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2020年6月21日日曜日

x-bijin :『x-bijin』(nitejar / NJ01)


 今回紹介するx-bijinは、 10年前に弊サイトでファースト・アルバムをレビューしたシンガーソングライターDANIEL KWON(ダニエル・クオン)と、ぱだらいすの大野知樹が組んだユニットである。その初アルバムが6月26日にリリースされる。

 このユニットは二人でソングライティングした楽曲をダニエルのヴォーカルとギター、大野のベース、キーボード、ギターが各々担当してプレイしている。サポート・メンバーとしてダニエルのバンド・ドラマーである牛山健、先日弊サイトでも紹介したポニーのヒサミツの『Pのミューザック』にも参加した芦田勇人がペダルスティールとトランペット、同じく元“森は生きている”の増村和彦はスレイベルで参加している。 
 また元ツチヤニボンドのベーシストPADOKこと渡部牧人がマスタリングとベーシック・トラックのエンジニアリングを担当している。
 彼等のサウンドの特徴として、隙間を活かした音数少ない音像にコリアン・アメリカンであるダニエルの独特な日本語歌詞の発音が絶妙にブレンドしていて非常に心地いい点を挙げておく。では筆者が気になった主な収録曲の解説をしていこう。

 冒頭の「グレープフルーツ」は、2017年の惜しくも亡くなった伝説のシンガーソングライターの遠藤賢司に捧げたという。確かに初期エンケンに通じるデリケートなフォーキー・サウンドで、歌詞の端々には“はっぴいえんど“時代の松本隆の匂いもする。 
 続く「なにいろ」は芦田によるペダルスティールと牛山のドラミングが初期ニール・ヤングに通じており、ダニエルの発声もこのサウンドにマッチして歌詞の世界観に引き込まれるのだ。

なにいろ / X-BIJIN  

 ブルース進行のギターリフから発展させたと思しき「キューピッド」は、ポール・マッカートニー風(「Junk」など)の2ビートのレイジーなバラードだが、短波ラジオのコラージュが挿入されるなど実験性も備えたハイブリッドな構成で面白い。
 また大野のピアノにダニエルのスライド・ギターが響く「はーい」(何というタイトル)でも唐突に短波ラジオ・コラージュが挿入されているが、ソロ時代からダニエルのサイケ趣向だと思われる。後半2分55秒から始まるパートは『Friends』(68年)期のビーチボーイズ趣味が濃厚なサウンドが筆者的には興味深い。このパートが導入部のようかたちで続く「アーケード」も印象深い曲であり、複数のアコースティック・ギターが絶妙に絡んで、ベースの小気味いいフレーズがボトムを支える。ヴィブラフォンとエレキ・ギターのミニマルなフレーズと芦田のミュート・トランペットもいいアクセントになっている。
 ラストの「あのさ...」は繊細なアコースティック・ギターのアルペジオに芦田のペダルスティールが漂う小曲で、フィールド・レコーディングのノイズが挿入されて独特な雰囲気を醸し出す。
 アルバムを通してダニエルの実験性と大野のソングライティング・センスが絶妙に融合した希有なサウンドが興味を惹いた。初期はっぴいえんどや生音の宅録サウンドが好きな音楽ファンには勧められるので入手して聴いて欲しい。
(ウチタカヒデ)


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