馴染みのナンバーから。トップは1963年の全米8位<Anyone Who Had A Heart(恋するハート)>、続いて全米6位ソウル・チャート1位で初グラミー賞(Best R&B Performance)ノミネート曲<Walk On By>、1966年全米8位の<Massage To Micheal(マイケルへの手紙)>、ラストは1969年全べー10位で初グラミー賞受賞(Best Contemporary Pop Vocal Performance,Female)受賞曲<Do You Know The Way To San Jose(サン・ホセへの道)>。


 第3パートBGは<Anyone Who Had A Heart(恋するハート)>Bacharachのインスト。このパートでは作曲家活動を始めた1950年代からの歩みを紹介。1957年に全米15位でカントリー1位と初チャート・イン・ナンバーでMarty Robbins<The Story Of My Life>。それに1957年の全米4位曲Perry Como<Magic Moments(魅惑のひととき)>、2曲とも作詞はHal David。
 3曲目は1961年全米5位Gene McDaniels<Tower Of Strength>、作詞はBob Hilliard続いて1962年にGene Pitneyへ提供した全米4位の<(The Man Who Shot)Liberty Valance(リバティ・バランスを撃った男)>、全米2位<Only Love Can Break A Heart(恋の痛手)>。前者は<真夜中のドア>の作曲家で知られる林哲司が作曲に目覚めた曲。
 6曲目は全米23位Chuck Jacksonの代表曲<Any Day Now(My Wild Beautiful Bird)>、1963年グラミー賞最優秀歌唱賞受賞Jack Jones<Wives And Lovers(素晴らしき恋人たち)>、ラストは1963年全米3位Bobby Vinton<Blue On Blue>この曲以降は作詞をHal Davidに固定。

 第4パートBGは1968年のBacharach初のブロードウェイ・ミュージカル<Promises, Promises>主題歌。この曲で1969年にGramy賞”Best Score from an Orignal Cast show Album(ミュージカル部門作曲賞)”受賞。原作は1961年31回アカデミー賞5部門受賞の発表された「アパートの鍵貸します(The Apartment)」をニール・サイモンの脚本で舞台化
 このパートでは1965年のヒット曲から、全米7位のJackie DeShannon<What's The World Needs Now Is Love(世界は愛を求めている)>、全米3位のTom Jones<What's New Pussycat?(何かいいことないか子猫ちゃん)>全米16位ながら全英とカナダで1位を記録したThe Walker Brothers<Make It Easy On Yourself(涙でさようなら)>。


 第5パートBGは<(They Long To Be)Close To You(
遥かなる影)>Bacharachのインストこのパートでは自身の”三大B”のひとつとBacharachを崇拝していたCarpentersナンバーから。まず1970年7月25日から4週間全米1位に輝いた<(They Long To Be)Close To You(遥かなる影)>。もう1曲はCarpentersサード・アルバム『Carpenters』から<Bacharach/
David Medley>、詳細は「A)Knowing When To Love(去りし時を知って)~B)Make It Easy On Yourself(涙でさようなら)~C)((There's )Always Something There To Rememind Me)~D)(I'll Never Fall In Love Again (恋よさようなら)~E)Walk On By~F) Do You Know The Way To San Jose(サン・ホセへの道)」。

 第6パートBGは1967年発表のHerb Alpert & The Tijuana Brassの全米27位A.C.1位の<Casino Royale>。ここでは1960年代後半の代表曲から、まずクイーン・オブ・ソウル、Aretha Franklinの全米10位ソウル3位の世界的ヒット<I Say A Little Prayer For You(小さな願い)>、続いてはBachrach/DavidコンビにとおてまたHerb Alpert & The Tijuana Brass、そしてA&Mにとっても初の全米1位<This Guy's In Love With You(ディス・ガイ)>。
 3曲目は1968年全米4位A.C.2位のSergio Mendes& Brasil '66<The Look Of Love(恋のおもかげ)>。ラストはブロードウェイ・ミュージカル『Promises , Promises』の挿入歌でグラミー賞「Song of the Year」1969年にノミネートされた1969年Dionne warwick<I'll Never Fall In Love Again(恋よさようなら)>。


