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2022年6月23日木曜日

FMおおつ 音楽の館/Music Note(2022年5月号)~西城秀樹特集Set List(Part-2) & 次回放送予告

 FMおおつ 音楽の館/Music Note(20225月号)~西城秀樹特集・後半解説

前回の前半に続き、今回も音楽の館/Music Note5月号で放送した「西城秀樹特集」の後半解説をお届けします。<YOUNGMAN(Y.M.C.A.)>で日本を代表するシンガーとして頂点を極めた1980年代以降になります。

BGKing Crimson の金字塔『In the Court of the Crimson King (subtitled An Observation by King Crimson)に収録のEpitaph(エピタフ(墓碑銘))。この曲は19798月の豪雨の中で開催された後楽園球場ライヴ・アルバムBIG GAME '79 HIDEKI』に収録されています。雷鳴が轟く中歌うヒデキの姿は、ファンの間で「ヒデキに神が降りた」とも言われているほどです。


 1980
年代になるとシンガー・ソングライターの曲も積極的に取り上げています。まず198012月の37作<眠れぬ夜>。この曲はオフコース1975年の出世作で、トップ10ヒット(10位 27.1万枚)となり、この曲を再注目させています。


そして
38作は81年初頭<ツッパリHigh School Rock'n Roll(登校編)>でブレイクした横浜銀蝿から提供のセクシーガール>.]これもトップ1010/ 14.2万枚)に。1982年には同郷でアマチュア時代からの知人(吉田)拓郎さんの書き下ろし<聖・少女42作で発表。当然ながらこれもトップ109/17.4万枚)入りと、あらゆる分野のソングライターの曲で可能性を広げています。

 BGStevie Wonderのカヴァーで32作シングル<愛の園(AI NO SONO)7/23.8万枚)です。この曲はStevie1979年リリースの『シークレット・ライフ(Journey through the Secret Life of Plants)』の収録曲で、アレンジに坂本龍一“教授”、シンセ・プログラミングに松武 秀樹YMOコンビが担当。

 続いてはヒデキの1980年代を象徴するナンバー、1983年もんた(よしのり)さんから提供44作目<ギャランドゥ>(14/13.7枚)!この曲のバックには藤丸バンドから発展したShogunのメンバーです。この時期ヒデキさんは長髪をバッサリ切り落としショート・カットに。余談ですが、私はこの曲を生ライヴで3回体験しています。最初は当時勤務していた会社の催しの特別ゲストの場、その翌週に当時在住でのFM静岡(現:K-Mix)の開局記念イヴェントでのパフォーマンス。


 さらに3回目は2012年に発売
の著書「よみがえれ!昭和40年代」制作にご協力いただいた江木俊夫さんの御縁で20121210日「昭和同窓会コンサート」中野サンプラザ公演。この日のライヴは
体調も良く、通常の「バラード2+ヤングマン」に急遽この曲を披露し観客から大喝采を浴びます。ただそれは彼には大変な負荷で、フィナーレの<ヤングマン>を途中で挫折、しかし周囲に支えられ歌い終えています。そのファン・サーヴィスに徹する姿に感銘を受けました。

2曲目は198345ナイト・ゲーム19/8.5万枚)。この曲はRichie Blackmore率いるRainbowのヴォーカルGraham Bonnetが1981年に全英6位の<孤独のナイトゲームズ>カヴァーで、その後ヒデキ・ライヴ定番曲に。3曲目は198447作<Do You Know>(30/4.3万枚)、元々はポップス歌手フランツ・フリーデルの曲。この曲で<ジャガー><炎>に続き第13回東京音楽祭ゴールデン・カナリー賞を受賞、個人的に私のフェイヴァリッツ・ナンバーのひとつです。そして、Wahm!の大ヒット<Careless Whisper>をカヴァーした198449抱きしめてジルバ -Careless Whisper-18/15.4万枚)。ラストは1988年の62作<33>(49/1.2万枚)。この曲はJulio Iglesiasのカヴァーで、彼自身33歳に必ず歌ってみたいと思っていた念願の曲でした。

  さてBG はヒデキ1985年第50作<一万光年の愛>(12/10万枚)、この曲は「つくば科学万博’85(正式名称:国際科学技術博覧会)」開会式テーマに起用されています。


 この1985年には
デビュー以来のシングル全50曲を歌唱する日本武道館を敢行。これを機にシングル中心路線から脱し、アルバム・アーティスト路線を宣告。その象徴が、杏里さんの<悲しみがとまらない>等のプロデュースで注目株角松敏生さんを起用したアルバム『TWILIGHT MADE …HIDEKI』。角松さん自身もこの年はファンク・テイストの傑作『GOLD DIGGERwith true love〜』をリリース直後の絶頂期で大きな話題に。


