2023年3月31日金曜日

WACK WACK RHYTHM BAND:『at the Friday Club』(Mix Nuts Records/LBDD-1001)


 WACK WACK RHYTHM BAND(ワック・ワック・リズム・バンド/以下WWRB)が、バンド結成30周年を記念し初のカバー・アルバム『at the Friday Club』を4月4日にリリースする。2020年4月のオリジナル・自主制作アルバム『THE 'NOW' SOUNDS』(WWRB/WWRB-004)からちょうど3年、長年のファンにとっては嬉しいリリースとなった。


 彼らWWRBのプロフィールを改めて紹介するが、92年にフリーソウル・ムーヴメントの立役者の一人で東京モッズ・シーンの顔役である山下洋(ギタリスト/DJ)の仲間達を中心に、リーダーを小池久美子(アルト・サックス)にして結成された。イギリスのノーザン・ソウルをベースとしたインスト・バンドで、クールなセンスやヴァーサタイルなスタイルは他に類を見ない唯一無二の存在だ。現在は5管のホーン・セクションを含む男女10名で構成されている。

 本作『at the Friday Club』でも山下を中心にセレクトされたと思しきセンス溢れるカバー曲群と、彼らを一躍知らしめたファースト・アルバム『WEEKEND JACK』(98年)のリード曲「Hit & Run」のセルフ・カバーを含め全9曲を収録している。
 レコーデイングは流線形saigenjiでお馴染みのStudio Happinessと、VIVID SOUND STUDIOでおこなわれ、本職の箸本智の他、ベーシスト兼作編曲家としてメジャー・ワークスで知られる村濱遼太、WWRBメンバーの大橋伸行(Bs)と和田卓造(Drs)もエンジニアを担当している。ミックスは大橋が担当し、カヒミ・カリィやPort of Notes等のプロデューサーとして著名な神田朋樹がマスタリングの最終仕上げをしている。
 60’s後期のソウルジャズ・レコードを彷彿とさせる目を惹くジャケット・デザインにも触れるが、アート・ディレクションとフォトグラフは吉永祐介、デザインは吉永と磯田楓が担当している。

WWRB at the Friday Club ORIGINALS

 ここでは筆者による全曲の解説と、カバーされたオリジナル曲のプレイリストを紹介するので聴きながら読んで欲しい。 
 冒頭はマーヴィン・ゲイが71年に発表したニューソウルの金字塔「What's Going On」。この曲はオリジナル以外では、ダニー・ハサウェイの『Live』(72年)収録のヴァージョンがよく知られるが、本作ではBPMを上げよりリズミックにして、スタッカートの効いた伊藤寛のハモンド・オルガンや新たな解釈のホーン・アレンジでプレイされている。リード・ボーカルはゲストのAhh! Folly Jet(アー!フォリー・ジェット)の高井康生で、個性的でソウルフルな歌声の他、ギター・ソロまで披露している。
 続く「Window Shopping」は、79年イギリスでスカ・サウンド・レーベルとして設立された2トーン・レコード末期に所属したThe Friday Clubの85年のシングルだ。同レーベルを代表するバンド、スペシャルズのジェリー・ダマーズがプロデュースしているが、サウンド的には当時ポール・ウェラーが率いて日本でもブレイクしたスタイル・カウンシルに通じるブルーアイド・ソウルである。ここではオリジナル・アレンジ通りストリングス・シンセやホーン・セクションのリフや跳ね方、間奏のテナーサックス・ソロも三橋俊哉により忠実にプレイされている。リード・ボーカルはゲストでブルービート・ガールグループThe Drops のTakakoで、この曲をチョイスしThe Friday Clubをアルバム・タイトルにもインスパイアしているであろう山下がコーラスをつけている。 
 収録曲中筆者がファースト・インプレッションで惹かれたのは、ダニー・ハサウェイ作で彼がプロデュースしたベイエリア・ファンク・バンドCold Bloodの「Valdez in the Country」である。この曲もオリジナルのアレンジが完成されていたインストファンク・ファンク曲で、本作でも踏襲されており、各プレイヤーの演奏が堪能出来る。リズム隊の和田(Drs)と大橋(Bs)によるグルーヴのコンビネーションがひたすら気持ちよく、間奏のソロはテナーの仲本興一郎、トランペットの國見智子(Francisの「セッソ・マット」にも参加)と受け継がれている。またオリジナルにないサウンドとして、三橋がJaws Harp(口琴)までプレイし無国籍なフィールを醸し出して効果的だ。

三橋俊哉、 リーダー小池久美子

 モータウン・ファンにはThe Supremesの「Bad Weather」も嬉しい選曲かも知れない。スティーヴィー・ワンダーがソングライティングとプロデュースを手掛けた73年の代表曲として知られるが、この時代はダイアナ・ロス脱退後でジーン・テレルがリード・ボーカルだった。ここでのベーシック・アレンジは、後の78年にマーヴィンの『I Want You』(75年)のプロデュースで知られるリオン・ウェアが手掛けた、メリサ・マンチェスターのヴァージョン(『Don't Cry Out Loud』収録)を下敷きにしていると思われる。フリーソウル仕掛け人の山下ならではというセンスだろう。リード・ボーカルはパーカッションの福田恭子が取っていて、ゲストシンガーも顔負けの歌声を聴かせてくれる。
 本作収録カバーで最も知る人ぞ知る曲が、Essence Of Capricorn(エッセンス・オブ・カプリコーン)の「危険がいっぱい」(75年)だろう。デトロイト出身の黒人女性3人組で、和田アキ子のバック・コーラスなどを務めていたボーカル・グループの唯一のシングル曲だ。日本でレコーデイングされた日本語詞のソウル歌謡で、フォークシンガー出身の田山雅充の作曲だが、曲調やサウンドはClassics IVのヴァージョンで知られる「Spooky」(67年)に通じる。ここではオリジナルよりコンボ風にアレンジされ、元WWRBメンバーのLemonがパワフルなボーカルを披露している。

