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2020年12月26日土曜日

Paul McCartney:『McCartney III』対談レビュー(Capitol Records / 60243538471)



 現役ビートルの一人として、また世界で最も著名な音楽家であるポール・マッカートニーが、通算18作目で自身の名を冠したソロ・アルバムの3作目となる『マッカートニーIII(McCartney III)』を12月18日にリリースした。 
 1970年の『マッカートニー』から半世紀、1980年の『マッカートニーII』からも40年振りとなり、自身も78歳ながら年齢を感じさせない精力的活動を続け、全世界のファンに感動を与えている。
 ここでは弊誌VANDA30号(2013年発行)にて、『今更ながらポール・マッカートニーの魅力を語る』と題した企画で、筆者と対談をおこなったミュージシャンの近藤健太郎君(the Sweet Onions, The Bookmarcs)と本作の魅力について語ってみた。
 また同企画で【勝手に選ぶ・ポール・マッカートニー・ソング・ベスト10】と題して、2人でビートルズ時代とソロ&ウイングス時代の各10曲を選曲しており、今回その合計40曲をサブスクでプレイリスト化したので、聴きながら読んで欲しい。


●ポール・マッカートニーの魅力を語った対談からもう7年以上経ちますが、その間に『New』(13年)、『Egypt Station』(18年)と今回の『McCartney III』と3枚のオリジナル・アルバムがリリースされています。またOut There! Japan Tourで13年と15年 (急病により中止された14年の代替公演)、One On One Tour 2017、FRESHEN UP JAPAN TOUR 2018(近藤君によるライブレポートはこちら)と、4度の来日公演を実現させています。 近藤君もこの来日公演をいくつか観に行かれていますが、近年のポールの精力的な活動をどう考えています?レジェンド・ミュージシャンとしては破格の活動ペースですよね? 

◎近藤健太郎(以下近藤): この度、VANDA30号『今更ながらポール・マッカートニーの魅力を語る』の対談をあらためて読み返してみたのですが、僕は締めで「ポールの何が一番すごいかって、デビュー以来ほとんど休むことなく常に第一線で活躍してきたことは勿論なんですが、加えてやっぱり彼ってずっとカッコよくていまだに可愛いんですよね(笑)。
そしてそんな彼が作ってきた音楽を聴くといつも幸せな気持ちになれる。気分が高揚する。だから僕はこれからもずっと、ポール・マッカートニーの音楽を聴いて、ニヤニヤわくわくドキドキしていくんだろうなぁ」と語っていました。 
あれから7年、当時と気持ちは全く変わっていませんし、むしろ想像を遥かに超える精力的な活動にただただ圧倒され、アルバムやライブを通して常に楽しませていただいているという事実、本当に感謝しかありません。 

●対談当時のことを思い出しました。6ページに渡ってポールのことを熱く語ってくれた近藤君だけのことはあるなと(笑)。
やはりビートルズ時代から世界のファンのためへのサービス精神が他のミュージシャン達を圧倒しているんでしょうね。またポールのお人柄も大きく関係しているんじゃないかと思いますがどうですか?  

近藤:まさに人柄ですよね。冗談を言ったりおどけてみたりして相手の緊張感を和らげてくれたり。誰かのエピソードを話す時には、その人の物真似をしながらお話したりするから、ついつい引き込まれてしまいます。
堂々としているけど物腰柔らか。ポールが本気で怒鳴ったり何かモノに当たったりとか、考えてみたら想像できないですよね? 
僕、一度だけライブ会場に入るポールの入り待ちをしたことがあるんですよ(笑)。ふと思い立って武道館に足を運んだのですが、勿論すごい人混みで。なんとか前の方を確保できて、いよいよポールが乗った車が目の前を横切りました。周りもみんな悲鳴をあげているんですよ。「ウォー!キャー!ポーールーーー!!」って(笑)。
今は60年代か?って感じですけど、ずーっとポールはこんなファンに囲まれ、嫌な顔ひとつせず笑顔で手を振ってくれる。窓の外にいるファンの方向に合わせて席を移動して応対してくれる。
考えてみたらすごい人だなと思います。ちなみに僕の目の前を横切ったその一瞬は、不思議なものでまさにスローモーションのようでした。

●出待ちの件は初耳だな(笑)、もしかしたら聞いていたかも知れませんが。近藤君は『New』と『Egypt Station』も聴き込んでいたと思いますが、各々のアルバムの感想はどうでしたか? 

