2023年1月27日金曜日

今年の収穫(2023)

Carl, David, Jo Ann, Dennis

 Grammy賞の後夜祭イベントとして定着したトリビュート・イベントであるGrammy Saluteシリーズに我らがThe Beach Boysが登場(2月8日)となった。

 共演者はJohn Legend, Brandi Carlile, St. Vincent, Beck, Fall Out Boy, Mumford & Sons, Weezer ,Charlie Puth, LeAnn Rimes, My Morning Jacket, Norah Jones, Pentatonix, Lady Aを予定している。過去の開催事例では解散や物故している場合を除けば、特集される当人やメンバーが出演するのが常となっている。

 久々にBrian, Mike, Al, Bruceなどの共演が見られるかもしれない、乞うご期待!

 

Mike,Bruce陣営は3月上旬のクルーズ船イベントの営業中

 閑話休題、昨年音盤を入手したものの到着が遅れ年越しとなってしまい、結局今年の収穫となった。

Mel Carter San Francisco Is A Lonely Town』/
Everything Stops For A Little While
(Amos AJB-120 1969年)

 A面の『San Francisco Is A Lonely Town』は弊誌おなじみThe Trade Windsの『New York’s A Lonely Town』とは残念ながら無関係、今回はB面の『Everything Stops For A Little While』を紹介しよう。


 Mel CarterはSam Cooke直系のsoul,R&B歌手で60年代中葉にPop,MORチャートでスマッシュヒットを記録している。『Everything Stops For A Little While』のクレジットはM.Carter-J.Marks-Z.Samuelsとある。M.CarterはもちろんMel Carter、Z.SamuelsはZelda Samuelsでソングライターのバックグラウンドもありかつ、Sam Cookeのマネジメントを行い当時はMelのマネジメントも担当していた。
 さて、J.Marksとは?なんと、The Beach Boysの初期メンバーDavid Marksの母Jo Ann Marksだったのだ。
米国国会図書館のデータベースには登記されていた

 Jo Annは超常現象や民間信仰に興味があり、自らも幼少期より神秘体験を繰り返してきた、とDavidは語る。Marks家は元々東部生まれであったが、Jo Annの霊感めいたひらめきで加州への移住を決意した程だ。
 移住後はご存知の通りHawthorneにてWilson家の隣近所に居を構えるのだが、早速Jo Annは西海岸の霊能者や占星術師らと多く親交を結びオカルト・サークルにも参加していった。
 オカルト・サークルのイメージは Mansonのようなカルトの暗黒面を想像してしまうが、Jo Annは社交的かつ天真爛漫な性格であったので地元コミュニティから浮いてしまうことはなかったとのことである。

Hawthorneにて井戸端会議?
左がJo Ann 右はAudree Wilson
 Davidによれば当時の隣人であったBrianにも影響を早くから与えていた、と言う。Jo Annの源泉である霊感は全て自身の触れる指先からの”Vibrations”に基づく、とBrianによく語っていたそうである。真偽は定かではないが、幼少期のBrianにいつかCapitol Recordと契約することになる、と予言までしていた。
 後年になってもJo Annの影響はBrianの創作活動に影響を与えていた。Jo Annの知人に占星術師がおりBrian邸を頻繁に訪れていて、制作上のヒントや方向性に助言を与えていた。
 1991年刊行の『Wouldn't It Be Nice: My Own Story』はEugene Landy色が強くファンの間でも非難轟々の著作ではあるが、同書中131ページにおいて、Pet Sounds制作のトリガーとなった自己の内面性の探求についてはGenevelynという名の占星術師の助言が大きな役割を果たしているとの記述がある。
 また、1986年刊行のSteven Gaines『Heroes and Villains: The True Story of the Beach Boys』では新曲『Heroes and Villains』をworld premierと称して地元ラジオ局で初オンエア(結局失敗するのだが)を決行する日程を同書182ページではGenevelynと称する占星術師に指南してもらった旨の記述がある。これらGenevelynは同一人物であろう、DavidによるとJo AnnがBrianに紹介した占星術師J'Nevelyn Terrellのことである、J'Nevelynは音楽業界とも関わりがあるようで自作の曲が判明している。

謎の占星術師J'Nevelynの名が確認できた!

 Pet Sounds以降のSmile sessionやThree Dog Night結成前夜だったDanny Huttonのセッション(Redwood)でもBrianは霊的インスピレーションから得た様々な助言をJ'Nevelynに乞うていたという。

『Smile』のジャケット裏:星座十二宮に囲まれるThe Beach Boys

 Sam Cooke系の人脈とJo Annの繋がりのきっかけは音楽業界にあった、Jo AnnはLiberty RecordのA&R部門にいたらしく、その頃ちょうどMel CarterもImperial~Libertyに在籍していた。マネジメントしていたZeldaとは意気投合したらしく、以後親交を深めたとのこと。

The Beach Boys脱退後Davidはいくつものバンドを結成するもシングル盤リリース後離合集散を繰り返していた。不遇の中遂にThe Moonを結成し、メジャーレーベルからのアルバムリリースが叶ったのも、母Jo AnnのLiberty人脈が功を奏した。

 また、このアルバムの世界観は母Jo Annの耽溺する古代ギリシャ・エジプトが源流のオカルト思想「薔薇十字団」の世界観に基づいている。

DavidらによるバンドThe Moon

 その頃からDavidによればJo Annの霊感は冴え渡り、J'Nevelynとともに超常現象の専門家兼霊的アドバイザーとして多くのHollywoodセレブの顧客を獲得に成功する。本作『Everything Stops For A Little While』はヒット祈念と洒落込んで、霊験あらたかなJo Annの名を盛り込んだのか?
 真相は定かでは無いが、超常現象のパワーは起こせず本作はヒットを記録していない。Grammy SaluteにDavidは果たして招聘されるのか?Jo Annが健在なら占ってほしいところだ。

(text by Akihiko Matsumoto-a.k.a MaskedFlopper)

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