WWRB with Lemon

 WebVANDA読者をはじめソフトロック・ファンには、フランキー・ヴァリの67年のシングル「I make a fool of myself」のカバーを勧めたい。ご存知の通り、ボブ・クリューとボブ・ゴーディオのソングライティング、ゴーディオとチャーリー・カレロのアレンジによる「Can't Take My Eyes Off You」(67年)スタイルの感動的なラヴソングだ。本作のアレンジもオリジナルのマリアッチなホーン・セクションをフューチャーし、トロンボーンの伊藤さおりが後半ソロを取っている。またゲストのR&Bシンガー兼ラッパーのBooによるソウルフルな美声も聴きものだ。
 続くジョージィ・フェイムの「Happiness」も弊サイト読者好みであろう、10thアルバム『Going Home』(71年)収録でテディ・ランダッツォ作曲によるグルーヴィーなサンシャイン・ポップだ。前曲同様山下のアコースティック・ギターのカッティングが響き、オリジナルにはないハンドクラック(ビートルズの「Here Comes The Sun」の様だ)が効果的である。リード・ボーカルは山下で、福田と國見、大橋がコーラスをつけ、原曲以上の多幸感に溢れている。 

WWRB with 高井康生

 アルバムが最高潮に達したところで、三橋のソングライティングによるセルフ・カバーの「Hit & Run」が登場する。オリジナルよりややBPMを上げて疾走感があるヴァージョンになっている。この曲はなんと言っても、シェリル・リンの「Got To Be Real」(78年)よろしく魅惑的なコード進行のイントロに導かれ、始まる瞬間から好きにならずにいられないパーティー・ファンク・チューンであり、リード・ボーカルには元メンバーのToshieと再びLemonが参加している。間奏では國見のトランペット、伊藤寛のシンセがオリジナルでのプレイより円熟させたソロを取り、更に盛り上げている。
 そしてラストはWWRBのライブでは初期時代からお馴染みで、ノーザン・ソウル好きには知らぬ者なしの永遠の名曲「Soulful Strut」で大団円を迎える。渋谷系にはSwing Out Sisterのカバーでヒットしたバーバラ・アクリンの「Am I The Same Girl」として知られるが、ここでのベーシック・アレンジはYoung-Holt Unlimited(ラムゼイ・ルイス・トリオの元メンバー)のインスト・ヴァージョンをベースに、レゲエやラテン・フィールを加味している。間奏のソロは福田と結成時メンバーのOshow(オショウ)によるスティール・パン、國見のトランペット、伊藤さおりのトロンボーン、リーダー小池のアルトサックス、三橋のテナーサックスと続いている。


 最後に総評になるが、センス溢れる選曲と多岐に渡るゲストシンガーの参加により、”ルーツ・オブ・WACK WACK RHYTHM BAND”といった好カバー・アルバムに仕上がっており、弊サイト読者や音楽ファンからDJにも勧めたいので、是非入手して聴いて欲しいと願う。

(テキスト:ウチタカヒデ / ライブ画像提供:WACK WACK RHYTHM BAND)

2023年3月24日金曜日

FMおおつ/音楽の館~Music Note 2023年1月号 Soft Rock in Japan特集 & 3月号予告

   昨年から続く日本のCity Popブーム、2月27日にはNHK「あさイチ」で「80年代シティ・ポップ特集」が放送された。内容としては当時を代表する曲が次々と紹介され一般視聴者に「懐かしさ」をもたせる内容だった。とはいえそれのみならず、「世界で人気のシティ・ポップ」のコーナーで紹介された曲には驚かされた。

 まずは泰葉の<Fly-Day Chinatown>、ご存知かとは思うが彼女はあの林家三平師匠で発売当時「我が娘ながら天才!」と叫んだことが話題にはなっていた。個人的にアルバムもチェックするほどよく聴いていたが、この曲は69位売上げ5.6万枚程度のヒットだった。

 さらに亜蘭知子の<midnight pretenders>、こちらは83年にリリースされたサード・アルバム『浮遊空間』収録曲。こちらについては「作詞家」のイメージが強く、不覚にもシンガーとして際立った曲があるのは全くノーマークだった。

 私自身このシティ・ポップは黎明期よりほぼチェックしており、その体験を故佐野邦彦さんに見込まれ2000年にVANDAで発刊した「HARMONY POP」の日本人パートでその一端をまとめさせていただいた。とはいえこの本の内容について当時某雑誌では「「Soft Rock A To Z」の亜流」と切り捨てられている。


 とはいえこの本での書き下ろしを気に入ってくれた佐野さんから「今度は日本のSoft Rockをまとめませんか」と持ち掛けられ、それが「Soft Rock In Japan」の始まりだった。そしてこの本を制作するにあたり「キーポイントになる作家のインタビューを」と音楽之友社の木村さんから提案され、私が提案した林哲司さんと面談する機会をもたせていただいた。

 ところがその時期に林さんは「作家デビュー30周年プロジェクト」進行中で「ワークス本」制作も、その企画のひとつにあった。そしてこのインタビューで好印象をもっていただいたご本人からVANDAへ制作のオファーが届いた。

 その依頼を受けた佐野さんは「これは鈴木さんが主導してやるべき」と背中を押され、2000年に「林哲司全仕事」を手掛けることになった。このように今から23年前、1年間「City Pop」に関する本を3冊まとめている。その後、追従するように同系列の書籍が数多く出版され、日本の音楽シーンにスポット・ライトを当てるきっかけになったように思っている。

 
そんな流行を反映し、2023年1月の「音楽の館~Music Note」では「JsapanesePops特集」を放送した。今回は遅ればせながらその詳細を紹介させていただくことにした。

 まずトップにチョイスしたのは、1970年代初期にNHKで放送されていた音楽番組「ステージ101」「レッツゴー・ヤング」等のサウンド・コーディネートしていたPicoこと樋口康雄さんの<I Love You(Single Version)>。このテイクは2000年前後にDJたちが血眼になって探していたといわれています。

 そしてこのプログラㇺのトークBGMは。1980年代のフュージョン・ブームを牽引したCASIOPEAのナンバーを中心にセレクト。トップは<太陽風(TAIYO-FU☆THE WIND FROM THE SUN)>(1988『EUPHONY』)。

 第1パートはオープニングのPicoや1970年以降日本の音楽シーンを賑わせていた惣領泰則が在籍していたビッグ・バンド、シング・アウトで1969年<涙をこえて>1970年<ピコの旅>。前者は当時ブラス・バンドの応援演奏定番曲でした。