 『New』/『Egypt Station』  

◎近藤 :ライブで披露されている曲に特化して感想を述べますと、「New」「Queenie Eye」 (それぞれ『New』収録 /13年)「Who Cares」「Come On To Me」(それぞれ『Egypt Station』収録 /18年)等々、ロックなポールは健在ですし、新たなスタンダードと呼べる曲を生み出してくれていることが嬉しいです。なぜか「Come On To Me」や「Queenie Eye」で泣けるんですよ。

●Out There! Tour Japan 2013は私も2日間行きまして、近藤君とご一緒した日もありましたが、『New』収録では挙げられた曲以外に「Save Us」と「Everybody Out There」もありました。特に後半「Lovely Rita」(『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』収録/1967年)と「Eleanor Rigby」(『Revolver』収録 /1965年)の間に演奏された「Everybody Out There」は強烈に記憶にあります。発表された時代を経てもシームレスに繋がっているような感覚。このアルバムには良曲が多かったと思います。 一方『Egypt Station』は当時個人的には何故か印象に残ってなかったんです。改めて聴き返すと冒頭の「I Don't Know」なんて一聴して地味だけど実にポールらしい曲なんですよね。挙げられている「Come On To Me」で泣ける気持ちも分かります。この曲もどこを切ってもポールらしい元気印な曲調で(笑)。  

 Out There! Tour Japan 2013
(2013年11月21日 / 撮影:ウチタカヒデ)  

◎近藤:ウチさんとも一緒に行きましたねぇ。別の日は洞澤さん(The Bookmarcs)とご一緒されていましたっけ? 
ライブ後半に「Everybody Out There」、2曲目に「Save Us」と、新曲とビートルズ時代の曲が並んでも盛り上がってしまうのがポールのすごいところですね。

●そうなんですよ、友人が海外のチケット・サイトで良い席を取ってくれたので、行きたがっていた洞澤君も誘いました。
ライブのレパートリーについて、ポールのすごいところは正しく同感です。時代を超えているんですよね。 
本題に移りますが、本作『McCartney III』のアルバム全体のファースト・インプレッションと、特に気に入った収録曲とその魅力を聞かせて下さい。 

◎近藤:考えも及ばなかった『McCartney III』発表のアナウンス、そして公開されたトレイラーのサウンドにまず心踊りました。 個人的には『McCartney』(1970年)収録の「Oo You」や「That Would Be Something」の雰囲気を感じたのでとにかくワクワクしたんです。実際アルバムを聴いてみると、まずドラムがかっこいい。そしてポールのギタープレイが沢山聴けて嬉しいなって思いました。
やっぱりいわゆる完全なる“ソロ作”なんですよね。本当に自分がただ楽しくて音楽を作っている。きっと誰のためでもない、自由なポールの音作りが堪能できるのが最高ですよね。

気に入った曲はまずオープニングを飾る「Long Tailed Winter Bird」。前述の『McCartney』に収録されていそうなインスト主体のナンバーが、2020年の宅録サウンドで蘇ったかのようです。
2曲目の「Find My Way」は『Chaos And Creation In The Backyard』(2005)収録の「Fine Line」を彷彿とさせながら、よりラウドで生々しいサウンドがグッときます。
「The Kiss Of Venus」は『Ram』(1971)や『Wild Life』(1971)の頃のメロディを思い出させてくれて、時折重なるユニゾンのコーラスがどことなくリンダみたいでウルウル。
「Seize The Day」はジェフ・リンっぽくて好きですねぇ。ラストの「Winter Bird / When Winter Comes」は92年に録音されていた未発表音源がベースの曲のようですが、ポールが14歳の時に初めて書いた曲と言われている「I Lost My Little Girl」や、メリー・ホプキンに提供した「Goodbye」が思い浮かんでとろけてしまいました。

Paul McCartney - McCartney III
 (Official Album Trailer)

●リリースから僅かながら、結構聴き込んでいますね。トレイラーが公開されたのが現地時間10月22日なのですが、今思うとアルバム冒頭の「Long Tailed Winter Bird」だった訳で、イントロのMARTIN(D-28?)のリフからしてわくわくしてきますよね。
『McCartney』から踏襲された一人多重録音ということで、ポール自身が叩く生ドラムを再び聴けるとは本当に思ってもいませんでした。
このように全パートをこなす器用なポールの才能についてはどう思っていますか?

