2019年にphilia recordsより “KNIT RED RUM”名義のソロ・プロジェクトでデビューした彼は、これまでに配信シングル5曲をリリースし、今年5月にはアーティスト名義をKARIMA(以降カリマ)に改名した。8月には本作のラストを飾る「ノスタルジック・ミュージック」を発表したばかりで、様々なアレンジャーを迎えて楽曲制作し、都内を中心にライヴ活動を精力的におこなっている。
また新たな別プロジェクトとして、日本のエレクトロ・ダンス・ミュージック界では高名なアーティスト、PAX JAPONICA GROOVE(パックス・ジャポニカ・グルーヴ)をプロデューサーとして迎え、Office Premotion(オフィス・プレモーション)よりデジタル・シングル「Slow It Down」を5月にリリースするなど、その活動は多岐に渡っている。
本作ではアレンジャー兼トラック・メーカーとして2名のクリエイターが参加している。男女ユニットberet(ベレイ)解散後にプロデューサーとしてsaigenjiからキマグレンやMay J等幅広く手掛けるGIRA MUNDO(ジーラ ムンドゥ)、昨年『BOOKMARC SEASON』(FRCD-070)を弊サイトで紹介し好評のThe Bookmarcsのメンバーで、作編曲家兼ギタリストの洞澤徹が参加し、各々カラーが異なる巧みなサウンドを展開してカリマのソングライティングをブラッシュアップさせているのだ。
プロデュースはカリマ本人と、philia recordsを主宰しthe Sweet OnionsやThe Bookmarcsのヴォーカリストとして活動している近藤健太郎が共同で担当している。
またマスタリング・エンジニアは、ソニー・ミュージックスタジオでレコーディング・エンジニアとしてスタートし、マスタリング転籍後も数多くのメジャー・アーティストの作品に携わってきた、阿部充泰氏が担当しており、高品位のサウンドに磨き上げているのも注目である。
本作のサウンドを的確に表現したジャケットにも触れておこう。ライトが当てられたブラインドをバックに、ギターを抱えてソファーに横たわるKARIMAをとらえたクールなショットは、多くのメジャー・ワークで知られる名カメラマンの河合克成氏、アートディレクションとデザインは今年3月に青野りえの『Rain or Shine』をリリースした、FLY HIGH RECORDSを主宰する土橋一夫氏がそれぞれ担当している。
neon sign (Lyric Video) / KARIMA
では本作の収録曲を解説していこう。冒頭の「neon sign」は、ドラム・トラックやデジタル・シンセサイザーの音色、それに絡む坦々としたギター・カッティングからなる独特の空間に80年代AORの薫りが漂う。アレンジはGIRA MUNDOで、カリマの表現力あるヴォーカルをバックトラックと調和させていて、ミステリアスな歌詞の世界を演出している。
また共同プロデューサーの近藤健太郎がコーラスと同アレンジで参加しているのでチェックして欲しい。トータル2分45秒と本作中最も尺が短いが、まるで都会の闇を描いた刑事ドラマのテーマ曲のようでもあり聴き飽きないサウンドだ。
続く「Keep on cruising」は、KNIT RED RUM名義で2020年7月に配信シングルとしてリリースされていて、洞澤のアレンジにより全体的なサウンドもThe Bookmarcs(以降ブクマ)に近く、ヴァースは「Let Me Love You」(『BOOKMARC MUSIC』収録/2018年)に通じるシカゴ・ソウルをルーツとするグルーヴがたまらない。イントロなど各所で洞澤のデイヴィッド・T・ウォーカーばりのギター・プレイも聴きどころだ。
「Twilight Rain」はKNIT RED RUM名義で2019年5月にthe Sweet Onionsの高口大輔がプロデュース、アレンジしたヴァージョンとは異なり、GIRA MUNDOがリアレンジしてバックトラックを差し替えているが、オリジナルの雰囲気は残っており、カリマのヴォーカルが映える叙情溢れるサウンドに仕上がっている。
「Don't go away」は洞澤が手掛け、イントロの雰囲気はブクマの「眩しくて」(『BOOKMARC MUSIC』収録)に通じるシンセサイザーのリフが印象的なメロウ・ナンバーで、シンベやフルート系オブリの感触も同曲に非常に近い。ウォームなカリマの声質との相性も非常に良いのでブクマ・ファンにもお勧めである。
「Nostalgic hour」Trailer / KARIMA