 第2パートの BGはCASIOPEA<Take Me>(1979『Super Flight』)。ここでは1970年代初頭に注を集めていたグループ、ガロとBuzzからチョイス。まずはCSNYを彷彿させるコーラス・ワークで評判だった「マーク、トミー、ヴォーカル」の3人組ガロ、一般には<学生街の喫茶店>で知られた存在ですが、今回は私と佐野さんのお気に入りのファースト・アルバムから<一人で行くさ (Single Mix)>、当時パイロット万年筆CM起用曲<地球はメリー・ゴーランド>。そして「日産スカイライン」CM<ケンとメリー〜愛と風のように〜>でお馴染みBuzz。彼らは1974年サディスティック・ミカ・バンドがバッキングを務めた傑作セカンド・アルバム『レクヰエム・ザ・シティ』から、先日70歳で逝去された高橋幸宏さん作<TOKYOサンバ>、それに<ガラス窓>。この2曲には在りし日のユキヒロさんの抜群のプレイが随所に刻まれています。

 第3パートBGはCASIOPEA<SHADOW MAN>(1988『EUPHONY』)。このパートでは大物歌手や人気作曲家のポップ・ナンバー。まずは布施明さんが1974年にマルチ・キーボード・プレーヤー深町純さんと組んだ『古い上着をぬいで-布施明の世界』収録の自作<窓をあければ>。

 続いて林哲司さんの1977年リリース『バックミラー』収録曲<Rainy Saturday & Coffee Break>。この曲はコーラスを務めた大橋純子さんが美乃屋セントラルステーション『レインボー』に収録。

 3曲目は現在第23代文化庁長官を務める超売れっ子作曲家都倉俊一さんの1979年結成プロジェクトWinds<BOY(Japanese Version)>。この曲はフィリピン出身のボーイズ・グループ「クリッパー」に提供したセルフ・カバー。

 4曲目は中村きんたろうさん1978年のデビュー作『MILD』収録の<朝焼けのギブソン通り>。この曲は1970年代アメリカMGMと契約をした実力派シンガー寺田十三夫さん作。5曲目はCharさんとトリオ・バンドを組んで大活躍したドラマー、ジョニー吉永さん1977年のファースト・アルバム『Johnny』収録曲<過ぎゆく時に>、間奏での印象的なギターは山岸潤史さん。作者Charさんもセカンド・アルバム『Have A Wine』でセルフ・カヴァー。ラストは久保田麻琴と夕焼け楽団1976年のサード・アルバム『DIXIE FEVER』収録の<星くず>。

 第4パートのBGは<SENTIMENTAL AVENUE>(1988『EUPHONY』)。ここでは女性シンガーのAORナンバーで、まずは<木綿のハンカチーフ>でお馴染み太田裕美さんで1977年リリースの第6作『こけてぃっしゅ』収録曲<恋愛遊戯>。もう1曲は爽やかな歌声のやまがたすみこさん1977年リリースの8作『FLYING』収録曲<ムーンライト・ジルバ>。

 第5パートBGはCASIOPEA<SWEAR>(1981年『Cross Point』)。このパートも女性シンガーで、まずはシンガー・ソングライター久保田育子さんのデビュー曲<夢色ヒコーキ>。もう1曲は1978年に<ラブ・ステップ>でデビューした「女性版原田真二」とも呼ばれた才女越美晴さんのサード・シングル<マイ・ブルーサマー

 第6パートBGはCASIOPEA<Domino Line>(1981年『Cross Point』)。ここではデビュー時から大きくイメージ・チェンジに成功したグループ、まずは<22歳の別れ>でセンセーショナルなデビューを飾った風。彼らは1977年のサード・アルバム『windless blue』でSteely Danを彷彿させるエレクトリックなポップサウンドの傑作を発表。翌年発表したロス録音の第4作『海風』では爽快なポップなサウンドを聴かせています。それを象徴していたのが正やんの<海風>と大久保クンの<トパーズ色の街>。

 もう一組は小田和正さんが率いたオフコース。当時バックで絶妙なコーラスとエレクトリック化していくバンド・サウンドを支えたヤス(鈴木康博)さんの存在は見逃せません。5人組活動する1976年第4作『Song Is Love』以降サウンドの要として重要なポジションを担い、1977年第5作『Junction』収録の<変わってゆく女>、1980年の大ヒット作『We are』では<一億の夜を越えて>等にしっかり刻まれています


 続いての第7パートBGはLarry Carltonの1978年発表代表作<Room 335>です。ここでは「新御三家」のチャレンジを紹介します。

 まずは野口五郎さん、彼は当時からギターの腕前も評判で1976年には『ときにはラリー・カールトンのように』というタイトルのアルバムを発表するほどLarry Carlton崇拝を公言し、同年に『GORO IN LOSANGELES U.S.A. / 北回帰線』、77年には『GORO IN NEWYORK / 異邦人』と海外の人気スタジオ・ミュージシャンとの共演アルバムを4作発表しています。この活動は当時日本一辛口な評価を下していた音楽雑誌『ニュー・ミュージック・マガジン』で絶賛されるほどで、1982年にはインスト・アルバム『FIRST TAKE』をリリースしています。ここでは1978年『L.A. EXPRESS ロサンゼルス通信』から<クール・キャット>、1982年のインスト・アルバム『FIRST TAKE』からLarry Carltonから提供された<MOUNTAIN SONG>。

 続いては西城秀樹さん、この時期は吉野藤丸さんと充実したライヴ活動を精力的にこなしていますが、1978年12月に藤丸さんと二人の自作のみの意欲作『ファーストフライト』を発表。翌年2月にこのアルバㇺをプロモートするライヴ・アルバム『永遠の愛7章』をリリースしています。たた同月にリリース<ヤングマン>のメガ・ヒットで「洋楽カヴァーのヒデキ」が定着。ここでは『ファーストフライト』収録の自作曲<Sweet Half Moon(Live)>と<その愛は(Live)>を79年のライヴ・アルバム『永遠の愛7章』のライヴ・テイクで。

 そして還暦過ぎも”永遠のアイドル”として君臨する郷ひろみさんは、1975年に全曲詞ユーミンの書き下ろし『HIROMIC WORLD』、1976年に漫画家楳図かずお作詞曲収録の『街かどの神話』、1978年には穂口雄右全曲書下し『Narci-rhythm』、更に1979年にはN.Y. 24丁目バンド起用の『SUPER DRIVE』と精力的なチャレンジを続けています。そんな1978年にフェイヴァリット・ソングを公言する<ハリウッド・スキャンダル>と、シングル&アルバム共に充実した活動を送っています。ここでは『SUPER DRIVE』から林哲司さんの書き下ろし<入江にて>、1994年屋敷郷太さんのリミックス・ヴァージョンGo-Go'sハリウッド・スキャンダル>。

