2022年11月15日火曜日

RYUTist:『(エン)』(PENGUIN DISC / PGDC-0013)


 新潟在住の4人組ガール・ヴォーカル・グループRYUTist(リューティスト)が、『ファルセット』(PGDC-0012)以来2年振りの5thフルアルバム『(エン)』を11月22日にリリースする。
 本作には2021年5月にシングルとして配信されていた「水硝子」をはじめ、今年8月10日から11月9日までに「うらぎりもの」と「しるし」、「朝の惑星」、「オーロラ」の計5曲を先行発表し話題を集めていた。

 弊サイトでは、The Pen Friend Clubの平川雄一が楽曲提供し演奏にもバンドで参加したセカンド・アルバム『日本海夕日ライン』(RR-012/2016年)から紹介しているので、読者の皆さんはご存じかも知れないが、彼女達のプロフィールを再度紹介しよう。 
 2011年 5 月に新潟県最大の専門学校グループ「NSGカレッジリーグ」が主催した、オーディションにより選ばれた5名のメンバーで佐藤乃々子をリーダーとして結成された。その後2名が卒業し16年には佐藤と宇野友恵、五十嵐夢羽に、小学生の頃からソロ活動をしていた最年少の横山実郁を加え、現在の4人組となっている。生まれ育った新潟のご当地アイドルという枠を飛び越えて、実力知名度共に全国区となっている。

左から五十嵐夢羽、横山実郁、佐藤乃々子、宇野友 恵

 本作は前作『ファルセット』同様に新鋭クリエイターが多く楽曲提供し、各者の強烈な独自性を持つサウンド・プロダクションによりRYUTistワールドを更に拡大させているのが特徴だ。
 新たに参加したクリエイターから紹介していくが、いち早く先行配信された「水硝子」をはじめ3曲を提供している君島大空(きみしま おおぞら)は、多くの女性シンガー・ソングライターのレコーディングやライヴに引っ張りだこの若手ギタリストとして知られている。
 その他にもKing Gnuの前身バンドのメンバーで東京芸術大学出身のジャズ・ドラマーとして知られる石若駿(いしわか しゅん)、2016年にユニット“神様クラブ”として活動をスタートし19年からはソロでも活動しているエレクトロポップ・アーティストのウ山あまね、日本人とアイルランド人のハーフ女性シンガー・ソングライターのermhoi(エルムホイ)。彼女の夫マーティ・ホロベックは、前出の石若が率いるSMTK (エスエムティーケー)のベーシストでもある。
 『ファルセット』から引き続き参加している組では、今年5月に6thアルバム『ぼちぼち銀河』をリリースした女性シンガー・ソングライターの柴田聡子、独自の活動を続ける打ち込みユニットのパソコン音楽クラブ、同作のリードトラック「ALIVE」で良い仕事をした蓮沼執太も健在で、彼らは新たなRYUTistサウンドにとって掛け替えのない存在となっているようだ。 
 このように個性の異なる鬼才クリエイター達に、サウンド・プロダクションを任せているプロデューサーの安部博明の存在は極めて大きい。彼は相対性理論フレネシなど筆者も早くから評価していたアーティスト達を熱心にチェックしていたらしいので、その先見性や審美眼がRYUTistの活動にフィードバックされているのは言うまでも無い。 
 ジャケット・デザインにも触れておくが、グラフィック・デザイナーとして国内外のコンテストやビエンナーレでの受賞歴が多く、アンビエント・ユニットを結成してミュージシャンとしての側面もある大澤悠大が手掛けている。淡い色彩を円状にエフェクティヴ処理して、興味を引くコンセプチャルなデザインである。

   RYUTist - 朝の惑星 【Official Audio】   

 ここからは収録曲の解説をしていく。冒頭の「支度」は続く「朝の惑星」の導入部的サウンド・コラージュで、両曲のソングライティングとアレンジ、全ての演奏とプログラミングを君島が一人多重録音でおこなっている。本編の「朝の惑星」はカットアップを多用したマジカルなサウンド・スケープにより、半醒半睡状態を綴った歌詞の世界観をよく表現しており、RYUTistのヴォーカルもエレメントとして効果的に配置されてサウンドとの一体化を生んでいる。高度なHDレコーディングの編集技術に裏打ちされ結晶した曲と言えるだろう。 
 続く「うらぎりもの」も一筋縄ではいかないサウンドで、作編曲の石若を筆頭に、手練なミュージシャン達によるフューチャー・ジャズをバックにした、アブストラクトな集団ヴォーカリーゼーションと呼べばいいだろうか。ラップ・グループ Dos Monosの没a.k.a NGSによる歌詞も極めて観念的で、聴く者を異次元に誘ってくれる。
 演奏は精鋭ジャズ・バンドのSMTKで、リーダーの石若はドラムの他フェンダー・ローズも担当し、ベースのマーティ・ホロベック、ギターの細井徳太郎からなるリズム・セクションに、バークリー音楽大学を首席で卒業したサックス奏者、松丸契がフリーキーに絡んでいく。高度で複雑なコーラス・アレンジを担当した小田朋美は、ceroの4thアルバム『POLY LIFE MULTI SOUL』(2018年)と同ツアーにも参加し準メンバーとしても知られてる才女である。