GIRA MUNDOが手掛けた「アウトライン」は、パターン・ミュージックのダンスナンバーとして秀逸で、山下達郎氏の最新アルバム『SOFTLY』(2022年6月)収録の「LOVE'S ON FIRE」にも通じる。蛇足になるが達郎氏はこの曲について「最近のグローバル・トップ50のチャートを少し意識した」と語っていたが、筆者が初見で聴いて「Cameoの「Back And Forth」(『Word Up!』収録/1986年)みたいだ!」と感じた。つまり元々達郎氏が敬愛するバンドのサウンドが36年経って、隔世遺伝でフィードバックされているのが面白かった。ブラジルのAORマスターと称されるEd Mottaも2013年の『AOR』収録の「Smile」のヴァースでこのサウンドをオマージュしていて、もう”グローバル隔世遺伝状態”なのだ。そういう意味でもカリマのこの曲も同じ地平で存在していると考えられる。
9月初頭に本作のマスタリング音源を入手し聴いた際、ファースト・インプレッションで筆者が最もリピートしたのは洞澤が手掛けた「Blue velvet」である。複数のギターの展開やエレキ・シタールのアクセント、キーボード類のアッパー・ストラクチャーの積み方など、ベース&ドラム・セクションが打ち込みでありながら、そのヒューマンなバックトラックに耳を奪われてしまった。恋の喪失感を滲ませる歌詞を表現するカリマのヴォーカルも含め完璧ではないだろうか。
洞澤がアレンジした曲は「Quiet moment」、「holiday」と続き、各曲共に彼のセンスが効果的に出ている。前者はエイトビートのコンボ・スタイルのストレートなアレンジながら、フルートのリフやストリングス・シンセ、レズリーを通したギターなど淡い色彩の風景が目に浮かぶ。
後者はボサノヴァ・リズムのシンプルな楽器編成で、クラシック・ギターを巧みにプレイする洞澤が、間奏ではアナログ・シンセでユニークなソロを取っているという引き出し量の多さに脱帽してしまう。こうしたスタイルの異なるサウンドであっても統一感があるのは、存在感があるカリマの歌唱力と表現力の賜物だろう。
ラストの「ノスタルジック・ミュージック」はタイトルからイメージ出来る通り、カントリー~アコースティック・スイング系のオールドタイミーなアレンジで本作では異色かも知れない。GIRA MUNDOがアレンジしたこの曲はシンプルな楽器編成だが、カリマのヴォーカル力により他曲のサウンドに埋もれていないのは感心する。
ボーナス・トラックの「Gotta Feelin'」は、カリマの旧友であるPAX JAPONICA GROOVEこと黒坂修平のソングライティング、アレンジでプロデュースされた曲だ。2007年のデビュー以来クラブ・シーンに和テイストを持ち込んで活躍している彼らしい、侘び・寂びを感じさせるトラックであり、オートチューンなどエフェクトされたカリマのヴォーカルとのコントラストが実に美しい。
ここからはこの記念すべきファースト・アルバムの曲作りやレコーディングについて、カリマ本人におこなったテキスト・インタビューと、イメージ作りで聴いていたプレイリストをサブスクで紹介するので聴きながら読んで欲しい。
~「今現在興味があるジャンル、サウンド」を
自分なりの解釈で作ってみる~
●先ずはファースト・アルバムのリリースおめでとうございます。ここに至るまでの音楽活動には紆余曲折あったと思いますが、philia recordsに所属するようになった経緯と、”KNIT RED RUM”というソロ・プロジェクトから、お名前の名字をアーティスト名にした理由を聞かせて下さい。
◎KARIMA:ありがとうございます。philia recordsに所属するようになった経緯は、the Sweet Onionsの高口大輔さんに以前キーボーディストとしてライヴサポート等でお世話になり、高口さんを通してphilia recordsと深く関わるようになりました。
一度音楽から離れた時期を経て、新たに作った音源を高口さん、そして近藤さんに聴いてもらう機会があり、philia recordsからリリースさせていただくことになりました。元々音楽的にも人となりも大好きな方々だったので、安心してスタートすることが出来ました。
アーティスト名を改名した理由についてですが、KNIT RED RUMでやっていた時から実は「もっとシンプルで分かりやすい名前にしたい」という意識はあって、アルバムをリリースするというこのタイミングで変更することにしました。
本名であるカリマという珍しい名前と響き、字面も好きですし、三文字表記でロゴに出来るのも個人的に気に入っています。
●philia recordsとの繋がりの経緯は理解しました。高口君、そして近藤君と、お二人との出会いが大きいですね。どの業界でも自分の才能を向上してくれる人との繋がりは大事ですから。改名された件も今後の活動を考えれば、シンプルに分かり易いネーミングにした方が音楽ファンにも覚えられますから良策だと思います。
ところで「一度音楽から離れた時期があった」というのが凄く気になりましたが、ソングライティング・センスがあってヴォーカリストとしても魅力的な声質をお持ちなので、ブランクがあったことに驚きです。音楽活動を再開する切っ掛けというか出来事はなんだったんですか?
