2022年12月1日木曜日

TWEEDEES:『World Record』(日本コロムビア/COCP-41930)


 清浦夏実と沖井礼二によるポップ・グループ、TWEEDEES(トゥイーディーズ)が、2018年10月の『DELICIOUS.』(COCP-40536)以来約4年振りとなる4thフルアルバム、『World Record』を12月3日にCDと12インチ・アナログ盤で同時リリースする。 

 ファンにとっては待望となる本作には、2019年11月に帽子ブランド”CA4LA(カシラ)”とコラボレーションした配信限定の「Béret Beast」をはじめ、小学館「ゲッサン」連載中の仮想戦後活劇漫画『国境のエミーリャ』(作・池田邦彦)のコンセプト・ミニアルバムから「二気筒の相棒」とシングル「ルーフトップ・ラプソディ」、TOKYO MX系で今年7月から9月に放映されたファンタジー・テレビアニメ『ユーレイデコ』に提供した「meta meta love」と先行発表された曲だけでも注目が集まっている。
 また沖井が楽曲提供した曲のセルフカバーとして、声優兼歌手の竹達彩奈の「Sinfonia! Sinfonia!!!」、ガールポップ・バンドSOLEILのサード・アルバム『LOLLIPOP SIXTEEN』(VICL-65209/19年)に提供した「ファズる心」(作詞は清浦)の2曲と、書き下ろしの新曲4曲を含めトータルで10曲を収録している。この様に異なる世界観で制作されたコラボレーション曲を収録した本作は、TWEEDEESの多岐に渡る交流から発展したマスターピースと呼べるだろう。
 ジャケットのアートワークは、沖井が率いたCymbals時代からデザインを手掛けている菊池元淑(LOKI代表)が担当し、これまでのTWEEDEES作品同様に美しく統一感があるものとなっており、英国風のエンブレムには気品が漂っている。


 TWEEDEESのプロフィールにも触れよう。Cymbals(1997年~2003年)解散後に作・編曲家として多くのCM、ゲーム、アニメーション、テレビ番組等に携わっていた沖井礼二が、アイドルを経て女優(『3年B組金八先生・第7シリーズ』の生徒役等が特に知られる)、歌手として活躍していた清浦夏実をヴォーカリストに誘い、2015年に結成。同年3月に日本コロムビアよりファースト・アルバム『The Sound Sounds.』、翌16年7月にセカンド・アルバム『The Second Time Around』をリリース。17年4月にはEテレのアニメ「おじゃる丸」のエンディング・テーマを担当し、この楽曲を収録したミニアルバム『à la mode』を同年6月、18年10月にはサード・アルバム『DELICIOUS.』をリリースしている。
 2021年12月には前出の『国境のエミーリャ』のコンセプト・ミニアルバム、今年9月には同作のコラボレーション・シングル「ルーフトップ・ラプソディ」とコンスタントに作品を残し、沖井の高い音楽性と清浦のファッション性によりライブ・パフォーマンスにも定評があり、多くのファンを魅了しているのだ。

TWEEDEES『World Record』ティザー  

 ここからは収録曲の解説をしていくが、今回特別にTWEEDEESの二人が、曲作りやレコーディング中にイメージ作りで聴いていた楽曲をセレクトしたプレイリスト(サブスクで試聴可)も紹介するので、アルバムのダイジェスト・ティザーと共に聴きながら読んで欲しい。

 冒頭の「Victoria」は沖井の書き下ろしの新曲で、清浦が口ずさむハミングのみで始まるイントロから一転し、オーケストラ・チャイムのフレーズと激しいドラミングでスタートする。タイトルは英国女王の名として広く知られるがローマ神話の“勝利の女神”であり、聴く者を高揚させる歌詞にも繋がっており本作のリード・トラックとして相応しい。沖井はソングライティングと編曲、ベースやギターのプレイと鍵盤類のプログラミングを担当している。ドラムにはロックバンドNORTHERN BRIGHTの原“GEN”秀樹が参加しており、本作ではこの曲を含め4曲に参加しそのアグレッシブなドラミングを披露している。 

TWEEDEES - Victoria (Offical Video)

 続く「Béret Beast」はモータウン~ノーザン・ソウルを80年代的解釈から更にアップデートさせたサウンドで、沖井が敬愛するポール・ウェラーが当時率いたスタイル・カウンシル(1982年~1990年)の匂いがして好きにならずにいられない。清浦が一人多重で担当したコーラスはガール・グループのそれを意識した、よく練られたアレンジである。ソングライティングと編曲、全ての演奏とプログラミングは沖井が担当している。
 
 ハーフ美少女“それいゆ”を配したSOLEIL(2017年~2019年活動休止)に提供した「ファズる心」のセルフカバーは、同バンドのリーダであるサリー久保田(ザ・ファントムギフト)がプロデュースした原曲のガレージ・バンド感覚は薄れ、新たなアレンジでリレコされている。ここでは沖井のカラーが色濃いスウィンギング・ロンドンしたサウンドとなっており、作詞を担当した清浦のキュートな歌声もあり生まれ変わった。この曲でも原のドラム・プレイが聴ける。
 「ルーフトップ・ラプソディ」は前出の通り、漫画家で鉄道ライターとして知られる池田邦彦氏原作の仮想戦後活劇漫画『国境のエミーリャ』の主人公、杉浦エミーリャをイメージしたコラボレーション・シングルで、作詞は清浦、作編曲は沖井による。筆者もSNSでの沖井の発言を切っ掛けにコミックで愛読しているが、“国境脱出請負人”として驚異的身体能力を持つエミーリャなのだが、19歳の恋する乙女を等身大で表現した甘いワルツに仕上がっている。ブラシを使った繊細なドラムは、ファンク・ポップバンドのカラスは真っ白(2010年~2017年)のメンバーだったタイヘイのプレイで、ジャズバンドでの経験が発揮されている。
 なお『国境のエミーリャ』の第25話「美しい歌はいつも悲しい」(コミック第5巻収録)にはTWEEDEESが本人役!として登場しているので、こちらも是非チェックして欲しい。