 この時期にはコーセー化粧品のCMソングで
51作目<ミスティー・ブルー>(27/3.8枚)をリリース直後に、アルバム収録曲BEAT STREET51/1万枚)をシングル・カット52作)。とはいえこのチャレンジは成功とはいきませんでした。

ただその翌1986年に、ヒデキの<抱きしめてジルバ -Careless Whisper->を聴いたアメリカのビッグ・スターBarry Manillowが「オリジナル以上の出来」と称賛し、彼とのデュエット<腕の中へ -In Search of Love->(53/10/11.2万枚)が実現。この時期二度目の来日公演中のBarry夜のヒットスタジオ』でのデュエットが生放送され1982年の<聖・少女>以来久々のトップ10ヒットに。BGは彼が1988年に同年齢をタイトルにした『33才』から夏の誘惑94/0.2万枚)を60作にシングル・カット。そこにはゴージャスな雰囲気がお似合いになった彼がいました。 

 また新しいファンに向け過去のヒット曲がよみがえる仕様のナンバーも登場。それが<傷だらけのローラ>の一部をフューチャーした198654追憶の瞳 LOLA26/2.3万枚)、それに<ブーメランストリート>のアンサー・ソング199268ブーメラン ストレート>になります。BG聴いていただいているのは、高橋真梨子さんやLazy等への楽曲提供で知られる濱田金吾さんを起用した1987年の58作<心で聞いたバラード>。このムードもヒデキならではの特別なテイストが感じられます。


そんなヒデキさんは若手ロック・ミュージシャン達から「ロック・アーティストの憧れのスターNo.1」と崇拝され、1997年にはそんなヒデキ大好き若手ミュージシャンが『西城秀樹ROCKトリビュート~‘KIDS’WANNA ROCK!』を発売(参加ミュージシャンは、THE HIGH-LOWSGacktROLLY、サンプラザ中野、ダイヤモンド
ユカイなど



 ところが2003年に公演先の韓国で脳梗塞を発症し、リハビリで闘病生活に入り軽度の後遺症は残るも、2006年に<めぐり逢い/Same old story-男の生き様->で復帰、多くのファンを感激させています。

ただ20111220日、56歳で脳梗塞再発で2週間程度再入院、リハビリに励み右半身麻痺と微細な言語障害の後遺症が残るも、歩行が出来る状態にまで改善。

その後は往年のスターによる歌謡曲リヴァイバル・ツアー「昭和同窓会コンサート」に特別ゲストとして参加するなどしてステージをこなし、多くのファンと交流。

このツアーでは20121013日の八日市を皮切りに、20131213日大津、2016630日近江八幡、2017414日守山、415日には米原と滋賀県では5か所6回以上公演が開催、彼を目当てに全て「満員御礼」。

近江八幡ではレストランのパート(年配)女性が、「ヒデキのコンサートに行く!」と少女のような瞳で語っていたと聞きましたそんな彼の最後のステージは2018414日の栃木県の足利市民会館になります。

 当時彼の訃報は「NHKニュース」や「報道ステーション」をはじめとする一般の報道番組でもトップで取り上げられ、また号外が発行されるなど、一人の歌手が亡くなったというだけでなく、枠を超えたビッグ・ニュースとして日本中を奔走。ここ最近では昨年の志村けんさんと並び、大きな衝撃を与えています。

 ではラストは1987年にリリースされた57NEW YORK GIRL501万枚)。この曲の作者は1980代に一世を風靡したソウル・グループ/ShalamerのヴォーカリストHaward Hewett2曲目は1995年リリースのWinkカヴァーの72作で愛が止まらない Turn it into love830.7万枚)。アレンジは盟友・吉野藤丸さんによるAOR調のアダルト調に。そして、オーラスはアニメ「ちびまる子ちゃん」2代目エンディング・テーマ走れ正直者 ももこさんも大のヒデキ・ファンということで、アニメでは今も時々ヒデキが登場しています。なお一周忌2019年以降は516日の週には再登場が恒例となっていますが、昨年は初めて絶ち日当日に使用されています


 ということで今回は「デビュー50周年」を迎えた「西城秀樹さん」の特集をお届けしました。後半のセット・リストも下記にまとめましたのでご覧ください。

最後になりますが、今回放送前後には全国から山の「リクエスト」「感想」等、熱烈なメッセージを頂戴しました。そんなリスナー皆さんのご要望にお応えして、次回6月号も「ヒデキ特集」のpart-2をお届けします。今回寄せられたリクエストを紹介させていただきながら、前回を補足する流れで他の特集では聴くことの出来ない音源を中心にした内容でお届けします。では次回625日(再放送26日)の放送も楽しみに! 