◎近藤:元々はギターを弾いていた彼がベースに転向し、世界有数のベーシストとしても名を馳せる。ドラム、ピアノ、ギターとそれぞれの楽器をプレイしても、ちゃんとポールのフレイバーを感じる、ホントにすごいことですよね。
でもポールの素敵なところは、例えば楽器の初心者にもとっつきやすいというか、ちょっと頑張って弾いてみようかなぁって気にさせてくれるところです。もちろん難解で複雑な曲は沢山ありますし、実際弾いてみると、いわゆるビートルズの「あの音」にはなかなか到達しないんですけど、いい意味で敷居が低い、音楽って楽しいんだって思わせてくれる、そこが何より魅力ですね。  

●「初心者にもとっつきやすい」という点、ポールの良い意味でのアマチュア精神じゃないかと思いますね。マルチ・プレイヤーでギター・テクニックもあるけどひけらかさない。例えば「Blackbird」(『The Beatles』収録/68年)のような一聴して地味目な曲でも高度なツー・フィンガー・ピッキングを披露してしまう。
本作『McCartney III』なんですけど、当初リリース予定されていなかったようなんです。CDの盤面やブックレットに記載されている「MADE IN ROCKDOWN」という文字が気になり調べたら、やはりこのコロナ禍の中で、ロックダウン生活を送りながら一人スタジオにこもっていたということで、この未曾有の全世界的パンデミックが切っ掛けになり、ポールの創作意欲を駆り立て40年振りのワンマン・レコーディングも実現したと考えられますね。
そんな経緯を感じながら本作を聴くと、この2020年を象徴するアルバムになったのではないのかな。
熱心なポール信奉者である近藤君から、本作をこれから聴こうとしている音楽ファンに『McCartney III』の魅力をアピールして下さい。  

”MADE IN ROCKDOWN”

◎近藤:ひけらかさない。まさにそうですね。少し前に、「子供達に音楽を教えるにはどうしたらよいか」という質問にポールが答える動画を観たのですが、ポールはピアノの鍵盤を押さえながら、「ドを弾いてひとつあけたらミ、そしてまたひとつあけたらソ、これで和音になる。また少しずらしたら他の和音になって、3つ4つ覚えたら何億も曲が出来るよ。ほら、こうやっているだけ(バッキング)でなんとなく素敵な感じになるだろう?」って鼻歌まじりに話すのですが、それが実に明快でかっこいいんですよ。なんか僕にも私にも出来そうって思わせてくれるんですよね。

そこで「MADE IN ROCKDOWN」と『McCartney III』に話を戻しますと、コロナ禍において多くの音楽家が家に篭り、リモートでセッションを披露したり、曲を作ってすぐ配信でリリース等々、ネット上で楽しませてくれましたよね。やっぱりポールも録音してたんだぁって、まずびっくり驚き嬉 しくて、届けられた音楽は本当に自由で実験的で、また自身の原点を意識したかのような曲が並んでいました。正直ちょっと退屈な曲もあります。 でもそれが逆によくて、当時ビートルズから解放されたくて作った、元祖宅録とも言われる『McCartney』、ウイングスの成功と様々なトラブルで疲れたポールが、一旦息抜き的に作ったと思われる、ポール流テクノ作の『McCartney II』、そして激動の2020年、家に篭り『McCartney III』ですよ。 ここはもう固い頭で聴くのではなく、ポールのように柔軟な気持ちと自由な発想で、楽しい音のセッションに、僕達もちょっと参加させてもらっているみたいな感覚で楽しんだら、とっても豊かな時間を過ごせるのではないかなぁと思います。 

『McCartney III』国内盤スペシャル・エディション 

●今後のポールの活動に期待することはありますか?  
コロナ禍が落ち着いたらまた来日公演をして欲しいですよね? 

◎近藤:勿論またライブが観たいし、きっとまた日本にも来てくれると信じていますが、まずはいつまでも元気で、長生きしてくれれば何も望まないというのが本音です。
あえて期待というならば、ライブでなかなか演奏してくれない名曲の数々、まだまだ沢山ありますので、いつか聴いてみたいなぁとは思いますが多くは求めません!(笑) 
 
 【近藤健太郎 プロフィール】
The Bookmarcs、the Sweet Onionsというユニットで音楽活動。
philia records主宰。散歩と鉄道好き。火・日曜放送「The Bookmarcs Radio Marine Café」マリンFM(86.1)ナビゲーター 。
the Sweet Onions 新曲「A Place Of Love」配信リンク
(amazonは下記画像からリンク)

 (企画・設問作成・編集 / ウチタカヒデ)

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