bjons(ビョーンズ)が、2018年5月の『SILLY POPS』から約3年半振りとなる最新作でセカンド・アルバムの『CIRCLES』を10月13日にリリースする。
昨年10月に彼らの7インチ・シングル『抱きしめられたい』を弊サイトでも紹介しているので記憶に新しいと思うが、2017年にソングライターでヴォーカル兼ギターの今泉雄貴、ギターの渡瀬賢吾とベースの橋本大輔の3人で結成されたポップスバンドだ。レコーディングやライブでは、サポートメンバーとしてドラムの岡田梨沙(元D.W.ニコルズ)とキーボードの谷口雄(元森は生きている、現1983)が加わり準メンバーとして活動している。
筆者はファーストアルバム『SILLY POPS』からシングルカットされた『ハンバーガー / そろりっそわ』(18年7月)のジャケット写真が、The Parade(Jerry Riopelle、Murray MacLeod、Allen "Smokey" Roberdsによる短命のソフトロック・グループ)の日本編集盤のそれをオマージュしていたことで気になりチェックして、今泉の巧みなソングライティングと個性的なヴォーカル、渡瀬と橋本の手練なプレイを高く評価するようになった。因みにギタリストの渡瀬は昨年紹介したポニーのヒサミツの『Pのミューザック』(20年4月)や一色萌の『Hammer & Bikkle』(20年11月)をはじめ、加納エミリの『朝になれ』(20年11月)などジャンルを超えて様々なセッションで活躍している。
本作『CIRCLES』では前作以上にソングライティングに磨きが掛かった楽曲が揃っており、サポートの岡田と谷口を含めたフォーリズムのコンビネーションも素晴らしく、長い年数聴ける良作になったと高評価している。なお主要曲の解説と聴きどころについては、インタビュー記事中で筆者が触れているので要チェックだ。
さてここではメンバー3人におこなった、この最新アルバムの曲作りやレコーディングについてのテキスト・インタビューと、ソングライティングやレコーディング期間中にイメージ作りで聴いていたプレイリスト(サブスクで聴取可能)をお送りするので聴きながら読んでみて欲しい。
左から時計回りに渡瀬、岡田、今泉、橋本、谷口
~必要性のある音以外は極力鳴らさず、
曲のエグみやザラついた質感を活かすアレンジで統一~
●ファーストアルバム『SILLY POPS』の後、昨年のシングル『抱きしめられたい』を経て、本作『CIRCLES』のコンセプトとして考えていた世界観を聞かせて下さい。
◎今泉:制作が長期に渡ったこともあり、曲単位で一貫したコンセプトはありません。曲が出揃ったときに「抱きしめられたい」の延長線上とも言えそうな、必要性のある音以外は極力鳴らさず、曲のエグみやザラついた質感を活かすアレンジで統一しようとバンド内で話し合いました。
●音数を削ぎ落とす引き算的アレンジは成功しているのではないかと思います。bjonsのサウンドを構築していく上で心掛けているポイントを教えて下さい。
◎今泉:プレーヤーとして素晴らしいメンバーが集まっていると思うので、それぞれの持ち味を活かせるような曲を書きたいな、とは常々考えています。
『CIRCLES』トレーラー
●収録曲のソングライティングの着想やアレンジのアイディアを可能な限り聞かせて下さい。
「皮肉屋」~
◎今泉:書いたのはちょうどコロナ禍に突入した2020年初頭です。Whitneyみたいな少し牧歌的で大きめなメロディーに、当時自分の中でぐつぐつと沸いていた憤りやもどかしさを言葉にして乗せました。
◎渡瀬:歌詞の世界観にあわせて特にイントロとアウトロは不穏な感じを演出しつつ、歌のバックのスライド・ギターやギターソロは明るい音選びで少しだけ希望のようなものを表現したつもりです。着想としては、WilcoやWhitneyなど近年のUSインディーのイメージがありました。
◎橋本:最初の緊急事態宣言の時に送られてきた曲ですね。シンプルな演奏ですが緊張感をだしたいなと思い、アップライトにしました。
●サウンド面ではプレイリストでも挙げているWhitneyからの影響というのは興味深いです。Whitney は2019年の『Forever Turned Around』を星野源氏などが年間ベスト・アルバムに選んでいて、ミュージシャンズ・ミュージシャンズという存在ですが、コロナ禍に入った当時の社会情勢が作詞面におよぼした影響というのはどの辺りに出ていますか?
