前作のカップリング曲は英国伝説のパブロック・バンド、デフ・スクール(Deaf School)の代表曲「TAXI」(77年)の日本語カバーで話題になったのも記憶に新しい。そして本作のタイトル曲は、デイヴ・エドモンズ(Dave Edmunds)のフォース・アルバム『Tracks on Wax 4』(78年3月)の冒頭を飾る「Trouble Boys」の日本語カバーというからマニア泣かせである。
一色のプロフィールは前作のレビューでも紹介しているが、プログレ・アイドルグループXOXO EXTREME(キス・アンド・ハグ エクストリーム)のメンバーで、2015年5月結成されたxoxo(Kiss & Hug)(キス・アンド・ハグ)を母体に翌年12月に一色らの参加によってXOXO EXTREMEとなった。本年度3月20日以降は一時脱退していた小日向まお(こひなた まお)が復帰し5名のメンバーで活動している。
リーダー格の一色がソロ作ではパブロックというのが非常にユニークで、共に英国ロック・マニアに強くアピールするだろう。
イギリス南西部のウェールズの最大都市カーディフに1944年に生まれた彼は、14歳で兄のジェフとロックバンドを結成しその音楽人生を歩み始めた。いくつかのバンドを経て70年にシングル「IHear You Knocking」でソロデビューし、いきなりゴールドディスクに認定される大ヒットとなり、翌年ファーストアルバム『Rockpile』をリリースする。
プロデューサー指向の強い彼はこのファーストから自らプロデュースとエンジニアリングを手掛けている。それもそのはずで彼はフィル・スペクター信奉者で、セカンド・アルバム『Subtle as a Flying Mallet(ひとりぼっちのスタジオ)』(75年4月)ではザ・ロネッツの「Baby, I Love You」、ザ・クリスタルズの「Da Doo Ron Ron」等をカバーし、一部の曲は一人多重レコーディングまでしている。同様に76年のシングル『Where Or When』のカップリングでは、スペクターの弟子筋であるアンダース&ポンシア作でThe Trade Windsの「New York's A Lonely Town」(65年)をカバーし、後の79年にガレージロック/サイケデリックロック系コンピレーション・シリーズ”Pebbles”のVolume 4(この回ではサーフィン&ホット・ロッド特集)で、「London's A Lonely Town」と改題、改詞しリレコして提供させるなどディープな60sロック、ポップス・マニアのミュージシャンなのだ。正に英国の山下達郎と言えるだろう。
左上から時計回りに『Tracks on Wax 4』
『Subtle as a Flying Mallet』『Pebbles Volume 4』
『Where Or When / New York's A Lonely Town』
前置きが長くなったが、本作タイトル曲の「トラブル・ボーイズ」はオリジナルの作者であり、デイヴとはパブロック・バンドのロックパイル(Rockpile 1976~1981 / ベースでデイヴの盟友で元Brinsley Schwarzのニック・ロウも所属)のバンドメイトで、ギタリストのビリー・ブレブナー(Billy Bremner)が、彼自身のバンド、Billy Bremner's Rock Filesを率いてレコーディングを敢行し参加してくれたという。前作「TAXI」での奇跡と同様に国やバジェットを超えた、ロック愛を感じさせるコラボレーションではないだろうか。なおビリーが日本人ミュージシャンとのセッションに参加するのは、81年の沢田研二『S/T/R/I/P/P/E/R』(アレンジャーで伊藤銀次が参加)のロンドン・レコーディング以来となるから極めて貴重だ。彼のギターソロは佐野元春作の「BYE BYE HANDY LOVE」など4曲で聴ける。
また今回日本語の訳詞を手掛けたのは、Billy Bremner's Rock Filesの『Cover It Well "A Tribute To Rockpile"』(2019年)をリリースしたパブロック、パワーポップ・レーベル”Target Earth”を主宰する中上マサオ氏である。
バック・トラックのレコーディングはビリーの移住先で現在の活動拠点地になっているスウェーデンのスクツカールのStudio Rock Around The Clockでおこなわれ、メンバーはビリー(ギター)の他に、ベースのMicke Finell、ギターのBonne Löfman、ドラムのPeder Sundahlと現地出身のメンバーが参加している。オリジナルのレコーディングにも参加しているビリーのイニシアティブにより、原曲を踏襲しつつルーズなロカビリー色を濃くしたアレンジは、一色の艶のあるキャンディ・ボイスとのコントラストが際立っていて聴き応えがある。前作でも感じたが、彼女の歌唱力や表現力はもっと評価されて然るべきと思っているので、本作も多くの音楽ファンに聴いて欲しい。なお本曲のミックスは、先月紹介した青野りえの『Rain or Shine』でもその手腕を発揮していたマイクロスターの佐藤清喜が担当している。
トラブル・ボーイズ/一色 萌 Trailer
カップリング曲の「太陽を盗んだ女」(長谷川和彦監督作で沢田研二主演のカルト・アクション映画を彷彿とさせるタイトルだ)は、前作の「Hammer & Bikkle」から引き続き、キーボーディストの佐藤優介がソングライティングとアレンジ、ミックスを手掛けている。佐藤は昨年NegiccoのKaede(カエデ)とのサウンドトラック・アルバム『Youth』をプロデュースし、弊サイトでも紹介したFrancis(小里誠)の『Bolero』に参加するなど注目されるミュージシャンだ。
レコーディングには佐藤の他、個性派ロックバンド、空中カメラのメンバーが参加してアグレッシブな演奏を聴かせている。イントロや間奏はデヴィッド・ボウイの「Fame」(75年)を更にハードにしたニューウェイヴ・ファンク色が濃く、本編ではラジオヴォイスのエフェクトをかました一色のヴォーカルが強烈で、やはりボウイの「It's No Game (Part 1) 」(『Scary Monsters』収録/80年)に通じるポストパンク感やフランク・ザッパの匂いもするハイパーなヘヴィーサウンドがたまらない。「トラブル・ボーイズ」のカップリングとしての統一感はあまり感じさせないが、空中カメラの演奏力や個性に興味を持ったので彼らの楽曲も聴きたくなったし、一色の新たな魅力を垣間見せた曲と言えるので評価したい。
繰り返しになるが、本作『トラブル・ボーイズ』は数量限定であり、前作同様に早期に在庫が無くなるであろう7インチ・シングルなので、パブロックをはじめとする英国ロック・ファンは、下記のレコード・ショップなどで、予約開始される4月23日にチェックして確実に入手しよう。
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