 第7パートBGは1966年アカデミー賞主題歌賞にノミネートされ、1968年グラミー賞"Best Instrumental Arrangement"部門受賞の<Alfie>。
 このパートはWeb.VANDA管理人ウチタカヒデさんの選曲になります。まずはTed Templeman率いるHarpers Bizare1968年サード・アルバム『The Secret Life Of Harpers Bizare(シークレット・ライフ)』 収録の<Me, Japanese Boy>。
 2曲目はConnie Francisの1968年『Sings Bacharach And David』収録の<Make It Easy On Yourself>、続いてはDusty Springfieldの1969年『Dusty In Memphis』から<In The Land Of Make Believe>。
 4曲目はSergio Mendes& Brasil '66<What's The World Needs Now Is Love(世界は愛を求めている)>。5曲目は1980年代にウチさんがリアルタイムで夢中になったというNaked eyesのデビュー曲<Always Something There To Remind Me(僕はこんなに)>。この曲は当初私もチョイスしており、私とウチさんとの年齢差を超えた名曲と言えます。
  ラストは今年1月11日にご逝去された高橋ユキヒロさんの1983年ツアー音源<The April Fools>。このオリジナルは 1969年の映画『幸せはパリで』主題歌でした。
 最後にウチさんから「Bachrachの曲は原曲が持つ普遍的な素晴らしさと、クリエイターたちの創作のモチーフとして百年先も永遠に残るはず」と付け加えられています


 次の第8パートBGは、<The April Fools(幸せはパリで)>のBachrachヴァージョン。ここでは1970年代以降の代表作から、まずThe 5th Dimensionの全米2位A.C.1位を記録したヒット<One LessBell To Answer(悲しみは鐘の音と共に)>。2曲目はThe Stylisticsが1973年にリリースした全米23位A.C.4位の<You'll Never Get To Heaven(If You Break My Heart)(遠い天国)>。もう1曲はRobarta Flackの1982年リリース<Making Love>,この曲は全米13位A.C.7位

 ラス前第9パートBGは<I'll Never Fall In Love Again(恋よさようなら)>Bachrachヴァージョン。ここでも1980年代の代表作から、まずChristopher Crossの全米1位A.C.でも1位を記録した世界的ヒット<Arthur's Theme(Best That You Can Do)(ニューヨーク・シティ・セレナーデ)>。2曲目はNeil Diamond1982年にリリースしたの全米5位A.C.では4週連続1位<Heartlight>。

 最後のパートBGは1986年のBachrach最後の世界的ヒット<On My Own>のインストでデュエット・ナンバーを。1曲目はその<On My Own>のPatti Labelle with Micheal McDonald版。この曲は全米&ソウル&A.C.で1位を記録する大ヒット。1987年のDionne Warwick & Jeffrey Osborneで全米12位A.C.1位の<<Love Power>。オーラスは3週全米1位、ソウル&A.C.でも1位を記録した世界的大ヒットDionne & Friends<That's What Friends Are For(愛のハーモニー)>。Friendsのメンバーは、Stevie Wonder、Elton John、Gladys Nightです。

 なお4月号は聴取者からのリクエスト、それに今年1月25日に亡くなられた漫画界の巨匠松本零士さんを追悼して「アニソン特集」を、「坂本龍一さんの追悼ミニ特集」を加えてお届けします。4月も第4土曜日16時からの「音楽の館~Music Note」お楽しみください。

2023.4.22.(土)16:00~ 
(再放送)
2023.4.23.(日)8:00~
    4.25.(火)~ 4.28.(金)2:00~

※FMおおつ  周波数 79.1MHz でお楽しみください。
※FMプラプラ (https://fmplapla.com/fmotsu/)なら全国(全世界)でお楽しみいただけます。


「Bart Bachrach追悼特集 セット・リスト>

1. Raindrop Keep Falling On My Head(雨にぬれても)/ B.J.Thomas

BG: Raindrop Keep Falling On My Head (雨にぬれても)

2. Baby It’s You / The Shirelles
3. Baby It’s You / The Beatles
4. Baby It’s You / Smith

BG: Don't Make Me Over

5. Anyone Who Had A Heart(恋するハート)Dionne Warwick
6. Walk On ByDionne Warwick
7. Massage To Micheal(マイケルへの手紙)Dionne Warwick
8.Do You Know The Way To San Jose(サン・ホセへの道)Dionne Warwick

BG: Anyone Who Had A Heart(恋するハート)