 といったところで次の第8パートBGは1990年代渋谷系ブームの頂点にいたPizzicato Fiveの<皆笑った(New Mix)>。1984年に小西 康陽、高浪 慶太郎、鴨宮 諒、佐々木麻美子の4人でデビュー、1987年『Couples』をリリースするも不発で鴨宮、佐々木の二人が脱退。

 その鴨宮さんは1991年に梶原もと子さんとMANNA(マンナ)を結成、その後作曲家として『ナースのお仕事』等ドラマ、アニメ等のサントラで活躍。

 Pizzicatoは田島貴男さん(現オリジナル・ラブ)を新ヴォーカルに迎え1988年に『Bellissima!』『女王陛下のピチカート・ファイヴ –ON HER MAJESTY'S REQUEST–』『月面軟着陸 -SOFT LANDING ON THE MOON-』を発表、クラブ系で熱狂的に支持を受けます。1990年に田島さんがオリラヴ再開で脱退し、1991年三代目ヴォーカリストに野宮真貴さんが加入、1993年<スウィート・ソウル・レヴュー>がヒットして「渋谷系」を代表するポップ・ユニットに君臨。

 このパートはPizzicato Five関連で、まず田島さんヴォーカル時代の<これは恋ではない>。鴨宮さん結成のMANNAで<ハプニング>、そして野宮さん時代の爽やかな<ベイビィ・ポータブル・ロック>です。

 ではラス前第9パート、BGは『EUGHONY』<迷夢(MEI-MU☆SHALLOW DREAMS)>。ここでは『Soft Rock In Japan』で紹介したナンバーから。まずはカルロス・トシキ&オメガトライブ<失恋するための500のマニュアル>。この曲はユニット名を「1986オメガ」から改名して1989年にリリースした『be yourself』の収録曲。実はこの本の発売時に、佐野さんが担当していた「ラジオVANDA」でプロモーションでオン・エア、彼が「これこそ最高のソフト・ロック!」とお墨付を付けたナンバー。

 もう1曲は日本のポップ・ミュージックを代表する一人村田和人さんで<So Long, Mrs.>。この曲はセカンド・アルバム『ひとかけらの夏』収録曲で、ソウル・テイストの心地良さに溢れています。

 この「特集」最後のパートBGはCASIOPEAの代表曲<ASAYAKE>。このパートの1曲目は伊藤銀次さんデビュー作『DEADLY DRIVE』収録<風になれるなら(シングル・ヴァージョン) >。コーラスには大貫妙子さん。

 ラス前は五十嵐浩晃さんの1981年サード・アルバム『SAILING DREAM(想い出のサマー・ソング)』収録<想い出のサマー・ソング>。プロデューサーは鈴木茂さん、コーラスに大瀧詠一さん、杉真理さんが参加。

 ラストはフィナーレを飾るのは清水信之さんのシャープなアレンジが冴えわたるEPOさんで<音楽のような風>。こんなナンバーをオンエアしました。

 さて2023年3月の「音楽の館~Music Note」では今年2月8日に94歳で亡くなられた20世紀を代表する偉大な作曲家Burt Bacharschの特集をお届けします。特に今回は選曲の一部をWeb.VANDAの管理人であるウチタカヒデさんにご協力いただきました。VANDAらしいマニアックな選曲をお楽しみください。


2023.3.25.(土)16:00~18:30

(再放送)

2023.3.26.(日)8:00~10:30

 3.28.(火)~3.31.(金)1:52~4:30


※FMおおつ 周波数 79.1MHzでお楽しみください。

※FMプラプラ (https://fmplapla.com/fmotsu/)なら全国(全世界)でお楽しみいただけます。

2023年3月19日日曜日

Francis:『裁かるゝエミリ feat. 加納エミリ』(カブキラウンジエース / KBKA3)


 2021年9月にセカンド・アルバム『Bolero』(VIVA/ VIVA05)、同年12月には同アルバムからシングル『反撥』(Unchantable Records / UCT-042)をそれぞれ発表した小里誠(おり まこと)によるソロユニットFrancis(フランシス)が、5月24日にニューシングル『裁かるゝエミリ feat. 加納エミリ』を7インチでリリースする。 

 本作タイトル曲は、昨年12月リリースの一色萌とザ・ファントムギフトに「ハートにROCK!」を楽曲提供したことが記憶に新しい、女性シンガー・ソングライターの加納エミリをフィーチャリング・ボーカルで迎え、更に作詞は小西康陽が提供という豪華なダブル・コラボレーションで話題を集めている。
 カップリングには『Bolero』収録の「セッソ・マット」を、新たに7インチ用にリミックスして収録している。この曲ではCORNELIUS GROUPや1月に惜しくも逝去した高橋幸宏氏が主宰したpupaのメンバーとして知られ、Great 3他多くのレコーディングやライヴで活躍するキーボーディストの堀江博久と、4月4日にカヴァー・アルバム『at the Friday Club』(フル音源を聴いたが傑作)をリリースするWACK WACK RHYTHM BANDの國見智子がゲスト参加しており、小里の交流範囲の広さを裏付けている。またミックスとマスタリングはマイクロスターの佐藤清喜、アートワークは小田島等が担当し『Bolero』から続く、強い信頼関係のスタッフに支えられているのだ。 
 
Francis=小里誠

  “ニュー・ウェーヴ・ダンディ”と称される小里のプロフィールにも再度触れるが、The Red Curtain時代からのオリジナル・ラブ最初期メンバーとしてデビューし、90年の脱退後翌年から2014年までザ・コレクターズのベーシストとして活躍していた。彼のソロユニットFrancisは、94年にファースト・ミニアルバム『Burning Bear!』をリリースし現在に至るが、さかのぼるThe Red Curtain時代からバンド活動と並行してテクノユニット“Picky Picnic(ピッキー・ピクニックの)”を結成し、85年にはドイツのレーベルAta Takよりファースト・アルバム『Ha! Ha! Tarachine』をリリースしており、その多岐に渡る活動は当時の音楽シーンから知られていた。

加納エミリ
 
【MV】Francis feat. 加納エミリ”裁かるゝエミリ”

