1965年東京生まれの鈴木は自身名義でのデビュー以前からキーボード・パーカッション等で様々なミュージシャンの活動に参加し、1988年にEPICソニーからのデビュー後は自身の作品と並行し松田聖子、PUFFY、坂本真綾など数多くのミュージシャンへ楽曲提供も精力的に行い、1993年小泉今日子へ提供した楽曲『優しい雨』(シングル)は累計出荷枚数143万枚のミリオンヒットを記録するなど、日本のポップス史において欠かすことのできないソングライターであることは言うまでもない。
また、今年3月にリリースした『助けて!神様。〜So help Me,GOD!』は約10年振りとなる新曲であり、サウンドプロデュースにアイドル・シンガーソングライターの加納エミリを迎えるなどで大きな話題を呼んだ。
今回リリースされる『My Eternal Songs〜BEARFOREST COVER BOOK vol.1』は全編ピアノ弾き語りによるカヴァーアルバムとなっており、7月リリースの最新シングル『GOD Can Crush Me.』において共同プロデューサーを務め、サザンオールスターズ、木村カエラなどを手掛けたVICTOR STUDIOのエンジニア・中山佳敬が参加している。
Syoko Suzuki 『My Eternal Songs〜
BEARFOREST Cover Book vol.1』Trailer
導入部はモーツァルトのピアノ・ソナタが演奏される。
鈴木自身が語る、1971年から1981年の10年間に受けた影響、憧れや好奇心。クラシックピアノを習っていたという彼女が当時感銘を受け、今もなお聴かれ歌い継がれる不朽の楽曲たち−"My Eternal Songs”を自身が歌い継ぐ本作において、この導入はこれ以上ない演出だと思う。
間もなく、原曲同様の静謐なイントロで「HONESTY」(原曲:Billy Joel)が始まる。弾き語りならではのタイム感と、原曲キーで歌う彼女の歌唱が相まってよりシックな印象となっているのが魅力的だ。
弾き語りならでは、といえば次曲「Alone Again」(原曲:Gilbert O’Sullivan)における表現力は息を呑むものがあり、詳しくは本作を聴いてもらえればと思うが、リタルダンドやブレスに寄り添うようなタイム感の生々しさによって原曲の繊細な世界観がより深く沁みるような仕上がりとなっている。
続く「Love of My Life」(原曲:QUEEN)はクラシカルな進行がピアノによってより際立ち、QUEENのお家芸ともいえる重厚なコーラスは鈴木の声によって一層煌びやかに演出され、召されるような多幸感に包みこまれる。打って変わって次曲「I Only Want to Be With You」(原曲:Bay City Rollers)は軽快に踊れるナンバー。気持ち良いタイミングで入ってくる裏打ちのタンバリンやキュートかつパワフルに歌い上げる歌声に体を揺らしながらA面は幕を閉じる。
アルバムの幕間としてはさることながら、盤を返して針を落としてから腰を据え切るまでの流れを整えてくれるようなギミックとも取れる。清麗な音色に耳を傾けながら、やはり今自分は鈴木祥子の青春の一片を共有しているのではないかという邪推も捗る。
B面1曲目「Open Arms」(原曲:Journey)は本作において個人的に最も推薦したいナンバーである。ここで完全な私感を述べることを読者の皆様にはご容赦いただきたいのだが、多種多様なカヴァー作品が存在しそれらを享受する際、メロディや歌詞だけでなく編曲やエンジニアリング、時代性にともなう技法等々といった”録音物”そのものをどこまで踏襲するかといった要素も興味深い観点の一つだと思っている。特筆して本曲はその観点+ピアノ弾き語りというシンプルなアプローチが見事なまでにマッチし、紛うことなき名カヴァーといえる仕上がりとなっている。これは是非実際に針を落として確かめてみてほしい。
続く「Yesterday Once More」(原曲:Carpenters)は我々にとって恐らく最も馴染み深い楽曲ではないだろうか。原曲さながらストレートに歌い上げる彼女の歌声の端正さには安心感を覚えるだろう。
モーツァルトのピアノ・コンチェルトの一節が奏でられた後、流れるように始まる「Different Drum」(原曲:The Stone Poneys)はA面3曲目と並びクラシカルなアプローチが活きる編曲が施されており、イントロのリフレインとの相性は特に抜群である。徐々に抑揚付いていく歌唱表現の素晴らしさに胸を打たれながら、ラストは楽典的な終止をもって本作は幕を閉じる。
今日までの華々しいキャリア、その原点となった不朽の名曲たち。
鈴木祥子は自身のルーツであるピアノ一本の弾き語りで歌い継いだ。
鈴木自身が言う、
「ひとつの歌にも言語が、文化が、時代があり、ひとりひとりの想いがあり、
青春がある。人生がある。それを記憶の箱のなかから取り出して懐かしむことは、
また今日を、明日を生きてゆく力、活力にもなり得る。。。音楽だけに出来ることが、今も在る。」
まるで彼女の人生を垣間見えている気分になるような、アルバム全体の見事な構成も含めて非常に聴き応えのある作品となっているので、是非入手して聴いてみてほしい。
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