9. The Story Of My Life / Marty Robbins 
10. Magic Moments(魅惑のひととき)/ Perry Como 
11. Tower Of Strength / Gene McDaniels
12. (The Man Who Shot)Liberty Valance(リバティ・バランスを撃った男)/ Gene Pitney
13. Only Love Can Break A Heart(恋の痛手)Gene Pitney
14. Any Day Now(My Wild Beautiful Bird)/ Chuck Jackson
15. Wives And Lovers(素晴らしき恋人たち) / Jack Jones
16. Blue On Blue / Bobby Vinton

BG: Promises, Promises

17. What's The World Needs Now Is Love(世界は愛を求めている)
 / Jackie DeShannon
18. What's New Pussycat?(何かいいことないか子猫ちゃん)/ Tom Jones
19. Make It Easy On Yourself(涙でさようなら)/ The Walker Brothers

BG: (They Long To Be)Close To You

20. (They Long To Be)Close To You(遥かなる影)/ Carpenters
21. Bacharach/David Medley / Carpenters

BG: Casino Royale/ Herb Alpert & The Tijuana Brass

22. I Say A Little Prayer For You(小さな願い) / Aretha Franklin
23. This Guy’sインLove With You(ディス・ガイ)
         / Herb Alpert & The Tijana Brass
24. The Look Of Love(恋のおもかげ) / Sergio Mendes & Brasil '66
25. I'll Never Fall In Love Again(恋よさようなら) / Dionne Warwick

BG: Alfie

26. Me, Japanese Boy/ Harpers Bizare
27. Make It Easy On Yourself/ Connie Francis
28. In The Land Of Make Beleve/ Dusty Springfield 
29. What's The World Needs Now Is Love(世界は愛を求めている)
       / Sergio Mendes& Brasil '66
30. Always Something There To Remind Me(僕はこんなに)/ Naked eyes
31. The April Fools(Live) 高橋ユキヒロ

BG: The April Fools(幸せはパリで)

32. One LessBell To Answer(悲しみは鐘の音と共に)/ The 5th Dimension
33. You'll Never Get To Heaven(If You Break My Heart)(遠い天国)/ The Stylistics
34. Making Love / Robarta Flack

BG: I'll Never Fall In Love Again(恋よさようなら)

35. Arthur's Theme(Best That You Can Do)(ニューヨーク・シティ・セレナーデ)
      / Christopher Cross
36. Heartlight / Neil Diamond

BG: On My Own / Damon Rentie 

37. On My Own / Patti Labelle with Micheal McDonald
38. Love Power / Dionne Warwick & Jeffrey Osborne
39. That's What Friends Are For(愛のハーモニー)Dionne & Friends


2023年4月14日金曜日

生活の設計:『季節のつかまえ方』(自主制作盤/SKSK001)


 戦前のハリウッド製ラブ・コメディ映画『Design for Living』(エルンスト・ルビッチ監督/1933年)から頂いたと思しきバンド名を冠した“生活の設計”が、4月19日にファースト・フルアルバムをCDと配信でリリースする。
 筆者はリーダーの大塚真太朗からの突然のSNSメールをもらったことで彼らのことを知ったのだが、その際送られてきたプレスキットには、4年前にシンガーソングライター宮田ロウを高評価した小西康陽氏の推薦コメントがあるではないか。これは聴くべきだろうという義務感に駆られたのは言うまでもない。マスタリングされたばかりのアルバム音源の最終曲「むかしの魔法」を聴き終る頃には、その期待は確信へと変わっていったのだ。


 彼らは東京で活動するスリーピース・バンドで、2016年1月前身バンド “恋する円盤” のメンバーだった大塚と弟の薫平を中心に5人組バンド“Bluems (ブルームス)”として、大学の音楽サークルで結成された。同年8月には国内外のアーティストが出演するロック・フェスティバルの「SUMMER SONIC 2016」への出演を果たしている。その後18年8月には 3 人編成となり、同年12月にはファースト・ミニアルバム『恋について』、20年2月にシングル『夢うつつ’ 19 / Modern Tears』をリリースした。今年の2月にはバンド名を “生活の設計” に改名し、リーダーでボーカル兼ギターの大塚と、ベース兼コーラスの辻本秀太郎、ドラム兼コーラスの大塚薫平の3名で活動を続けているのだ。