冒頭から「きみは嘘つき とても好きになれない」やサビの「顔に引っ付いて 消えなくなった
そこに潜んでいたのかアイロニー」などサウンドとは対照的な辛辣なラインがありますが。
◎今泉:仰る通り、「皮肉屋」「スロウリー」では大きく影響が表れていると思います。作詞においては、暫くの間は影響を受けてしまうだろうと思います。
「デジャヴ」~
◎今泉:もう少し緩やかな曲として産まれました。上京した頃暮らしていた石神井公園〜大泉学園あたりの深夜から明け方を舞台に歌詞を付けています。アレンジは、どこか暗くて重苦しい負の硬質なAORみたいになったかなと。たぶん、あまりいい思い出ではないんでしょうね。
◎渡瀬:なかなかギターはアレンジが決まらず苦労しました。ソロはSteely Dan期のラリー・カールトンを少しだけ意識しましたが、うまくいったのかどうかはわかりません。
◎橋本:デモの時点で今泉君がベースラインいれていて。音数も多かったので、そこから削ぎおとしつつ整えていきました。特にBメロなんかは、ここに行き着くまでけっこう苦労したんです(笑)。
●この曲、マスタリング前のラフミックス音源を聴かせてもらった段階から一聴して虜になった曲なんですよ。イントロの渡瀬さんのギターリフから、橋本さんのベースと岡田梨沙さんのドラムのコンビネーションなどブルーアイドソウル~AORのテイストが濃くて好きにならずにいられないという(笑)。
また橋本さんのコメントにもありますが、不安定なヴァース(Aメロ)からこのブリッジ(Bメロ)があることで、開放感あるサビに美しく繋がったと思います。「お互い死に際に会えたなら それでいいだろう」と最期のラインは感動的で、入口は重苦しい世界観で複雑な構成なんだけど、最期にヒューマニズムが滲み出ているマインドを感じられたという。
◎今泉: 今作の制作の中では初期の楽曲で、僕個人としてはこういうトーンで纏まったアルバムになるかなとイメージしていました。結果ならなかったのですが。
◎今泉:弾き語りのデモはもっとフォーキーで、記憶は曖昧ですが田島貴男さんをイメージして書いた曲だったと思います。アレンジは、当時メンバー内で盛り上がっていた「Running Away」(Vulfpeck)の影響を受けています。
◎渡瀬:レコーディング時期にVulfpeckの「Running Away」をメンバー間でよく聴いていたこともあり、全体のアレンジはその曲に引っ張られているところが大きいと思います。ただDavid Tのように弾くことは僕にはできないので、結局アウトロのソロは自分らしいブルージーな感じになりました。
●Vulfpeckの「Running Away」にはデイヴィッドTとジェームス・ギャドソンが参加していて、そのデイヴィッドは昨年弊サイトのベストプレイ企画をした際渡瀬さんにも参加頂きました。原点回帰的ソウル・ミュージックのサウンドに、松本隆的な映像が浮かぶ詩世界が融合していて完成度が非常に高いです。「無言の街に 誰かのバイブレーション 響いて聞こえる」の後の谷口さんのアナログシンセの無限音階も実に効果的ですしね。
デモの段階で田島さんの作風をイメージしていたという点が気になりますが、オリジナルラヴを愛聴されていたんですね? 『風の歌を聴け』(94年)や『RAINBOW RACE』(95年)はリアルタイムで聴き込んでいましたが、90年代日本のポップスの完成形だと思っています。
◎今泉:そうですね、大好きです。田島さんに限らず、フェイバリットミュージシャンが歌っている姿を想像して作曲することはしばしばありますね。
「かっこわらい」~
◎今泉:シーズンソングを書いてみよう、という軽薄なきっかけで書いた曲です。いろんなアレンジを試しましたが、メロディーが強くて拒絶反応を起こす面白い曲でした。最終的にはPerfume Geniusをイメージした、機械っぽい生のリズムアレンジになりました。
●等身大の詞の世界に好感が持てます。Perfume Geniusを聴き込んでいないのでその影響が掴めないのですが、シャッフルのリズムやメロトロン系キーボードを入れるアレンジは今泉さんのアイディアですか?
