シンガーソングライター前田卓朗のソロユニット“ポニーのヒサミツ"が4月22日にサード・アルバム『Pのミューザック』をリリースした。 少し遅くなったがここWebVANDAでも紹介したい。
“ポニーのヒサミツ”は、インディー・ロック・バンド、“シャムキャッツ”のボーカル、夏目のバンド“夏目知幸とポテトたち”のメンバー等として活動していた前田卓朗が、2008年から活動していたソロユニットである。これまでに3枚の7インチシングルとCDシングル1枚、2枚のフルアルバムをリリースしており、個性的なカントリーテイスト溢れる作風が各所で注目を浴びている。
本作『Pのミューザック』は、一聴してカントリー・フレイバー漂う英国田園ポップ&ロック・サウンドで、ポール・マッカートニー及びそのフォロワー信奉者に歓迎されるだろう。そのポールのファースト・アルバム『McCartney』(70年)よろしく本作では、前田の一人多重録音を多用してレコーディングされており、VANDA読者にはお馴染みのエミット・ローズにも通じるのだ。
ゲスト・ミュージシャンには前田も参加するバンドSpoonful of Lovinʼの現メンバーで、元“森は生きている”の谷口雄がアコーディオンで参加しており、“森は生きている”コネクションでは、ドラマーで弊サイトでもお馴染みの増村和彦がパーカッション、リーダーの岡田拓郎はミックスで関わっており、この名バンドの絆は強いということを知らしめた。
その他にも前出のSpoonful of Lovin'をはじめroppen、bjonsといったバンドのギタリストである渡瀬賢吾はスライドギター、サボテン楽団こと服部成也がエレキギターとバンジョー、yumboやjonathan conditionerで活躍する芦田勇人はトランペットとユーフォニウムで参加している。
また空気公団のサポート・メンバーやザ・なつやすみバンドのフロントマンとして知られ、昨年前田の妻となった中川理沙がコーラスで参加しているのも注目に値するだろう。
アルバムのマスタリング・エンジニアは、ゆらゆら帝国やギターウルフ、SCOOBIE DOらの諸作で知られる中村宗一郎(PEACE MUSIC)が手掛けている。
ポニーのヒサミツ 3rd ALBUM『Pのミューザック』Trailer
ここでは筆者が気になった主な収録曲の解説をしていく。
冒頭の「Love Song」はタイトルとは裏腹にアコースティック・ギターのリフの循環で展開する陽気なカントリー・ブルース調のポップスだ。2分弱の小曲ながら前田の一人多重録音による無骨なドラムや服部のエレキギターがいいアクセントになっている。
続く「my dear 霊dy」は前曲以上にポール色が強く、古くは「Martha My Dear」(『The Beatles』収録 68年)や「Uncle Albert / Admiral Halsey」(『Ram』収録 71年)の♪Hands across the waterからの後半パートを彷彿させるアレンジとサウンドを持っている。筆者的にはファースト・インプレッションでベストトラック候補に挙げる。
「Blackbird」(『The Beatles』収録 68年)に通じる「ライカ」も印象に残る曲で、複数のアコースティック・ギターのアルペジオの有機的なタペストリーが実に味わい深く、堀込泰行にも通じる前田の美しい声質が最も活かされている。この曲では増村和彦がボンゴやシェイカーなどパーカッションで参加している。
「mutt on」は正に「Ram On」(『Ram』収録 71年)に通じるウクレレ主体の小編成のインスト小曲で本作中盤のいいアクセントになっている。
ただ、甘やかな日々 / ポニーのヒサミツ
本作のリードトラック的位置にある「ただ、甘やかな日々」は、八分刻みのピアノとチェンバロが主体となる牧歌的なポップスで、芦田のホーンと前田自身によるエレキギターがいいアクセントになっている。前出の「my dear 霊dy」と同様に「Martha My Dear」からの影響が強そうだ。
続く「ありふれた話」はアレンジ、楽器編成的にも「I Will」(『The Beatles』収録 68年)の匂いを感じるプリティーな小曲である。この曲でも増村の複数のパーカッションが曲を演出している。
前出のリプライ曲「mutt on(Reprise)」からラストの「あたたかなうた」への流れは唐突なようだが、如何にもなポールイズムを感じさせて感心してしまう。この曲は2ビートのリズムを基調としたピアノ主体のフォーリズム編成にエレキのアクセントが加わり、間奏での芦田のトランペット・ソロも実に効果的である。
コーダではバンジョーをプレイした服部、「火を放つ」に参加した谷口(アコーディオン)と渡瀬(スライドギター)に中川理沙も加わって自然発生的なコーラスを展開して大団円を迎えるのだ。
弊サイトの読者は勿論のこと、ポール・マッカートニーやエミット・ローズの熱心なファンは入手して聴くことを強くお勧めする。
(ウチタカヒデ)
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