中塚はQYPTHONEのリーダーとして、98年にドイツのコンピレーション・シリーズ『SUSHI4004』でデビュー後2004年にソロに転じ、CM音楽、テレビドラマや映画のサウンド・トラック制作等のクリエイターとして活動を開始する。同時にシンガー・ソングライターとしてもこれまでに7枚のオリジナル・ソロアルバムをリリースしており、QYPTHONE時代からの独自性を貫いている希なミュージシャンなのだ。
最新作は各ジャンルで活躍中のバンドとのコラボレーション・シリーズの初回ということで、5管のホーン・セクションを含む8人編成のジャズバンド、ビデオブラザー(videobrother)と組んでいる。このバンドは在日ファンクを率いる浜野謙太(俳優活動もしている)やギタリストの仰木亮彦、トロンボーンのジェントル久保田を排出したことで知られる、和光大学のジャズ研究会“グリーン・キャタピラーズ・ジャズ・オーケストラ”が母体となって結成され、その高度な演奏力からライブ毎に多くの動員を誇っている。
メンバーはリーダーでソプラノ兼テナー・サックスの山田宣人を筆頭に、テナー・サックスのルッパ(Ruppa)、トランペットのチャンケン、トロンボーンの鈴木ストライクのホーン隊4名に、サポートとしてバリトン・サックスのカネモト"MOCK”タカヒロが加わる。リズム隊はギターのコウノハイジ、ベースの山本ケイイチ、ドラムの田嶋トモスケで構成され、主にこの8人で活動しているのだ。
ジャケットにも触れておくが、このアートワーク・イラストは、大人気マンガ『DJ道』で知られる漫画家兼DJのムラマツヒロキが担当しており、中塚とビデオブラザーのメンバーを独特の勢いあるタッチで描いている。
このイラストだけでも『DJ道』愛読者の所有欲をそそるであろう。
TOKIO / 中塚武と videobrother
ここからはこのシングル収録曲の解説をお送りする。タイトル曲はご存じの通り、沢田研二の80年のヒット・シングル「TOKIO」のカバーである。オリジナルは糸井重里の作詞と、当時沢田のプロデューサーだった加瀬邦彦(元ザ・ワイルドワンズのリーダー)の作曲で、編曲はミカバンド解散後サディスティックス在籍時から多くのセッションでファーストコール・ベーシストだった後藤次利が担当していた。グラムロックとディスコ・ファンクを軸にテクノを加味したハイブリッド・サウンドにより、同年の日本レコード大賞・編曲賞を受賞している。
ここでは中塚とビデオブラザーの共同アレンジにより、ツイストのリズムにディック・デイル直系のハードなギター・リフ、切れのあるホーン・セクションをフューチャーした、全く新しいサウンドでリメイクしている。このカバーを聴いたら、ジュリーのオリジナルを思い出せないであろう突飛なアプローチで多くの昭和歌謡ファンが脱帽するだろう。音圧がある7インチという特性から、現役DJである中塚本人やアートワークを担当したムラマツによるDJプレイでもフロアを沸かせることは間違いない。
走れ正直者 / 中塚武と videobrother
カップリングの「走れ正直者」は、国民的人気アニメ『ちびまる子ちゃん』(原作:さくらももこ)のエンディング・テーマ曲(1991年4月〜1992年9月)で西城秀樹の歌唱で知られており、原作者のさくらによる作詞、当時ヒットメーカーだった織田哲郎が作編曲を担当していた。
このオリジナルもスカ・テイストはあったが、ここではテンポをより高速化して、縦横矛盾に暴れ回るホーン・セクションのビッグバンド・アレンジにより、格段に聴き応えのあるサウンドにモディファイしてしまっている。
主役の中塚も西城を意識したシャウター振りが溜まらなく、「TOKIO」での歌唱同様にシンガーとしてのアイデンティティを確立したようだ。
このように新たな中塚武ワールドは、ビデオブラザーとのコラボレーションによるサウンドを聴いただけで、次作も期待出来ると確信した。
数量限定の7インチ・シングルなので、解説を読んで興味を持った音楽ファンは、リンク先のオンラインショップ等で予約して入手することをお勧めする。
(ウチタカヒデ)
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