ポップス・バンドthe Sweet Onions(スウィート・オニオンズ)のリーダーで、シティポップ・ユニットThe Bookmarcs(ブックマークス)の活動でも知られる、近藤健太郎が初のソロ・シングルを7インチ・アナログ盤で5月1日にリリースする。
2組の作品で聴かれるサウンドとはまた異なる、歌そのものを大切にしたこのソロ・プロジェクトを大いに歓迎したい。今回の共同プロデューサーにはthe Sweet Onionsのサポート・ミュージシャンなどを務めていた及川雅仁氏を迎えており、マスタリングは弊サイトでも評価しているマイクロスターの佐藤清喜氏が務めている。
ここでは昨年12月の『マッカートニーIII(McCartney III)』の対談レビューも記憶に新しい近藤に、この初のソロ・シングルについて聞いてみた。筆者による各曲の印象についても触れて語り合っているので、このインタビューと共に近藤に選曲してもらったプレイリストを聴きながら読んで欲しい。
~「近藤さんのソロ、うちでリリースしませんか?」と
メッセージが届きびっくり~
●まずはソロ活動に至った動機を聞かせて下さい。
◎近藤健太郎(以下 近藤):以前から作り溜めていた曲が沢山ありまして、自分の責任で自由に表現した作品を一度作ってみたいと、ずっとぼんやり考えていました。そんな中、blue-very labelの中村さんが曲を聴いてみたいと言ってくれて、無邪気に何曲も送りつけてしまいました。
ある日LINEで、「近藤さんのソロ、うちでリリースしませんか?」とメッセージが届きびっくり。本当に嬉しかったです。
●blue-very labelの中村さんからのお誘いが切っ掛けなんですね。そもそも自分でもインディーズ・レーベルphilia records(フィリア・レコーズ)を主宰しているから、自社レーベルのリリースを増やして盛り上げたいと考えるのが普通だと思うんです。敢えて外部のレーベルからリリースするというのは、中村さんの熱心なアプローチに応えたということですか?(笑)
またこのソロ活動について、the Sweet Onionsのパートナーで同じくレーベル運営をしている高口(大輔)君からはどのような意見が出たでしょうか?
◎近藤:そんなそんな、応えたなんて恐縮です。本当にありがたいお話です。送った曲に対して、いつも心のこもった感想をくれてとても励みになっていたので、こちらこそよろしくお願いしますと、中村さんに委ねました。
高口君にはソロをやることになった経緯や、自分の気持ちや思いを長い文章にして送りました(笑)。最初びっくりした様子でしたが、「近藤さんのソロ聴いてみたい!応援するよ」と言ってくれて嬉しかったです。
近藤健太郎 (kentaro kondo) Begin Music Video
~「Begin」は曲が出来た瞬間からフレンチホルンが
頭の中で鳴っていたんです~
●今回収録した3曲ですが、各曲をソングライティングした時期とモチーフなどがあれば教えて下さい。
◎近藤:「Begin」は13年前くらいに作った曲です。The Beatlesの「For No One」で聴けるフレンチホルンや、「Mother Nature’s Son」の印象的なフレーズ、英国的なメロディに影響を受けつつ、ロックな要素も取り入れてみました。歌詞はリリースが決まり、いよいよ書かねばと、悩みに悩んで完成しました。
「American Pie」は、4年前にnote(コンテンツ配信用のプラットフォーム)にデモをアップ。曲と歌詞、ほぼ同時に出来上がりました。ストレートなロック、もしくはマージービート的アプローチと言いますか、この曲はそれを意識した曲調に仕上がったかと思います。
「Heaven」は8年前くらいにピアノで作った曲です。出来た時はちょっと暗いなぁ、でもJohn Lennonの「Oh My Love」みたいで良いかもと思いつつも、ずっと封印していたのですが、今回レコーディングするにあたり、出だしのメロディをガラッと作り変えてみました。まるで別の曲に生まれ変わったかのようで、この曲と新鮮に向き合うことが出来ました。歌詞は「Begin」同様、今年になってまとめ上げました。
●タイトル曲の「Begin」のポールっぽさは、歌に寄り添うアコギやホルンのオブリガートに滲み出ていると思います。イントロからヴァースのアコギの基本コード進行にもそれは言えているけど、ファースト・インプレッションではトレイシー・チャップマンの「Baby Can I Hold You」(『Tracy Chapman』収録/1988年)を彷彿させて、直ぐに鷲掴みにされたのね。さり気なく心に忍び込んでくる、ジェントリーな健太郎サウンドというか。(笑)13年も前の曲なんですね。
同じポール色でも「American Pie」は正しくマージービートにフォーク・ロックの匂いがするバンド・サウンドになっているのが面白いですね。及川(雅仁)さんの12弦ギターのアルペジオがサウンドの要になっていますが、アレンジ面でもリクエストしましたか?