 本作『季節のつかまえ方』は、「街と季節」をコンセプトに制作され全9曲を収録しており、2000年代初頭に音楽通にカテゴライズされた“喫茶ロック”のエッセンスを醸し出している。サニーデイ・サービスをはじめ、筆者も高評価しているゲントウキLamp、近年ではbjons(2021年12月解散)のサウンドに通じていて、それぞれのファンにもアピールするはずだ。
 全てのソングライティングは大塚が手掛け、バンドでヘッドアレンジされている。 レコーディングにはサポート・メンバーとして、ジャズ・ピアニストでsoraya(ソラヤ)という男女ユニットで活動している壷阪健登、クラシック界で活動する若手バイオリニストの奈良原裕子、ポップス・バンド、シュガーダンスのフルーティストである佐々木雄大といった、ジャンレス且つ多彩なミュージシャン達が参加している。また恋する円盤で同僚だった城明日香が、同バンド解散から7年振りにコーラスで大塚のボーカルにハーモニーをつけているのも聴きものである。レコーディングのエンジニアとミックスは、ペトロールズ、never young beachなどの作品で知られるhmc studioの池田洋が担当し、Bluems時代からの信頼関係でオファーされている。

生活の設計 1stアルバム『季節のつかまえ方』トレーラーPart1

 ここでは筆者による全曲レビューと、メンバー3名が曲作りやレコーディング中のイメージ作りで聴いていたプレイリストを紹介する。
 冒頭タイトル曲の「季節のつかまえ方」は、大塚のアコースティック・ギターのフィンガーピッキングによる弾き語りで歌われる小曲だ。単音のピアノ・プレイは大塚自身のようだが、フィールド・レコーデイングされた街の自然音と共に効果的である。サビで辻本のコーラスが入り、奈良原のバイオリン・ソロがカントリー・ソングにおけるフィドルのように展開し、セミアコ・ギターのカッティングが加わっていく。この瞬間がFamilyの「My Friend The Sun」(『Bandstand』収録 72年)を彷彿とさせて、たまらなく素晴らしい。
 続く「昼に起きれば」も街の風を感じさせるスロー・ソングで、朝靄の中で聴きたくなる味わい深さがある。大塚薫平の絶妙なタイム感を持つドラミングと辻本のゴーストノートを効果的に使ったリズミックなプレイ、壷阪のウーリッツァー系エレピとハモンド・オルガンの無駄のなさが、この曲のサウンドをより豊かにしていて、何とも言えないビンテージ感を醸し出し繰り返し聴きたくなるのだ。

 一転して壷阪のエレピを加えたフォー・リズムのリフが牽引する「ありふれた銀河」から、コンガが入ったアップテンポでラテン・ファンクの「雨の匂いはメッセージ」への流れもこのバンドの可能性を感じさせる好ナンバーだ。前者はパターン・ミュージックのヴァースから甘美なメロディを持つサビに繋がる構成が、Lampの「二人のいた風景」(『ゆめ』収録 2014年)にも通じるサウンドで、心象風景を描いた歌詞とともにシティポップとして完成度が高い。後者はリズム隊のコンビネーションと、若手パーカッショニストの關街(せきがい)の好演が光るバンド・アンサンブルで聴き応えがあり、リズムに呼応する歌詞の言葉選びなど優れているのではないだろうか。間奏のアルトサックス・ソロは女性サックス奏者の横山ともみがプレイしている。


 「永夜想街」は16ビートのギター・カッティングが特徴のミッドテンポのシティポップで、佐々木のフルートや城のコーラスが入るアレンジ、歌詞に“泡沫(うたかた)”や“涙ひとしずく”など文学的ワードが出てきて、Lampに通じるセンスを感じさせて興味深い。またアルバム後半にこういう普遍的な曲が収録されてることも大塚のソングライティング能力の強みだろう。またこの曲でも關がコンガ、横山がアルトサックスのソロで参加している。
 続く「最近どうなの」は収録曲中最も早い1月25日に先行配信されていて、同世代に向けた飾り気のない等身大の歌詞に好感が持てる比較的ストレートなポップスだ。辻本と城がコーラスに加わって、大塚のボーカルをサポートしている。 

