2020年9月17日木曜日

The Pen Friend Club:『IN CONCERT』(サザナミレーベル/ SZDW1088)


 The Pen Friend Club(ザ・ペンフレンドクラブ)が、4代目ボーカリスト藤本有華在籍時のラストステージを含む全17曲を収録した、バンド初のライヴ・アルバム『IN CONCERT』を9月23日にリリースする。
本作は2019年12月28日のヤマハ銀座スタジオから6曲と、ラストステージとなった今年2月22日の吉祥寺スターパインズカフェからの11曲のライヴ音源を収録しており、藤本とバンドとの約4年間の集大成となる姿を余すこと無く伝えた実況録音盤なのだ。

 筆者は7月前半に音源を入手してから聴いているが、ファースト・アルバム『Sound Of The Pen Friend Club』(SZDW1067 / 2014年)収録の「Do I Love You」(The Ronettes / 1964年)や「Darlin'」(The Beach Boys / 1964年)などのステージではお馴染みの代表曲から、今年2月にリリースされたシングル「Along Comes Mary」(The Association / 1966年)まで、藤本の表現力のある巧みなヴォーカルが聴ける。個人的なハイライトは「Love's Lines, Angles And Rhymes」(The 5th Dimension / 1971年)、オリジナル曲の「微笑んで」(『Wonderful World Of The Pen Friend Club』収録 / 2017年)だ。ペンフレンドクラブをワンランク・アップさせた藤本の存在は極めて大きかった。
 ライヴ一発録りによる荒削りなプレイもあるが、ありのままの姿をとらえた記録という点で彼らのファンにはマストだろう。

 さてここでは、本アルバムの解説を担当したTOMMY氏 (VIVIAN BOYS)による番外編の解説をお送りしたい。弊サイトのベストプレイ・シリーズにも参加しているTOMMY氏は、筆者が知る限りペンフレンドクラブを最もよく知る人物であり、60sミュージックに深く精通しているので信頼を持って依頼しており、弊サイト読者も楽しんで読んでもらえると思う。



ザ・ペンフレンドクラブ『イン・コンサート』誕生によせて

 ザ・ペンフレンドクラブの7thアルバム『イン・コンサート』。光栄にも、本作の美麗なブックレットに付属するライナーノーツを書かせてもらった。加えてこの度、こうしてVANDA公式サイトに本記事を寄稿する機会を頂いた。
私事ながら、1992年の刊行時に池袋オン・ステージ・ヤマノで買った、同誌5号、6号2冊の記事から、ザ・ビーチ・ボーイズとフィル・スペクターについてのコアとなる知識の多くを得た身としては(6号の「[地球人に限る] 超人名鑑」記事が、ブライアン・ウィルソンの最初のイメージを、私に決定付けました)、あれから30年近く、VANDA読者の私達にとっても夢の実現である奇跡のグループ、ザ・ペンフレンドクラブとの縁で頂いた、これまた大変光栄な機会に、遍く感謝したい。
なお、この記事は『イン・コンサート』のライナーノーツの内容とはごくごく一部しか重複しないので、ぜひCDを購入のうえ、併せてご覧頂きたい。

 本作『イン・コンサート』は、ザ・ペンフレンドクラブ第4期・5期のリード・ヴォーカリスト、藤本有華の脱退公表後最初のメンバー、オーディエンスともに独特の緊張感をもって当日を迎えたクリスマスライヴ(2019年12月28日/自主企画「After Christmas Party」@ヤマハ銀座スタジオ)と、グループの全ライヴ履歴の半数以上で看板を務めた藤本のザ・ペンフレンドクラブでのラストライヴ(2020年2月22日/自主企画「Add Some Music To Your Day」vol.24、ワンマン@吉祥寺 STAR PINE'S CAFE)、両日のドキュメント作品だ。
 前者クリスマスライヴのPA卓で録音された音源を聴き、自らのバンドの現在の姿に心震わせたリーダーの平川雄一は、藤本在籍時の編成での集大成として、初のライヴ・アルバムの制作を決意。そして後者ラストライヴは、予め作品化を想定しマルチトラックで録音された。