2022.6.25(土) 16:00~ (再放送)2022.6.26(日) 8:00~ 
※FMおおつ 周波数79.1MHzでお楽しみください。 
※FMプラプラ(https://fmplapla.com/fmotsu/)なら全国でお楽しみいただけます。                            



<セット・リスト>

B.G.~ Epitaph(エピタフ(墓碑銘))/ King Crimson

20. 眠れぬ夜/西城秀樹

21. セクシーガール

22. 聖・少女

B.G.~愛の園(AI NO SONO)/ Stevie Wonder

23. ギャランドゥ

24. ナイト・ゲーム

25.Do You Know

26.抱きしめてジルバCareless Whisper-

27. 33

B.G.~ 一万光年の愛

28. ミスティー・ブルー

29. BEAT STREET

B.G.~ 夏の誘惑

30. 追憶の瞳 LOLA

31. ブーメラン ストレート

B.G.~心で聞いたバラード

32. NEW YORK GIRL

33. 愛が止まらない Turn it into love

34. 走れ正直者

35. Claps:Thank You/ Various Artist


鈴木英之

2022年6月18日土曜日

Good Vibrations-My life as a Beach Boy-Mike Love,James S.Hirch著(2016)

 


   黄金期から続くMikeとBrianの麗しきコラボレーションが破綻しているか否か?親Mikeの文脈では当然否である。筆者は、あくまで親Mikeである、この姿勢は単なる判官贔屓ではなく一貫してきた。但しMurryの興したWilson家のファミリービジネスの継承者としての親Mikeなのである。本書は、いわゆる嫌Mike派からの「誤解を正す」目的で刊行されたという。皮肉なことに本書の1ヶ月後にはBrianによる自伝「I am Brian Wilson」が刊行され、こちらは回想録の体裁で記された。

 親Brian派から見れば本書は「そこまで言うか?」というくらい当人の正当性主張のオンパレードではあるが、The Beach Boysの現在地とは一貫した企業体であり、思想であり、永続する運動体であることを我々に気づかせてくれる。さらに本書はミュージシャンの自伝には中々使われないlogistics,inflation,cost,board member,asset,agendaが時折用いられ、ワンマン社長一代記のような体裁でもある。巻末のLove家を中心とした写真の数々はMt.Vernonにあった往時のLove邸の様子が含まれており資料としては貴重だ。

 知的所有権の一切はBrother Recordsに帰属した。Brother Recordsの支配権は株主が持つ、当初はWilson家三兄弟とMikeから始まり、Alの追加とDennisの死後借金との相殺で持分消滅し、Carlの死後は子らが共同相続している。そのため4者がBrother Recordsを支配する構造となっており、Wilson家は数字の上では50パーセントを支配している。The Beach Boys名義の排他的興行権をMikeが手中に収めたプロセスも明かされる。株主4者の投票を行い、Alは反対しCarlの遺児達とBrianは賛成した、Mike自身は棄権したもののWilson家の支持の多数決によりThe Beach Boysの名跡は事実上Mikeのものとなった。

 同時期にAlのThe Beach Boys名称使用権はコンプライアンス違反でAlは使用が出来なくなったのだ。嫌Mike派から見れば見事な簒奪プロセスである、しかしながら株主の構成は変わらない。Mikeは主張する株主に忠実である、と。規定によりMikeの行ったツアー収益の何割かは必ず株主へ還元している、そのためツアーに同道していなくてもツアーがある限り必ずAlもBrianも成功の果実を受け取っているではないか、と主張する。

Smile時代のBrianの肖像画、描いたのはDavid Anderle

 Brianとは長年家族ぐるみの付き合いがあり友情は途切れたことはない(実際子にBrianと名付けている)、しかし楽曲制作やライブ現場では上手くいかないのだ、と言う。必ず我々の間に有象無象の輩が出入りし邪魔をしてしまうのだ!Smile以降のBrianの才能の閃に、自分を初めとするメンバーの誰も反対していないし当時から深く理解していたのだ、しかしながらいたずらにBrianの天才性だけを強調し我々が足を引っ張っていたかのごとく多くの記事や評伝類で広められて非常に迷惑している。特にその矛先はSmile前後に現場を牛耳っていたDavid Anderleへ向けられる、この人物のせいで現場に薬物類が持ち込まれた。そのせいでWilson兄弟はその後自壊しグループのキャリアを傷つけた。Davidへの追及はさらに続く、自分たちのデビュー以来の楽曲の数々を管理していたSea of Tunesの身売りにDavidは内通し挙句の果てには売却先のA&Mへ論功行賞として入社しているではないか!薬物やアルコールで自壊していくWilson兄弟への支援は手を抜かなかった、一時はMikeの縁者がボディーガードを務めた程だ。


