Pages

2021年11月6日土曜日

RISA COOPER:『RISA LAND』(NARISU COMPACT DISC/HAYABUSA LANDINGS / HYCA-8027)


 D.W.ニコルズの元メンバーで、2016年の脱退後フリーのセッション・ドラマーとして活動している岡田梨沙が、ソロユニット”RISA COOPER(リサ・クーパー)”として11月10日にファースト・アルバム『RISA LAND』をリリースする。
 このソロユニットは国際結婚後の彼女の本名をユニット名にし、昨年11月3日に7インチ・シングル『Magic Hour Comes / はばたキッス』を発表しその活動をスタートさせた。そして本作『RISA LAND』には、これまでに彼女がセッションで関わった親交の深い、多彩なミュージシャン達が参加したことで、ポップス・アルバムとしてクオリティの高い仕上がりになっており、9月に音源を入手した筆者は一聴してその素晴らしさを確信した。

 まずは彼女のプロフィールに触れるが、北海道帯広市で出生後に横浜で育ち、少女時代から歌うことやバンドが好きでドラムは15歳から始めている。大学時代は60〜70年代のソウル・ミュージックが好きになり、その影響もありドラムにのめり込んでいく。
 卒業後に様々なバンドに参加する中で、2007年にD.W.ニコルズに加入し、2年後にはメジャー・デビューしている。同バンドに9年間在籍した後、2016年9月にD.W.ニコルズを脱退し、以後はフリーのセッション・ドラマーとして様々なレコーディングやライブに参加していた。昨今ではシンガーソングライター(以降SSW)の関取花や先月弊サイトで紹介したbjonsのサポートをはじめ、沢田研二のバックバンド“エキゾティクス”のリーダ-でプロデューサーとしても著名なベーシスト、吉田建が結成したオーケストラ”The Stellar Nights Grand Orchestra”に正式メンバーとして参加している。
 彼女はドラム以外にも様々な楽器をこなすマルチプレイヤーであり、自ら歌唱とソングライティングもこなすので才女と言えるだろう。このアルバムでもドラマーとしてテクニカルなプレイをフューチャーしたというより、彼女の個性的な声と良質な楽曲を全面に出したポップス集として高く評価されるべきアルバムなのだ。

 本作には楽曲提供者として、前出の関取花をはじめ、谷澤智文、今泉雄貴(bjons)、相子鳶魚(モノノフルーツ)、橋口靖正、大森元気(残像のブーケ/元残像カフェ)、弊サイト企画でもお馴染みの松木俊郎(流線形/ Makkin & the new music stuff)、谷口雄(Spoonful of Lovinʼ/元森は生きている)と多彩なソングライター達が参加しており、曲毎の提供者が主にサウンドのイニシアティブを取っているが、谷口(各種キーボード)、松木(ベース)、渡瀬賢吾(エレキギター/bjons)、朝倉真司(各種パーカッション/ヨシンバ)が多くの曲で演奏しておりサウンドの要になっている。
 その他のゲスト・ミュージシャンも吉田建をはじめ、ファンファン(元くるり)、前田恭介(androp)、元バンド同僚の鈴木健太(D.W.ニコルズ)などが参加し、岡田の人脈の広さを強く感じさせる。



 こでは筆者による本作収録曲の解説と、岡田梨沙、作編曲と演奏で参加した谷口雄、松木俊郎がソングライティングやアレンジのイメージ作りで聴いていたプレイリスト(サブスクで聴取可能)をお送りするので聴きながら読んで欲しい。

 
RISA COOPER 1st Full Album『RISA LAND』
Teaser Movie 

 冒頭の「BE ALRIGHT」はSSWの谷澤智文の提供曲でアレンジも手掛けており、ギターとベース、スルド(ブラジリアン・パーカッション)、コーラスを担当している。変拍子のドラム・パターンに谷澤のエレキギターとユニゾンするかたちで岡田の歌唱が展開するアフロ・ファンクでインパクトは大きい。
 続く「Magic Hour Comes」は昨年11月の先行シングル曲で、bjonsの今泉が提供し、アレンジは堂島孝平やクノシンジのプロデュースで知られる石崎光(cafelon)が手掛けている。ドラムやパーカッションなど岡田のパート以外は全て石崎の多重録音で、リッケンバッカーのギターソロやヘフナーのベース、メロトロンにチェンバロ、ウーリッツァーなど中期ビートルズ風のマジカル・サウンドは彼のセンスに寄るところが大きい。リフレインされるスウィートなサビはモータウン風でありポップスとして完成度が高い。
 bjonsの橋本大輔も参加しているロックバンド、モノノフルーツの相子による「夕暮れ少年」は、谷口がアレンジとピアノ及びプログラミングを担当し、岡田と松木のリズム隊、朝倉のパーカッションに、鈴木健太が各種ギターとバンジョーで参加している。メインのギターリフやシンセ・オブリが効いており、シカゴソウル系の独特なアクセントを持つリズムは、ユーミンの「まぶしい草野球」(『SURF&SNOW』収録/80年)に通じ、シティポップ風でもあり間奏でバンジョーが入るパートなど飽きさせない。