◎今泉:シャッフルのリズムは書いた時からですが、それ以外はサポートメンバーの谷口雄君によるアイディアです。特にこの楽曲に関してはアレンジの大半が彼によるものです。
◎橋本:イントロとアウトロの谷ピョンのオルガンに私の願いが詰め込まれています。
●元森は生きているのメンバーで、多くのセッションに参加しプロデューサーとしても活躍している谷口さんへのシンパシーを感じました。シンコペーションが効いたオルガンもそうですが、ウーリッツァーのプレイも素晴らしいです。
この曲ではドラムの岡田さんがコーラスも担当していますが、今泉さんの声とのコントラストがいいので、今後も依頼してはどうでしょうか。
◎橋本:STAXのコーラスグループ「Mad Lads」の曲に元ネタがあって。これははまるんじゃないかと谷ピョンにリクエストした次第です。りっちゃん(Risa Cooper)は昨年ソロデビュー(下記画像参照 / 2020年11月)もしていますし、どんどん歌って頂きたいです。話声は大きくて賑やかだけど、歌声はとても繊細で素敵です(笑) 。
(1stシングル / タイトル曲~作詞作曲:今泉雄貴)
「フォロー・ユー」~
◎今泉:ライブのMCでも何度か話していますが、津川雅彦さんのことを考えて作りました。バンド・アレンジとしては最初から現在のリズムパターンでアレンジを開始しましたが、元々はスローな3連で作った曲です。
◎渡瀬:短い曲なので起承転結を付けるのが大変でしたが、ファズとディレイを使ったロングトーン中心に、歌詞の寂しさとか余韻とかを裏付けられるようにアレンジしました。
◎橋本:フレットレスの音色が、曲の世界観に合うかなと。演奏がシンプルなだけに音色で少し味付け、程度ですが。
●昨年『抱きしめられたい』のカップリングで聴いた時から好きな曲でした。谷口さんのウーリッツァーのコード・ワークとリズム・セクションのコンビネーション、そこに絡む渡瀬さんのギターリフという必要最低限の音数で、今泉さんの鼻腔から響く独特の声質をよく引き立ています。
ところで俳優の津川雅彦氏のことを考えという着想が非常に気になりますが(笑)、津川氏が生前に出演されていた映画やドラマのストーリーに歌詞を影響されているとか?
◎今泉:いえ、俳優としての出演作品からではなく、彼が亡くなったときに感じたことをきっかけに作詞をしました。
~bjonsは3人ともあんまり喋らないから、
サポート二人の無駄話のおかげで終始リラックス~
●レコーディング中の特筆すべきエピソードをお聞かせ下さい。
◎渡瀬:コロナ禍のためスタジオに集まれず宅録でのアレンジをはじめたことによって、逆にみんなの向き合い方が変わり、無駄な音がなくなったような気がします。またレコーディングが大きく2回に分かれて、さらにその間1年空いたことで、モチベーションとかどうなるかな?と思ったのですが、エンジニアの原さんが大変面白い人で、現場は毎回楽しかったです。
●コロナ禍によりバンドとして新たなレコーディング手法を取ることになり、その効果がサウンドに影響したことは興味深いです。その影響が最も現れているのはどの曲でしょうか?
またエンジニアの原真人さんは、細野晴臣氏をはじめWorld Standardやカーネーションなど拘り派ミュージシャンのレコーディングに携わっていることで知られますが、ギタリストとして外部のセッションにも参加している渡瀬さんとして、勉強になった点は何かありますか?
◎渡瀬:アルバムに先駆けて、宅録で作った「皮肉屋」「頼りない魂」「スロウリー」の3曲のデモ音源をbandcampにて販売したのですが、特に「皮肉屋」と「頼りない魂」は、順番にそれぞれが音を足してデータ上でやり取りする、という方法による効果が如実に出ている気がします。
スタジオでせーのでヘッドアレンジする際より、みんなの音をより意識しながら進めたので、ほんとに必要な音しか鳴っていない、って感じになっていると思います。
レコーディング中に自分がヘッドホンで聴いている音と、コントロールルームに戻ってスピーカーでプレイバックした音が全然違ってがっかりすることってよくあるんですが、原さんは、録っている時も気持ちいいし、プレイバックでも「もうこのままで最高!」と思える音で録ってくれます。大体いつもふざけていますが(笑)、リラックスさせてくれますし、人間としての魅力が仕事にも出ているんだろうな~と思います。
●デモ音源を先行でネット販売というのは新しい試みで、ファンにとっては曲が完成に近付く過程が分かるので面白いと思いますが、リリース前にデモの段階で発表することの抵抗はなかったですか?
挙げられた曲について、データのやり取りで音を重ねていった効果というのがサウンドを形成していったのが理解出来ました。
また原さんのプロフェッショナルな仕事振りと共に、人間性も伺えて非常に興味深いです。エンジニアに原さんを推薦されたのは渡瀬さんですか?