高校時代のMike

 Love家は勤勉と規律を良くした、Wilson家出身の母は芸術の、強いて言えば音楽の庇護者の血統を持つ。生家の大邸宅では演奏会が行われ、職業作曲家としては不遇な叔父Murryの楽曲だけのコンサートまで開催された。宗教はルター派の謹厳実直なプロテスタントであり母系に北部ヨーロッパ系の出自を持ったMikeは明らかに米国のWASP神話を印象づけようとしており、The Beach Boysの代表者であり庇護者たらんと言いたげだ。米国社会の多様性についてはおおらかな点もアピールしている。出身校Dorsey高は当時としては珍しい人種混交のクラスとなっており、Mikeも様々な人種の生徒と接した。日本語からストリートの黒人スラングまで身につけ、作詞に大きな影響を与えている。黒人の友人も多く、R&Bの要素をいち早くThe Beach Boysの中に取り入れたのはMikeその人である。一家団欒しリビングルームで聞く形態からトランジスタラジオの発明で音楽はよりパーソナルとなる、それは家庭内の電話からスマホへの進化と同じだ、とMikeは言う。パーソナル化はラジオ番組をシングル盤中心の内容に変容させる。したがって楽曲もアピールの多いフックなどの仕掛けで、リスナーに関心を持ってもらわねばならない。Brianの美しいハーモニーだけではヒットしない、自分はフックやリフを工夫していくつものヒットに繋がった、と自慢げに解説する。

 共和党への傾倒についてはそもそもBush家への接近だった、先年実現しなかったソ連公演に変わり中国本土での公演を目的とした。残念ながら中国本土へのツアーはまたまた実現しなかった。大ブッシュが大統領就任後以降共和党への傾倒が始まった、Bruceと共に地域奉仕活動の支援など保守派の活動に手を染めていく。それでも本書中自分らは政治的には不偏であると言う。実際民主党の連中の前でも演奏したし、政治的というよりは環境問題についてずっとテーマにしてきた、と主張する。

 過去の楽曲におけるBrianとの訴訟については、わざわざ一章設けて「Universal Truth」などと大仰なタイトルだが、この訴訟は長年の懸念事項の整理であって、

Brianの名声を傷つける気は毛頭ない、と片付ける。その他Mikeといえば避けて通れないTranscendal Meditationの話は至る所で挿入される、一言でまとめれば「TMのおかげで頭スッキリ沈着冷静」なのだが、幾多の女性遍歴や自身の破産など奥面もなく語られる。


The Beach Boysの商業的成功と米国の政策金利及び
インフレ率のピークが何故か一致

不況に強いThe Beach Boys???

 Brianの魔法の消えた70年代中葉以降米国内は、インフレと高金利に加え米ドルは減価し続けていった。本来ならば強い外貨獲得の為海外ツアーを行うところだが、国内のツアーにこだわりついには独立記念日の首都Washingtonでの常連となったのはMikeの功績といっても過言ではない。数十万人単位の大量動員ライブには強力なロジスティックが必要になる、そのため膨大な資金調達にMikeが腐心した様を本書は伝える。スポンサーシップの増加はスポンサー向けコンプライアンスの強化を意味する、すなわちスポンサーに悪印象をもたらさない品行方正なイメージを求められることとなる。通俗化と引き換えに俊豪は去らねばならないのか?いやそれは逆だろう、通俗化が進めば進むほどBrianは神話化されてきたのだ。


2022年6月11日土曜日

中塚武:『Your Voice/Make Her Mine』(URDC56)/『北の国から/Black Screen』(UCT043)


 “生音の魔術師”と称されるクリエイター兼シンガー・ソングライターの中塚武が、これまでアルバム収録曲として好評だった2タイトルを6月22日に7インチ・シングルとして2枚同時リリースする。 
 まず2006 年リリースの『Girls & Boys』(VICL-62078)収録でシンガー・ソングライターの土岐麻子をゲスト・ヴォーカルに迎えた「Your Voice」と、同アルバム収録でHipster Imageの「Make Her Mine」のボッサ・ジャズ・カヴァーをカップリング。 
 そして同じく『Girls & Boys』収録で、国民的ドラマ「北の国から」の主題歌のサンバ・カバーと、2014年のコンピレーション・アルバム『Swinger Song Write』(UVCA-3020)に収録されたCM曲「Black Screen」をカップリングしている。 
  各ジャケット・デザインはQYPTHONEのメンバーで中塚とは盟友の石垣健太郎が手掛け、2in1 仕様になっていて視覚的にも楽しい。
 なお前者は良質なラテン・ミュージックからクラブ・ミュージックのCDや7インチを多く発売しているDISK UNION系のURBAN DISCOSからのリリースで、後者は昨年2月に弊サイトでも紹介した中塚とvideobrotherとのコラボレーション・7インチ『TOKIO/走れ正直者』で知られるUnchantable Records(グルーヴあんちゃん主宰)からと、2レーベルを跨いでの同日リリースというのも大きな話題になるだろう。 