「Heaven」は一転してピアノを中心にしたバラードですね。ヴァースのメロディをモディファイした成果が出ているんだと思いますが、この曲同様のパターンで完成させてリリースした曲というのはこれまでにあったでしょうか?
それと「Begin」もですが、曲先で歌詞を捻り出すコツはなんでしょうか?
◎近藤:「Baby Can I Hold You」は知らなかったので聴いてみました。なるほど!じわじわと心に染み入る、本当に素敵な曲ですね。嬉しいです。「Begin」は曲が出来た瞬間からフレンチホルンが頭の中で鳴っていたんです。今回生で録音することが出来て幸せです。
「American Pie」はまさに及川君と一緒に制作する切っ掛けとなった曲なんですよ。
noteにあげたデモはベースレスだったのですが、ある日突然及川君から「noteにアップしていた曲がとてもよかったので、勝手にベースを入れてみちゃいました。よかったら聴いてみてください」と、音源付きのメールが届きました。聴いてみたらもう最高で、すぐに及川君に返信。ベース入りの音源をnoteに再アップしました(笑)。
軸となるギターのフレーズは、当初のデモの段階からあったので、そこはまず忠実に再現しつつ、12弦のアイデアも含めて及川君がさらに発展させてくれました。ロック色を強めたかったので、歪みのエレキギターを僕が弾いて、全体のグルーブも力強くミックスしてもらいました。
ちなみに「American Pie」の1st Demoは、初回特典のCD-R『Demo Tracks Vol.1』に収録したので、是非聴き比べて欲しいです。
今回の「Heaven」のようなパターン、実はわりとあります。しばらく寝かせて、いや、何年も寝かせて(笑)、今の気分に合ったメロディや歌い方に到達することは多々ありますね。アレンジに関しては、特にどこか幻想的なドラムの音色やパターンが、まさに今の自分の感覚にぴったり寄り添ってくれた感じがして、先程も述べたように、新しい歌に生まれ変わった気がしてとても満足しています。
歌詞に関しては、基本いつも曲先なんで、あらためてコツというとすぐに思い浮かばないのですが、歌にいかにフィットするか、誰にでもわかりやすい印象的な単語を必ず入れてみる、そんなことを気にかけながら書いています。あとは先にタイトルを決めてしまい、そこからイメージを膨らませて作っています。
●改めて「American Pie」のデモを聴きましたが、ギター・リフ自体はデモの時点からあったんですね。それを12弦で発展させるという案は正解ですね。余談ですが、この特徴的なリフを聴くとビートルズの「Ticket To Ride」や「If I Needed Someone」、ザ・バーズだったら「Mr. Tambourine Man」や「All I Really Want To Do」などフォーク・ロックの文脈の印象が強く、後のギター・ポップへの影響力を感じさせますよ。僕はリアルタイムで12弦というとXTCの「Senses Working Overtime」や「Funk Pop A Roll」でしたけど(笑)。
また寝かしてモディファイさせた「Heaven」の話も興味深いです。デモ集に収録されたピアノだけのバージョンでその世界観は完成されていると思います。
曲先での歌詞作りの点ですが、以前The Bookmarcs(ブックマークス)のインタビューでその工程は聞いていたのですが、一人でソングライティングする際も基本同じだったんですね。人それぞれだと思いますが、よくシンガーソングライターは歌詞と曲が同時に湧き出てくるというミラクルなパターンもあるそうで、そんな体験はなかったですか?
