60年代のガール・グループを代表したThe Ronettes(ザ・ロネッツ)のリード・シンガーで、ソロ・シンガーとしても活躍したロニー・スペクター(本名:Veronica Yvette Greenfield~ヴェロニカ・イヴェット・グリーンフィールド/以降ヴェロニカ)が、現地時間の1月12日に逝去した。
コネチカット州ダンベリーにある自宅で短期間の癌闘病中、現夫でマネージャーのジョナサン・グリーンフィールドをはじめ家族達に看取られ、75歳の生涯を閉じたという。昨年1月16日にカリフォルニア州立刑務所内で亡くなった、元夫で名プロデューサーだったフィル・スペクター氏とは対照的に、静かで平安な最期だったようだ。
定期誌VANDA及びWebVANDA読者には説明不要かも知れないが、彼女を中心としたザ・ロネッツは、ウォール・オブ・サウンドの総本山でフィル・スペクター率いるフィレス・レコードを象徴するガール・グループとして知られ、その影響力はビートルズのジョン・レノンやジョージ・ハリスン、ビーチボーイズのブライアン・ウィルソンなど錚々たるミュージシャン達を虜にした。フィルとザ・ロネッツの存在無しに、その後の彼らのサウンドは無かったと言っても過言では無いだろう。
ヴェロニカは1943年にニューヨークのイースト・ハーレムで、アフリカ系アメリカンとチェロキー族の血を引く母親とアイルランド系アメリカンの父親の娘、ヴェロニカ・イヴェット・ベネットとして生まれた。
マンハッタンのジョージ・ワシントン・ハイスクール時代、2歳年上の姉のエステル、3歳年下の従姉妹のネドラ・タリーと共にDarling Sisters(ダーリン・シスターズ)を結成し、地元で活動していた。60年代初頭にはグループ名をザ・ロネッツに変えて、ニューヨークの都市圏でライブ活動を続けながら、Colpix Records(コルピックス・レコード)と契約し「I Want a Boy」「I'm Gonna Quit While I'm Ahead」等のシングルをリリースしたが成功には至らなかった。
転機になったのは63年で、フィル・スペクターがヴェロニカの特徴ある歌声に興味を持ったことでフィレス・レコードと契約することとなる。スペクターの読みは当たり、同年8月にフィレスからのファースト・シングルとしてリリースした「Be My Baby」(ジェフ・バリー、エリー・グレニッチ、フィル・スペクター作)が全米2位の大ヒットとなる。名ドラマー、ハル・ブレインによるイントロのバス・ドラムが象徴するフィレス・サウンドは、スタジオ・ミュージシャン集団”The Wrecking Crew”の活躍もあり隆盛を迎える基礎となった。
同年11月には同じくバリー&グレニッチ作の「Baby, I Love You」(ツアー中のエステルとネドラの代わりに、ダーレン・ラヴ、シェールとソニー・ボノがバック・ボーカルを務めた)、翌64年6月には「Do I Love You?」(ピート・アンダース、ヴィニ・ポンシア、フィル・スペクター作)、同年10月の「Walking in the Rain」(バリー・マン、シンシア・ワイル、フィル・スペクター作)とトップ40ヒットが続いた。
しかし64年初頭のビートルズのアメリカ初公演を起点とするブリティッシュ・インヴェイジョンの影響は大きく、65年の全米チャートではブリティッシュ・ミュージシャンの楽曲が多くを占めるようになる。同年ザ・ロネッツはシングル「Born to Be Together」(バリー・マン、シンシア・ワイル、フィル・スペクター作)と「Is This What I Get For Loving You?」(ジェリー・ゴフィン、キャロル・キング、フィル・スペクター作)をリリースするが、前者は52位、後者は75位と大ヒットには至らず、徐々に彼女達をはじめフィレス・レコードのセールスにも陰りが見え始める。
66年10月のバリー&グレニッチ作の「I Can Hear Music」は、そのクオリティーとは相反して100位止まりでオリジナル・メンバーとしてのラスト・ソングルとなった。翌67年初頭に彼女達はヨーロッパ・ツアーを終え、ついに解散してしまう。
その後ヴェロニカは68年4月にスペクターと結婚するが幸福とは言えず、様々なトラブルに巻き込まれながら別居し74年に正式離婚している。
この期間69年にスペクターのプロデュースのもと、A&Mレコードから「You Came, You Saw, You Conquered」(フィル・スペクター、トニー・ワイン、アーウィン・レヴィン作)を”The Ronettes Featuring the Voice of Veronica”名義でリリースしているが、実質ヴェロニカのソロと言える。またビートルズ元メンバーであるジョンとジョージからリスペクトされていたスペクターが彼らの初期ソロ作を手掛けていた縁もあり、71年4月にはジョージのソングライティングと共同プロデュースでシングル「Try Some, Buy Some」をリリーし、全米77位を記録した。