 VANDA読者ならば、本作のタイトルが、ザ・ビーチ・ボーイズの正規ディスコグラフィーの重要なライヴ・アルバム3作品の一つ、『The Beach Boys in Concert』(1973年)のオマージュと考えるだろう。しかし自慢のバンドの最高のライヴ・アルバムを作るため、これまでの全てのスタジオレコーディング作品と同じく、平川が全面プロデュース、編集、ミックス、マスタリング、アートワーク等の作業を行った本作の意義は、同じくブライアン・ウィルソンが唯一自らプロデュースした、ビーチ・ボーイズ初のライヴ・アルバム『Beach Boys Concert』(1964年)に重なる。が、スタジオレコーディング作品の忠実な再現を是とする、ライヴに於けるペンフレンドクラブの一貫した姿勢は、1970年カール・ウィルソンが制作主導した『Live in London(Beach Boys '69)』(実際は1968年のライヴ)の時期のビーチ・ボーイズの在り方に厳密には最も近い。
 同作は『Beach Boys Concert』や『The Beach Boys in Concert』と異なり、リアルタイムでアメリカでは発売されず、イギリスでもチャート入りできず、ライヴバンドとしての後のビーチ・ボーイズのイメージとも異なる印象で、いささか見過ごされがちだが、カール・ウィルソンらメンバー全員が一丸となり、音楽そのものに最も真摯に向き合うライヴを繰り広げた、この時期だけの重要な記録だ。


 ザ・ペンフレンドクラブは、一貫して「ザ・ビーチ・ボーイズ、フィル・スペクター周辺の'60年代中期ウェストコーストロックをベースとした音楽性」を標榜した活動を続けてきた。既にこれまでのスタジオレコーディング作品で「ウォール・オブ・サウンド」、「ペット・サウンズ」どちらの音像も、活動を通じ平川が確立したアレンジ/ミキシング・メソッドを元に、自覚的に構築し得るに至ったことを証明した。そんなペンフレンドクラブの作品群は、個々の楽器演奏能力や場の雰囲気に委ねた虚仮に頼るだけでは、絶対にライヴでの再現は不可能だ。
 ペンフレンドクラブの在り方そのものに影響を与えるビーチ・ボーイズですら、ロックンロール・バンドとして活動する以前から、4声のオープン・ハーモニーを自家薬籠中のものとする能力を培い、予め携えていたにも関わらず、『The Beach Boys in Concert』の時期にスタジアムライヴ対応スタイルを定着させるまで、アルバム『Pet Sounds』からブラザー期に至る名曲群の再現と、エキサイティングなライヴ展開の両立について、(顧みれば最も魅力的なプロセスとも言える)長い模索の過程を要した。
 つまり同様に、ペンフレンドクラブがそのレパートリーをライヴで披露、かつ継続するには、通常のロック型バンドとは全く比べ物にならない多くの段取りと、達成に至るまでのメンバー全員の強靭な意志の力を要するのだ。ペンフレンドクラブのライヴに立ち会ったことがある方々にとって、そのことがいかに奇跡的な機会であったか改めて強調したい。そして約8年に亘り継続されたライヴ活動が、これまでの極めて優れたスタジオレコーディング作品の数々と肩を並べる、7枚目のアルバムという形で昇華された本作、『イン・コンサート』の意義の大きさは計り知れない。

 考えるほどに、ペンフレンドクラブの活動の孤高性、独自性は際立つ。ビーチ・ボーイズやフィル・スペクターからの影響を臆さず示す、愛すべき作品や表現者は、ほぼ半世紀に亘り、常に世界中に数えきれないほど現れ続けた。しかしこの分野に於いて、ペンフレンドクラブ以上にオーセンティック、かつハードコアな集団を私は知らない。
 両者を目標とした音像構築の過程で楽曲構造がどれだけ精緻化しても、ガレージ・バンド側(フィジカルを伴う徹底的な深堀り)に立脚したある種の権威への突き上げ、積み上げの姿勢を維持し続け得るタフネス。指折りのプレイヤーが揃っていながら、演奏技術の全てを、あくまで目的とする楽想そのものに捧げることを是とし続け得るセンス。
これらを備えた彼らであればこそ達成することができた、作品の実演とその継続、そしてアルバム『イン・コンサート』の誕生なのだ。こんなグループは、世界的にも今後も易々とは現れるはずもなく、私にとってもビーチ・ボーイズやフィル・スペクターの作品の意義を現代に投影する、その至上かつ終点のような存在として、ペンフレンドクラブはあり続けることだろう。