 ブラック・ミュージックの影響下にあると思しきコード進行や、大塚薫平のドラミングと辻本のベース・ラインがユニークな「春にして君を離れ」もカテゴライズ不可能なポップスである。セカンド・ヴァースを解決させるコード進行パターンや壷阪のハモンド・ソロなどブルースというかジャイブ・ミュージックの匂いがして侮れない。大塚自身によるギター・ソロも良いフィールである。
 ノイジーなギター・カッティングから始まる「海辺のできごと」は、ドライヴの車窓風景に恋の喪失感がオーバーラップする歌詞がほろ苦いブロークンハート・ソングである。初期サザンオールスターズ時代の桑田佳祐に通じる歌詞が、洗練されたサウンドに融合していて新感覚だ。コーラスに城が参加して歌詞の世界に奥行きを与えていて効果的である。


 
生活の設計 - むかしの魔法 (Music Video) 

 ラストの「むかしの魔法」は2月22日に先行配信されていて、推薦コメントを寄せている小西康陽氏が最も評価している収録曲である。異口同音で大変恐縮だが、筆者もこの曲の高いポテンシャルから本作のベスト・トラックと捉えており、音源を入手した3月頭から幾度もリピートしている。
 20年前に絶賛したゲントウキの「素敵な、あの人。」(シングル 2003年)にも通じる、ブリル・ビルディング時代から脈々と受け継がれているポップスの煌めきがこの曲には宿っているのだ。古くからの幣サイト読者でなら一度聴けば理解できると思うので、多くを語りたくない名曲とだけ言っておこう。


生活の設計『季節のつかまえ方』レビュー・プレイリスト サブスク 


◎大塚真太朗(ボーカル兼ギター)
■Paradise Alley / The City(『Now That Everything's Been Said』1968年)
 キャロルキングはこのアルバムを作るにあたってよく聴いてたのですが、The Cityは特にアンサンブルの重ね方や鍵盤の入れ方において参考にしていた記憶があります。「春にして君を離れ」で楽器が増えていった時にどのようにアレンジするべきか迷った時に参照しておりました。
■Nice Folks / The Fifth Avenue Band(『The Fifth Avenue Band』1969年)
 「むかしの魔法」のアレンジの際に参考にしました。元々テンポはもっと速かったのですが、この曲の持つ「酒場感」というか彼らのジャケットの和気藹々としている雰囲気をスタジオでアレンジに落とし込んでみたところ上手くハマりました。The Lovin' SpoonfulとThe Fifth Avenue Bandへの憧憬を音に表せたと思います。
■ラプソディア / 山本精一(『ラプソディア』2011年)
 ミニマルなビートに朴訥とした声で歌われる気持ち良いメロディが絡みつくこの曲を一時期ずっと聴いておりました。なんとか自分たちの音楽に取り入れられないかと試行錯誤した結果「ありふれた銀河」という曲ができました。
■Angel / カーネーション(『SUPER ZOO!』2004年)
 スリーピース・バンドとして参考にするのはこの時期のカーネーションです。直枝さんがもつ色気あるボーカリゼーションには遠く及ばないですが、ギターの歪みの感じやコードワークなどを「海辺のできごと」から感じてもらえたら嬉しいです。

◎辻本秀太郎(ベース兼コーラス)
■薫る(労働と学業) / 小沢健二(『So Kakkoii 宇宙』2019年)
 2019年11月、カムバック作『So kakkoii 宇宙』リリース直前の小沢健二さんの3人編成ライヴ(ベースは中村キタローさん)を新木場で観ました。ギター、ベース、ドラム、歌というミニマムな編成でファンクしている姿がカッコよく、この日のイメージは私が生活の設計でベース・ラインを考える際のひとつの指針になっています。今作の「雨の匂いはメッセージ」には、そういう意識が出ていると感じます。
■Who Am I But Somewhere / Kate Bolinger(『Look at it in the Light』2022年)
 バージニア出身シンガーによる昨年の曲。メロディやアートは60年代を狙いながらも音像は非常に現代的、というかとても歪で、独特のリズムの出方や位相感に惹きつけられました。この感覚は“喫茶ロック”という(一歩間違えると郷愁で終わりかねない)コンセプトを掲げる我々も大事にすべきだと、2023年の音で届けられるよう、エンジニアはbetcover!!などで挑戦的な音を作っている池田洋さんに担当いただきました。
■Tick Tock / Aldous Harding(『Warm Chris』2022年)
 小坂忠さん「ありがとう」など、ゆったりとした歌のなかで細かいゴーストを挟みながら16分のグルーヴを提供する細野晴臣さんのベースが好きで、今作の「昼に起きれば」ではそういうイメージで親指弾きをしています。オルダス・ハーディングの昨年のアルバムには、そういう70年代初頭の細野さん(ひいてはモビー・グレイプ)的なファンキーなロックが現代の音で鳴っている気がします。昨年はビッグ・シーフにも興奮していました。
■It’s A Shame / The Spinners (『2nd Time Around』1970年)
 ジェームス・ジェマーソンのベースが素晴らしいです。実は今作の制作に入る前、バンドはもっとソウルな方向性を目指しており、モータウンやフィリー・ソウルに憧れていました。それらは結果お蔵入りとなりましたが、「最近どうなの」や「ありふれた銀河」のリズム・アプローチにはその残り香が感じられるかもしれません。壷阪健登さんが弾いてくれた「春にして君を離れ」のオルガン・ソロからもスティーヴィー・ワンダーを感じます。

