The Bookmarcs(ブックマークス)が、2018年の『BOOKMARC MELODY』から3年振りとなる最新作のサード・アルバム、『BOOKMARC SEASON』を9月29日にリリースする。
彼等は弊サイトのベストプレイ企画でお馴染みの作編曲家の洞澤徹と、今年5月に初ソロ・シングルをリリースしたthe Sweet Onions(スウィート・オニオンズ)の近藤健太郎が、2011年にタッグを組んだ男性2人のユニットだ。
『BOOKMARC MELODY』リリース後は翌19年に「Let's Get Away~かりそめの夏~」(7月)、「君の気配(duet with 青野りえ)」(11月)、20年には「雲の柱(spring jazz mix)」(3月)、「When I Was Young」(8月)、「Candy」(12月)とコンスタントに配信で新曲を発表しており、その活動をファンにアピールしてきた。今年に入ってからも「Days」(6月)と本作『BOOKMARC SEASON』のリードトラックとなる「Night Flight」を9月24日に発表する予定だ。
70~80年代AORから強く影響を受けたギタリストである洞澤の作編曲によるサウンドと、ギターポップ・バンド出身のヴォーカリスト、近藤の甘くジェントリーな歌詞が融合した楽曲は唯一無二のスタイルで、希有な男性ユニットと言えるだろう。
本作のジャケットにも触れておこう。街路樹の木陰で休息を取る二人の何気ない瞬間をとらえた、写真家の尾崎康元氏によるショットだ。構図やコントラストが見事で、ECMレコードを彷彿とさせる川久保政幸氏のデザインも相まって、長く聴けるこのアルバムを強く印象づけている。
ここでは筆者と交流がある2人におこなった、この最新アルバムの曲作りやレコーディングについてのテキスト・インタビューと、ソングライティングやレコーディング期間中にイメージ作りで聴いていたプレイリストをお送りするので聴きながら読んで欲しい。
CDはそれを一つ上のステージに上げて集大成にする役割~
●『BOOKMARC MELODY』の後2019年から今年の6月までの間、コンスタントに6曲を配信リリースしていたので、今回の『BOOKMARC SEASON』に至るまでブランクを感じさせることはなかったです。
こういうリリース方法は戦略的にも考えてのことですか?
◎洞澤:戦略的というか、自然な流れでそうなった感じです。ですが常にフィジカルとしてのリリースはどこか意識してはいました。配信はとにかくスピード、CDはそれを一つ上のステージに上げて集大成にする役割。しかしながら配信はCDの劣化版では決してなくその時の空気を詰めたもの。今後も同じ流れになっていくかもしれません。
●成る程、自然の流れだったんですね。配信とCDアルバムの各役割を棲み分けているのは分かり易いですし、ブックマークス(以降ブクマ)ファンにとっても、コンスタントに新曲を聴けるのはいい傾向ではないでしょうか。今後も同じ様なスタンスでリリースするとのことですので、コンスタントな新曲発表を期待しています。
◎洞澤:はい、新曲が作り終える頃には次のアイデアがもう沸いていることが多いのでコンスタントな発表が今後もできると思います。
●先行配信していた曲の方が多く、レコーディング時期も曲毎に異なる訳ですが、新曲の「Night Flight」、「マリンブルーの街」、「Birthday」も含め、ソングライティングの着想やアイデアを可能な限りお聞かせ下さい。
The Bookmarcs third album
「BOOKMARC SEASON」trailer
◎洞澤:「Night Flight」に関して、僕らは’70 や‘80のAORやソフトロックが大好きですが、それらをただトレースするような感じにはしたくありませんでした。アウトプットはどこかやはり時代感と自分を飽きさせない何かがないといけないし。メロディは普遍的に、でもアレンジは少しだけ違和感、ミックスは隙間をちゃんと感じさせたい、そんな心持ちで作りました。