 『イン・コンサート』の収録両日のライヴの演目順にほぼ準じた曲目リストの中で、ひときわ目を引くのは、初作品化である「Fun, Fun, Fun」と「Crocodile Rock」だ。「Crocodile Rock」の歌詞は、今の時勢にリリースされた本作を象徴する。4年に亘りグループを牽引した藤本の全編どこを取ってもハイライトと言い切れる、圧倒的な歌唱の記録。加え、未だ心から取り戻すことができない、ライヴ会場の屈託なき賑わい。「Crocodile Rock」 = 「至上のひととき」。そしてその回顧。感傷が先立たざるを得ないが、本作は、それに遥かに勝るポジティブさに満ちる。
 
 「Fun, Fun, Fun」は、映像に残る2012年8月26日のペンフレンドクラブ初ライヴ時から今日まで、ライヴを締め括る曲として演奏され続けてきた。そして、6thアルバム『Merry Christmas From The Pen Friend Club』には、よもや「Fun, Fun, Fun」そのものと言えるクオリティ、かつ極めてハイブリッドなコンセプトを持つ「Jingle Bell Rock」のカバーが収録されたが、多くのファンはこの曲の作品化も待望していたはずだ。
 同じくグループ最初期からのライヴ・レパートリーである、上述の「Crocodile Rock」と共に、平川による極上のミキシングが施された、しかも、これら曲想のドライヴ感を存分に引き出す最高のライヴ・ヴァージョンという形で、本作に於いてその願いが遂に叶った。
 ペンフレンドクラブの「Jingle Bell Rock」のカバーが紐解く、ビーチ・ボーイズ「Fun, Fun, Fun」誕生までの経緯、ホットロッド・ソングとクリスマス・ソングとの繋がりについての考察は、グループのオフィシャル・サイトに掲載されている、私が書いた同アルバム解説の完全版の「9.Christmas Delights」「12.Jingle Bell Rock/13.Little Saint Nick」の項をご覧頂きたいが、ここではさらに別の視点から、当時のブライアン・ウィルソン、ビーチ・ボーイズについて考え、現在のペンフレンドクラブの姿に重ね合わせてみる。


 1964年、クリスマス・イヴの前日、12月23日。ブライアン・ウィルソンはビーチ・ボーイズでのライヴ活動から身を引き、作品制作への専念を決めた。自身の才能への確信と同等に、叩き上げのガレージ・バンドから、全米ナンバーワン・ロックンロールバンドの座を掴んだ、ハーモニー&ヴォーカル・グループとしてのビーチ・ボーイズを誰よりも誇り、『Beach Boys Concert』(同10月19日)『The Beach Boys' Christmas Album』(同11月9日)を自身のプロデュースでリリースした直後。人気絶頂の中で。同年2月7日のザ・ビートルズのアメリカ上陸。その僅か4日前、2月3日にリリースされた「Fun, Fun, Fun」は、ブライアンにとっても、グループにとっても、会心の自信作であったに違いない。
 全米トップ・バンドの自覚を確固とした矢先、「ブリティッシュ・インヴェイジョン」の幕開けのみならず、この動きに連動するかのように、ブライアンを取り巻く環境も大きく変わってゆく。作曲家バート・バカラックからの影響。
 そこから生まれた「She Knows Me Too Well」(1964年8月)に端を発し、ラス・タイトルマンと書いた、グレン・キャンベルの「Guess I'm Dumb」(ペンフレンドクラブ2ndアルバム『Spirit Of The Pen Friend Club』にカバー収録、さらに6thアルバム『Merry Christmas From The Pen Friend Club』に収録の「White Christmas」カバーのマッシュアップ元に)、ザ・ビーチ・ボーイズの「Sherry She Needs Me」(ペンフレンドクラブ4thアルバム『Wonderful World Of The Pen Friend Club』にカバー収録)など、ブライアンは作品の曲想を止まることなく深め続け、導かれるように『Pet Sounds』、『Smile』の音像構築へと向かってゆく。

