2021年12月11日土曜日

Three Berry Icecream:『Three Berry Icecream』(miobell records / PCMR0019)


 BRIDGE(ブリッジ)のメンバーだったイケミズマユミのソロプロジェクトThree Berry Icecream(スリー・ベリー・アイスクリーム)が、初のフルアルバムを11月27日に12インチLPでリリースした。
  2019年2月にオールタイム・ベスト・アルバム『SUNSHINE ON MY MIND 1998-2018』(18年10月リリース)を弊サイトでも紹介したが、本作はアルバム用の書き下ろし曲を収録したオリジナルのフルアルバムとして、ファンにとっても待望の作品になったのではないだろうか。

 まず彼女がプロ・ミュージシャンとしてキャリアをスタートさせたBRIDGEから紹介するが、渋谷系バンドとして知られる彼らは92年にデビューし、小山田圭吾が主宰するトラットリア・レーベル(ポリスター傘下)から2枚のオリジナル・アルバムをリリースした。
 95年に惜しくも解散後したが、メンバーだったカジヒデキがソロ・アーティストとして成功したので、後追いによりBRIDGEも注目されるようになる。2017年には22年ぶりにオリジナル・メンバーでリユニオン・ライヴをするなど、近年も旧メンバー間の交流は続いているという。 
 BRIDGE 解散から4年後の99年に音楽誌「米国音楽」の付録CDに楽曲提供したのがきっかけとなり、イケミズはThree Berry Icecreamとしての活動を始めるのだが、BRIDGE時代からメロディー・メーカーだった彼女らしいコンポーズに英歌詞を載せたギターポップ、ソフトロック系の楽曲は、多くのギターポップ・ファンを中心に評判になった。


 
このプロジェクトでは、イケミズはソングライティングとリードボーカルは勿論のこと、各種キーボード、アコーディオンとグロッケンなどを担当している。サブ・メンバーはアコースティック・ギターにレーベルメイトでSwinging PopsicleやThe Carawayを率いるシマダオサムをはじめ、ドラムとパーカッションにorangenoise shortcutの杉本清隆、ベースにSloppy Joeの岩渕尚史、エレキ・ギターにはCorniche Camomileの桜井康史とh-shallowsの廣瀬美紀が参加し、曲毎に多彩なゲストをむかえている。 

 レコーディングは様々な名作を生んできたスタジオ・ハピネスでおこなわれ、筆者も旧知の平野栄二がエンジニアリングを務めており、ミックスには多くのメジャー作品の他、ムーンライダーズ事務所と共同設立したhammer(ハンマー)、渋谷系のクルーエル・レコードやエスカレーター・レコードでその手腕を発揮していたシンセサイザー・プログラマー兼エンジニアの森達彦が務めている。森氏については昨年弊サイトの筒美京平追悼特集のインタビューに参加頂いたので記憶に新しいと思う。
 マスタリングは、2008年の『microstar album』が和製ソフトロック・アルバムとして筆者も高評価している、マイクロスターの佐藤清喜が担当しており、それぞれで音の職人達が関わっており、サウンド・クオリティーも折り紙付きと言えるのだ。

 ここからは本作の主な収録曲を解説していく。 
 A面冒頭の「Rainbow mountain road」は、イントロから左チャンネルのシマダによるアルゾ&ユーディーンの「Hey Hey Hey, She's O.K.」よろしく小気味よいアコギのカッティングと、右チャンの廣瀬によるジョニー・マー直系のハイライフ風アルペジオのコントラストが素晴らしく、このアルバムのスタートに相応しい。
 
Rainbow mountain road Music Video 

 続く「That summer we were free」は、スペインのバンドCapitán SunriseのSanti Diegoが作詞を担当しコーラスでも参加している。イケミズは彼女のトレードマークでもあるアコーディオンをプレイしており、夏の高揚感を印象付けている。
 イントロのスローなピアノからシャッフルにリズム・チェンジして始まるソフトロックの「Gentle sunset」では杉本がピアノを担当し、コーラスはイケミズにシマダと廣瀬が加わっている。またゲストとして間奏の弦パートでバイオリンにVasallo Crab 75の河辺靖仁、ヴィオラにチドリカルテットの田中景子が参加し、導入部ではこの2名による口笛の二重奏も披露されていてアレンジの構成力が極めて高い。
 「Milky pop. Song」は、弊誌でも過去に紹介しているシンガー・ソングライターの小林しのが作詞を担当した小曲で、ヴィオラの田中がピッツィカート奏法も駆使して表現豊かにイケミズの歌に寄り添って、小林が描く世界観を演出している。

 B面は10月15日に先行配信された「Another world」から始まるが、この典型的ソフトロックの美しいフォルムを持ったサウンドには一聴して虜になった。イントロ~ヴァースのボッサのリズムからセカンドヴァースで跳躍し、イケミズ、シマダ、廣瀬のコーラスがリフレインするブリッジを経て甘美なサビで解決するという、複数のパートと転調を経ても聴き飽きないメロディとアレンジはさすがであり、リズム・セクションの確かな演奏力があってのサウンドである。弦パートはバイオリンの河辺、ヴィオラの田中が参加している。 
 筆者としてもこの曲を本作中最もお勧めするが、ジミー・ウェッブがクリエイトしたリバティ・レコード時代のフィフス・ディメンションロジャー・ニコルスの名を後世のソフトロック・ファンに知らしめた金字塔アルバム『Roger Nichols & The Small Circle Of Friends』をこよなく愛するフォロワー・ミュージシャンによる楽曲として高い評価に値する。
 
Another world / Three Berry Icecream 

 ギルバート・オサリバン風のプリティなピアノのイントロから始まる「One spring day」は、英歌詞含めイケミズが1人でソングライティングしたミディアム・シャッフル曲で、フェイザーをかました桜井のギター・リフやイケミズによりリコーダーとグロッケン、2コーラス目から入る弦パートの展開など聴きどころが多い。この曲ではその弦パートの河辺と田中の2人がコーラスを取っている点も興味深い。
 ラストの「Jour bleu pâle」は6/8拍子でプレイされるフランス語の歌詞が印象的で、杉本の巧みなドラミングと桜井のギターソロに注目したい。イケミズの歌詞を仏語訳したのはパトリック・ベニーで、後ろ髪を引かれるメロディにマッチした言葉の響きがアルバムの終幕に相応しい。
 
 アルバム全体を通して感じたのは、ブリル・ビルディングの系譜からUKのネオアコースティック期のソングライターに通じるイケミズの巧みで色褪せないソングライティングに尽きる。興味をもった弊サイト読者は、リリース元レーベルの直販サイトでの購入をお勧めする。

(テキスト:ウチタカヒデ


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