◎渡瀬:bandcampで発表する際はアルバム・リリースの段階ではなく、純粋に新曲を公開する場として捉えていたので、特に抵抗はなかったですね。
原さんにお願いしようと言い出したのは僕ではなく、恐らく今泉か谷ぴょんだったと思います。
●なるほど新曲公開という趣旨だったんですね。原さんへのオファーの経緯も理解しました。
では他のメンバーの方でエピソードはないでしょうか?
◎橋本:こんな状況ですし、ほとんど音を合わせることもなくレコーディングに入りましたが、わりとトントン拍子に録れました。渡瀬君も言っていますが、原さんは本当に気持ち良い音で録らせてくれるなあと。bjonsは3人ともあんまり喋らないから、サポート二人の無駄話のおかげで終始リラックスできました(笑)
●サポートの谷口さんと岡田さんによって和やかにレコーディングが進んだようですが、本作収録で橋本さんが特にお二人のプレイでお気に入りの曲とその個所を挙げて下さい。
◎橋本:お二人とも全曲素晴らしいプレイなので全てお気に入りです。特別選ぶとなると難しいですが…。
「頼りない魂」は宅録していく過程で、リズムがきて、そこにベース重ねて。で上物がどうくるのか楽しみに待っているわけですけど。頭のシンセ聴いて興奮しました。そしてサビ、ピアノの8分の刻みは非常に印象的で、曲をグッと引き締めています。心地よいですよね。
「鈍行アウェイ」は、確かスタジオで合わせてさらっと出来上がった曲だったような。淡々としているようですが、様々な感情がリズムに込められているように思います。穏やかであたたかいリズム。アルバムの中でも一番優しい曲ですよね。
●ソングライティングやレコーディング期間中、イメージ作りで聴いていた曲を挙げて下さい。
◎今泉:
◎若い頃は苦手だったこの手のサウンドですが今では大好物です。デジャヴで影響を受けています。
◎Whitneyのレコードは音が悪いイメージでしたが、このカバーアルバムは丸いのにガッツがあって好きな音です。皮肉屋で影響を受けています。
◎Randy Newmanを愛しています。スロウリーで影響を受けています。
◎ちょっとストレンジなサザン・ソウル風味のカントリー?ハードレインで影響を受けています。
◎渡瀬:
◎前述の「皮肉屋」のイメージはこのアルバムかなと思いますが、今聴いてみたらエレキギターの印象はだいぶ薄かったです。全体のイメージということで。
◎「頼りない魂」は本アルバムの中でも特にスカスカなアレンジですが、その中でトム・ミッシュのボイシングやディレイの使い方は、この曲に限らずわりと参考にしました。
◎「ハードレイン」はHiサウンドでいこう、となったときに真っ先に思いついたのがこの辺の曲でした。アル・グリーンはこのアルバムが一番好きです。
◎特に今回のレコーディング中に聴いていたというわけではないのですが、西川さんのギターの影響は自分にとって非常に大きく、「フォロー・ユー」のアレンジなどに自然に出てしまっていると思います。
◎橋本:
◎「かっこわらい」をアレンジするにあたり、変わったものにしたいと思って。各楽器のリズムの絡み具合が面白い曲です。
◎マラコの演奏は、良い意味で可もなく不可もなくというか。録音中もよく聞いていました。その中でもお気に入りの曲です。
◎なにかとヒントをくれるのがジョージジャクソン。この度も大変お世話になりました。
◎「頼りない魂」のイメージに合いそうな、この類いの曲を色々聞いていたのですが、改めて最高の曲だなと(笑) 。
●リリースに合わせたライブ(配信含む)があればお知らせ下さい。
◎今泉:12/11(土)のお昼に、下北沢440にてリリース記念ライブを予定しています。
今後の状況は不透明ではありますが、僕たちは楽しく演奏したいと思っています。
詳細が決まりましたらTwitter(@bjons_info)にてお知らせしますので、チェックしてください。
●では最後にこのセカンド・アルバムのピーアールをお願いします。
◎今泉:長い時間がかかりましたが、前作よりもパーソナルな、思い入れのある曲ばかりが揃いました。ぜひ聴いてみてください。
◎渡瀬:派手な楽曲は入っていませんが、今の過酷な世の中の状況を反映しながらも、どこかしら希望を感じさせるようなアルバムになっていると思います。何回も繰り返し聴けると思いますので、ぜひ。
◎橋本:良い作品ができたと思います。聴いてみて下さい。音楽はよいものです。
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