「マリンブルーの街」は僕らパーソナリティを務めるラジオ番組「The Bookmarcs Radio Marine Café」の「誰デモ!サウンドクリエーター」という作曲レシピを紹介するコーナーから生まれた曲です。曲解説を前提として作ったためメロディとコードもわかりやすい構成です。基本のデモから、どうやって現状音楽シーンのなかでリリースに耐えうる仕上がりにできるかをけっこう考えました。ベースの北村規夫さんの、間をうまく使ったプレイで随分正解に近づけた気がします。
あと最近変わってきたことといえば、以前はシンセメロで近藤君に曲を渡していたものが、仮歌を自分で歌って渡す機会が多くなった気がします。最近の音楽は特にそうですが、メロのクセやニュアンスはただ鍵盤を弾いただけでは歌い手には伝わりにくいですよね。
「Birthday」に関しては最初からアルバム通し聴きしてもらうことを意識して最後から2曲目あたりのほっこりした雰囲気を想定して作りました。配信シングルだけ作っているとこういう曲は作らなくなるかもしれません。(実際には最後から4番目という位置付けになりましたが)
●「Night Flight」はイントロからトーンの異なるギターの構築方法が洞澤君らしいと思いました。以前の「I Can Feel It」(『BOOKMARC MUSIC』収録)や「Flight!」(『BOOKMARC MELODY』収録)などにも通じる職人ギタリストらしいサウンドですよ。
「マリンブルーの街」はブクマのレギュラーラジオ番組のコーナー企画から生まれたということですが、それだけではない曲の良さが滲み出ているのはさすがと思いました。北村さんのベースと足立浩さんのドラムの絶妙なコンビネーションがとてもいいですよ。
「Birthday」はこれまでの洞澤君のソングライティングには見られない、近藤君のポール・マッカートニー趣味に寄せた曲調が新鮮でしたね。
個人的には「君の気配」が配信された時期からよく聴いていたので思い入れがありました。確かこの曲は当時お二人と飲んだ時、青野りえさんとデュエットするアイデアを先に聞かされていたので印象深かったのかも知れません。青野さんのファースト『PASTORAL』(2017年)は、流線形の『TOKYO SNIPER』(2006年)に通じるセンスの良いアルバムでしたからね。
また最近は仮歌を自分で歌って渡す機会が多くなったということですが、どのようなスタイルで歌っているんですか、スキャットとか?それも聞きたいな(笑)。
PASTORAL / 青野りえ
◎洞澤:「君の気配」は落ち着いた大人のミディアムテンポなシティソウルを念頭に置いて、そこにアコースティック感をミックスしたいという考えが最初でした。エレキでは程よい丸さと太さのテレキャスターシンラインが良い仕事をしてくれました。フレーズはもちろん、デイヴィッド・Tの影響も受けていますが、最近のneosoul系のギタリストの動画をたくさん見ていますので少し滲み出たかな。
仮歌はメチャクチャ英語です(笑)。サビは特に母音を大事にして仮歌を歌っています。
●大人のミディアムテンポなシティソウルというのは、実にブクマらしいですね。仮歌のメチャクチャ英語(笑)ですが、実はニュアンスは伝わっているんじゃないかと思います。
近藤君も作詞の着想やアイデアをお聞かせ下さい。
◎近藤:歌詞に関してですが、「Days」と「マリンブルーの街」はラジオをテーマに、「Let’s Get Away~かりそめの夏~」は大人のちょっと刹那な夏、「Candy」はクリスマスといった、明確にお題を決めて歌詞を書きました。
今までそういう作り方はほとんどしてこなかったのですが、テーマに沿った歌詞作りは新鮮で、比較的スムーズに書き上げることが出来たのは、個人的には新たな発見と同時に嬉しい体験でした。
●「Days」と「マリンブルーの街」の2曲はいずれもラジオ番組の企画で各モチーフは異なりますが、共通して言えるのは近藤君らしいジェントリーな世界観が垣間見られることですね。
「Let’s Get Away~かりそめの夏~」は配信された時期に感じていましたが、曲調とアレンジは新境地で、歌詞の設定も近藤君の爽やかなイメージからは想像出来なかったです(笑)。「Let's Get Away She's Got A Way Just A Runaway 幻を見た かりそめの夏に」という意味深な歌詞には驚きました。このモチーフはどんなところから?