左から松木俊郎、谷口雄、鈴木健太

 「ブックマーク・セレナーデ」はbjons今泉の2曲目の提供曲で、アレンジは谷口が手掛けている。フルートも披露する岡田のドラムと松木のベース、渡瀬のエレキギター、谷口のピアノとストレートな編成である。今泉はコーラスで参加し岡田のボーカルをサポートしている。サビは今泉らしいメロディ展開で、bjonsファンにもアピールするだろう。
 2016年12月に36歳の若さで逝去した橋口靖正が生前残した「だいじなじかん」は、石崎がアレンジとキーボード類を担当し、生前橋口と親交があったGOIND UNDER GROUNDの中澤寛規がギター、SSWの磯貝サイモンがウーリッツァー、ベースは前田、トランペットにファンファン、パーカッションに朝倉が参加している。ミュージシャンズ・ミュージシャンとして慕われた橋口の才能を証明する感動的なメロディ展開を、石崎らしいサウンドで構成していて耳に残る曲である。なお岡田はこの曲に参加した中澤、磯貝、前田、朝倉らと橋口のトリビュートバンドHGYM(エイチジーワイエム)として現在も活動している。 
 大森作曲、岡田作詞の「フルムーンスープ」は二人の共同でアレンジであるが、大森は演奏に参加せず、吉田建のベース、渡瀬のエレキギター、谷口のキーボード、朝倉のパーカッションでプレイされている。岡田の歌詞が光るスローなトーチソングである。
 
左から谷口、吉田健、岡田

 松木作曲、岡野作夢作詞の「ハートにキッスでふれさせて」は、松木が嘗て結成したグループMakkin & the new music stuffで披露したポップなシティポップに通じ、フォーリズムは岡田、松木、渡瀬、谷口の編成だ。岡田のチャームなボーカルからYUKI(岡崎友紀)の「ドゥー・ユー・リメンバー・ミー」(80年)や今井美樹の「雨にキッスの花束を」(『retour』収録/90年)を彷彿とさせる。
 続く「はちきれそう」も松木の作曲で、岡田が作詞を担当している。松木自身のアレンジはボサノバのリズムを基調にしており、特にセッション・ギタリストの平田崇の巧みなプレイが光っている。リズム・セクションは岡田、松木、谷口にパーカッションの朝倉が加わった編成だ。この曲でも松木のメロディ・センスは素晴らしく、サビの展開などはリンダ・リンスの『Lark』(72年)や『Fathoms Deep』(73年)に通じて好きにならずにいられない。

   RISA COOPER - はばたキッス(prototype)

 「はばたキッス」は先行シングルのカップリング曲で、アルバム中唯一岡田が単独でソングライティングした曲である。ドラム含め全ての楽器、歌唱とコーラスまで岡田が担当し一人多重録音でレコーディングされているが、アレンジは橋口靖正が生前にプロト・タイプを作ったもので、岡田がそれを発展させ完成させている。キャッチーなサビやコーラスのリフレインが印象的なソフトロックとして楽しい。
 本作ラストの「冬をとめて」は関取花の作詞で、谷口が作曲及びアレンジを担当し、岡田、松木、渡瀬、谷口、朝倉の編成で演奏されている。レスリー・ダンカンの「I Can See Where I'm Going」のそれを彷彿とさせる特徴的なイントロのギターリフに、リズム隊とコンガが加わった瞬間からなんとも言えない普遍性を発しており、詩情溢れる歌詞とメロディの虜になり、その後幾度もリピートして聴き込んでしまった。これは岡田の自然体な歌声を的確にバッキングする手練なミュージシャン達の演奏との結晶であり、正にエバーグリーンで完成度が高く、本作屈指の曲ではないだろうか。
 繰り返しになるが、本作は良質な楽曲を収録したポップス集として高評価されるべきアルバムなので、多くのポップス・ファンは是非入手して聴くべきだ。


【RISA COOPERプレイリスト】

◎RISA COOPER(岡田梨沙)
◎大学生の頃にこの曲を7インチで入手。大好きで大好きで、ここからふと出来た曲が『はばたキッス』。 最初のカッティングのフレーズを”チュルルル”とコーラスにしたところから始まりました。

◎「フルムーンスープ」を改めて掘り起こしてレコーディングする、となった時に、サウンドイメージとしてこの曲を参考にしました。気持ち良いリバーブ深めがフルムーンスープにピッタリだなと。

◎これは「フルムーンスープ」が出来た当時(2007年頃)、大好きでよく聴いていました。作曲者である大森さんにも私がオススメして、おそらくここからのインスピレーションも曲に影響しているのではと思います。

◎「Magic hour comes」を今泉氏に作曲依頼する時、"トマパイが歌ってそうな感じで!"というオファーをしました。今泉君によると、とある部分にトマパイの影響もきちんと入っているらしいです。

左から谷口、鈴木、岡田、松木 

◎谷口雄
◎「夕暮れ少年」のアレンジから私の制作はスタート。リフとリズムの絡みはこの曲を意識。ジャケの女王っぽさもリサランド的。

◎こちらも「夕暮れ少年」。アレンジするからには世界標準にしたい!海外でも愛されるこちらの曲からの学びは大きかったです。この温度感!

◎何気なく買ったCCM盤が、やけに手練れた演奏だとグッときますよね。「ブックマーク・セレナーデ」のアレンジはこの曲を下敷きに、マッキンさんが素晴らしいベースラインを弾いてくれました。

◎こちらは大澤誉志幸「最初の涙 最後の口吻」のカバー。アレンジするにあたり、日本のドメスティック感との上手な付き合い方、という観点でこの盤をよく聞いていました。

◎松木俊郎
◎小学四年生の時に、はじめて買った女性アイドルのレコード。こんなメロディを書きたいと、ずっと思い続けています。

◎「はちきれそう」のアレンジ(演奏)は当初こんなイメージでしたが、リハ無しヘッドアレンジの録音現場で、結果あのようになりました。


(本編テキスト:ウチタカヒデ

0 件のコメント:

コメントを投稿