2020年12月10日木曜日

Ellie:『NEO BITCHIZM』 (Happiness Records/HRBR-019)

 元ラヴ・タンバリンズ(Love Tambourines)のヴォーカリストで、渋谷系のミューズとして高名な Ellie(エリ)が待望のニューアルバム『NEO BITCHIZM(ネオ ビッチズム)』を12月15日にリリースする。 
 96年のファースト・ソロ『Bitch In Zion』からeli名義の『Rita』(2007年)を含めると4作目となる本作は、前作『Stay Gold』から2年と比較的短いインターバルで発表されたので、彼女のファンにとっては嬉しいリリースとなっただろう。  

 タレントの千秋など芸能界にまでファンがいることで知られるラヴ・タンバリンズは、1991年に結成され、93年にDJでクラブイベント・オーガナイザーをしていた瀧見憲司氏が主宰するCrue-L Recordsからシングル「Cherish Our Love」でデビューした。
 94年シングルの「Midnight Parade」がヒットして注目され、翌95年にはファースト・アルバム『Alive』をリリースし、インディーズ・レーベルとしては異例の10万枚以上のセールスを記録する。しかしながら同年末にはバンド内の方向性の違いなどにより解散してしまった。4年という短い活動期間ながらシングル5枚とアルバム1枚を残し、その影響力は後のアーティスト達にも及んでいる。
 因みに先月弊サイトに掲載した【追悼・筒美京平を讃えるベストソング】でインタビューした森達彦氏は、全作品にエンジニアとして参加していた。 

Alive / LOVE TAMBOURINES

 本作はアルバム・タイトルからもインスピレーションできるが、ファーストの『Bitch In Zion』にも通じるニューソウルやHIP HOP系R&B、ファンク・ミュージックの要素が強い。同アルバムを愛聴していた筆者は約1ヶ月前に入手したプレス向け音源を聴いて驚喜してしまったほどだ。
 今回そのサウンドの鍵を握るのは、全編のプロデュースとアレンジを担った気鋭キーボーディストのSWING-Oで、本作の9曲中8曲をEllieと共作している。
 彼のプロフィールにも触れるが、izanamiやJAMNUTS等の活動を経てソロ活動をスタートし、Kyoto Jazz Massive、CHARA、福原美穂、KREVA、椎名純平等錚々たるバンド、アーティストへの楽曲提供やプロデュース、ツアー・キーボーディストとして活躍しており、参加したアルバムは150作を超えているという。2017年からは「幸せであるように」(90年)のヒットで知られる、ファンクバンドFLYING KIDSに2代目キーボーディストとして加入して更に注目されている。
 サポート・メンバーにも手練の面々が多く、SWING-Oが率いる45trio(フォーティファイブ・トリオ)のベーシストのSUNAPANNGこと砂山淳一とドラマーの久保正彦をはじめ、数多くのセッションで活躍するギタリストの伊原“anikki"広志、ジャズ・ロックバンド男塾のドラマーとして活動する米元美彦(パーカッションも)、2曲でセッション・サックス奏者の栗原健が参加している。
 またエンジニアとミックス、マスタリングは、初期ラヴ・タンバリンズにパーカッショニストとして参加していた平野栄二が担当しており、saigenji流線形の録音でも知られる、彼が主宰のスタジオ・ハピネスでレコーディングされている。 


 ここでは筆者が気になった主な収録曲の解説をお送りする。
 冒頭の「マジ無理 NOWAY」は、11月3日に7インチ・アナログで先行リリースされたリード・トラックとして本作を象徴する一曲である。ソウル・マニアなら聴けば分かると思うが、この一曲に様々なエッセンスが詰め込まれていて聴き飽きさせない。Booker T & the MG'sのドラマーとしてSTAX~HIレコードのボトムを支えたアル・ジャクソン流というべきドラム・トラック(SWING-Oによる打ち込み)は、バックビートをロータムにして独特のグルーヴで迫り、サビのコードのアッパーストラクチャーにはマーヴィン・ゲイの匂いをさせて多幸感を醸し出す。Ellieの巧みなヴォーカル・テクニックも多彩でたまらない一曲となっているのだ。

 
マジ無理NOWAY / Ellie
MV監督:田口 新作 (Ore-fes)

 続く「愛情分別」はサンバのリズムを持つラテン・ソウルで、SWING-Oのエレピに砂山と久保のリズム隊、そして米元が各種パーカッションをプレイしている。Ellieのヴォーカル・スタイルはサウンドの効果もあり、リンダ・ルイスにも通じるが、サビの歌詞をスルドのリズムに合わせて韻を踏むセンスはさすがである。
 テディー・ライリーに通じるスイング・ビートに合わせて、現代病である慢性ストレスによる記憶障害をモチーフにした「海馬レス問題」も実に発想が素晴らしい。嘗てZappのロジャー・トラウトマンからテディーも多用したトークボックスはSWING-Oがプレイしている。
 一転してディープなバラードの「iroha」は音数少ない打ち込みR&Bで、エロティックで意味深な歌詞は彼女らしい世界観といえる。 

 「マジ無理 NOWAY」のカップリングでもある「Midnight Parade 2020」は、ラヴ・タンバリンズ時代の出世作リメイクで、オリジナルはミッドテンポのアフロ系ブルース・ファンクだったが、本作のヴァージョンではアコースティック・ピアノを中心とした編成で、クールなジャズ・ソウル風アレンジである。この曲ではドラムは米元が担当し、ギターの伊原もブルージーで巧みなプレイを披露している。ここでもEllieの表現力には敬服してしまう。 
 そして筆者が本作の中でもベスト・トラックに挙げるのは「Shame On You」である。ここまで正統派なハチロク(6/8拍子)のソウル・バラードを歌い上げることが可能なヴォーカリストは日本にどれだけいるだろうか。エモーショナルで圧倒的なEllieのヴォーカルに平伏すばかり。
 バックトラックは全てSWING-O一人によるキーボード・プレイと打ち込みによるものだが、ヒューマンなスイング感では出せないサウンドが逆にマッチしていて、栗原健のテナー・ソロと共にこの曲に欠かせない。

 本作全体を通して、Ellieの魅力を掬い上げたSWING-Oのプロデュース力(りょく)を高く評価し、手練なミュージシャン達と作り上げたヴォーカル・アルバムの傑作として大いにお勧め出来る。興味を持った音楽ファンは直ぐに予約して入手しよう。
(ウチタカヒデ)

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