 中塚のプロフィールにも触れるが、彼は98年にQYPTHONEのリーダーとしてドイツのコンピレーション・シリーズ『SUSHI4004』でデビューし4枚のオリジナル・アルバムとベスト盤1枚を残し活動を休止した。
 その後中塚は2004年にファースト・アルバム『JOY』でソロに転じ、CM音楽、テレビドラマや映画のサウンド・トラック制作等のクリエイターとしての活動と並行して、シンガー・ソングライターとしてこれまでに7枚のオリジナル・ソロアルバムをリリースしている。
 彼の最近のワークスは、今年1月から3月まで放映したアニメ『その着せ替え人形は恋をする』(原作:福田晋/監督:篠原啓輔)のサウンド・トラックを手掛けたのを皮切りに、ポカリスエットのCM曲「ひとつだけ」(矢野顕子のカバー)のアレンジと演奏、3月30日にリリースされた若手女性シンガー鈴木瑛美子の1stアルバム『5 senses』で作編曲を手掛けた2曲を提供するなど、八面六臂の活躍をしているのだ。 



 ここからはこの各7インチ・シングル収録曲の解説をお送りする。  「Your Voice」は『Girls & Boys』を代表するオリジナル曲で、元Cymbalsのメンバーで現在はシンガー・ソングライターとして活動する土岐麻子がゲスト・ヴォーカルで参加している。70年代からジャズサックス奏者として活躍し、山下達郎氏のレコーディングやツアー・メンバーとしても知られる土岐英史氏の愛娘として、その才能を受け継いだ巧みな歌声とリズム感はとにかく抜群で、ソロ・パートと中塚とのデュエットでの歌唱でこの曲に生命力を与えている。 
 かのミシェル・ルグランを彷彿とさせるアレンジメントも必聴で、イントロからホーン・セクションとビートのシンコペーションが効いており、これ以上無い多幸感を得られる。中塚のソングライティングとアレンジ力(りょく)、土岐をアサインしたプロデューサーとしての審美眼にも敬服するばかりだ。

 
Your Voice (sings with 土岐 麻子)  

 「Make Her Mine」は英国モッズバンド、The Hipster Image(ヒップスター・イメージ)の1965年リリースのシングル「Can't Let Her Go」のB面曲で知る人ぞ知る存在だったが、99年にLEVI'Sの COLORS & Tight Fit JeansのテレビCMで使用されたことで注目されることになる。CMに出演したのはスリラー映画『ラストサマー』(97年)で知られる、テキサス出身の女優JENNIFER LOVE HEWITT(ジェニファー・ラヴ・ヒューイット)で、彼女の小柄で華奢ながらグラマラスな容姿のイメージも加味し、この曲は日本でリバイバル・ヒットした。
 ここでのカヴァー・ヴァージョンはオリジナルの単調な8ビートを換骨奪胎し、デューク・ピアソンの「Chili Peppers」(『The Right Touch』収録/67年)に通じるクールなボッサ・ジャズで料理して、コンガなどラテン・パーカッションが加わったポリリズムのグルーヴによりオリジナル以上のクオリティーで生まれ変わらせた。正にマエストロ中塚のマジックである。



 もう一枚の「北の国から」は最早説明不要であるが、81年にフジテレビで放映開始した同名ドラマに大御所シンガー・ソングライターのさだまさし氏が書き下ろしたテーマ曲で、正式なタイトルは「北の国から〜遥かなる大地より〜」である。このドラマの生みの親で著名脚本家の倉本聰氏のたっての希望により即興的に作曲された名残なのか、歌詞の無いハミングをアコースティック・ギターのアルペジオで演奏される。また間奏のトランペット・ソロは昨年4月に亡くなった名手の数原晋氏で更にドラマティックに展開させるものだった。
 この様な国民的ドラマのテーマとして、多くの視聴者の耳に焼き付いている曲をカヴァーするのは容易な覚悟ではなかった筈だが、中塚はオリジナルのシリアスなムードをダンス・ミュージックにアダプトするという大胆なアレンジを施す。4つ打ちキック(バスドラム)のバックビートにサンバのスルドのアクセントを持たせた”うねる”ようなリズムトラックに、大人数による無垢なコーラスをダビングして仕上げている。ここでも彼の幅広い音楽知識と、発想の転換による素晴らしいセンスを感じさせずにはいられない。 

