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2023年3月31日金曜日

WACK WACK RHYTHM BAND:『at the Friday Club』(Mix Nuts Records/LBDD-1001)


 WACK WACK RHYTHM BAND(ワック・ワック・リズム・バンド/以下WWRB)が、バンド結成30周年を記念し初のカバー・アルバム『at the Friday Club』を4月4日にリリースする。2020年4月のオリジナル・自主制作アルバム『THE 'NOW' SOUNDS』(WWRB/WWRB-004)からちょうど3年、長年のファンにとっては嬉しいリリースとなった。


 彼らWWRBのプロフィールを改めて紹介するが、92年にフリーソウル・ムーヴメントの立役者の一人で東京モッズ・シーンの顔役である山下洋(ギタリスト/DJ)の仲間達を中心に、リーダーを小池久美子(アルト・サックス)にして結成された。イギリスのノーザン・ソウルをベースとしたインスト・バンドで、クールなセンスやヴァーサタイルなスタイルは他に類を見ない唯一無二の存在だ。現在は5管のホーン・セクションを含む男女10名で構成されている。

 本作『at the Friday Club』でも山下を中心にセレクトされたと思しきセンス溢れるカバー曲群と、彼らを一躍知らしめたファースト・アルバム『WEEKEND JACK』(98年)のリード曲「Hit & Run」のセルフ・カバーを含め全9曲を収録している。
 レコーデイングは流線形saigenjiでお馴染みのStudio Happinessと、VIVID SOUND STUDIOでおこなわれ、本職の箸本智の他、ベーシスト兼作編曲家としてメジャー・ワークスで知られる村濱遼太、WWRBメンバーの大橋伸行(Bs)と和田卓造(Drs)もエンジニアを担当している。ミックスは大橋が担当し、カヒミ・カリィやPort of Notes等のプロデューサーとして著名な神田朋樹がマスタリングの最終仕上げをしている。
 60’s後期のソウルジャズ・レコードを彷彿とさせる目を惹くジャケット・デザインにも触れるが、アート・ディレクションとフォトグラフは吉永祐介、デザインは吉永と磯田楓が担当している。

WWRB at the Friday Club ORIGINALS

 ここでは筆者による全曲の解説と、カバーされたオリジナル曲のプレイリストを紹介するので聴きながら読んで欲しい。 
 冒頭はマーヴィン・ゲイが71年に発表したニューソウルの金字塔「What's Going On」。この曲はオリジナル以外では、ダニー・ハサウェイの『Live』(72年)収録のヴァージョンがよく知られるが、本作ではBPMを上げよりリズミックにして、スタッカートの効いた伊藤寛のハモンド・オルガンや新たな解釈のホーン・アレンジでプレイされている。リード・ボーカルはゲストのAhh! Folly Jet(アー!フォリー・ジェット)の高井康生で、個性的でソウルフルな歌声の他、ギター・ソロまで披露している。
 続く「Window Shopping」は、79年イギリスでスカ・サウンド・レーベルとして設立された2トーン・レコード末期に所属したThe Friday Clubの85年のシングルだ。同レーベルを代表するバンド、スペシャルズのジェリー・ダマーズがプロデュースしているが、サウンド的には当時ポール・ウェラーが率いて日本でもブレイクしたスタイル・カウンシルに通じるブルーアイド・ソウルである。ここではオリジナル・アレンジ通りストリングス・シンセやホーン・セクションのリフや跳ね方、間奏のテナーサックス・ソロも三橋俊哉により忠実にプレイされている。リード・ボーカルはゲストでブルービート・ガールグループThe Drops のTakakoで、この曲をチョイスしThe Friday Clubをアルバム・タイトルにもインスパイアしているであろう山下がコーラスをつけている。 
 収録曲中筆者がファースト・インプレッションで惹かれたのは、ダニー・ハサウェイ作で彼がプロデュースしたベイエリア・ファンク・バンドCold Bloodの「Valdez in the Country」である。この曲もオリジナルのアレンジが完成されていたインストファンク・ファンク曲で、本作でも踏襲されており、各プレイヤーの演奏が堪能出来る。リズム隊の和田(Drs)と大橋(Bs)によるグルーヴのコンビネーションがひたすら気持ちよく、間奏のソロはテナーの仲本興一郎、トランペットの國見智子(Francisの「セッソ・マット」にも参加)と受け継がれている。またオリジナルにないサウンドとして、三橋がJaws Harp(口琴)までプレイし無国籍なフィールを醸し出して効果的だ。

