2022年6月11日土曜日

中塚武:『Your Voice/Make Her Mine』(URDC56)/『北の国から/Black Screen』(UCT043)


 “生音の魔術師”と称されるクリエイター兼シンガー・ソングライターの中塚武が、これまでアルバム収録曲として好評だった2タイトルを6月22日に7インチ・シングルとして2枚同時リリースする。 
 まず2006 年リリースの『Girls & Boys』(VICL-62078)収録でシンガー・ソングライターの土岐麻子をゲスト・ヴォーカルに迎えた「Your Voice」と、同アルバム収録でHipster Imageの「Make Her Mine」のボッサ・ジャズ・カヴァーをカップリング。 
 そして同じく『Girls & Boys』収録で、国民的ドラマ「北の国から」の主題歌のサンバ・カバーと、2014年のコンピレーション・アルバム『Swinger Song Write』(UVCA-3020)に収録されたCM曲「Black Screen」をカップリングしている。 
  各ジャケット・デザインはQYPTHONEのメンバーで中塚とは盟友の石垣健太郎が手掛け、2in1 仕様になっていて視覚的にも楽しい。
 なお前者は良質なラテン・ミュージックからクラブ・ミュージックのCDや7インチを多く発売しているDISK UNION系のURBAN DISCOSからのリリースで、後者は昨年2月に弊サイトでも紹介した中塚とvideobrotherとのコラボレーション・7インチ『TOKIO/走れ正直者』で知られるUnchantable Records(グルーヴあんちゃん主宰)からと、2レーベルを跨いでの同日リリースというのも大きな話題になるだろう。 


 中塚のプロフィールにも触れるが、彼は98年にQYPTHONEのリーダーとしてドイツのコンピレーション・シリーズ『SUSHI4004』でデビューし4枚のオリジナル・アルバムとベスト盤1枚を残し活動を休止した。
 その後中塚は2004年にファースト・アルバム『JOY』でソロに転じ、CM音楽、テレビドラマや映画のサウンド・トラック制作等のクリエイターとしての活動と並行して、シンガー・ソングライターとしてこれまでに7枚のオリジナル・ソロアルバムをリリースしている。
 彼の最近のワークスは、今年1月から3月まで放映したアニメ『その着せ替え人形は恋をする』(原作:福田晋/監督:篠原啓輔)のサウンド・トラックを手掛けたのを皮切りに、ポカリスエットのCM曲「ひとつだけ」(矢野顕子のカバー)のアレンジと演奏、3月30日にリリースされた若手女性シンガー鈴木瑛美子の1stアルバム『5 senses』で作編曲を手掛けた2曲を提供するなど、八面六臂の活躍をしているのだ。 



 ここからはこの各7インチ・シングル収録曲の解説をお送りする。  「Your Voice」は『Girls & Boys』を代表するオリジナル曲で、元Cymbalsのメンバーで現在はシンガー・ソングライターとして活動する土岐麻子がゲスト・ヴォーカルで参加している。70年代からジャズサックス奏者として活躍し、山下達郎氏のレコーディングやツアー・メンバーとしても知られる土岐英史氏の愛娘として、その才能を受け継いだ巧みな歌声とリズム感はとにかく抜群で、ソロ・パートと中塚とのデュエットでの歌唱でこの曲に生命力を与えている。 
 かのミシェル・ルグランを彷彿とさせるアレンジメントも必聴で、イントロからホーン・セクションとビートのシンコペーションが効いており、これ以上無い多幸感を得られる。中塚のソングライティングとアレンジ力(りょく)、土岐をアサインしたプロデューサーとしての審美眼にも敬服するばかりだ。

 
Your Voice (sings with 土岐 麻子)  

 「Make Her Mine」は英国モッズバンド、The Hipster Image(ヒップスター・イメージ)の1965年リリースのシングル「Can't Let Her Go」のB面曲で知る人ぞ知る存在だったが、99年にLEVI'Sの COLORS & Tight Fit JeansのテレビCMで使用されたことで注目されることになる。CMに出演したのはスリラー映画『ラストサマー』(97年)で知られる、テキサス出身の女優JENNIFER LOVE HEWITT(ジェニファー・ラヴ・ヒューイット)で、彼女の小柄で華奢ながらグラマラスな容姿のイメージも加味し、この曲は日本でリバイバル・ヒットした。
 ここでのカヴァー・ヴァージョンはオリジナルの単調な8ビートを換骨奪胎し、デューク・ピアソンの「Chili Peppers」(『The Right Touch』収録/67年)に通じるクールなボッサ・ジャズで料理して、コンガなどラテン・パーカッションが加わったポリリズムのグルーヴによりオリジナル以上のクオリティーで生まれ変わらせた。正にマエストロ中塚のマジックである。



 もう一枚の「北の国から」は最早説明不要であるが、81年にフジテレビで放映開始した同名ドラマに大御所シンガー・ソングライターのさだまさし氏が書き下ろしたテーマ曲で、正式なタイトルは「北の国から〜遥かなる大地より〜」である。このドラマの生みの親で著名脚本家の倉本聰氏のたっての希望により即興的に作曲された名残なのか、歌詞の無いハミングをアコースティック・ギターのアルペジオで演奏される。また間奏のトランペット・ソロは昨年4月に亡くなった名手の数原晋氏で更にドラマティックに展開させるものだった。
 この様な国民的ドラマのテーマとして、多くの視聴者の耳に焼き付いている曲をカヴァーするのは容易な覚悟ではなかった筈だが、中塚はオリジナルのシリアスなムードをダンス・ミュージックにアダプトするという大胆なアレンジを施す。4つ打ちキック(バスドラム)のバックビートにサンバのスルドのアクセントを持たせた”うねる”ようなリズムトラックに、大人数による無垢なコーラスをダビングして仕上げている。ここでも彼の幅広い音楽知識と、発想の転換による素晴らしいセンスを感じさせずにはいられない。 

   
【PV】中塚武「Black Screen」 

 「Black Screen」は2011年5月に発売されたSHARPのスマートフォン "AQUOS PHONE SH-12C"のCM曲として発表したオリジナル曲で、その後iTunes Storeとレコチョクの配信限定でリリースされた。
 HDレコーディングのエフェクトを駆使した高度なカットアップとマッシュアップ手法は、モザイク画のような音像とサウンドであり、ただただ驚愕するばかりだ。ハイテック・ミュージックへの飽くなき探究心を持ち続けるクリエイター中塚武の真骨頂と言えよう。 

 以上紹介した4曲いずれもオリジナル・ヴァージョンと大きな違いは無いが、尺が微妙に異なるので7インチ用にリミックスされていると思われる。
 最後に今回2枚同時リリースされる7インチ・シングルは数量限定なので、解説を読んで興味を持った音楽ファンはamazonリンクか下記オンラインショップで予約して確実に入手することを強くお勧めする。



 (テキスト:ウチタカヒデ


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