 このブライアンの歩みと似た方向性(同年11月のライチャス・ブラザーズの「ふられた気持」でのブルー・アイド・ソウル的アプローチなど)で併走し、かつ一歩先駆け成果をあげ続けるプロデューサー、フィル・スペクターの動向や、『The Beach Boys' Christmas Album』(同年6月制作)で起用し、その手腕を目の当たりにした、憧れのザ・フォー・フレッシュメン諸作の編曲家、ディック・レイノルズなどからの様々なインスピレーションが飽和・交錯し、ブライアンの眼前を「使命」が覆いつくした。作品制作への専念の決断は、ひとえにそれら「使命」(前人未到のイメージの具現化)を成すための前向きな思いであったに違いない。
 一方で、同年8月には近隣のハリウッド・ボウルでライヴを行うなど、ハードな日程を消化し続けるライバル、ビートルズのアメリカでの躍進の報が日々届くなか、ブライアンも本当は米国トップ・バンドのクレバーなスター・パフォーマーとしても、在り続けたかったのではなかろうか。決断後、ブライアンが昼夜ひたすら泣き続けた一番の理由は、よく言われる過労のストレスのみならず、一つの大きな可能性をやむなく喪うこととなったからかもしれない。数日前に収録され、決断の日の夜に放映された『Shindig!』(クリスマス編)で演じられた6曲(「Dance, Dance, Dance」、「Little Saint Nick」、「Monster Mash」、「Papa-Oom-Mow-Mow」、「Johnny B. Goode」、「We Three Kings of Orient Are(三人の聖者)」)は、当時のグループの充実ぶりをまざまざと見せつける。 
 特にこの日の「Johnny B. Goode」の映像で確認できるロックンロール・バンドとしての矜持たるや。チャック・ベリーとの「Surfin' U.S.A.」(1963年)に対する「Sweet Little Sixteen」(1958年)に関してのあまりに有名なエピソードへの鮮やかな切り返しとも言える選曲。この曲は1968年末まで、ほぼ一貫してビーチ・ボーイズのライヴの締め括りとして演じられた。このイントロを堂々拝借し、誰も真似できないゴージャスなハーモニーを加え、洗練された全くのオリジナリティを纏い完成したホットロッド・ソングが「Fun, Fun, Fun」だ。


 10月リリースの『Beach Boys Concert』は「Fun, Fun, Fun」が冒頭を飾り、「Johnny B. Goode」で締め括る。なお1968年暮以降は『Live in London(Beach Boys '69)』を締め括る「Barbara Ann」と共に、「All I Want To Do」(『20/20』収録曲、1968年11月録音『Pet Sounds』の「Here Today」のエンジニアでもあるブルース・ボトニックがプロデュースした、同時代のMC5的意匠)、「It's About Time」(『Sunflower』収録曲、1970年7月録音、アイク&ティナ・ターナーの「I'll Never Need More Than This」と似た意匠、ドラムに「River Deep – Mountain High」や、おそらく「I'll Never〜」でも叩いているアール・パーマーを起用)といった、激しいオリジナル曲でライヴを締め括っていた。グループのディスコグラフィー上でも異質な、ある種の暴力性すら醸し出す両曲は、ライヴのクライマックスを想定して書かれたのかもしれない。
 そして『The Beach Boys in Concert』(1973年)の時期にようやく、「Surfin' U.S.A.」、「Good Vibrations」、「Barbara Ann」、「Fun, Fun, Fun」で締める、後年まで続く「定番」の流れが定着する。

