2021年9月にセカンド・アルバム『Bolero』(VIVA/ VIVA05)、同年12月には同アルバムからシングル『反撥』(Unchantable Records / UCT-042)をそれぞれ発表した小里誠(おり まこと)によるソロユニットFrancis(フランシス)が、5月24日にニューシングル『裁かるゝエミリ feat. 加納エミリ』を7インチでリリースする。
本作タイトル曲は、昨年12月リリースの一色萌とザ・ファントムギフトに「ハートにROCK!」を楽曲提供したことが記憶に新しい、女性シンガー・ソングライターの加納エミリをフィーチャリング・ボーカルで迎え、更に作詞は小西康陽が提供という豪華なダブル・コラボレーションで話題を集めている。
カップリングには『Bolero』収録の「セッソ・マット」を、新たに7インチ用にリミックスして収録している。この曲ではCORNELIUS GROUPや1月に惜しくも逝去した高橋幸宏氏が主宰したpupaのメンバーとして知られ、Great 3他多くのレコーディングやライヴで活躍するキーボーディストの堀江博久と、4月4日にカヴァー・アルバム『at the Friday Club』(フル音源を聴いたが傑作)をリリースするWACK WACK RHYTHM BANDの國見智子がゲスト参加しており、小里の交流範囲の広さを裏付けている。またミックスとマスタリングはマイクロスターの佐藤清喜、アートワークは小田島等が担当し『Bolero』から続く、強い信頼関係のスタッフに支えられているのだ。
“ニュー・ウェーヴ・ダンディ”と称される小里のプロフィールにも再度触れるが、The Red Curtain時代からのオリジナル・ラブ最初期メンバーとしてデビューし、90年の脱退後翌年から2014年までザ・コレクターズのベーシストとして活躍していた。彼のソロユニットFrancisは、94年にファースト・ミニアルバム『Burning Bear!』をリリースし現在に至るが、さかのぼるThe Red Curtain時代からバンド活動と並行してテクノユニット“Picky Picnic(ピッキー・ピクニックの)”を結成し、85年にはドイツのレーベルAta Takよりファースト・アルバム『Ha! Ha! Tarachine』をリリースしており、その多岐に渡る活動は当時の音楽シーンから知られていた。
加納エミリ
【MV】Francis feat. 加納エミリ”裁かるゝエミリ”
ここからは早期に音源を入手していた筆者による本作『裁かるゝエミリ feat. 加納エミリ』の解説と、小里が曲作りやレコーディング中のイメージ作りで聴いていたプレイリストを紹介する。
タイトルとジャケット・ビジュアルを見て古くからのヨーロッパ映画マニアは気づくと思うが、1928年公開のフランス・サイレント映画『裁かるゝジャンヌ』(原題:La Passion de Jeanne d'Arc)がこの曲のモチーフの主題となっている。説明不要かも知れないが、フランスとイングランドの百年戦争(1337年~1453年)末期に従軍しオルレアン包囲戦でイングランド連合軍を撤退させ、一躍フランスの救世主となり後世も語り継がれる女性軍人ジャンヌ・ダルク。彼女のその後の過酷で悲劇的な運命を史実に基づき脚本化した映画だ。
本作ではタイムスリップしたジャンヌを恋する乙女(=エミリ)に置き換えた、超時空ラブサスペンス・ストーリーのテクノポップ歌謡に仕上げている。間奏のモノローグも凝っており、戦前戦後を通し活躍したドイツ人女優マレーネ・ディートリヒが主演した代表映画のタイトル、『嘆きの天使(Der blaue Engel)』、『モロッコ(Morocco)』、『間諜X27(Dishonored)』、『上海特急(Shanghai Express)』、『西班牙狂想曲(すぺいんきょうそうきょく/ The Devil is a Woman)』、『天使(Angel)』、『黒い罠(Touch of Evil)』と、彼女の持ち歌だったドイツ歌謡「リリー・マルレーン(Lili Marleen)」が挿入され、歌詞の世界観にオマージュされていることを示唆させて心憎い。この様な奥深いコンセプトを作り上げた小西と小里には本当に脱帽してしまう。
小里は作曲とアレンジ、全てのプログラミングを手掛け、この世界観を高める緻密なサウンドを構築している。初期DAFに通じる荒削りなサイバーパンク感が魅力だった「反撥」に対し、ここでは洗練されたヨーロピアンで重厚なシンセ・パッドと複数のシーケンス音のコントラストがビビッドで、能動的なシンセのベースラインに、幸宏氏のプレイに通じるスネアのディケイを短く切った正確且つシンプルなドラム・トラックが絡んでいく。所謂80'sテクノポップのアップデート・サウンドに仕上げられており、テヌートで特徴あるキャンディ・ボイスになる加納のボーカルとの強烈な個性の融合が成功していて、完成度は極めて高いのだ。
【MV】Francis “Sessomatto”
カップリングの「セッソ・マット」は、1973年イタリアのオムニバス・エロティック・コメディ映画でアルマンド・トロヴァヨーリが手掛けたテーマ曲※とは同名異曲で、小里のソングライティングとアレンジ、プログラミング、自身のボーカルによるオリジナルである。
ワルター・ワンダレイのラウンジ・ボッサをミニマル・テクノで解釈したような独創的でキッチュなサウンドは、ヨーロッパ・デカダンス漂うフェティッシュな世界をダンディに歌う小里のボーカルと共にFrancisらしさを象徴している。
間奏の16小節で堀江がトリルを多用したピアノ・ソロで憂いさを表現し、コーダではトランぺッターながらボーカリストでもある國見がゆるやかに包み込むスキャットを披露して、海辺の落陽のように静かにフェードアウトしていく。
オリジナル・フランス盤7インチ(Vogue / 45.D.3063)
◎Francis プレイリスト
◼️Le Banana Split / Lio(『Lio』1979年)
◼️LIMBO / YELLOW MAGIC ORCHESTRA(『Service』1983年)
◼️WONDER TRIP LOVER / 岡田有希子(『ヴィーナス誕生』1986年)
◼️Bonnie And Clyde / Serge Gainsbourg & Brigitte Bardot
(『Comic Strip』1968年)
◼️Fire / Lizzy Mercier Descloux(『Press Color』1979年)
◼️禁区 / 中森明菜(同名シングル 1983年)
◼️Mr.Blue Sky / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA
(『Out Of The Blue』1977年)
◼️Lili Marleen / Marlene Dietrich(『Marlene Dietrich』1957年)
最後に本作の総評として、両サイド共にFrancis=小里誠の唯一無二の美学が貫かれており、その魅力を7インチに凝縮しているので、幣サイト読者をはじめ興味を持った音楽ファンは、枚数限定により確実に入手して欲しい。
(テキスト:ウチタカヒデ)
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