   
【PV】中塚武「Black Screen」 

 「Black Screen」は2011年5月に発売されたSHARPのスマートフォン "AQUOS PHONE SH-12C"のCM曲として発表したオリジナル曲で、その後iTunes Storeとレコチョクの配信限定でリリースされた。
 HDレコーディングのエフェクトを駆使した高度なカットアップとマッシュアップ手法は、モザイク画のような音像とサウンドであり、ただただ驚愕するばかりだ。ハイテック・ミュージックへの飽くなき探究心を持ち続けるクリエイター中塚武の真骨頂と言えよう。 

 以上紹介した4曲いずれもオリジナル・ヴァージョンと大きな違いは無いが、尺が微妙に異なるので7インチ用にリミックスされていると思われる。
 最後に今回2枚同時リリースされる7インチ・シングルは数量限定なので、解説を読んで興味を持った音楽ファンはamazonリンクか下記オンラインショップで予約して確実に入手することを強くお勧めする。



 (テキスト:ウチタカヒデ


2022年6月4日土曜日

FMおおつ 音楽の館/Music Note(2022年5月号)~西城秀樹特集Set List(Part-1)

FMおおつ 音楽の館/Music Note(20225月号)~西城秀樹特集・前半解説

 音楽の館5月号は、2018516日に急性心不全のため63歳で逝去されたヒデキこと西城秀樹さんの特集です。今年は彼のデビュー50周年を記念し、4/3に横浜4/14に大阪で5年振りのイヴェント「HIDEKI SAIJO CONCERT 2022 THE 50」が開催されています。このように今も根強い人気を持つヒデキ、オープニングは1979年発表以来、日本中にパワーを届けているヒデキのキラー・チューン<YOUNG MAN (Y.M.C.A)>!  


 本家
Village Peopleの<Y.M.C.A.>も世界10数ヵ国で1位を記録した大ヒット・ナンバーですが、ヒデキ・ヴァージョンはオリジナルにはない「Y」「M」「C」「A」のポーズをとるパワー・アップしたものになっています。曲中の女性コーラス・手拍子を務めたのはファンクラブ会員選抜隊でした。 

BG1972325日発売のデビュー曲<恋する季節(425.8万枚)。作者は昨年天に召された巨匠・筒美京平さんで、GSカーナビーツのアイ高野さん用の曲でした。サビ前の「お前のすべ~てぇ」風アレンジがそれを象徴しています。

その筒美さんは新御三家の五郎さんとひろみさんの黄金期を支えた作家でしたが、ヒデキさんのブレイクと黄金期を支えたのは「鈴木邦彦さん」と「馬飼野康二さん」の二人です。その始まりはセカンド・シングル<恋の約束>(18位;14万枚)でした。なお鈴木さんは黛ジュンさんのレコード大賞曲<天使の誘惑>の提供で知られるヒット・メーカーで、GSブームを牽引した作家のひとりで、ダイナマイツの<トンネル天国>、シャープ・ホークス<ついておいで>等ビート系ナンバーに定評がありました。

 ヒデキの活動歴ですが、地元広島で小学3にお兄さんのバンドに加入、中学2でバンドのリード・ヴォーカリスト、高校時代の活動中に大手事務所「芸英」に認められ上京。そして1971年(8/279/2)第45回日劇ウエスタン・カーニバルでステージ・デビュー。翌1972年に「ワイルドな17歳」としてレコード・デビュー。 

そんな彼の個性が活かされたセカンド・シングルはデビュー作を大きく上回り、アレンジャーに馬飼野さんを起用した3曲目の<チャンスは一度>(20位;9.9万枚)以降は、ダイナミックな振り付けもついています。そして同じコンビでリリースされた爽快な<青春に賭けよう>(16位;12.1万枚)は、以後彼のライヴでは観客と一緒に大合唱する定番曲になります。とはいえ、当時のヒデキは同期デビューの「新御三家」となる他の二人とは知名度で大きく差をつけられています。

そんなヒデキの快進撃は翌1973年からで、それがBGChaseGet It On(黒い炎)風アレンジの5枚目<情熱の嵐>でした。この曲は彼の歌唱時のコール&レスポンス(「 (♪君が望むなら) ヒデキー!!」)がはまり初トップ106位;24.6万枚)。そして馬飼野さんが作・編曲を担当した第6作<ちぎれた愛>はチューリップの<心の旅>(51.4万枚/年間7)から1位を奪取。<神田川/南こうせつとかぐや姫>(86.5万枚/年間6)に座を渡すまで、堂々の4週間1位(47.5万枚)を記録。「新御三家」初1位曲でした。 