 上述『Shindig!』での「Johnny B. Goode」には、彼ららしいハーモニーは一切なく、マイク・ラヴとユニゾンで、マイク以上にロックスターとしての存在感を放つボーカリスト、ブライアンの姿が確認できる。当時17歳にして、パブロックの先駆けのような鋭いプレイを魅力としていたリード・ギタリスト、カール・ウィルソン。声質・演奏とも全メンバーを媒介する柔軟な資質で、演奏全体をまとめ上げるアル・ジャーディン。ユーモアと華のあるエンターテイナー詩人/シンガー、マイク・ラヴ。エルヴィス・コステロやキース・ムーンも惚れ込んだ、エネルギッシュでセクシーなガレージ感を誇るドラマー、デニス・ウィルソン。そしてトップ・シンガーとしてのブライアン自身。結成以来ずっと、この実に魅力的なメンバーと共にステージに立ち続け、1964年当時も、海外公演を含め年間150本以上ものライヴを行っていたブライアンが、「スターバンド」を続けることを、心情的に拒む理由など、全く考えられない。作品制作への専念決断から1年近く経ちながら、唐突に制作されたと思われがちな、1965年11月8日発売の「Beach Boys' Party!」は、そんなブライアンがどうしても捨てきれない葛藤を、ポジティブに作品化した最後のアルバムだと思う。
 しかしその翌月、同じ「スターバンド」としてのライバルであったはずのビートルズが、12月6日に米国リリースした『Rubber Soul』に衝撃を受けたブライアンはこの葛藤の一切を葬り、自身の果てなき内面世界の探求へと旅立つ。同時に残るメンバー全員が力を合わせ「ビーチ・ボーイズの実像」を構築、牽引していくこととなる。とりわけ『Live in London(Beach Boys '69)』『The Beach Boys in Concert』は、「リーダーであったブライアン」を除くビーチ・ボーイズが、ライヴの場を主戦場とし達成した、紛れもない成果だ。

ペンフレンドクラブのライヴ・ステージに於いて、『Beach Boys Concert』(1964年)の時期までパフォーマーとしても活躍していたブライアン・ウィルソンのような、バンドの中心、看板の役割を果たしてきたのは、歴代のボーカリストたちだ。本作『イン・コンサート』に於いては、藤本有華がその役割を担う。藤本のヴォーカルには、ブライアン・ウィルソンやカート・ベッチャーを論じる折に多用される「イノセント」という形容が、これ以上なく当てはまる。楽曲、旋律に身を溶かし、音符と一体化していく歌唱。かつ、それは資質による純粋無垢であるだけではなく、藤本が一音一音紡ぐ、どこか数学的とも言えるミクロの節回しを伴い、初めて成立する。彼らの5thアルバム『Garden Of The Pen Friend Club』に収録されたブライアン・ウィルソンのカバー、「Melt Away」はそのタイトルと共に、藤本の歌唱の特徴を最も示す作品の一つだ。
 6th『Merry Christmas From The Pen Friend Club』での「Amazing Grace」や、今年3月11日にリリースされたシングル「Along Comes Mary」にカップリング収録された「Love Can Go The Distance」(山下達郎のカバー)も、藤本のそんな特徴を大いに裏付ける名唱だ。
 後者「Love Can Go The Distance」は、本作『イン・コンサート』には収録されなかったものの、両日ともに平川・リカ・そいにより制作されたバッキング・トラックに合わせた藤本の独唱により披露された。奇しくもその直後から今なお続く世情を先取りしてしまった、アラン・オデイにより20年以上前に書かれたその歌詞。もちろんそんなことを予見する術もなく、両日のライヴでのこの曲の歌唱が、紛れもないハイライト中のハイライトであったことは、会場に居合わせた誰もが記憶するところだろう。上述のシングル(グループ「第6期」が始まった今、両曲が今後のオリジナル・アルバムに収録される可能性は極めて低い)で、『イン・コンサート』ライヴ当日と全く同じ、このイノセントな名唱は追体験できるので是非手に入れておきたい。


 ペンフレンドクラブというグループ自体の在り方に於いては、もちろんリーダーの平川雄一がビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンの立場に相当、手腕の幅広さという点ではブライアン以上の役割を一手に担う。しかし、ライヴでの平川はギターそのものへの深い愛情と、プレイヤーとしての矜持も相俟って、同じくビーチ・ボーイズのギタリストであるカール・ウィルソン、アル・ジャーディンのポジションを貫く。
 
