●ポール・マッカートニーの魅力を語った対談からもう7年以上経ちますが、その間に『New』(13年)、『Egypt Station』(18年)と今回の『McCartney III』と3枚のオリジナル・アルバムがリリースされています。またOut There! Japan Tourで13年と15年 (急病により中止された14年の代替公演)、One On One Tour 2017、FRESHEN UP JAPAN TOUR 2018(近藤君によるライブレポートはこちら)と、4度の来日公演を実現させています。
近藤君もこの来日公演をいくつか観に行かれていますが、近年のポールの精力的な活動をどう考えています?レジェンド・ミュージシャンとしては破格の活動ペースですよね?
◎近藤 :ライブで披露されている曲に特化して感想を述べますと、「New」「Queenie Eye」 (それぞれ『New』収録 /13年)「Who Cares」「Come On To Me」(それぞれ『Egypt Station』収録 /18年)等々、ロックなポールは健在ですし、新たなスタンダードと呼べる曲を生み出してくれていることが嬉しいです。なぜか「Come On To Me」や「Queenie Eye」で泣けるんですよ。
●Out There! Tour Japan 2013は私も2日間行きまして、近藤君とご一緒した日もありましたが、『New』収録では挙げられた曲以外に「Save Us」と「Everybody Out There」もありました。特に後半「Lovely Rita」(『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』収録/1967年)と「Eleanor Rigby」(『Revolver』収録 /1965年)の間に演奏された「Everybody Out There」は強烈に記憶にあります。発表された時代を経てもシームレスに繋がっているような感覚。このアルバムには良曲が多かったと思います。
一方『Egypt Station』は当時個人的には何故か印象に残ってなかったんです。改めて聴き返すと冒頭の「I Don't Know」なんて一聴して地味だけど実にポールらしい曲なんですよね。挙げられている「Come On To Me」で泣ける気持ちも分かります。この曲もどこを切ってもポールらしい元気印な曲調で(笑)。
◎近藤:考えも及ばなかった『McCartney III』発表のアナウンス、そして公開されたトレイラーのサウンドにまず心踊りました。
個人的には『McCartney』(1970年)収録の「Oo You」や「That Would Be Something」の雰囲気を感じたのでとにかくワクワクしたんです。実際アルバムを聴いてみると、まずドラムがかっこいい。そしてポールのギタープレイが沢山聴けて嬉しいなって思いました。
2曲目の「Find My Way」は『Chaos And Creation In The Backyard』(2005)収録の「Fine Line」を彷彿とさせながら、よりラウドで生々しいサウンドがグッときます。
「The Kiss Of Venus」は『Ram』(1971)や『Wild Life』(1971)の頃のメロディを思い出させてくれて、時折重なるユニゾンのコーラスがどことなくリンダみたいでウルウル。
「Seize The Day」はジェフ・リンっぽくて好きですねぇ。ラストの「Winter Bird / When Winter Comes」は92年に録音されていた未発表音源がベースの曲のようですが、ポールが14歳の時に初めて書いた曲と言われている「I Lost My Little Girl」や、メリー・ホプキンに提供した「Goodbye」が思い浮かんでとろけてしまいました。
本作『McCartney III』なんですけど、当初リリース予定されていなかったようなんです。CDの盤面やブックレットに記載されている「MADE IN ROCKDOWN」という文字が気になり調べたら、やはりこのコロナ禍の中で、ロックダウン生活を送りながら一人スタジオにこもっていたということで、この未曾有の全世界的パンデミックが切っ掛けになり、ポールの創作意欲を駆り立て40年振りのワンマン・レコーディングも実現したと考えられますね。
続く「いい天気」は一転して静かなるネイチャー・ソングで、伊藤のアコギのアルペジオと樋口のハープシコードのリフが美しく絡み合う。ザ・バンドの「In A Station」(『Music From Big Pink』収録/68年)に通じる甘美なそのメロディは、伊藤と岩出によるコーラスも相まって遙か遠い野山を駆けていくようだ。
彼のプロフィールにも触れるが、izanamiやJAMNUTS等の活動を経てソロ活動をスタートし、Kyoto Jazz Massive、CHARA、福原美穂、KREVA、椎名純平等錚々たるバンド、アーティストへの楽曲提供やプロデュース、ツアー・キーボーディストとして活躍しており、参加したアルバムは150作を超えているという。2017年からは「幸せであるように」(90年)のヒットで知られる、ファンクバンドFLYING KIDSに2代目キーボーディストとして加入して更に注目されている。
冒頭の「マジ無理 NOWAY」は、11月3日に7インチ・アナログで先行リリースされたリード・トラックとして本作を象徴する一曲である。ソウル・マニアなら聴けば分かると思うが、この一曲に様々なエッセンスが詰め込まれていて聴き飽きさせない。Booker T & the MG'sのドラマーとしてSTAX~HIレコードのボトムを支えたアル・ジャクソン流というべきドラム・トラック(SWING-Oによる打ち込み)は、バックビートをロータムにして独特のグルーヴで迫り、サビのコードのアッパーストラクチャーにはマーヴィン・ゲイの匂いをさせて多幸感を醸し出す。Ellieの巧みなヴォーカル・テクニックも多彩でたまらない一曲となっているのだ。