◎KARIMA:お褒めの言葉ありがとうございます。ブランクは日々物凄く感じています(汗)。それはしょうがないことですね。伸び代がたくさんある、と前向きに捉えています(笑)。
音楽活動を再開するきっかけは、色々な要因がありましたが主に二つ挙げます。一つは、これは賛否両論ありますがサブスクの存在ですね。アーティストとしてのブランクはありましたが音楽は好きでずっと聴いていました。サブスクの存在によりこれまで自分が聴いてこなかった良質な音楽に出会ったこと。もう一度やらずにはいられない衝動に駆られました。いい音楽を聴くと、自分でも作ってみたくなるんですよね。
もう一つは、過去のライヴ音源を試しに(本当に何の狙いもなく)個人的に配信してみました。たくさんの人に自分の音楽を届けやすい時代になっているのだなと思い、新たに曲を書き始めたのがきっかけです。その時に書いた曲が実は今回のアルバムの3曲目に入っている「Twilight Rain」です。
●サブスクの存在が活動再開の切っ掛けの一つだったというのは非常に興味深いです。
80年代後半に音楽媒体がアナログからCDへの転換が促進された時期、発掘されリイシューされた名盤は数多くありました。宝の山のアーカイヴが掘り起こされたことでそれまでより楽に知られざる名盤に出会える様になった訳です。そこから約35年経った現在のサブスクリプションの配信システムでは、当時からは考えられない程スピーディー且つ安価にそれが可能になったと。技術の恩恵を実感しているのは同感です。
そしてカリマ君は作品発表の場として活用出来ることを悟って、自らも配信する側ともなり、音楽活動を再開する切っ掛けにしたという。合理的なシステムでご自分の理想を実現したというのは、今後のミュージシャンのスタンスを変えるパラダイムシフトになるかも知れないです。もうなっているんでしょうけどね。
◎KARIMA:そうですね。もちろんサブスクにより収益が激減したメジャー・アーティストもいて、収益バランスを整えていかないといけない側面もあるのかもしれませんが、間違いなくこれまで世に出す術のなかったアーティストがどんどん出てくる。
また、これまでの媒体だと収益が見込めなかったインスト音楽を制作しているアーティストにとっては良い形態なのではないかな、と個人的に思います。
●本作収録曲のソングライティングの着想と、各アレンジャーにイメージするサウンドを伝える際のアイディアを可能な限り教えて下さい。
◎KARIMA:今作に限らず、僕のソングライティングの手法の一つとして、「今現在興味があるジャンル、サウンド」を自分なりの解釈で作ってみる、という方法があります。そんな作り方なので、その時々で違ったジャンルの音楽を聴いたり、制作したりします。
例えば2曲目の「Keep on cruising」は良質なCity popを好んで聴いていたし、6曲目の「Blue velvet」はHip hop、R&Bのサウンドを取り入れたいと思って作りました。
9曲目の「ノスタルジック・ミュージック」はThe Little Willies の「Roll On」やAlison Kraussの「Gentle On My Mind」のようなブラシを使ったスネアドラム奏法という明確なイメージがありました。でもメロディ、歌詞、声は自分から出てきたモノなので、ちゃんとオリジナルになるというか、結局自分の癖が出る。今作もそのような着想で楽しんで作りました。
アルバムのリード曲である1曲目の「neon sign」は、実は今作の中では最後に作った曲でした。アルバムの1曲目に持ってくる曲がどうしてもピンとこなくて。着想はデビッド・リンチのドラマシリーズ、『ツイン・ピークスThe Return』のエンディングで出てくるパブのネオンライトがずっと頭から離れなくて、そこからですね。
