18年の9thアルバム『Compass』(HRBR-013)が好評だったSaigenji(以降サイゲンジ)が、全16 曲を収録した2 枚組ライヴ・アルバム『Live “Compass for the Future”』を5月13日にリリースする。
本作のライヴ・ソースは、19 年3月29日と9月6日の2 日間で演奏された30数曲の中から厳選された16曲が収録され、『Compass』から10曲、ファーストアルバムの『SAIGENJI』(02年)をはじめ、『la puerta』(03年)、『Innocencia』(04年)、『Music Eater』(06年)、『Medicine for your soul』(08年)、『One voice one guitar』(12年)から各1曲ずつ選ばれている。ライヴ・パフォーマーとして圧倒的な存在感を放っている彼の魅力を余すこと無くパッケージした内容となっている。バッキング・メンバーは、『Compass』のレコーディングと同様にドラムの斉藤良、ベース(ウッドベース)の小美濃悠太、ピアノの林正樹の3名をはじめ、女性キーボーディストのスミレディ、パーカッショニストの南條レオが参加している。
ジャンルを超えたシンガー・ソングライター兼ギタリストとして唯一無二の存在であるサイゲンジのプロフィールについては説明不要と思われるが、『ACALANTO』(05年)の10周年記念リマスター盤のリイシュー時に再掲載した筆者のインタビュー記事を参照して欲しい。
また20年前から彼のライヴをチェックしている筆者としては、なにより生で体験することを強くお勧めしているのだが、本作を1ヶ月以上聴き込んでその選曲センスとヴォリュームで充分楽しめた。
ここでは筆者が気になった主な収録曲の解説と共に、サイゲンジ本人が本作のモチーフとして選曲したプレイリストを掲載するので試聴しながら読んで欲しい。
本作は『Compass』の冒頭曲「First song(for our tales~Magia)」から始まる。スタジオVerからアレンジ的に大きな変化は無いが、斉藤と小美濃のリズム隊のダイナミズムと林の繊細なピアノのコントラストがこの曲の世界観をよりビビッドにしており、後半のサイゲンジのヴォーカリゼーションのインタープレイにも引き込まれてしまう。
続く「朝と摩天楼」は、ジャズ・フィールドでプレイしているリズム隊の2人の本領が発揮されており、スタジオVerにはない林によるピアノ・ソロも効果的である。極めつけは縦横矛盾なスキャットと掛け合うパートがライヴならではの醍醐味だ。『Compass』では曲順が入れ替わって本作では3曲目に「Dance of Nomad」が収録されており、同作のリード・トラックとしてライヴでも映える存在であったのは間違いなかった。特にサルソウルとサンバを融合させた斎藤のドラミングはこの曲の肝である。
本作ディスク1のハイライトとしてジャズスタンダード・カバーの「On Green Dolphin Street」にも触れておきたい。記事後半で紹介しているプレイリストのコメントでサイゲンジ本人が語っているが、ジョン・コルトレーンのプレイにインスピレーションを受けてライヴ・レパートリーにしているという。なるほど小美濃のベース・プレイはポール・チェンバースのそれを意識しているが、林のピアノはウィントン・ケリーのそれより自由度が高く、長いソロ・パートで激しく暴れ回る。そのプレイに触発されたか、小美濃と斎藤も各々のソロで徐々に熱を帯びて、後半のサイゲンジのスキャットと激しく掛け合って大団円を迎える。正しく圧巻のプレイとはこのことだ。
ディスク2ではセカンド・アルバム『la puerta』のリード・トラック「走り出すように」から始まる。当時からライヴで人気の高い曲で15年後もニューソウルとミナス・サウンドが溶け合った感覚は息づいている。ここではスミレディのオルガン・ソロ~サイゲンジのスキャット~南條のパーカッション・ソロの流れが聴きどころだ。
「Heartbeat」は『Compass』収録中筆者が最も好きな曲で18年の年間ベスト・ソングにも選んだ程だが、ライヴの生演奏ではアコースティックなヒップホップ感覚が更に増していて、観客とのコールアンドレスポンスも楽しい。
このディスク2のハイライトはやはり「Music Junkie」になるだろう。オリジナルは5thアルバム『Music Eater』収録で、08年の『LIVE! LIVE! LIVE! vol.1』でも取り上げられていたが、本作ではその倍近い16分を超える尺で収録されている。 ファンには説明不要かも知れないが、曲のタイトルはサイゲンジの音楽的姿勢を体現しているのに他ならない。ゆえにここでの林、小美濃、斎藤による巧みで長いインタープレイや観客とのコールアンドレスポンスもサイゲンジ・ワールドのエレメントとなって聴く者の心に大きく響くのだ。
疑似ライヴ体験できるとも言える本作『Live “Compass for the Future”』に興味を持った音楽ファンは、是非入手して聴いて欲しい。
なお来週5月12日にリリースを記念して弾き語り生配信を予定しているので、詳しくは下記の動画をチェックしよう。
【2020/5/12 弾き語り生配信のお知らせ】
『Live “Compass for the Future”』のモチーフとなるプレイリスト / Saigenji
◎プレイリスト・コメント
実はここのところほとんどYouTubeでフラメンコばかり観ていたいので、必ずしもこのリストは正しくないんですが、結局自分はJazzが好きなんだな、と最近痛感していて、家でCDをかける時はほとんどブルーノートなどのJazzでした。
1と6はyoutubeのtiny desk concertのライヴバージョンを聴いていました(観ていました)。生音ヒップホップはやはり好きですね。
3,4,5は我が永遠のアイドルたち。
みんな天に召されてしまいましたね。合掌。
7,8はライヴ盤に収録したカバーのオリジナル音源です。二曲とも我が生涯の重要なレパートリー。特にコルトレーンのOn greenは自分の強力なインスピレーションになっています。 YouTubeにしかないかも。
9のSo what はこの世で一番カッコいい曲だと思っています。
10 最後に一曲だけ自分の曲を。現在進行形の自分を表現する最も端的な曲です。ライヴ盤のバージョンでは林正樹くんのソロが最高です。
1 Anderson Paak "Come down"
2 Wayne Shorter "Juju"
3 Paco de Lucia "Rio de la miel"
4 João Gilberto "Eu sambo mesmo"
5 Bill Withers "Ain't no sunshine"
6 Common "letter to be free"
7 Caetano Veloso ''Tonada de luna llena"
8 John Coltrane "On green dolphine street"
9 Miles Davis "So what"
10 Saigenji "Dance of nomad"
(テキスト:ウチタカヒデ)
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