2021年10月30日土曜日
ポニーのヒサミツ:『Portable Exotica』(TETRA RECORDS / TETRA-1038)
2021年10月23日土曜日
HACK TO MONO(part2 スタート編)
前回モノ音源探求の大志を抱きながらも、ヘッドシェルの装着に苦しむといういきなり企画倒れか?という展開となった。
しかしながらここで終わらせてはいけない。
穴がない!ならば開ければいいのだ。と、意気込みはあるもののDIYを嗜むほどの技量もなく、DIYショップ等でどうにかなるさ!と調べるとどの店舗も購入した材料の穴あけ加工なら対応可のものばかりで振り出しに戻ってしまった。
最後の手段しかない、近隣の金属加工可能ないわゆる町工場へ持ち込んで加工を依頼してみよう。拙い日本語で何とか悩みを聞いてくれた所があり対応してくれることとなった。
この度は株式会社佐藤製作所(目黒区鷹番3-20-7)のご一同様非常にお世話になりました。
加工後のヘッドシェルを受け取りさっそく装着してみよう。
ここでもトラブルが連発する。まずこのカートリッジの推奨針圧が6グラム以上なのだ、ステレオ時代以降のターンテーブルは通常3グラム程度でこのようなヘビーな仕様にはなっていない。
当方の愛機も1970年代初頭と雖も3グラムまでが精一杯。
思案のしどころである、穴がないなら開けてやろう!で穴を開けたならば軽いなら重くしよう!
加工したヘッドシェル自体DJ仕様で穴を開けた場所にはウエイトが付けられるようになっていたので、今回は前方にも穴を開けてもらった。
そこに4グラムのウエイトを装着して全体に圧をかけることとした。
ゼロバランス調整後にウエイトを装着することで4グラムの針圧からスタートして最大7グラムまでを可能にした。
針圧に対応するぶん、ヘッドシェルの自重は20グラムをオーバーしてしまった、愛機のトーンアームはなんとか対応できるようだ。
念の為インサイドフォースも対応せねばならない、対応する錘がない為、ナットとクリップを両面テープでくっつけて調整。
これで舞台はととのった、あとは再生だけだ。
針をレコード盤に載せてみる、音は出るようだ。
だが、何だかおかしい。やけにビリビリする変な音がするのだ。
しかもトーンアームもガクンガクンと揺さぶられている。
Good VibrationsどころかBad Vibrationsである。
カートリッジ自体が要介護状態ならもうあきらめるか?
再度ブログなどで情報収集すると針の一部がカートリッジのパーツに触れていると起きる現象のようだ。
針は一応交換できるようになっているのだが、これがなかなかの曲者。
現代の交換針からすれば驚きのいい加減さで曲がっていたりする。
しかもパーツの振動対策にはゴム二切れが接着してあるだけだ。
当方の針を確認するとやや右に曲がってパーツと完全に干渉していた。
さらにこのゴム片も60年以上経過し耐久性は怪しいものである。
懸念はあるものの、再度調整後針を載せてみる。
見事!歪みのない音が再生できた。
今度こそGood Vibrations!
ヘッドシェルに開けた小さな穴が60年以上前の技術をつなぐタイムトンネルとなってくれたのだ。
目黒の佐藤製作所の皆さんへ再度の多謝!!!
今後安定的にレコード再生するには例の怪しいゴム片が気になる。
いったん除去後新しいものを装着してみたい。
サイズ的に合うのは輪ゴムの断片だが、経年劣化で溶けることもあり、他の代替物を模索していたが、答えはゴム製品以外にあった。
地震対策グッズで自宅にあった防振シートジェルだ。
正解かどうかわからないが、スライスしてゴム片を除去した場所に装着。
レコードを再生しても音に問題なかった。
すったもんだの末何とか安定的に再生できる環境は整ってきた。
ここでカートリッジを繋ぐリード線を交換する。
材質及びハンダも50年代製で統一した。
最後は音質の調整を行う、というのは歪みやビリビリする現象は解消できたが、どうもキンキンしがちな音が気になる。
再度ブログなどで確認するとカートリッジ側の抵抗値などとマッチしない場合が結構あるようだ。
素直に従えば盤によってトランスや抵抗をリード線の間に挟まねばならない。
手作業で行うのは煩雑だし非現実的だ。
現代的な感覚からいけばこのカートリッジは限りなくMM型に近いがMC型の性格も併せ持っているということになる。
もともと使っていた機材にこの環境にうってつけの物があったのでターンテーブルから直接接続する。
フォノイコライザーへ接続し最後の出口のアンプをどうするか?
レコード音源をなるべくダイレクトにパソコンへ取り込むこともあり一旦Universal Audio社のIOへ取り込むこととした。
同機材の優れたところは本体自体良質なアンプ性能もある一方で、パソコン内で取り込んだ音声をヴィンテージ機器の回路を再現したソフトで再生してくれるのだ。
そこで再生にあたってはおなじみのUniversal Audio社の610モジュール。(詳細は弊サイト2021年2月19日掲載記事参照)
でアンプ兼コンソール効果を付加し、さらに追加で当時の西海岸でも広く使われたPULTEC社のEQP-1A(ただしパラメーターはhigh low0)を加えた。
最後にカートリッジの最終選定をおこなおう。
上図の中央はGE社を市場から駆逐したにっくきShure社のM7D初期型ステレオカートリッジである。
しかしこの選定作業もあっさり終わってしまった。
ステレオカートリッジは針が左右上下に動く為、音声のみならず、ノイズを拾ってしまうのだ。GE社の場合モノラル専用の為、左右しか動かないうえに7グラム以上の針圧で小さな傷でも重戦車の用にズンズン乗り越えノイズはほとんどない。
よって上図左右のカートリッジで聴き比べすることとした。
機器の長寿を願って
右を「きんさん」
右を「ぎんさん」
と名付けた。
以下紹介する音源はオリジナル盤から取り込んだものであり
ソフトウェアによるノイズ除去処理は一切行っていない。
レコード盤はオリジナル盤から選び、Capitol盤は西海岸盤とし
RIAA制定及びステレオ音源の普及を考慮し1964年までのリリース
を対象とした
「Surfin’」(Candix331) 1963
まずはきんさんから聴いてみよう。
リマスターされているキンキンした音に対して太くやわらかい音だ。
特にリマスター音源では薄めのエコー成分が見事に出ている。
Carlのミュート気味かつChuck Berry風のカッティングも中低音が出てセッション全体の空気を感じることができる。
それではぎんさんで聴いてみよう。
きんさんに比べて全体がグイッと前に出る印象
キックやベースの低音がドンドンと鳴っており、
(Alの持ち込んだアップライトベースが巨大すぎてスタジオの大半を占めた)それに負けじと全員が必死にヴォーカルマイク周辺に声を張り上げる必死さが伝わってくる。
ぎんさんの方がガツン、と聴きどころを訴えかけてくる点が印象的だ、放送局仕様と言っても遜色ない特性である。
(text by Akihiko Matsumoto-a.k.a MaskedFlopper)