各アレンジャーさんには、イメージするサウンドとなるモデル楽曲を1,2曲送って伝えます。
●曲毎にそれぞれの着想が実に興味深いです。個人的には「Blue velvet」のようなコード進行やR&Bのグルーヴを持つサウンドは、カリマ君の声質や発声スタイルに合っていると思いました。
またリード曲「neon sign」が『ツイン・ピークスThe Return』からのイメージとは!余談ですが、私はデビッド・リンチ監督作品のファンだったこともあり、オリジナルの『ツイン・ピークス』が某BS局開局記念でスタートした時に契約した程当時好きだったんですよ。
以前のアーティスト名であるKNIT RED RUMという名称は、スタンリー・キューブリック監督作『The Shining』(1980年)の重要なキーワードからでしょう? キューブリックやリンチという一癖も二癖もあるカルト映画の巨匠達の作品から曲作りのインスピレーションを得るというのは、カリマ君の個性になっているかも知れませんね。
そういったカルト映画は以前から好きだったんですか?
◎KARIMA:ありがとうございます。自分の音楽の柱にあるのはポップスですが、右に体を向ければエレクトリック、左に体を向ければR&B、後ろを向けばアコースティックと色んなジャンルが好きで、それらを自分なりに見様見真似で作っています。「Blue velvet」を気に入っていただけてとても嬉しいです。どちらかと言うとアルバムの中では地味な曲ではあったのですが、もちろん個人的には気に入っている曲なのでアルバムに入れて良かったです。
ウチさんもデビット・リンチがお好きなのですね。これは話が尽きなさそうなので、後日お話しさせていただける機会があれば語り合いたいですね(笑)。もうこの曲はタイトル通りリンチの映画『ブルーベルベット』(1986年)から着想を得ました。この曲は20代前半の多感な時期を歌にしたかったのですが、映画でカイル・マクラクランがクローゼットから女性を覗いていますよね。その場面からインスピレーションを得ました。多感な時期だからこそ心は表には出られないのだけど、クローゼットの中だったら誰にもバレないで外の世界を楽しむことが出来る。そんな青年を主人公にした歌です。
はい、以前のアーティスト名は映画『The Shining』がキーワードになっています。リスペクトも込めてアーティスト名にしていましたが、ちょっと怖すぎますよね(笑)。
ホラー映画は昔から好きです。きっかけは幼少期に見たジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』(1979年)です。何故か「怖い」という感情より「ゾクゾク、ワクワク」する感覚だったんですよね。リアルな特殊メイクとかを見るのが好きでした。これは大人になってから気づいたことですが、ゾンビをアイコンにして社会問題を描いている、という作り方が面白いですね。結局人間が一番怖い、というオチ・・・すいません、話が逸れていますね(笑)。
~各アレンジャーさんから音源が届いてから、
ほとんどの曲が歌詞を変えています~
●「Blue velvet」もタイトルからして着想はやはりリンチ絡みだったんですね。私個人はキューブリックやリンチはオタクという程ではないですが、20代の頃かなり好きでしたが、話が尽きないですよね(笑)。
本題に戻しますが、本作を共に作ってきたプロデューサーとしての近藤君の仕事振りや、アレンジャーとしてGIRA MUNDO氏と洞澤君に依頼した理由にも興味があります。各者の個性の違いはどうでしたか?