三橋俊哉、 リーダー小池久美子

 モータウン・ファンにはThe Supremesの「Bad Weather」も嬉しい選曲かも知れない。スティーヴィー・ワンダーがソングライティングとプロデュースを手掛けた73年の代表曲として知られるが、この時代はダイアナ・ロス脱退後でジーン・テレルがリード・ボーカルだった。ここでのベーシック・アレンジは、後の78年にマーヴィンの『I Want You』(75年)のプロデュースで知られるリオン・ウェアが手掛けた、メリサ・マンチェスターのヴァージョン(『Don't Cry Out Loud』収録)を下敷きにしていると思われる。フリーソウル仕掛け人の山下ならではというセンスだろう。リード・ボーカルはパーカッションの福田恭子が取っていて、ゲストシンガーも顔負けの歌声を聴かせてくれる。
 本作収録カバーで最も知る人ぞ知る曲が、Essence Of Capricorn(エッセンス・オブ・カプリコーン)の「危険がいっぱい」(75年)だろう。デトロイト出身の黒人女性3人組で、和田アキ子のバック・コーラスなどを務めていたボーカル・グループの唯一のシングル曲だ。日本でレコーデイングされた日本語詞のソウル歌謡で、フォークシンガー出身の田山雅充の作曲だが、曲調やサウンドはClassics IVのヴァージョンで知られる「Spooky」(67年)に通じる。ここではオリジナルよりコンボ風にアレンジされ、元WWRBメンバーのLemonがパワフルなボーカルを披露している。

WWRB with Lemon

 WebVANDA読者をはじめソフトロック・ファンには、フランキー・ヴァリの67年のシングル「I make a fool of myself」のカバーを勧めたい。ご存知の通り、ボブ・クリューとボブ・ゴーディオのソングライティング、ゴーディオとチャーリー・カレロのアレンジによる「Can't Take My Eyes Off You」(67年)スタイルの感動的なラヴソングだ。本作のアレンジもオリジナルのマリアッチなホーン・セクションをフューチャーし、トロンボーンの伊藤さおりが後半ソロを取っている。またゲストのR&Bシンガー兼ラッパーのBooによるソウルフルな美声も聴きものだ。
 続くジョージィ・フェイムの「Happiness」も弊サイト読者好みであろう、10thアルバム『Going Home』(71年)収録でテディ・ランダッツォ作曲によるグルーヴィーなサンシャイン・ポップだ。前曲同様山下のアコースティック・ギターのカッティングが響き、オリジナルにはないハンドクラック(ビートルズの「Here Comes The Sun」の様だ)が効果的である。リード・ボーカルは山下で、福田と國見、大橋がコーラスをつけ、原曲以上の多幸感に溢れている。 

WWRB with 高井康生

 アルバムが最高潮に達したところで、三橋のソングライティングによるセルフ・カバーの「Hit & Run」が登場する。オリジナルよりややBPMを上げて疾走感があるヴァージョンになっている。この曲はなんと言っても、シェリル・リンの「Got To Be Real」(78年)よろしく魅惑的なコード進行のイントロに導かれ、始まる瞬間から好きにならずにいられないパーティー・ファンク・チューンであり、リード・ボーカルには元メンバーのToshieと再びLemonが参加している。間奏では國見のトランペット、伊藤寛のシンセがオリジナルでのプレイより円熟させたソロを取り、更に盛り上げている。
 そしてラストはWWRBのライブでは初期時代からお馴染みで、ノーザン・ソウル好きには知らぬ者なしの永遠の名曲「Soulful Strut」で大団円を迎える。渋谷系にはSwing Out Sisterのカバーでヒットしたバーバラ・アクリンの「Am I The Same Girl」として知られるが、ここでのベーシック・アレンジはYoung-Holt Unlimited(ラムゼイ・ルイス・トリオの元メンバー)のインスト・ヴァージョンをベースに、レゲエやラテン・フィールを加味している。間奏のソロは福田と結成時メンバーのOshow(オショウ)によるスティール・パン、國見のトランペット、伊藤さおりのトロンボーン、リーダー小池のアルトサックス、三橋のテナーサックスと続いている。


 最後に総評になるが、センス溢れる選曲と多岐に渡るゲストシンガーの参加により、”ルーツ・オブ・WACK WACK RHYTHM BAND”といった好カバー・アルバムに仕上がっており、弊サイト読者や音楽ファンからDJにも勧めたいので、是非入手して聴いて欲しいと願う。

(テキスト:ウチタカヒデ / ライブ画像提供:WACK WACK RHYTHM BAND)

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