◎大塚薫平(ドラム兼コーラス)
■当って砕けろ / サザンオールスターズ(『熱い胸さわぎ』1978年)
 パーカッションの絡み方とフィルインの置き方で参考にしました。「雨の匂いはメッセージ」や「春にして君を離れ」をはじめとしてリズムが食っている曲が多い本作で、全体の邪魔をしないフィルインの置き方はこの曲で着想を得た部分が大きいと思います。
■あの娘が眠ってる / フィッシュマンズ(『Corduroy's Mood』1991年)
 「永夜想街」でのイントロやサビ前のフィルインなど参考にしました。アレンジ当時はフルートなどなく、ドラムで曲の軽やかさを出したいと思ったときに参考にしたのがこの曲。その時見たフィッシュマンズのドキュメンタリー映画でのバックグラウンドにも多少影響されたんだと思います。
■君は幻 / オカモトコウキ(『時のぬけがら』2022年)
 この曲の繊細なボーカルとリッチなサウンドメイキングが好きで、自然と参考になった曲です。「むかしの魔法」の大サビでの入り方に工夫を加え曲にダイナミズムを加えたいと思い参考にしました。フィルインはREC直前に決まったと記憶しています。
■Fool in the Rain / Led Zeppelin(『In Through the Out Door』1979年)
 "なんちゃってハーフシャッフルビート"のような形で演奏しているのが、「むかしの魔法」のアウトロ部分です。フィルインを始め3連符、6連符を強調しながらグッド・メロディと合わせることができたのは個人的な達成感が強いです。アウトロのキメ部分のフィルもこのテイクで偶然できた演奏だったと記憶。 


 最後に総評になるが、学生サークルから出発したバンドながら、過去のポップスやソウルから同時代バンドのサウンドまでよく研究しており、重要な存在となるサポート・キーボディストも自分達と異ジャンルのジャズ系プレイヤーを参加させ、新たなカラーを加えたことでサウンドがより豊かになったと考察出来る。
 何よりポップス・マエストロ=小西康陽氏による帯の推薦コメントが、若い無名バンドの自主制作アルバムにとっての”錦の御旗”というだけではなく、確かな裏付けがあるということを強調したいので、弊サイト読者をはじめとするポップス・ファンは予約して入手し、深く聴いて欲しいと願うばかりなのだ。

生活の設計・オフィシャルサイト:https://linktr.ee/seikatsu.no.sekkei


(テキスト:ウチタカヒデ
 

2023年4月8日土曜日

Hack To Mono-Philles盤への一考察


 先般、音楽家坂本龍一の死が公表された。1989年リリースの『Beauty』ではBrian Wilsonと共演している。母方の祖父は軍都佐世保で艱難辛苦の末立身出世し、Brianの父Murryも軍都Los Angelesで苦労の末栄達した。軍港は革命と英雄を産んできた、歴史は因果の連続である、かの世界的注目を浴びた氏の作品群の意義と成果は没却することはできない。冥福をお祈りしたい。