73年ヴェロニカは心機一転、新しい2人のメンバーとしてチップ・フィールズとデニース・エドワーズを加え、Ronnie Spector And The Ronettesを結成し、ブッダ・レコードから4作のシングルをリリースしたが、フィレス時代のように成功することは無かった。
彼女のキャリアの中で成功の頂点だった、ザ・ロネッツ黄金期がその後も呪縛になっていたことが垣間見られ、ポップ・スターの悲劇を感じて切なくなるが、彼女が偉大な女性シンガーであったことは紛れもない事実である。
さてここからはヴェロニカ=ロニー・スペクターを敬愛するミュージシャンとして知られる、The Pen Friend Club(ザ・ペンフレンドクラブ)のリーダ-、平川雄一君の貴重なエピソードと、彼が選んだロニー・スペクターの楽曲オールタイム・ベストソングを掲載する。
このベストテンに筆者の選曲分も加え、サブスクのプレイリストにしたので聴きながら読んで欲しい。
新年を迎えて早々に悲しいニュースが飛び込んできた。
大好きなロニー・スペクターが1月12日に死去した。
弊バンドであるザ・ペンフレンドクラブはフィル・スペクター関連曲をいくつかカバーしており、ザ・ロネッツの曲も取り上げている。
2017年、ロニー・スペクター来日公演が計画され前座として弊バンドが候補に上がったが、諸事情につき公演そのものが中止になってしまった。
ロニー亡き今となっては非常に残念でならない。
ロニーが歌った曲は大体すべて「好き」と言えるのだが、記事にするにあたり敢えて順位付けしてみた。
平川雄一
ピート・アンダース、ヴィニ・ポンシア、フィル・スペクター作。
天才的なイントロから始まる全てが完壁な一曲。
弊バンドでは一番最初に取り上げたロネッツの曲であり今でもライブで演奏している。
2.How Does It Feel?(1964年)
こちらも'64年のアンダース&ポンシア、スペクター作。
あえて『Do I Love You?』を1位に挙げたが本心ではこの曲の方が好きだ。
こんな夢のような曲が他にあるだろうか。
弊バンドでは二番目にカバーしたロネッツ曲。
3.Born To Be Together(1965年)
バリー・マン、シンシア・ワイル、フィル・スペクター作。
アイケッツのP.P.アーノルドも'68年にカバーした、聴けばいつでも夢心地になれる強烈な一曲。弊バンドでは三番目にカバーしたロネッツ曲。
4.Something's Gonna Happen(2003年)
マーシャル・クレンショウの'81年作を'03年にロニーがカバーしたもの。
しっかりと「ロニー・スペクターの曲」に仕上がっているところが素晴らしい。
ザ・プッシーピロウズによる掛け合いコーラスも可愛い。
5.When I Saw You(1966年)
フィル・スペクターのペンによる'66年作。
テディ・ベアーズの『To Know Him, Is To Love Him』に通ずる三連バラード。ロニーの愁いを帯びた名唱が染みる。
6.Is This What I Get For Loving You(1965年)
ジェリー・ゴフィン、キャロル・キング、フィル・スペクターによる'65年作。3位に挙げた『Born To Be Together』同様、いよいよロックンロール、ガールズポップスがソフトロックのそれへと変わっていく「狭間」を感じる一曲。
7.I Wish I Never Saw The Sunshine(1966年)
ジェフ・バリー、エリー・グレニッチ、フィル・スペクターによる'66年作。
ドラマチックな曲想とエモーショナルなロニーのボーカルに溜息が出る。
8.Sleigh Ride(1964年)
ルロイ・アンダーソン、ミッチェル・パリッシュ作のクリスマス・スタンダード・ナンバー。
'63年にフィル・スペクターによるクリスマス・アルバム『Christmas Gift For You From Phil Spector』に於いてロネッツの歌唱でカバーしたもの。
そりすべりの疾走感のあるサウンド、はち切れるロニーの歌いっぷりがいい。
9.Paradise(1965年)
ギル・ガーフィールド、ペリー・ボトキン・ジュニア、ハリー・ニルソン、フィル・スペクター作。'65年に録音された。
大音量で没入感を味わいたい一曲。
10.How Can You Mend A Broken Heart(2016年)
バリー・ギブ、ロビン・ギブ作。
ビー・ジーズの'71年のシングル。この珠玉のバラードをロニーは遺作となった'16年のソロアルバム『English Heart』でカバーした。
しっとりとオルガンに寄り添うロニーの歌声に落涙を禁じ得ない。
(企画編集・テキスト:ウチタカヒデ)
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