 何しろ『イン・コンサート』収録の両日のライヴでは、オーダーメイドの白いスーツ姿に、アーム付テレキャスと赤ボディのストラトの組み合わせ、正に1968~1969年頃のカール&アルの出で立ち(1968年8月13日の『エド・サリヴァン・ショー』出演時の「Do It Again」「Good Vibrations」の有名な映像でも確認できる)で登場したほどだ。加えてライヴに於いては、メンバーのうち「最も注目を集めない隠し味」のポジションに徹し続けていると言っても、過言ではないと思う。贔屓目抜きでギタリストとしてのカール&アルの実力を、総合的に大きく凌ぎ、然るべき場所に出れば、一流プレイヤーとしての評価を一身に集めることができるはずの腕前であるにも関わらず、だ。アルバム『イン・コンサート』CDのライナーノーツでは、私の視点から、主に各メンバーの演奏の細部について、とりわけ気付いてほしい重要な「隠し味」にスポットを当て、各曲を解説したが、その中でさえ結果的に、最も触れられなかったのが平川のギターだった。
 言い換えれば『イン・コンサート』は、リーダーの平川にほぼ言及せずとも、バンドの最新の総力が結集され、等しくメンバー全員の力量がはっきりと証明された、初めての作品なのだ。それでもバンド・アンサンブルの深奥のポジションで、重要な役割を担う、『イン・コンサート』でのギタリスト平川について、せっかく頂いたこの機会に、少し触れてみたい。

 『イン・コンサート』の心地よいライヴ感に、頭を空にして身を任せ聴くことは何より最高だ。繰り返しそのライヴ感に浸った後で、次にエレキギターのラインを追うように聴けば、本作のプロデューサー、ミキシングエンジニアでもある平川の意図が見えてくる。しかし、いきなり話の腰を折るがこれがなかなか難儀だ。歌やエレキ以外の楽器演奏があまりに魅力的なため、ついそちらに耳が行ってしまう。同じことは、平川同様にグループのサウンド構成要素の大前提条件となり久しい、西岡利恵、祥雲貴行のリズムセクションについても言えることだが、常に演奏ノートが明確である両者と比べても段違いの頻度で、エレキギターのラインは気付けばいつの間にか、アンサンブルの中に霧散している。「Love's Lines, Angles And Rhymes」でのデイヴィッド・T・ウォーカーばりの粘りと歯切れと対旋律を巧みに織り交ぜたワウ・プレイでの名演や、「Fun, Fun, Fun」の象徴的なイントロやソロ、「Wichita Lineman」でのデヴィッド・ギルモアを彷彿とさせる泣きのソロ、「Crocodile Rock」でのカントリーロッキンなソロ、その他、曲の構造上重要なリフや主・対旋律などの明白な見せ場も多々あるものの。

 繰り返すが、それでも控えめな音量で演奏、ミックスされたエレキギターに注意を払えば、平川の視点からアレンジ全体を見渡すことができる。『イン・コンサート』でのエレキギターについては、吹奏楽オーケストラのホルン奏者のポジションのような演奏、その意図を自ら反映したミキシングとなっている(そもそもビーチ・ボーイズのハーモニー、アレンジ自体が、アンサンブルの内声の魅力に目覚めるきっかけとして、恰好の素材だ)。エレキギターのポジションから全体を俯瞰するならば「Don't Take Your Time」、「My Little Red Book」、「All I Want For Christmas Is You」は至極の例だ。また、当初はエレキで自ら先導していた「Crocodile Rock」の印象的なブリッジのラインを、大谷の加入以降はサックスがアグレッシブに演ずるなど、様々な重要なアレンジをサックスに任せ、さらに最近では構成立てから委譲することも可能になった。心強いメンバーに囲まれ、愛してやまないレパートリー群を演ずる平川の幸福感は、察するに余りある。