◎KARIMA:近藤さんとの共同プロデュースに関しては、アルバム制作がスタートする段階で自分からオファーをしました。理由としては客観的な視点と意見が必要だと思った点。それには関係性も不可欠だと思いましたので、十分信頼関係がある近藤さんにお願いすることにしました。
実際近藤さんにはほぼ全ての楽曲のボーカル・レコーディングに立ち会っていただき、ボーカル・ディレクションはじめコーラスアレンジ等へも積極的に意見をいただきました。
それと、今回の10曲以外にもたくさん曲は作りましたが、アルバムに入れる選曲も近藤さんに相談しながら決めました。
次に今回アレンジャーとしてご協力いただいたお二方についてです。
お二方への依頼のきっかけとして共通しているのは、ある楽曲が出来上がったときに、「このようなサウンド・プロデューサーにお願いしたい」という明確なサウンド・イメージがあったことと、また縁がありご紹介をいただけたことです。
まず洞澤さんについてですが、The Bookmarcsを通してサウンド・メイク等は知っていて、依頼するきっかけとなったのはアルバムの2曲目に入っているシングル曲「Keep on cruising」を作った時でした。ある程度のサウンド・イメージはあったのですが、お願い出来るアレンジャーさんが定まっていませんでした。そんな時The Bookmarcsのアルバムを聴く機会があり、これは洞澤さんにお願い出来たらきっといい作品になるのでは、と確信しました。早速近藤さんを通してご紹介いただき制作がスタートしました。
「Keep on cruising」は、サウンド・イメージを洞澤さんへ伝えると(確か飲みの席でモデルとなる楽曲を聴いていただき)20秒くらいで「分かった!」と即イメージされていた記憶があります(笑)。
音楽的にもそれ以外の部分でも意気投合して(笑)、なんだかんだ気が付けば今作の5曲を洞澤さんがアレンジして下さっています。今作を聴いていただければ分かるように、本当に様々なジャンルを高いクオリティでアレンジ、楽器演奏して下さっているなと思います。洞澤さんがいなければこのアルバムは間違いなく完成されていないですね。
GIRA MUNDOさんに関してはアルバムの5曲目に入っている「アウトライン」を作った時にやはりイメージするサウンドがあり、エレクトロかつロックで、危うさの漂う(実際に危うさの漂う歌詞の内容)サウンドを表現したかったのです。そこで今作ではボーナス・トラックとしてプロデュースしてもらっている旧友でもあるPAX JAPONICA GROOVEに相談をしてGIRA MUNDOさんを紹介してもらえることになりました。
GIRA MUNDOさんは、自分が作ったデモ音源に対してコードも尺も変えて返してきてくれるのですが(その曲が最も活きるチョイスになっている)、それは驚いたしとても勉強になりました。
自分の頭には描けないサウンドで返ってくるので、いつもワクワクして音源を待っていました。
●三者三様の個性で本作に貢献して頂いたんですね。そんなレコーディング中の特筆すべきエピソードを聞かせ下さい。
◎KARIMA:各アレンジャーさんからアレンジされた音源が届いてから、ほとんどの曲が歌詞を変えています。
それは、ブラッシュアップされて戻って来るので場面が変わって見えるというか、例えば昼のイメージで書いた曲が夜のイメージになっていたり、もっとアーバンな歌詞に変えたり。それがまた新鮮で楽しかったですね。
●各アレンジャーとのキャッチボールが垣間見られますが、ほぼ完璧なバックトラックを聴かされるという感じなんですか?
ギターのリフ・パターンからシンセ・パッドの音色に至るまでお任せという感じですか?