 ここからは早期に音源を入手していた筆者による本作『裁かるゝエミリ feat. 加納エミリ』の解説と、小里が曲作りやレコーディング中のイメージ作りで聴いていたプレイリストを紹介する。
 タイトルとジャケット・ビジュアルを見て古くからのヨーロッパ映画マニアは気づくと思うが、1928年公開のフランス・サイレント映画『裁かるゝジャンヌ』(原題:La Passion de Jeanne d'Arc)がこの曲のモチーフの主題となっている。説明不要かも知れないが、フランスとイングランドの百年戦争(1337年~1453年)末期に従軍しオルレアン包囲戦でイングランド連合軍を撤退させ、一躍フランスの救世主となり後世も語り継がれる女性軍人ジャンヌ・ダルク。彼女のその後の過酷で悲劇的な運命を史実に基づき脚本化した映画だ。
 本作ではタイムスリップしたジャンヌを恋する乙女(=エミリ)に置き換えた、超時空ラブサスペンス・ストーリーのテクノポップ歌謡に仕上げている。間奏のモノローグも凝っており、戦前戦後を通し活躍したドイツ人女優マレーネ・ディートリヒが主演した代表映画のタイトル、『嘆きの天使(Der blaue Engel)』、『モロッコ(Morocco)』、『間諜X27(Dishonored)』、『上海特急(Shanghai Express)』、『西班牙狂想曲(すぺいんきょうそうきょく/ The Devil is a Woman)』、『天使(Angel)』、『黒い罠(Touch of Evil)』と、彼女の持ち歌だったドイツ歌謡「リリー・マルレーン(Lili Marleen)」が挿入され、歌詞の世界観にオマージュされていることを示唆させて心憎い。この様な奥深いコンセプトを作り上げた小西と小里には本当に脱帽してしまう。
 小里は作曲とアレンジ、全てのプログラミングを手掛け、この世界観を高める緻密なサウンドを構築している。初期DAFに通じる荒削りなサイバーパンク感が魅力だった「反撥」に対し、ここでは洗練されたヨーロピアンで重厚なシンセ・パッドと複数のシーケンス音のコントラストがビビッドで、能動的なシンセのベースラインに、幸宏氏のプレイに通じるスネアのディケイを短く切った正確且つシンプルなドラム・トラックが絡んでいく。所謂80'sテクノポップのアップデート・サウンドに仕上げられており、テヌートで特徴あるキャンディ・ボイスになる加納のボーカルとの強烈な個性の融合が成功していて、完成度は極めて高いのだ。


 
【MV】Francis “Sessomatto”  

 カップリングの「セッソ・マット」は、1973年イタリアのオムニバス・エロティック・コメディ映画でアルマンド・トロヴァヨーリが手掛けたテーマ曲※とは同名異曲で、小里のソングライティングとアレンジ、プログラミング、自身のボーカルによるオリジナルである。
 ワルター・ワンダレイのラウンジ・ボッサをミニマル・テクノで解釈したような独創的でキッチュなサウンドは、ヨーロッパ・デカダンス漂うフェティッシュな世界をダンディに歌う小里のボーカルと共にFrancisらしさを象徴している。
 間奏の16小節で堀江がトリルを多用したピアノ・ソロで憂いさを表現し、コーダではトランぺッターながらボーカリストでもある國見がゆるやかに包み込むスキャットを披露して、海辺の落陽のように静かにフェードアウトしていく。

※筆者所有アルマンド・トロヴァヨーリ『Sesso Matto』
オリジナル・フランス盤7インチ(Vogue / 45.D.3063)


◎Francis プレイリスト


◼️Le Banana Split / Lio(『Lio』1979年)
◼️LIMBO / YELLOW MAGIC ORCHESTRA(『Service』1983年)
◼️WONDER TRIP LOVER / 岡田有希子(『ヴィーナス誕生』1986年)
◼️Bonnie And Clyde / Serge Gainsbourg & Brigitte Bardot
(『Comic Strip』1968年)
◼️Fire / Lizzy Mercier Descloux(『Press Color』1979年)
◼️禁区 / 中森明菜(同名シングル 1983年)
◼️Mr.Blue Sky / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA
(『Out Of The Blue』1977年)
◼️Lili Marleen / Marlene Dietrich(『Marlene Dietrich』1957年)


 最後に本作の総評として、両サイド共にFrancis=小里誠の唯一無二の美学が貫かれており、その魅力を7インチに凝縮しているので、幣サイト読者をはじめ興味を持った音楽ファンは、枚数限定により確実に入手して欲しい。 

 (テキスト:ウチタカヒデ












2023年3月15日水曜日

【渋谷7th Floor Saturday Concert Series】Three Berry Icecream/The bookmarcs/青野りえ

 昨年8月13日に予定されていて、惜しくも延期となったThe Bookmarcs(ブックマークス)らのライヴ・イベントが、来たる5月6日(土曜)に確定したので改めて紹介しよう。
 まず3月10日に最新シングル「Looking for the light」を配信リリースしたばかりのThe Bookmarcsは、作編曲家の洞澤徹とthe Sweet Onionsの近藤健太郎による男性2人のユニットだ。近藤は別バンドのSnow Sheep (スノー・シープ)として『WHITE ALBUM』を本日3月15日にリリースし、幣サイトでは先週レビュー記事を紹介したばかりだ。
 また一昨年11月にソフトロック色の強いファースト・フルアルバム『Three Berry Icecream』をリリースした、元BRIDGEのイケミズマユミのソロプロジェクトThree Berry Icecream(スリー・ベリー・アイスクリーム)。
 そして昨年3月16日にセカンド・アルバム『Rain or Shine』をリリースし、現行シティポップ・ブームで注目される女性シンガー・ソングライターの青野りえという、多彩な3組が一挙に集まり開催されるライヴ・イベントだ。
 非常に貴重な機会なので、興味を持った音楽ファンや弊サイト読者は是非予約して参加しよう!