◎近藤:フォーク・ロックの文脈からギター・ポップへ。まさにそうですよね。あげていただいた曲、どれも大好きです。あと「American Pie」は、トム・ハンクス主演の映画「すべてをあなたに」の主題歌「That Thing You Do!」の世界観にも影響を受けています。楽曲のみならず、楽しげでちょっぴりレトロな雰囲気の歌詞にしてみました。ちなみに曲の出だしは一瞬あれです(笑)。The Beatlesの「Sgt.Pepper’s Lonely Hearts Club Band - Reprise」。ポールのライブでこの曲を何度となく体感していまして、あの高揚感を自分なりに再現したいと思いました。
そしてこの曲は先程も述べたように、歌詞と曲が同時に湧き出た作品です。自分にとってはミラクルですね。他はどうだろう、同時に出来ることはあまりないのですが、曲と一緒に最初に思い浮かんだフレーズが核となり、そのまま形になることはよくあります。
~僕のやりたいことを汲み取って、理解してくれるところ
からスタートしました~
●今回共同プロデューサーの及川雅仁さんについてですが、どういった活動歴がある方でしょうか?また近藤君との関係性も聞かせ下さい。
◎近藤:及川くんはリカロープさんのプロデューサーとして知られていて、常盤ゆうさんへの楽曲提供とプロデュース等もしています。また沢山のバンドでサポート奏者としても活躍しています。ここ数年はThe Carawayのライブサポートをされていて、ギターやキーボードを弾いています。
及川君とは出会って10年以上経ちますが、僕のバンド、the Sweet Onionsではベース・サポートでお世話になっています。また僕と高口君(the Sweet Onionsのメンバー)でサウンドプロデュースしたシンガー、藍田理緒さんのアルバムのレコーディングにも参加してくれました。穏やかで控えめな性格でありながら、芯が通っていて、人の良いところをさりげなく引き出してくれる、優しく才能溢れる人です。
●成る程、豊かな人間性と才能を持ち合わせた方なのですね。これまでにthe Sweet Onionsの高口君やThe Bookmarcsの洞澤徹君といった方々と楽曲やアルバム作りをしてきた訳ですが、お二人とは異なるカラーで特筆すべきポイントはなんでしょうか?
◎近藤:今まではバンド、またはユニットのメンバー同士という関係性、今回は共同のプロデューサーという間柄なので、作り方や関わり方が根本的に違いますよね。なので、異なるカラーで特筆すべきポイントという問いにはちょっとお答えしかねます(笑)。
バンドのメンバーだと、ある意味エゴをぶつけ合ったり、それぞれの意見を尊重しながら、お互いのカラーが混ざり合って作品が生まれていきます。それは本当に素敵な関係だと思います。ソロにおいては、まず僕が描いていた明確なイメージがあって、及川君がその僕のやりたいことを汲み取って、理解してくれるところからスタートしました。
音楽的な趣味も本当に近いので、お互いが理想とするゴールに向かって、楽しく制作することが出来たのは大変ありがたいことだなと思っています。
●レコーディングの時期はいつ頃だったでしょうか?
またその際のエピソードを聞かせて下さい。
◎近藤:正式なレコーディングは2020年の12月から今年の2月中旬まで。それまでは及川君とデモのやり取りをしてイメージを固めていきました。ボーカルや楽器を録音する際には、及川君の的確なマイキングと、録り音に対しての適切なジャッジがとても助けになりました。
ピアノのレコーディングも楽しかったです。生のピアノで録音するのは初めてだったのですが、及川君はとても褒め上手なので、上手くなったと錯覚してしまい、気持ちよく弾くことが出来ました(笑)。
生のフレンチホルンとフルートの録音もまた格別でした。レーベルの中村さんにも立ち会ってもらって、演奏を依頼したお二人(まりんさん、まあやさん)が奏でる美しい音色に、すっかり魅了されてしまいました。
またボーカル録音は、自分なりに細かいところまで拘ったつもりです。一度完成したものの、1曲どうしても気になってしまう箇所があり、もう一度スタジオに入りたいと及川君に連絡したこともあります。ありがたいことに快く応じてくれて、おかげさまで納得いくものが作れました。
●レコーディング期間はコロナ禍でもあったので苦労されたと思いますが、及川さんのアーティストの視線に合わせたきめ細かいプロデュース・ワークに助けられたようですね。
ゲスト・ミュージシャンは近藤君の知り合いの方でしょうか?