◎近藤:夏の逃避行をなんとなくイメージして書いてみました。ほんの少し退廃的で、気怠さや投げやりな気持ちを、ひと夏の風景の一部に重ねてみたいなと。同時に、80年代のTVドラマ『ふぞろいの林檎たち』というタイトルがなぜか頭に浮かんできて、試しに「ふぞろいの夏に」と歌いながら言葉を当てはめてみた瞬間、スラスラと言葉が湧いてきました。ドラマは実際観ていないので、歌詞とドラマのストーリーは全く関係ないのですが。
●『ふぞろいの林檎たち』(83年5月)は著名脚本家の山田太一氏の代表作で、落ちこぼれの大学生達の群像劇でしたね。しかしドラマ自体は観ていなくて、タイトルだけをモチーフにしたというのは面白い発想です(笑)。確かにドラマを観てストーリー自体にインスパイアされていたら、もっとどろどろした歌詞内容で曲調に合わなかったでしょうね。
また洞澤君への質問の回答で、デモの仮歌がメチャクチャ英語というのがありましたが、近藤君がそれをもらってどんな反応をしながら歌詞を作っていくのかが興味があります。
◎近藤:結構そのメチャクチャ英語の響きに引っ張られております(笑)。でもそれはある意味正しいというか、いわゆるメロディと相性の良い言葉の響きなんですよね。自分で曲を作るときも全く同じで、なんとなくメロディにのった言葉で歌っていて。だからわりとそこを大切に意識しながら言葉を探していきます。
例えば「Birthday」のサビの出だし、洞澤さんは「I Say」って歌っていたんです。そこで見つかった言葉は「Birthday」でした。うまくハマった!と小躍りして、そうだ、誕生日の歌を作ってみようと思い立ったわけです。
また「マリンブルーの街」のサビ中に出てくる「トゥルルルルー」も洞澤さんがそう歌っていて、これはもうそのまま生かして、前後の言葉や全体の世界観が決まっていきました。
洞澤さんが引き出してくれた~
●次にレコーディング中の特筆すべきエピソードをお聞かせ下さい。
◎洞澤:全般的にコーラスアレンジは近藤君が担当し、部分的に僕がアレンジしたりアイデアを出したりしているのですが、レコーディング中、アイデアが広がったり混ざりあったりしていろいろトライしていくうちに最良のものが出来上がる瞬間は楽しかったです。
●近藤君自身もthe Sweet Onions(スウィート・オニオンズ)やソロで、曲作りとアレンジまで自己完結させるミュージシャンですが、明確に役割分担されているブクマでの作業でも洞澤君が作ったリズムトラックに対して、近藤君が「もうちょっとテンポを上げましょう」や「楽器パートを足しましょう」というようなアイデアを出すこともあるんですか?
◎洞澤:たまにアイデアをもらうことはありますが、ほとんど僕が決めています。キーに関してはけっこう相談しながら一緒に決めることが多いです。
●やはり役割分担でレコーディング作業しているという感じですね。
では収録曲の中で完成までに最も時間を費やした曲を教えて下さい。そのエピソードも。
◎洞澤:やっぱり書き下ろしの1曲「Night Flight」でしょうか。ギターのバッキングに神経を使っていろいろフレーズを考えたり、テレキャスターシンラインで試したりストラトキャスターで試したり(結局ストラトで弾いた)、ギターとオケのバランスや他の楽器のフレーズパターンとの噛み合わせもあれこれ試したりして一番時間がかかった気がします。歌の本番録音の際に土壇場でキーを変更して、また一から弾き直しもしたり・・・苦労した分愛着が湧きました。
●「Night Flight」のあのギター・トラックの構築には試行錯誤があったんですね。それを感じなが聴き込みます。
では近藤君も特筆すべきエピソードをお聞かせ下さい。
◎近藤:ボーカルレコーディングはお互い限られた時間の中で、悪戯に時間を費やすことなく、集中力を高めレコーディングすることが出来ました。勿論時間をかけたレコーディングも大切ですし、時間の余裕があれば何テイクも歌うことはやぶさかではないのですが、集中して短期で録るボーカルテイクの良さを、洞澤さんが引き出してくれたと思います。
今迄は「すいません、もう一回歌い直したいです」と無理を言ってお願いしたこともあるのですが、今回はそれがなかったことは成長?したのかも知れないし、ささやかですが、個人的には特筆すべきエピソードと言えるのかもしれません。
●歌入れを集中して短期間でおこなって、何テイクも歌い直しをしないというのは画期的ですね。確かに古今東西で名曲と言われる曲は1テイクか2テイクと聞きます。それを引き出した洞澤君はさすがですね。
昨年からのコロナ禍でのレコーディング方法で新たに実践したことは何か無いでしょうか?