渋谷7th Floor Saturday Concert Series 
出演:Three Berry Icecream / The Bookmarcs /
青野りえ
Open :2023/5/6 12p.m/start 12:30p.m
予約3000円/当日3500円(+1order)
チケット予約:


タイムテーブル
12:00 開場 
12:30 〜 13:05 Three berry icecream
13:20 〜 13:55 青野りえ
14:10 〜 14:45 The Bookmarcs

※入場してのライブ観覧は世情により時間変更・中止となる場合がございます。
 状況を鑑み有観客の入場は取りやめ。という判断もございます。
   ご理解ご了承の上、入場チケットのご予約をお願いします。
※ご来場の際は会場のコロナ対策のお願い >http://7th-floor.net/fixed_news/covid-19/  必ずご一読・ご了承の上、ご予約をお願いします。

info:渋谷7th FLOOR: http://7th-floor.net/
〒150-0044 東京都渋谷区円山町2−3 Owestビル7F
TEL 03-3462-4466(15:00〜20:00)


関連記事一覧(掲載順)
●The Bookmarcs『BOOKMARC SEASON』
リリース・インタビュー>こちらをクリック



●Three Berry Icecream
『Three Berry Icecream』レビュー>こちらをクリック


●青野りえ『Rain or Shine』
リリース・インタビュー>こちらをクリック


(テキスト:ウチタカヒデ


2023年3月11日土曜日

Snow Sheep:『WHITE ALBUM』(*blue-very label*/blvd-034)


  男女3人組のポップ・バンド、Snow Sheep (スノー・シープ)が初の単独作品でファースト・アルバム『WHITE ALBUM』を3月15日にリリースする。 
 彼らは幣サイトでも評価しているThe Bookmarcsthe Sweet Onions、またシンガー・ソングライターとして活動する近藤健太郎と、同じくthe Sweet Onionsのメンバーでthe Carawayのサポート・ドラマーも務める高口大輔、そして元Harmony Hatch(ハーモニー・ハッチ)のヴォーカリスト兼ソングライターとしてデビューし、現在ソロや他多くのバンドのサポート・コーラスで活動している小林しのから構成されている。 
 

 バンド結成の経緯は2000年に小林が所属したHarmony Hatchが、空気公団やMaybelle(VANDA誌読者だったらしい劇伴音楽家の橋本由香利が所属)を輩出したCoa RecordsからデビューCDをリリースする際、特典カセットを制作するにあたり結成されたという。
 翌2001年から2019年までに3作のコンピレーションCD、小林のファースト・ソロアルバム『Looking for a key』(PHA-13/16年)の特典をはじめ3種のCD-R作品と、コンピレーション・カセットに楽曲提供してきた。

2001年のライヴショット/ 2003年のオフショット

 言わば3名のミュージシャン達の出会いとなった古巣といった存在だったのだろう。結成23年目に満を持して、オフィシャルでの単独アルバムをリリースすることとなった。これは偏にリリース元の*blue-very label* (*ブルーベリー・レーベル*)を主宰する、ナカムラケイ氏の熱心なオファーにより実現したということで、その情熱には敬服するばかりだ。
 本作に収録されたのは、これまでの既出曲をリアレンジしリレコーディングした4曲と、このアルバムのために書き下ろした新曲4曲の合計8曲。全曲英語で作詞を小林、作曲を近藤がそれぞれ担当し、高口を加えた3名でアレンジをしている。ドラムやキーボード類からベースまでを担うマルチ・プレイヤーの高口は演奏面で貢献する他、ミックスも手掛けており、3名の役割が合理的に分担されているのがこのバンドを長続きさせた秘訣の一つなのかも知れない。またマスタリングは以前弊サイトで2作品を紹介した、Small Gardenの小園兼一郎が担当しているのも注目である。
 ジャケットにも触れるが、インナーのアーティスト写真はフォト・クリエーターのdavis k.clain、デザインはfumika arasawaがそれぞれ担当していて、CDながら7インチサイズにデボス加工を施した、非常に凝った紙ジャケになっており、英語詞の対訳インサート、小林が特別に描いたプリティーなイラスト・シールが装入されて、所有欲を刺激するパッケージとなっている。

 ここからは筆者による全曲レビューと、メンバー3名が曲作りやレコーディング、ミックス中のイメージ作りで聴いていたプレイリストを紹介する。

 
WHITE ALBUM Snow Sheep Trailer 

 冒頭の「Good Day Today」は今作のための新曲で、小林と近藤のデュエットで歌われるヴァースから近藤の一人多重でリードとコーラを取るブリッジを経て、再び二人のデュエットでサビへと向かう。朝の風景を切り取った歌詞を優しいメロディが包み込むギターポップだ。
 アルバム全体の楽器編成はアコースティックとエレキ・ギターは近藤、それ以外のドラム、ベース、キーボード類を高口が主にプレイしている。この曲ではエイトビートを基調としながら、「Ticket to Ride」(1965年)でのリンゴ・スターのプレイを彷彿とさせる手数の多いドラム・パターン、主旋律に呼応する穏やかなギターのアルペジオとピアノのオブリのコントラストが面白い。また長野県松本市のコミュニティFM局で『Hickory Sound Excursion』という番組のパーソナリティーを務める久納ヒサシ氏が、効果的なバードSEでゲスト参加している。 

 続く「Driving Snow」も新曲で、アコギとセミアコのカッティングと近藤自らプレイするマリンバのリフが爽やかな空間を作っている。ここでも近藤のスウィートなボーカルにハーモニーをつける小林のシルキーな声のブレンドが素晴らしく、冬の雪道ドライブ風景が目に浮かぶ歌詞をよく表現しいている。印象的なアナログ系シンセのリフとピアノは高口、ギターソロは近藤がそれぞれプレイしている。
 「Frozen Heaven」は、作詞家として著名な磯谷佳江氏が自主出版しているガール小冊子『My Charm』Vol.9(2005年)の付録コンピレーションCDに提供されたのがオリジナルで、今回リレコーディングしている。アレンジ的には大きな変化はないが、最新ヴァージョンではBPMをやや落としてドラムのレベルも低めにしたミックスにより、近藤と小林のボーカルを生かした風通しのいいサウンドに生まれ変わっている。
 非常に哲学的な歌詞で、”凍った天国”というキーワードは文学的である。随所で巧みな高口のピアノ・プレイが聴けるのも特徴だ。

※『My Charm』Vol.9
2005年当時の筆者のレビューはこちらをクリック


再び新曲の「Cloudy Bossa」は他の収録曲とはカラーが異なっており、小林がリードを取る、しっとりとしたボサノヴァだ。ここでは近藤はアコギ以外にクラシック・ギターもプレイし、高口は金物パーカッションも担当してそれぞれ器用さを聴かせてくれる。
 短い歌詞であるが、リフレインされるCloudyが耳に残り、小林の声質やサウンドからLampにも通じており、Snow Sheepとしては新境地といえる曲である。