 ペンフレンドクラブのライヴに於ける、平川のエレキの最大の特徴は、その流麗かつ様々な表情を自在に創り上げる、アルペジオ・プレイだ。ライヴに於いても「ウォール・オブ・サウンド」の再現の上での最重要要素である、アコースティック・ギターのリカの加入により、平川のアルペジオは完全に解き放たれた感がある。
 「Wichita Lineman」に於いては、同じくペンフレンドクラブの「ウォール・オブ・サウンド」の通奏低音たる荘厳なオルガンの持続音を活かすべく、レコーディング作品での細やかなピアノのアレンジをエレキで代替するが(特にエンディング部でのカッティングにはしびれる)、これも12弦のアコギが築く骨格があるゆえのリードギターの解放と言える。
 全編が美しいアルペジオのリフで構成された「Do I Love You」や、「ふたりの夕日ライン」、「Tell Me」などでのビーチ・ボーイズやフィル・スペクターの楽曲群のセオリー上にもない、無数の組み合わせパターンを誇るアルペジオの名手としての腕前は、ややペンフレンドクラブでの平川のイメージから離れるかもしれないが、さながらザ・スミスのジョニー・マーを彷彿とさせる。なお、大滝詠一、山下達郎両氏にも大きな影響を与えたエヴァリー・ブラザースの「Walk Right Back」でギターの魅力に開眼したジョニー・マーは、その極めてきめ細かい対旋律演奏に徹するスタイルに、カントリーロックからの影響も感じさせるギタリストだ。平川自身、このスタイルをルーツの一つとし、得意とするところである。今のところペンフレンドクラブへのカントリーロックからの影響の反映は少なめながら、本作や4thアルバム『Wonderful World Of The Pen Friend Club』に収録の「微笑んで」や、3rdアルバム『Season Of The Pen Friend Club』に収録の「Where Did You Go」は、同じくカントリーロックを土台とするバッファロー・スプリングフィールド(ビーチ・ボーイズも一時期傾倒、はっぴいえんど結成の原点)からの影響も感じられる、屈指のオリジナル曲だ。
 ともあれ、ギタリスト平川のペンフレンドクラブのライヴに於ける、こうした徹底したスタンスを、私は尊敬、敬愛して止まない。

 多重録音のスタジオレコーディングで、平川がいかに複雑かつ精緻なアレンジを構築しようとも、ライヴ再現の場で同時に奏で、歌うことができるノート数は限られる。どの音を選択したか、選択しなかったノートがどう代替されたか、そして新たに追加されたアレンジに気付けば、改めてまた違う角度から、スタジオレコーディング作品を楽しみ、味わい尽くせることだろう。ペンフレンドクラブ『イン・コンサート』は、隅々にわたり細部に至るまで聴き処ばかりで、付属のライナーノーツで言及しそびれた、聴けばすぐに分かる明白な見せ場も多い。
 例えば1曲目「Darlin'」Aパートでの総がかりコーラスに、サックスが加わり織り成す5声のハーモニーなど、冒頭からそれはそれは無数に。ここで平川のギター同様に、今これを書いている瞬間の思いではあるが、曲全編に亘ってプレイヤーの持ち味がはっきり引き出された、私にとっての各メンバーの「本作でのベストプレイ」を挙げたい。それぞれ魅力は明らかなので詳細は割愛するが、一度該当メンバーのプレイを中心に各曲を聴いてみてほしい。

藤本有華(リードヴォーカル)「Tell Me (Do You Really Love Me?)」
西岡利恵(ベース)「Don't Take Your Time」
祥雲貴行(ドラム)「Do I Love You」
中川ユミ(グロッケン)「土曜日の恋人」
大谷英紗子(テナーサックス)「My Little Red Book」
リカ(アコースティック・ギター)「Along Comes Mary」
そい(ピアノ)「Love's Lines, Angles And Rhymes」


 『イン・コンサート』は、メンバーそれぞれの最も活き活きとした瞬間、活きた音の滾りの結晶だ。同時に、困難なプロセスに挫けず実演にこぎつけ、かつライヴ活動を継続させてきたメンバー間の信頼関係を、これまでのスタジオレコーディング作品以上に、生々しく伝える。本作の誕生の喜びを誰よりも噛み締めているのは、特に今回は、他ならぬメンバーたち自身に違いない。何故ならば本作は、全メンバーが自分たちの力で、もしかしたら初めて掴んだ「ザ・ペンフレンドクラブ」のリアルな実像だからだ。本作発売に至ったメンバー全員の大きな大きな功績を、心から称えたい。
 そもそもの出自が、明確なルーツを持つ、コンセプチュアルなグループである以上、つい色々と語りたくなってしまうのもまた、ペンフレンドクラブの大きな魅力だが、なにしろ本作は、このどれだけ称賛してもしきれないほどの素晴らしきメンバーたちが作った、とことんごきげんな最高のライヴ・アルバムだ。私ももうこれ以上四の五の言わず、本作のコンサート会場に没入し、ただただ楽しみ尽くすことにする。

(解説文:TOMMY (VIVIAN BOYS) / リード文:ウチタカヒデ)


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