  トリビュート・イベントGrammy Salute to The Beach Boysは無事開催

(2月8日)となった。

setlistは以下の通り

『Darlin'』 – Andy Grammer
『Sloop John B』 – Beck
『Good Vibrations』 – Beck and Jim James
『In My Room』 – Brandi Carlile
『God Only Knows』 – Brandi Carlile and John Legend
『Wouldn't It Be Nice』 – Charlie Puth
『Do You Wanna Dance』 – Fall Out Boy
『Do It Again』 – Foster the People
『Barbara Ann』 – Hanson
『The Warmth of the Sun』 – Norah Jones
『Surfer Girl』 – Lady A
『Sail on Sailor』 – John Legend
『Help Me Rhonda』 – Little Big Town
『Surfin' USA / Fun Fun Fun"』– Luke Spiller and Taylor Momsen
『Don't Worry Baby』 – Michael McDonald and Take 6
『I Know There's an Answer』 – Mumford & Sons
『I Get Around』 – My Morning Jacket
『Heroes and Villains』  – Pentatonix
『Caroline No』 – LeAnn Rimes
『You Still Believe in Me』 – St. Vincent
『California Girls』 – Weezer

 選曲は全盛期〜Pet Sounds以降の曲が取り上げられており、The Beach Boysの功績を讃えるに相応しいものとなっている。The Beach Boys自身は残念ながらステージ上の共演はなかったようだ、しかし顕彰当人であるメンバーは当日観覧席にいるBrian,Mike,Al,Bruce,そして筆者の見込みの通りDavidの姿が確認できた。50周年ツアーのようにこのままこのメンバーでツアーを期待したいところだが未だ未定である。本番組は4月9日に米国内でオンエア予定及び配信予定でMTVで短縮版での配信も予定されている。


 

 先日、モノラル再生環境の再構築のためトーンアーム内部の配線交換に取り掛かった。カートリッジが60年以上前のため、それに応えるケーブルも同時代かそれ以前のものに合わせるのがいいのかもしれない。

 ケーブルのこだわりに嵌ると、愛好を超えてオカルティックな信仰に陥りがちなので、ケーブルの選択を必要最小限なものとした。しかしながら選択したのは20世紀初頭の単線エナメル線という、世間から見ればファナティックなこだわりの逸品となった。エナメル線の被覆がコーディングのみなので内部配線としては心許ないと考え、トーンアーム内部に緩衝材を入れることとした。

緩衝材としてヴィンテージ着物の内部に使われていた真綿を線の周りに包んでみた、文字通り「真綿で包む」状態であってこれぞファナティックなオカルトケーブル信仰ではないか?と自問してしまう出来となった。現行機種のトーンアームにも何某かの緩衝材が入っていて振動を防ぐ効果があるため、これも許容範囲としよう。


 早速再生したところクラシックの欧州系のモノラル盤の再生には効果があり、力強い音像が得られた。

 Pops/Rock系はどれがいいか?モノラルなのでPhilles盤に登場願おうではないか。

PhillesレーベルといえばWall of Sound総本山であり、再生時に発生する圧倒的な「壁」の存在である、モコモコ/モヤモヤのなかを突き破るHal BlaineのドラムやCarol Kayeのベースが定番となっている。

 近年ネット環境の発達により過去のGold Star出自のアウトテイクやラッカー盤音源を容易に聴くことができるようになってきた。

 これら音源群の印象は従来レコード盤の音像よりはややエッジの効いたメリハリのあるものが多い。以下は筆者の一考察ではあるが、レコード盤にカットされる直前のSpector達が承認した最終マスター音源は既知の音源よりはよりクリアーなものではなかったか?で、あれば何故相違が出るのか?という点について考察してみた。

 レコード盤のマスターとしてラッカー盤がありこの盤に刻まれた溝がレコード再生の基礎となる。Spectorの根城としたGold Starにはラッカー盤が作成できるカッティングマシンがあり、マスターテープから即時カットしたラッカー盤をプレス工場へ時には地元主要ラジオ曲へ提供できる体制にあった。
Tina Turner自伝『My Love Story』に掲載されている
『River Deep-Montain High』レコーディング風景の写真、
背後にカッティングマシンが2台あるのがわかる

Eddie CochranがGold Star での
レコーディングの際のフォトセッション
Spectorの時代より前からカッティングマシンがあったことがわかる、
マスターテープから送られた信号をカッティングマシンが溝に刻んだ
Spector時代のGold Starにあったと思われる
同型のScully社カッティングマシン