 
Snow Sheep Live 〜 A Way To The Northland, Frozen Heaven
disques blue very 20th anniversary & renewal PARTY 

 「A Way To The Northland」は、インディー・ギターポップ・レーベルbluebdge label (ブルーバッジ・レーベル)のコンピレーションCD『Pop Comes Up! Bluebadge Compilation Vol.2』(Bluebadge Label – bbcd-002/2002年)に提供されたのがオリジナルで、今回リアレンジされ尺も2分44秒から4分10秒に延長されてリレコされた。
 近藤のポール・マッカートニー趣味が滲み出た曲調で、導入部のアコギのアルペジオやメロトロン系鍵盤など踏襲しているパートもあるが、よりファンタジックな展開に仕上げていて、幻想的な小林の歌詞の世界観をより際立たせている。ゲスト参加したPatrascheこと諏訪好洋のラウドなギターソロが大きく貢献しているので聴きこんで欲しい。

 4曲目の新曲となる「Windy Northward」は、一転して軽快なエイトビートのギターポップ・ナンバーで、近藤のリードに小林がハーモニーをつけている。
 コーラスの展開や高口によるソリッドなベース・ラインやハモンド・オルガンのプレイなどから、弊誌VANDA的にはThe Carnivalの「Hope」(『Carnival』収録/1969年)に通じて高評価したい青春ソフトロックでもある。


Snow Sheep』(非売品特典カセット)

 「Another October」と「Good Night,Good Night」は、初音源のHarmony HatchデビューCDの特典カセット『Snow Sheep』に収録されたのがオリジナルで、両曲共に今回リアレンジしリレコされている。
 前者はBPMをかなり落とし尺も3分52秒から5分13秒に延長して、高口の絶妙なタイム感を持つドラミングによりロッカ・バラードのような渋いテイストに生まれ変わった。
 元々は終始近藤と小林のデュエットで歌われていたが、ここではファースト・コーラスは小林、セカンドは近藤のそれぞれのソロ歌唱で、サード以降はデュエットとなる構成になっている。このリアレンジにより原石が磨かれて理想的なサウンドになったと確信する。筆者のファースト・インプレッションでもベスト・ソングに挙げたい。この曲で近藤はベースとピアノ、オルガンもプレイしていて、ギターソロまで披露している。 

 後者は初期トレイシー・ソーンに通じるドラムレスで狭い空間だったオリジナルから、より成熟したサウンドに仕上がっている。
 近藤と小林がソフティーにデュエットするスタイルは、80年代初頭の英国ネオ・アコースティックの文脈からアプローチしたボサノヴァに近く、「Cloudy Bossa」とは異なるが、新たに高口のドラムを加えたことでリズムを強化している。近藤によるクラシック・ギターソロもこの幻想的な歌詞のラヴソングに彩を与えている。 
 
2018年のライヴショット 


Snow Sheep プレイリスト・サブスク 

 
◎小林しの
どことなく気怠げで優しい声の女性ボーカルで、暗めの曲を聴くことが多かったです。 ロキシー・ミュージックは職場の方に教えていただき、懐かしい洋楽の感じが好きで昨年よく聴いていました。 
■Hello,rain / The softies(『It's Love』1995年)
■More Than This / Roxy Music(『Avalon』1982年)
■Smoke / Gia Margaret(『There's Always Glimmer』2019年)
■Breath / Kathryn Williams(『Over Fly Over』2005年)


◎近藤健太郎
Snow Sheep結成時によく聴いていた、Sean Lennonの「Into The Sun」を筆頭に、物憂げな浮遊感と、繊細かつキャッチーな楽曲の世界観に浸っておりました。
■Blossom / Porter Robinson(『Nurture』2021年)
■Into The Sun / Sean Lennon(『Into The Sun』1998年)
■California / Mindy Gledhill(『Anchos』2012年)
■横顔 / 大貫妙子(『MIGNONNE』1978年) 

 
◎高口大輔
今回のアルバムでミックスを担当したので、普段よく聴いている曲の中からミックスする上で参考になりそうな曲という観点で選びました。 歌とオケのバランス、リバーブの深さなど、結果として2000年以降のアルバムからのみのチョイスになりました。 Buffalo Daughterはこの中で異色ですが、最近になって聴いてみて、ミックスがとても良いアルバムだったのでリストに入れました。
■La Puerta / Laura Fygi (『The Latin Touch』 2000年)
■Ailleurs / Karen Ann (『Not Going Anywhere』 2003年) 
■La Mer / Chantal Chamverland (『The Other Woman』 2008年) 
■Volcanic Girl / Buffalo Daughter (『I』 2001年) 
 


◎ディスクブルーベリー(*blue-very label*):http://blue-very.com/?pid=173312435 

 (テキスト:ウチタカヒデ/過去画像提供:近藤健太郎 

2023年3月4日土曜日

The Pen Friend Club 新ボーカリスト・Niinaインタビュー

 2月18日の柏・Studio WUUにて、5代目ボーカリストMegumiのラストステージが記憶に新しい、The Pen Friend Club(ザ・ペンフレンドクラブ)。同22日には昨年9月にリリースされた最新作『The Pen Friend Club』(SZDW-1105)が、アナログLP(SZDW-1106)でも発売されたばかりだ。
 そんな中彼らの新しい仲間となるボーカリスト、Niina(にいな)が加わることになったのでいち早くお知らせしよう。 

 
Niina, the NEW vocalist of The Pen Friend Club


  ペンフレンドクラブは2012年の結成から幾度かのメンバー・チェンジがあり、看板であるボーカリストが最も交代している訳だが、今現在もこうしてバンドとして活動を継続しているのは稀有なことである。これはバンドとして強固なアイデンティティーを確立しているからに他ならない。
 こうして振り返ると、藤本有華が在籍した4~5期(2016年3月~2020年2月)のリリースが最も多く、黄金期と捉えるファンもいるかも知れない。
 だがバンドの歴史は四季のようなものであると筆者は考える。各季節毎にそれぞれの良さがあるように、各時期のボーカリストの歌唱やメンバーの演奏を今後も聴き続けて楽しんで欲しいと切に願う。


The Pen Friend Club 歴代ボーカリストとメンバーの変遷

第1期:夕暮コウ Vo    
(平川Gt/ 西岡Ba/ あいこDr/ Jeni Glo&Per/ ぼたんKey{途中ヨーコKeyに交代})