◎KARIMA:はい、ほぼお任せです。すごく明確なキャッチボールが出来ていました。一回目に送られてくる大まかなバックトラックでほぼ完成されています。自分が欲しかったサウンド、ビート、リズム+意外性のある音が来ます。意外性のある音、というのが主にシンセ・パッドだったりしますが、一聴してワクワクさせられましたね。
■New Light / ジョン・メイヤー(『Sob Rock』/ 2021年)
◎ジョン・メイヤーは大好きでたくさん聴いていますが、特にこのNew Lightはサウンド、コード感どこをとってもカッコよくて好きです。
■DIVE / 一十三十一(『CITY DIVE』/ 2012年)
◎City popという形容の上を行く表現があったらこの曲がそれですね。
ある時期は一十三十一さんにどハマりした時期がありました。もちろん今も大好きで聴いています。
■サーカスナイト / 七尾旅人(『リトルメロディ』/ 2012年)
◎たった4コードで6分間トリップさせてしまう曲。”すごい”の一言ですね。
何度も聴きました。今でもずっと聴いています。
■God Gave You Christmas / Samuel Ljungblahd, Ole Borud
(『Someday at Christmas』/ 2012年)
◎元々AORは好きですが、アルバム4曲目の「Don’t go away」のアレンジ・イメージを探す際に現代AORをたくさん聴きました。AORというと、昔の楽曲が定番になりますが、この現代AORがすごく良くて印象的だったのを覚えています。
■ムーンライト / 大比良瑞希(feat. 七尾旅人)
(『IN ANYWAY』/ 2020年)
◎「アウトライン」(M5)のサウンド・イメージを探していた時に見つけた一曲。
曲もサウンドも良いですが、大比良さんの気怠さのあるヴォーカルがまた素敵です。
■Like A Star / コリーヌ・ベイリー・レイ
(『Corinne Bailey Rae』/ 2006年)
◎今作の中で、真ん中くらいにR&B要素を取り入れたいと思ったのはコリーヌのアルバムを聴いた影響かと思います。このCorinne Bailey Raeというアルバムは全曲良くて、何度聴いてもあきない素晴らしいアルバムです。
■スウィートソウル / KIRINJI(『スウィートソウルep』/ 2003年)
◎KIRINJIは好きな曲がたくさんありますが、スウィートソウルのような甘く切ない曲がアルバムの中に1曲あったら良いな、という意識がずっとありました。ジャケットの「コンビニ」+「夜空」。これだけでもう想像が膨らむというか、ロマンチックですよね。
■bitterlove / Ardhito Pramono
(『a letter to my 17 year old』/ 2019年)
◎これは8曲目「holiday」のアレンジ・イメージ曲。実は「holiday」は当初、アコースティック・サウンドではあるけどボサノヴァの要素は全くなく、どういったリズム、サウンドが良いのか迷走していました。当初は竹内まりやさんの「ウエイトレス」のようなポップなアレンジ・イメージでしたが、どうもはまらなくて。そんな時にYouTubeかサブスクで、初めてArdhito Pramonoのbitterloveを聴いて、これだ!と思い「holiday」のアレンジ・イメージに採用しました。
■Gentle On My Mind / Alison Krauss(『Windy City』/ 2017年)
◎これは9曲目「ノスタルジック・ミュージック」のアレンジ・イメージ曲。「ノスタルジック・ミュージック」を作った時点で一つだけ明確なイメージがあって、スネアドラム奏法を使ったアコースティックなサウンドにするということでした。アルバムの最後に入る曲になるだろうな、というイメージも初めからありました。紆余曲折あり(アルバムの流れ)、最後はあたたかく前向きに締め括ることの出来る曲だと思ったからです。Gentle On My Mindはたくさんのアーティストがカヴァーをしていますが、Alison Kraussのヴァージョンが最も好きです。
■My Mind’s A Ship(That’s Going Down) / Katie Pruitt
(『Expectations』/ 2020年)
◎最後の一曲はアルバムのアレンジ・イメージなどとは関係なく、この制作期間中に助けられた一曲としてKatie Pruittを選びました。行き詰ってしまった時などにこのアルバムをたくさん聴いた記憶があります。彼女の良く伸びる歌声がとても素敵です。
●では最後にこのファースト・アルバム『Nostalgic hour』のアピールをお願いします。
◎KARIMA:”時”がテーマになっているアルバムです。過去、現在、やがて懐かしむ未来を歌っています。
アルバムを聴いて、それぞれが持つノスタルジックな時間を楽しんで頂けると嬉しいです。
素晴らしいアレンジャー、エンジニアにより何度聴いても新しい発見のあるサウンドになっていると思います。どうぞよろしくお願い致します。
場所:ディスクユニオンROCK in TOKYO
日付:2022年11月6日(日)
時間:16:00 start
内容:トーク&ミニライブ+サイン会
■参加方法:トーク&ミニライブは観覧フリーとなります。
(インタビュー設問作成、編集、テキスト:ウチタカヒデ)