その馬飼野康二さんは1970年代からジャニーズ系への曲提供で存在感を際立たせた人物。近藤真彦さん<ケジメなさい>、光GENJI<剣の舞><勇気100%>、男闘呼組<DAYBREAK>、嵐<ARASHI>、Sexy ZoneLady ダイヤモンド>、Hey! Say! JUMPCome On A My House>等々、彼の作品を聴けば1970年代以降の男性アイドル史が一望出来るほどのヒット・メーカーでした。 

この大ブレイクにあやかり、11月には「ヒデキ、カ~ンゲキィ!!」の名セリフでお馴染み「ハウス・バーモントカレー」のCMに起用され、その後12年間(1985年)も務めています。そのCM効果で、バーモントは日本におけるカレーライスの国民食化に貢献。その勢いの中リリースされた鈴木邦彦さん作による7枚目<愛の十字架>もチャート1位(35.2万枚)となり、人気を不動のものにしています。 

このように大ブレイクを果たしたヒデキは、翌1974年になるとTBS『寺内貫太郎一家』のレギュラーに起用され、小林亜星さんとの派手な親子ゲンカシーンで骨折するなど、ワイルドな話題も提供。さらに「少年マガジン」連載の『愛と誠』の映画化に際して(作者梶原一騎氏に)直訴して映画初主演。公募となった愛役は4万人もの応募がありました。 


 シンガーとしては
225日発売の薔薇の鎖>(3位;33.4万枚)で、ロッド・スチュワートばりのスタンド・マイクを・アクションでファンを魅了。今では矢沢え~ちゃんのトレード・マークですが、日本中にパフォーマンスを印象つけたのはヒデキでした!続く<激しい恋>(2/58.4万)ではBG和田アキ子さんの代表作<古い日記>を彷彿させるロック・ナンバー。ここでのボディ・アクションはファンを熱狂させ、それはもはやアイドルの枠を超えていました。中条きよしさんの<うそ>(154.1/年間3) 1位を阻まれますが、セールス枚数は<ちぎれた愛>を超えるビッグ・ヒットになっています。 


 そしてその興奮が冷める間もなくリリースされた曲が、激しい絶叫シーンに圧倒される<傷だらけのローラ
2/34万枚)でした。ここに至り唯一無比の存在であることを印象付けています。この曲も中村雅俊さんのミリオン・ヒット<ふれあい>(126.5/年間4)にトップを阻まれますが、1位となった<愛の十字架>以上のセールスを上げています。この成功はソロ歌手初のスタジアム・コンサート『ヒデキ・イン・スタジアム真夏の夜のコンサート』(大阪球場)を開催出来るほどでした。

そのライヴはクレーンで宙づりされた「ゴンドラ」の中で歌唱、本邦初導入のレーザー光線など、ファンの度肝を抜く演出を披露。そのステージングは聴衆を魅了・圧倒し、これが現在のスタジアム・ライヴの布石になったとも言われています。

またこのライヴ直前に(ラジオ番組から)「何か光るものを会場へ!」と観客に呼びかけ、ファンの持ち寄ったペンライトが日本のコンサートで広く普及したという説があるほど。なお大阪球場では以後1983年まで10年連続(1978年からは東京後楽園球場でも)開催しています。 

BG1975年最初のリリース曲<この愛のときめき>(3/ 27.7万枚)ですが、同時期に傷だらけのローラ>が海外向けにフランス語ヴァージョン<LOLA>としてカナダ、フランス、スイス、ベルギーで発売され、カナダでは堂々の2位を記録。ちなみに<~ローラ>はNHK紅白歌合戦に初登場曲で、そこでは怪傑ゾロのマスクを着け、半シースルーというSexyないで立ちで登場しています。

また1975年にはヒデキにとって欠くことのできない存在となる吉野藤丸さんと出会いがあります。そして彼の結成した藤丸BANDが、以後ヒデキのバックを務めることになります。その体制は13作目の<恋の暴走>(3位;34.1万枚)からで、ライヴでは7月に富士山麓での野外ステージからスタートした『全国縦断サマーフェスティバル』でした。このバンドのお披露目模様は、ライヴ・アルバム『ヒデキ・オン・ツアー』(9/25)に収録され、10月にはドキュメンタリー映画『ブロウアップ・ヒデキ(BLOW UP! HIDEKI)』として上映公開されています。この作品はヒデキの訃報を受けた20187月に、Zepp東京で再上映され、即日ソールド・アウトになっています。 