 
『ユーレイデコ』コラボレーションソング#03
 『meta meta love』TWEEDEES

 本作中サウンドの毛色が異なる「meta meta love」は、ファンタジー・テレビアニメ『ユーレイデコ』の第3話「仕組まれた裁判」で使用されたコラボレーションソングだ。作編曲とプログラミングを担当した沖井によると、同アニメの音楽プロデューサー氏からは「後期YMOで」というオーダーだったという。十代前半にYMOを熱心に聴いていたという彼なりの拘りが随所に鏤められていて、八分で刻むシンベやヴァース以外のドラム・トラックのアクセントで入る加工されたクラベスがCUE(『BGM』収録/81年)、間奏のシンセ・フレーズが「ONGAKU」(『NAUGHTY BOYS』収録/83年)等々を想起させて興味は尽きない。
 でもそれだけで済ませないのが沖井流で、ブリッジの甘美な旋律がエンニオ・モリコーネによる『ペイネ 愛の世界旅行』(イタリア映画/74年)のメイン・テーマに通じていて、清浦による無垢な歌詞や歌声と相まって、一本の映画を観たような感動へと誘ってくれるのだ。
 一転してハイテンポ・2ビートの「GIRLS MIGHTY」は、沖井のソングライティングによる書き下ろしの新曲で、原とのリズム隊で目まぐるしいコンビネーションや沖井自身によるパンキッシュなギターソロなどUKのパンク/ニュー・ウエイヴ好きに勧めたい。ハンドクラップでTWEEDEESスタッフが参加しているのも楽しい。

エミーリャが座る愛車が
トラバントP50

 再び『国境のエミーリャ』とのコラボで、昨年12月に配信のみでリリースされた同名コンセプト・ミニアルバムから「二気筒の相棒」も本作に収録している。イントロはノーザン・ソウル風だが、本編に入るとCymbals時代から脈々と続く沖井節全開である。
 因みに劇中エミーリャの愛車は東ドイツ製のトラバントP50(生産期間:1958年~1964年)で、排気量500ccの直列二気筒2ストローク空冷エンジンというロースペックながら、同国の国民車となった小型FF車だ。最高出力が20ps未満と当時の日本車同排気量と比べて性能は落ちるが、ボディがFRP製で車重600kgと軽量なので最高105km/hの走行が可能だった。エミーリャが任務遂行のため、猛スピードで疾走する情景を綴った沖井の歌詞を清浦が感情移入して歌い上げている。この曲ではタイヘイのドラミングと沖井自らプレイするオルガン・ソロも秀逸だ。
 「Sinfonia! Sinfonia!!! TWEEDEES ver」は沖井がTWEEDEES結成前に、声優兼歌手の竹達彩奈のファースト・シングルとして提供し、2012年4月にリリースした楽曲のセルフカバーだ。テレビアニメで映画化もされた『けいおん!』の声優としてブレイクした竹達のこの曲は、オリコンのシングルチャート初登場で7位となるヒットとなり、現在も彼女の代表曲となっている。
 ここではテンポを落として音数を削ったサウンドでリアレンジされ、シックで落ち着いた清浦のキャラクターに合わせたTWEEDEESヴァージョンとして生まれ変わっている。ドラムにタイヘイが参加しその他の演奏とプログラミングは沖井が担当している。

 本作終盤では書き下ろしの新曲が続き、「Day Dream」は清浦の作詞で沖井の作編曲による美しいバラードだ。クリシェで下降する繊細なコード進行ながら徐々にリズム隊が派手に出てくる沖井らしい作風だ。繊細なエレピのコード・ワークとリズム隊のコントラストが、表現力豊かに歌い上げる清浦のヴォーカルをドラマティックに演出している。ドラムには原が参加し、ベースとギター、鍵盤類のプログラミングは沖井が担当している。  ラストの「Hello Hello」は前曲をクールダウンさせる小曲で、沖井によるエレキギターとエレピ、パーカッション類のプログラミングによる狭い空間で展開するサウンドをバックに、清浦のキュートな歌声が聴ける。作詞は清浦で作編曲は沖井によるものだ。  以上のように本作は収録曲毎に異なる世界観で制作されているのにも関わらず、沖井礼二と清浦夏実によるTWEEDEESでしか表現出来ない統一感により完成度が高められているので、 筆者の解説で興味を持った弊サイトの読者や音楽ファンは是非入手して聴いて欲しい。

 
 TWEEDEESプレイリスト

◎沖井礼二
■Magical Mystery Tour / The Beatles 
(『Magical Mystery Tour』/ 1967年)
■Vanishing Girl / The Dukes Of Stratosfear
(『Psonic Psunspot』/ 1987年)
■I Like Myself / Gene Kelly
(OST『It's Always Fair Weather』/1955年) 
■Devant Le Magasin / Michel Legrand
(OST『Les Parapluies de Cherbourg』/ 1964年)
水硝子 / RYUTist(『水硝子』/ 2021年)

◎清浦夏実
■pray / 赤い公園(『オレンジピアノ / pray』/ 2020年)
■Painted From Memory / バート・バカラック、エルヴィスコステロ (『Painted From Memory』/ 1998年)
■濡れない雨 / 中納良恵 (『窓景』/ 2015年)
■陽のあたる大通り / ピチカート・ファイヴ 
(『陽の当たる大通り』/ 1994年)
■パイロット / 坂本真綾(『DIVE』/ 1998年)

(テキスト:ウチタカヒデ


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