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2022年9月17日土曜日

『The Beach Boys』Byron Preiss著 (1979年)


今夏(2022)BrianのツアーはChicagoとのジョイント形式で行われた。


 思えば約半世紀前はThe Beach Boysのキャリア上中興の期であった。旧作のコンピレーション2作『Endless Summer』、『Spirit Of America』は大ヒットし、コンテンポラリーな進化を評価されながらも商業的な成功から遠ざかっていた彼らに皮肉にも大きな収益をもたらした。
 1975年には現在「BEACHAGO」と語り伝えられているChicagoとのジョイントライブは好評を続け、全米70万人動員かつ750万ドルの興行収入という結果につながった。


 今夏(2022)奇しくも実現した「ややBEACHAGO」ツアーだが、同道しているメンバーのうちBrianサイドではAlとBlondie、しかしBEACHAGO時代Brianは自宅に引きこもっていたし、Blondieはツアーメンバーから放逐されJames William Guercioにとって代わり、当時と同じメンバーはAlのみというのが現状だ。
 James William Guercioはなかなかの策士である、いわゆるBEACHAGOの成功とともに着々とThe Beach Boysのマネジメントを自己のCaribouへと移管し、自身と友好的であったCBSとのコネクションを利用しThe Beach BoysそのものをWarnerからCBSへの移籍へとつなげる、その間The Beach Boysはスタジアムクラスの興行で満員御礼が続く全米でも押しも押されぬ人気ライブアクトとなり、CBSからも800万ドルもの契約金を勝ち取った。
   本書『The Beach Boys』は上記のキャリア上昇期に刊行された。本書の前後に刊行された『 The Beach Boys and the California Myth』(David Leaf著)と『Heroes and Villains: The True Story of the Beach Boys』(Steven Gaines著)は後年の多くの評伝類に引用され影響を与えているが、本書のみがthe authorized biography(公式バイオ)を冠している。
 映画『American Graffitti』の成功によって見直された多くのoldies actsに対して本書はThe Beach Boysはそれとは一線を画している、というスタンスを取っている。一過性のリヴァイヴァルではなくgoing concernには支障ない。何故なら本質的な価値は不変であり、市場で評価されないこともあるが、彼らの体現するCaliforniaの風土や夢は彼らを通じてこれからも多くの人々に支持されていくのだ。どんな投資にもテーマが必要である、テーマには必ず何かしらの夢がある。Californiaの夢とは何であろうか?Bing Crosbyの『White Christmas』では雪の降らない西海岸の風景を通して故郷の雪景色を想う様を描写している、これではCaliforniaには夢がない!Phil Spectorは同曲の間奏でオリジナル歌詞にない一節--So I can have my very own white Christmas–(雪がないなら自分だけのホワイト・クリスマスを迎えよう!)と、Darlene Loveに語らせることでCaliforniaを温暖な憧れの土地のイメージを印象付けることに成功した。
 The Beach BoysもカヴァーしたMamas and the Papasの『California Dreamin’』ではタイトル通りCaliforniaの夢だ、枯葉舞い散る東海岸と思しき寒気に包まれた地所で歌詞の主人公はCaliforniaの温暖な環境を夢見て終始「Califroniaに行ってればなあ」と述懐し続ける。60年代になると故郷のWhite Christmasが訪れようとも若者の頭の中はCaliforniaへの妄想でいっぱいになってしまったのだ。
 確かに60年代後半のCaliforniaは軍事からカルト宗教まで世界のトップに君臨したと言ってもいいだろう、1967年には地元エンタメ界出身のRonald ReaganがCalifornia州知事に就任し1969年にCalifornia生まれのRichard Nixonが大統領に就任する。米国の東西にCalifornia由縁の人物が君臨し、世界へ覇を唱える。The Beach BoysにはこのCalifornia神話に影響があるのだろうか?The Beach Boysの理解者たらんとしたReaganはご存知の通り知事の後大統領へと就任し、昵懇の仲であった大ブッシュは同じく大統領に就任する、続く小ブッシュも大統領へと就任するが以後大統領選挙では民主党にCaliforniaの票を現在に至るまで奪われ続けている。Mike閥のみが接近したDonald Trumpも選挙ではCaliforniaを落とすことができなかった、次回も無理だろう。
 上記のCalifronia神話が効いていた60年代以降は皮肉にもThe Beach Boysのキャリア下降期に一致する、いわゆる「夢」でいっぱいの時代(1962-1965年)とは民主党出身知事であるPat Brownの治世と一致する。Pat Brownは大規模なインフラ整備と教育改革を行った、その結果freewayの数は増え、若者は学園生活を謳歌しドライブに遠方のサーフィンスポットまで出かけ、街中を車で遊びまわることができた。
 「夢」の背景にはソ連邦と米国の宇宙開発競争が背景にある、当時米国は宇宙空間の有人飛行について完全に遅れをとっていた。その為科学技術振興を行う必要に迫られていた、その為軍都である加州は教育改革を行った。宇宙開発は精密機器無くして成立しない、加州Wilson家の家長であるMurryは英国より旋盤を多く輸入した、工作機械商の息子達はRonald Reaganの庇護を受ける。
 本書の著者Byron Preissは音楽ライターというよりは出版プロデューサーに近いスタンスの人物で、本書の構成には通常の評伝類と違うユニークさが光っている。
 バイオ本にありがちな編年体の平板な文章はあまりなく、当事者のインタビューや記事の引用で紙面は埋め尽くされ、所々挟まれるビジュアルが総合して数々の神秘を紐解いてだんだんとThe Beach Boysの実相に近づいていくような読了感がある。


 巻末のディスコグラフィはレア音源も加えて充実しており、編集には全米東西のコレクターも動員している、個人的には当方がコレクションを一部譲り受けたコレクターも掲載されており、非常に懐かしい。
 本書で特筆すべきは凡百の評伝類に先駆けて当時音源のリリースがなかった『Smile』を詳細に解説しているのだ。本書の執筆のためThe Beach Boysサイドでは『Smile』の全貌を音源でByronに示す必要性があった。そのためリファレンス用のカセットが作成されByronへ手渡された。さらにByronから他のスタッフへの音源流出が後に明らかになっており、これはこれでThe Beach Boys再発見の別の流れを作ることになる。

 Byronは本作以外でもっとも有名なのはThe Secret [treasure hunt](1982年)だ。


 表題の通り宝探しの謎解き本の体裁になっている。本作はイラストとそれに添えられた詩をヒントにして解読し、全米及びカナダの公園(全12箇所)に埋められている宝箱を得ることを目的とする。その宝箱には鍵が入っており、それと引き換えに宝石をByronからもらえるのだ。
 Byronは2005年に物故し、文字通り秘密を墓場まで持っていってしまった(宝物は遺族が管理しているようだ)。現在に至るまで発見に成功したのはわずか3箇所のみである。

Byronの宝発見を伝える記事(1983年)

我こそはと思われた方は挑戦あれ!
筆者はThe Beach Boysの宝を掘り続けるとしよう。

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