 そして、翌1976年以降は「阿久悠=三木たかし」コンビを起用。三木たかしさんといえば、<津軽海峡・冬景色>や<時の流れに身をまかせ>といった情緒あふれるメロディ作りに定評ある作家で、ヒデキを大人のシンガーに向け歌唱スタイルに新たなエッセンスを加えています。それは16作目の<君よ抱かれて熱くなれ>(3/ 33.6万枚)から、<ジャガー>(3位 23.7万枚)<ラストシーン>(8位 22.6万枚)と着実に歩みはじめ、その完成形となった曲が19773月の20ブーメランストリート8位 22.6万枚)だったといえます。歌いだしで聴き手を引き付ける強いインパクトがそれを証明しています。私の末っ子長男は「ヒデキ世代」ではありませんが、幼少時この曲が大好きで、「ブーメラン、ブーメラン」と腕を振り回して歌っており、まさに不滅のフレーズと感じます。

 


BGでは誰もが大人のシンガーとして認めるようになったヒデキの「阿久悠=三木たかし」コンビの<若き獅子たち>(4/ 23万枚)です。そして197823ブーツをぬいで朝食を>(7/ 21.7万枚)は、井上尭之バンドのキーボード・プレーヤー大野克夫さんによるものです。彼はザ・スパイダース~PYGを経由した稀有のマルチプレーヤーで、沢田研二さんのレコード大賞受賞曲<勝手にしやがれ>をはじめ、「太陽にほえろ!」「名探偵コナン」の音楽までこなす才人でした。  

さらにヒデキにとって欠くことのできない存在の馬飼野さんによる25作<>(5位 25.7万枚)26作<ブルースカイ ブルー3位 29.3万枚)といったスケールの大きなドラマティックな楽曲を書き下ろし、その実力を如何なく発揮しています。


 続くBGVillage People の本家Y.M.C.A. 。この曲のカヴァーはヒデキ自身からの提案でしたが、当初はスタッフが難色をしめし、ファンもVillage Peopleの「ゲイ・イメージ」に反発を受けていたようです。ただ原曲にはない、Y.M.C.A.4文字を表現するパフォーマンスの導入で、スポーティで健康的な印象に仕上げ、当時の人気番組「ザ・ベスト・テン」では9週連続第1位、同番組史上唯一の満点(9999点)獲得曲(2週連続)という偉業も達成。

 なおこの曲は1995117日に発生した「阪神・淡路大震災」で被災者向けチャリティー募金活動に参加したヒデキに、被災者からの熱心な要請が届き、「第46回(1995年)第47回(1996)」2年連続紅白歌合戦で歌唱、被災者を勇気づけるパワーを持った国民的レベルの曲と立証されています。 

また1995年にはサザンオールスターズの桑田さんから熱烈なラヴ・コールを受け、彼らのビッグ・イヴェント(856日開催)『スーパー・ライブ・イン横浜/ホタル・カルフォルニア』の「オープニング」に登場。そのライヴに詰めかけた16万人(2 Days)の観衆に、Y.M.C.A.のボディ・アクションをさせ、サザンの公演ながらヒデキ一色に染めています。


 そして、今や
Jリーグの強豪「川崎フロンターレ」は、2004年以降等々力競技場でのホーム・ゲームのハーフタイム・ショーの定番曲になっています。 

この大ヒットを受けリリースされた29ホップ・ステップ・ジャンプ>(2位 36.9万枚)は、岸田智史さんの<きみの朝>(59.9万枚/年間15)1位を阻まれるも2位の大ヒット。そしてデビュー曲以来久々に筒美京平さんから提供されたバラード<勇気があれば3位 30.8万枚)は彼らしい包容力を持った傑作に仕上がり、この年の「日本レコード大賞」をジュディ・オングさんの<魅せられて>と大賞を競うほどでした。

 


 ということで今回は「デビュー50周年」を迎えた「西城秀樹さん」の特集の前半を解説しました。セット・リストは下記にまとめましたのでご覧ください。近日中に後半パートの詳しい解説とセット・リストをまとめますので、またご覧いただければと思います。 

 

<セット・リスト~前半>

Opening B.G.~ Gems1(A Cappella)/ esq(三谷泰弘)

1. YOUNG MAN (Y.M.C.A)/西城秀樹

B.G.~ 恋する季節

2. 恋の約束

3. チャンスは一度

4. 青春に賭けよう

B.G.~ Get It On(黒い炎)/Chase

5. 情熱の嵐/西城秀樹

6. ちぎれた愛

7. 愛の十字架

B.G.~ 古い日記/和田アキ子

8. 薔薇の鎖/西城秀樹

9. 激しい恋

10. 傷だらけのローラ

B.G.~ この愛のときめき

11. 君よ抱かれて熱くなれ

12. ジャガー

13. ラストシーン

14. ブーメランストリート

B.G.~ 若き獅子たち

15. ブーツをぬいで朝食を

16. 炎

17. ブルースカイブルー

B.G.~ Y.M.C.A/ Village People

18. ホップ・ステップ・ジャンプ/西城秀樹

19. 勇気があれば

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鈴木英之