 カッティングマシンが作成するラッカー盤の音を決めるのはトーンアームのヘッドシェルに相当するカッターヘッドだ。音の大小が溝に刻まれることになるが、原音通りだと溝が波打ってしまいレコードプレーヤーが再生困難となり確実に針跳びを起こす。
 MARK RIBOWSKY著『HE'S A REBEL PHIL SPECTOR』 の中でも東海岸のレコーディングではSpectorの要求する録音音量が通常のものより高すぎるため、スタジオ内でカッティング等を危惧するスタッフと衝突を繰り返したエピソードが収められている。
           
日本のバンドThe Modsの1981年のアルバム
『News Beat』のライナーより
原音ギリギリでカットされていることが記載されている

 したがって、脈打つような溝を避けるにはフラットな溝にして陸上競技場のトラック状のものが理想である。そのためには低音を抑えて高音を持ち上げた音に加工して溝を刻めば比較的緩やかな溝となる。しかし、そのまま再生した場合シャリシャリしたコシのない音となってしまう。そのためレコード再生時には低音を抑えて高音を持ち上げた音を反転させれば元の音となればいいので、フォノイコライザー装置が作られた。現在でも内臓または外付けで用いることで針跳びのリスクは低減した。カッターヘッドがかける周波数特性が溝の形を決めているということになる。しかし、各自バラバラな周波数特性でカッティングした場合レコード再生環境が千差万別なため収拾がつかなくなりかねない。現に1940年代から50年台はColumbiaが33回転のLP盤を発売しRCAが45回転盤を発売し、再生環境は回転数から周波数特性(以下、eqカーブ)まで乱立していた。モノラルからステレオ時代まで混乱は続いたため、統一再生フォーマットRIAAが設けられた。以後民生機はRIAA再生仕様で統一され再生環境の混乱は収まったことになっている。
 Philles盤のモコモコの原因はこのeqカーブの差異にあるのではないかと考える。
AESでかけた音源をRIAAで再生した場合の差異
 低域が持ち上がり高域が沈んでいるのがわかる

 カッターヘッドの回路がeqカーブを設定しカッティング→レコード盤はRIAAカーブで反転し再生→本来のカーブから乖離して再生の流れとなることが考えられる。と、なるとRIAAカーブから本来もっと高域を持ち上げ低域を下げ気味のeqカーブに合わせるのが最良な周波数特性なのではないか?検証は通常のアンプでは不可能なため、当時のeqカーブに切り替え可能なフォノイコライザーで行った。RIAAから広域が乖離しているeqカーブの候補としては英国のFFRR,米国ではAES,Capitol,が候補となった。FFRRはキンキンしすぎで却下、やはり西海岸の雄Capitolか?と思いきやまだモヤモヤする。結果RIAAより古いAESが合格点に達した。AES(またはそれを加工したカーブ)は西海岸の各レーベルが採用しているようで、Gold Starのカッターヘッドの回路にも採用された可能性は高い。再生はクロちゃんの上位機種を入手したため、同機を用いて針圧6gで行った。
手元のPhilles盤等で検証を行った

GE社のクロちゃんの上位機種なので「大黒様」にしよう

いざ再生


 当方蔵の盤に難ありか?Philles盤は中々いい状態のものは少ないのか再生時ノイズが乗ることが多い。一見しても塩化ヴィニールより劣後すると思われる素材の盤も見受けられる、実際我が「大黒様」で再生したら黒い粉が針先にこびり付く盤が数枚あった、このまま再生すると文字通り「レコードが擦り切れるまで」を地で行く事になる。Spectorは録音には莫大な費用を惜しみなく使ったが、肝心のプロダクトには予算がまわらなかったのか?と皮肉を言いたくもなる。
 しかしながら、比較的良好な盤質をテストした結果は発揮された。AESに合わせると初期〜後期のサウンドが立体的に聴こえる、モヤモヤしていた音像がシャキッとしている。苔むした壁を掃除したらさらに巨大な壁がそそり立っている印象だ。
 とはいえ、これも凡夫の聴覚と思い込みによる凡俗なる主張であり、SpectorやLarry Levineが実際指示したどうかは彼等が真実を墓場へ持っていってしまった以上現代では検証不能だ。実際Gold StarのコンソールからAM送信機でラジオに音声を飛ばし、ラジオからモニターを何度も繰り返してマスターを決定した程だ、RIAAで再生したサウンドがヒットを産んだのだからRIAAで結局いいではないか?あくまでシャレの内ということで。
 
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