 
RYUTist -オーロラ【Official Audio】

 マスタリング直後の音源を入手して聴いた際、ファースト・インプレッションで筆者が最もリピートしたのは「オーロラ」で、柴田聡子がソングライティングとアレンジを手掛けている。音数を削ぎ落としたプリミティヴなアフロ・ビートをルーツとするR&Bサウンドをバックに、歌詞割りしたソロ・パートとメンバーのコーラスがリフレインするサビのコントラストが非常に新鮮である。そのソロ・パートも各メンバーの声質で綿密に配置しているのは感服する。
 全てのトラックのプログラミング、コーラス・アレンジとディレクションまで柴田が手掛けており、自らコーラスにも参加している。歌詞の世界観は友人との再会をオーロラ・ツアーで演出するという設定だが、風景描写と心情描写が絶妙に交差し合って完成度の高いものである。
 本作中最もポピュラー・ミュージックのフォーマットを成していて、一般的にも聴き易いのは「しるし」でだろう。前作に提供した「春にゆびきり」と比較して、より成熟したソングライティングとアレンジを手掛けたのはパソコン音楽クラブで、等身大のRYUTist達をうまく表現している。
 再び君島が手掛けた「水硝子」は最も早い段階で発表された収録曲で、「朝の惑星」同様に高度な編集技術によって緻密に構成されていて耳を奪われる。歌詞の世界観を映像化させるサウンド・エフェクトも効果的だ。 
 君島の提供曲群より更に前衛的なサウンドを持つのが、ウ山あまねが手掛けた「たったいま:さっきまで」だろう。編集手法も非常に感覚的であり、歌物の既成概念を壊した際だった斬新さである。そんな中でもRYUTist達のヴォーカルの存在感を残しているはさすがである。


 前作『ファルセット』でコアとなった「ALIVE」の作者である蓮沼執太が本作に提供した「PASSPort」は、前作とはアプローチが全く異なる、プログラミングされたダンス・ミュージックで興味深い。同作収録の「時間だよ」(Kan Sano作)にも通じる、“大人のRYUTist”を演出しているのかも知れない。
 使用された機材はARP社のRhodes ChromaやSEQUENTIAL社のProphet-6のアナログ・シンセサイザーから、Buchla社のモジュール・シンセMusic Easel、往年の名器Roland 社のTR-808といった拘りのヴィンテージ実機が多い。シーケンサーはElektron社のAnalog Rytm MKIIを使用しているようだが、TR-808のキックやハイハット、クラップの他、Rytm MKII本体のプリセットとサンプリング音源も使用して構築させたハイブリッドなドラム・トラックである。上物はChromaでエレピ系、Prophet-6でパッド系を使い分けているのだろう。またMETAFIVEやanonymassのメンバーで、多くのセッションでも知られる権藤知彦がユーフォニアムとフリューゲルホルンで参加しているのも注目だ。彼が生演奏する金管のオブリがこの曲に厚みをもたらしている。
 ラストの「逃避行」はermhoiが手掛けており、エクスペリメンタルでチルアウトなトラックをバックに、無垢で浮遊感に満ちたRYUTist達の歌声が大団円に相応しい美しさだ。日本の他アイルランドにもルーツを持つermhoiが昨年リリースした最新作『DREAM LAND』(PECF-3263)のサウンドにも通じる、“夢と現実の世界”がここでも展開されている。

 最後になるが、前作『ファルセット』以上に強烈で独自性を持つサウンド・プロダクションには、正直面食らってしまうファンもいるかも知れない。だが昨今は多様性を許容していく時代であり、作品毎に成長するRYUTistの新たな魅力を受け入れるという意味でも、筆者の解説で興味を持った音楽ファンは是非入手して聴いて欲しい。


RYUTist結成11周年秋冬ツアー【(エン)】

@新宿ReNY 
■日時:11月27日 開場13:00 開演14:00 終演予定15:30
■会場:新宿ReNY
(東京都新宿区西新宿6丁目5−1 アイランドホール 2F)

@梅田Shangri-La
■日時:12月3日 開場16:00 開演17:00 終演予定18:30
■会場:梅田Shangri-La(大阪府大阪市北区大淀南1丁目1−14)

@仙台MACANA
■日時:12月11日 開場13:00 開演14:00 終演予定15:30
■会場:仙台MACANA
(仙台市青葉区一番町2丁目5-1 大一野村ビルB1F)

@NIIGATA LOTS
■日時:12月17日 開場15:00 開演16:00 終演予定17:30
■会場:NIIGATA LOTS(新潟県新潟市中央区幸西4-3-5)

 (テキスト:ウチタカヒデ

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