また完成後(マスタリング前のファイナル・ミックス後?)のやり直しというのは、ジャッジしている状況で変わりますから仕方ないという気がします。
◎近藤:ゲストのお二人はレーベルの中村さんのご紹介で知り合いました。長く吹奏楽団に所属されていて、本当に楽器を演奏するのが楽しそうなので、こちらも思わずウキウキしてしまいました。録音が予定より早く終わった日、お二人がディズニーの「Beauty and the Beast」をオーボエとフレンチホルンで奏でてくれたのは、楽しい思い出です。
~「Heaven」を作るときにあらためて聴き直し、
その素晴らしさに感涙~
●ソングライティングやレコーディング期間中、イメージ作りで聴いていた曲10曲を挙げて、各曲についてその理由も聞かせて下さい。
■For No One / Paul McCartney
(『Give My Regards To Broad Street』/ 1984年)
◎「Begin」はポールが84年に再演したこちらのバージョンに影響を受けています。
■From Prying Plans Into The Fire / Tamas Wells
(『A Plea En Vendredi』/ 2006年)
◎シンプルで暖かなアコースティックサウンドと優しいハーモニー。この曲を聴いていると、ついギターを手にしてハミング、曲を作りたくなってしまいます。そして10年以上前に、この曲を教えてくれた友を思い出します。
■Probabilmente / Fitness Forever(『Personal Train』/ 2018年)
◎Elefant Recordsからリリースしているイタリアのバンド。空に広がる爽やかなメロディとハーモニー。ギターポップテイストでソフトロック。やはりどうしても惹かれてしまいます。こちらも曲作りの参考にと、いつもお世話になっている方が教えてくれた曲です。
■Parachute / Sean Lennon(『Friendly Fire』/ 2006年)
◎ナイーブで内省的な世界観。実はソロを作るにあたり、無意識に最も影響を受けていたのはショーン・レノンだったりします。
■Cast No Shadow / Duncan Browne(『Duncan Browne』/ 1973年)
◎美しくて繊細で優しくて。こんな風に唄い奏でることが出来たらなぁと。
■She’s Got a Way / Billy Joel(『Cold Spring Harbor』/ 1971年)
◎どうしても『Piano Man』が注目されがちですが、『Cold Spring Harbor』はやはりビリーの原点。「Heaven」を作るときにあらためて聴き直し、その素晴らしさに感涙。
■Live It Up / Wouter Hamel (『BOYSTOWN』/ 2019年)
◎こんな風に歌えたら・・・と、現在活動している中で一番憧れるシンガーはこの方。叶わぬ夢ですが。最新アルバムの中からピアノバラード曲。よく聴いています。
■Mexican Wine / Fountains Of Wayne
(『Welcome Interstate Managers』/ 2003年)
◎美メロなロック、パワーポップも大好物です。ソロアルバムではこんなテイストの曲もいくつか披露できたらなと。
■Where Does the World Go to Hide / Utopia
(『Deface The Music』/ 1980年)
◎誰もがビートルズに憧れている。だって、仕方ないじゃないか。
■Hibi / うつくしい日々 / Eriko Uegaki(『Unclouded』/ 2020年)
◎メモを取ったり、日記を書いたりするような感覚で、日々曲をスケッチしてみたい。誰に聴かせるわけでもなく。家での時間が増えてから、より音楽に向き合うことが出来ました。このアルバムは、そんな毎日にそっと寄り添ってくれた作品です。
●年内にはファースト・ソロアルバムのリリースも予定しているとか。
今後のソロ活動への抱負と、本作『Begin』のアピールをお願いします。
◎近藤:引き続き焦らず、じっくり音源作りに励んでいきたいと思います。自分が素直に好きだ、ずっと聴きたいと思える作品を残していきたいです。
『Begin』はレコードに収録の3曲は勿論、先に触れましたが、初回特典のCD-Rや、ミニソングブック(詩集)も含めて、トータルで楽しんでもらえたら嬉しいです。
ジャケット、写真、MV等、デザイナーのFumika Arasawaさんのアートワークのおかげで、音や歌詞の世界観がより鮮明になりました。是非手に取ってみてください。
●ソロアルバムのリリースは期待しています。初回特典CD-R『Demo Tracks Vol.1』の中で個人的には、小林しのさんに提供した「Large Gate」(『SPLIT EP SERIES VOL.3』収録 / 2020年)のセルフカバーが特に素晴らしかったです。初回特典ということで、直ぐに予約しないといけませんね。
ジャケットやインナー・スリーヴなどアートワークもこれまでのthe Sweet OnionsやThe Bookmarcsとは異なるアプローチで、新たな近藤健太郎の魅力がアピール出来たと思いますよ。
◎近藤:
そう言っていただけると本当に嬉しいです。少し気が早いですが、ソロアルバムに収録する曲の選別を及川君とすでに進めております。
初回特典のDemo Tracksは何と8曲入り。この中からアルバムで正式に披露する曲もあるかもです。
演奏、ミックスも初めて1人で全部手掛けたので(一部を除いて)そこも暖かい耳で聴いていただけたら(笑)。
ミニソングブックは特典に収録されている曲の歌詞が散りばめられております。重ねてになりますが、僕の初のソロ作品「Begin」をよろしくお願い致します。
Disques Blue Very予約サイト:
(設問作成・編集・文:ウチタカヒデ)
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