第2期:向井はるか Vo 
(平川Gt/ 西岡Ba/ 祥雲Dr/ 中川Glo&Per/ ヨーコKey)

第3期:高野ジュン Vo
(平川Gt/ 西岡Ba/ 祥雲Dr/ 中川Glo&Per/ ヨーコKey)

第4期:藤本有華 Vo    
(平川Gt/ 西岡Ba/ 祥雲Dr/ 中川Glo&Per/ ヨーコKey/ 大谷英紗子Sax/ リカAgt)

第5期:藤本有華 Vo    
 (平川Gt/ 西岡Ba/ 祥雲Dr/ 中川Glo&Per/ そいKey/ 大谷英紗子Sax/ リカAgt)

第6期:Megumi Vo     
 (平川Gt/ 西岡Ba/ 祥雲Dr/ 中川Glo&Per/ そいKey/ 大谷英紗子Sax/ リカAgt)

第7期:Niina Vo
 (平川Gt/ 西岡Ba/ 祥雲Dr/ 中川Glo&Per/ そいKey/ 大谷英紗子Sax/ リカAgt)


Niina(にいな)

 さて新たに加わったボーカリストのNiinaは、イギリス出身の日英ハーフの女性で、4月22日(土)の下北沢モナレコードでのイベント【Grenfelle 2nd ep『Big Plaid』release party!!】で、お披露目ライブをする予定だ。
 ここからは新たに加入したNiinaへの最速の独占インタビューをお送りしたい。

●まずはペンフレンドクラブ(以下ペンクラ)に新加入することになったきっかけを聞かせて下さい。

◎Niina:二年ほど前にネットでバンドメンバー募集サイトにプロフィールを作りましたが、なかなか好みのジャンルのミュージシャンと出会えませんでした。そのうちプライベートが忙しくなり、益々夢を諦めるしかないと思っていました。
それから一年、プロフィールを作ったこと自体も忘れていたある日、連絡が来ていたのに気づきました。「えっ?投稿もしてない、使ってもないのに、どうやって見つけてくれたの?!」とびっくりしてメッセージを読んだらペンクラのリカさんでした! 
好きな音楽やバンドの紹介など色々話し合って、こちらからもボーカルのサンプルを送ったら、あれよあれよとバンドに新加入することができました! 
私が完全にこの夢を諦めていた時にリカさんが登場して、ペンクラの皆さんにも紹介してくれたことに何よりも感謝しています。 


●ペンクラ加入前はどのような音楽活動をされていましたか?

Niina:2020年の夏に日本へ帰国しましたが、その前までは15年間イギリスで育てられ過ごしてきました。イギリスでは元々クラシック音楽を勉強してハープとピアノで音楽専門学校と大学に通っていました。 
そこではオーケストラやソロのコンサート、ボランティアでの演奏もしました。後にソロ・ハープの音楽家として活動していて、大使館のパーティーで弾いたり、結婚式やイベントで弾いたりしていました。


●ペンクラの曲を聞いてのファースト・インプレッションはどうでしたか? 
  このバンドでお好きな曲を挙げて、その理由を教えて下さい。

◎Niina:First impressionは「私の大好きな60, 70年代の曲だー!」でした。笑 服装もジャンルもオリジナルソングの音色と雰囲気も素敵と思い、曲を聴いた瞬間、薄くなっていた夢が急に虹色に染まった感じ。もしこのバンドに入れたらどんなに楽しいのか!っと頭の中も、目も耳もキラキラ輝いていました。本当です! 
オリジナルソングで好きな曲は"ふたりの夕日ライン"かな?理由はシンプルに気持ちいい!60, 70年代の曲と同じ感じでハーモニーがシンプルで、メロディーとリズムが上手く作られてついていきやすい、耳に気持ちいい曲だと思います。

●ではペンクラ以外で、個人的によく聴くアーティストの曲を挙げて下さい。
 またボーカリストとして目標とするアーティストはどなたかいますか? 

◎Niina:たくさんの音楽を毎日探し続けて聴いていますが、最近は海外のインディーポップのジャンルが好きです。The Strike というバンドを見つけて "The Devils in the Canyon" という曲が好きです!70-80年代のロックの雰囲気で、リズムについ体が動いてしまう曲ばかりなのでおすすめなバンドです。 
目標とするアーティストより、自分と自分の声を一番輝かせる、バンドメンバーといろんな雰囲気の60~70年代の曲や、オリジナル曲を幅広く歌えるボーカリストになりたいです。


●では最後にペンクラの新たなボーカリストとしての心構えと、お披露目ライブのアピールをお願いします。

◎Niina:新しいボーカリストとして、私は音楽への情熱を皆さんにシェアすることを楽しみにしています。リハーサルやパフォーマンスをするたびに、自分の技術を磨くことを努力して頑張ります。
お披露目ライブでは、ダイナミックなエネルギーをステージで表現し、皆さんに忘れられない体験を差し上げたいと思っています。私の声とペンクラの新しいサウンドで、皆さんとのつながりを作り、印象に残る演奏を目指します! ペンクラを応援してくれている皆さん、これからはよろしくお願いします!

【イベント情報】
4/22(土)下北沢モナレコード 
【Grenfelle 2nd ep『Big Plaid』release party!!】
Open18:30〜Close23:00 
・カジヒデキ
・The Pen Friend Club
・Grenfelle
mona records
〒155-0031 東京都世田谷区北沢2-13-5 伊奈ビル 3F
下北沢駅(小田急線、京王井の頭線) 中央口/南西口、徒歩2分。
TEL: 03-5787-3326 info@mona-records.com 

【プロフィール】 The Pen Friend Club (ザ・ペンフレンドクラブ) 
音楽家・平川雄一により2012年結成。ザ・ビーチ・ボーイズ、
フィル・スペクター周辺の60年代中期ウェストコーストロックを
ベースとした音楽性で、ザ・ゾンビーズやジェフリー・フォスケット来日公演の
オープニングアクトも務めた。過去8枚のアルバムを発表。

平川雄一(Gt,Cho)
Niina(Vo)
西岡利恵(Ba,Cho)
祥雲貴行(Dr)
中川ユミ(Glo)
大谷英紗子(Sax)
リカ(A,Gt,Cho)
そい(Key,Cho) 
【ソーシャル】


(設問作成・編集・テキスト:ウチタカヒデ