◎近藤:実践とはちょっと意味合いが違うのですが、コロナ禍以降、自分で宅録する機会が増えました。ステイホームで生活のリズムが変わり、逆に歌う機会が増えたことにより、本番のレコーディングも今迄以上に自信を持って臨む事が出来ました。
◎洞澤:
■Nobody’s Fault / Benny Sings (『music』/ 2021年)
○音色や全体のバランス 歌のテイストが好きで繰り返し聴いて体に染み込ませました。
■Rolled Up feat. Mac DeMarco / Benny Sings
(『music』/ 2021年)
○テンポ感・アレンジ・隙間感・丁度良い抜け感が最高。
■Groovy Times / Paul Petersen
(『The World is a Ghetto』/ 2017年)
○大人っぽいクリーンギターのカッティングアレンジが好み。サビの程よい高揚感。
■Hide Away / Christian Gratz(『1981』/ 2021年)
○70’ 80’ のエキス満載のアレンジがたまりません。
■Lost In Paris / Tom Misch(『Geography』/ 2018年)
○洗練されたギターリフパターンは多いに参考にしました。
■Meet Me After Midnight / Jakob Magnusson
(『Jack Magnet』/ 1981年)
○この曲のコード進行とそれに当てたギターアレンジが好き。
■Goin' Downtown / LATUL(『LATUL』/ 1981年)
○ヒラ歌部分のベースパターン、ストーリー性ある曲展開。
◎近藤:
■The Like In I Love You / Brian Wilson
(『Reimagines Gershwin』/ 2010年)
○圧倒的なキャリアと、波乱に満ちた人生経験を経て到達した歌声は、ただただ優しく慈愛に溢れていて、その包容力に心が奪われてしまいます。
■Clair / Gilbert O’Sullivan(『Back To Front』/ 1972年)
○新曲「Birthday」のデモを聴いた時に思い出した曲です。こちらもまた優しい眼差しを感じる楽曲と歌声で、自分の表現力を培う上で、何度もリピートした曲です。
■She / Jeff Lynne(『Long Wave』/ 2012年)
○ジェフ・リンが歌う「She」が大好きです。重厚なコーラスと、彼が手掛けたThe Beatlesの「Free As A Bird」と地続きなアレンジが堪りません。
■Wichita Lineman / James Taylor(『Covers』/ 2008年)
○ジェームス・テイラーが歌うこの曲もまた大好きです。どこまでもジェントルでスマート、憧れます。確か洞澤さんもこの曲を僕達のラジオ番組「The Bookmarcs Radio Marine Café」で選曲していましたね。
■For Once In My Life / Stevie Wonder
(『For Once In My Life』/ 1968年)
○「Let’s Get Away~かりそめの夏~』のレコーディング時によく聴いていた曲です。自然と身体が動くってこういうことなんだなぁと。
■Dead Meat / Sean Lennon(『Friendly Fire』/ 2006年)
○相変わらずショーン・レノンが好きでして、この繊細かつ色気のある歌声、日本的情緒も感じるメロディ、メランコリックな世界観が本当に素晴らしいです。
■Les Champs-Élysées / Joe Dassin
(『Les Champs-Élysées』/ 1969年)
○映画「ダージリン急行」のエンディングにも起用された、ジョー・ダッサンが歌う「オー・シャンゼリゼ」。なんとなくThe Bookmarcsの「Candy」のレコーディング時によく聴いていました。歌詞も影響を受けています。今は「街へ出よう!」と声高に言えない世の中ですが、そんな日々においても人生を肯定し、音楽を通して幸せな気持ちを味わうことが出来たらなと思います。
●リリースに合わせたライブ(配信含む)があればお知らせ下さい。
◎洞澤:10月中にバンド形態の配信ライブを企画中です。
日時は調整中なので詳細はSNSなどでチェックお願いします。ぜひ皆さん観に来てください。
TheBookmarcs twitterアカウント:https://twitter.com/TheBookmarcs
●では最後にこのセカンド・アルバムのピーアールをお願いします。
◎洞澤:3枚目にしてやっと近藤君のボーカルトラックの作り方とか、全体的に思い通りに近いミックスにたどり着けた気がします。
何度も聴けるアルバムに仕上がっていると思いますのでどうぞよろしくお願いします。
◎近藤:最新作が1番の自信作。胸を張ってこう言えることが素直に嬉しいです。今まで僕達のことを知らなかった人は勿論、ずっと聴いてくれていた方々にも、新鮮な気持ちでこの新作が響いてくれたら嬉しいです。
(インタビュー設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ)
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